4、やっと幕開ける学園編
「とまあ、こんな感じで主犯格は逃してはしまったものの、流石はウェルナー陛下のお膝元だ。重傷者はいれど奇跡的に死人は少数。何人かの貴族が陛下を抗議などで叩いているけれど、復興はあの大手のビル商会も関わり、着実に回復している」
「そうですか・・・よかった」
「・・・本当に知らなかったようだね」
ほっと胸を撫で下ろす誠一。
「・・・ところで、何で俺が容疑者なのか分からないんですが?」
「ああ、それはね。その刺客、明らかに城内の構造を知っていたような節があってね。ここ最近に城を出入りした者が怪しいってことさ・・・バラすと容疑者は大勢いて、君はその内のの1人ってだけさ。それと・・・」
イルクは声のトーンを落とし、誠一に話す。
「どうやら、事件とちょうどに多くのクロス王国の機密書類が紛失した、って噂があってね。その中には、王状が押された入国許可証も含まれていたようでね」
それ明らかに盗まれてなかろうか・・・いや、ボカしているのか。それが事実ならヤバイし。
敵からの侵入を許しただけでなく、大事な書類を盗られたなんて、例え話の辻褄が合わなくとも流石に一般人に大っぴらには言えないか。
「・・・って、もしかして俺が拘束されたのって」
「そう。もしも王状片手にセーイチの名を騙って敵が国の中枢に侵入されては困るから、わざわざ確認させて貰っていたのさ。まあ、本人だってのは分かったから、もう自由で構わないけど」
「なんてハタ迷惑な話なんだ・・・」
誠一は会ったことすらないクロス王国に攻め入った敵達に恨みの念を放つのだった。
しかし、分かったって言われたが、ただ顔合わしただけなんだが。
少々緩くないかね?
取り越し苦労というか、何というか。拍子抜けである。
「では、本物のセーイチ君。君にはこれを渡そう」
イルクはそう言うと、2枚の紙を提示して来た。
「一枚はその女の子、アンちゃんでいいんだよね、その子の入学許可証だ」
「へ、何ですかそれ?」
初耳である。
さっきからそればかりであるが、何度も言おう。
初耳である。
「なんでも、ウェルナー陛下とリズ王女の粋な計らいらしいよ。色々と迷惑をかけたお詫びってのもあるだろうけど」
聞いたところによると、ウェルナー陛下が俺の事を学園に話を付けているのと同時に、コッソリとアンちゃんの入学を申請していたとのこと。
なんでも、俺の行く学園は10歳以上であるならば種族問わず誰でも入学することができるらしい。
また、学費はリズ王女が持つとのこと。
自分のことだけでなく、アンちゃんのことまで。
全くもって陛下達には頭が上がらない。
「別に断ってもいいとのことだけど、どうする?」
・・・いや、ここまでしてもらって断るのは逆に失礼にあたる。
しかし、行くのは俺ではなく、アンちゃんな訳だ。
しっかり本人の意思を確認しなくては。
俺はちらりとアンちゃんの方を向くと、
「私、学校いけるの!行ってみたい!」
「なら・・・よろしくお願いします」
「了解。で、こっちが本題。お次の書類はセーイチ君用。はい、プレゼント」
誠一は紙を受け取り、目を通す。
そこには、一週間後に集合する場所と時間が記されている。
服装は自由とのこと。
「・・・随分あっさりしてますね。もっとこう、なんて言うか」
「テストとかでもあると思ったかい?君は自覚してないかもだけど、あのウェルナー陛下直々に推薦されているんだ。・・・ところで、セーイチ君はどれだけ出来るの?」
「はい?」
イルクの質問に意味を計りかねるセーイチ。
「いやさ。国王から推薦貰える人なんていないよ、普通。ということは、とても強いとかある筈なんだよ。もしかして剣聖並みに強かったりするのかな?」
「・・・い、いやいや。そんな訳ないじゃないですか。俺は至って普通の料理得意なオッさんですよ」
「オッさんって。そんな歳じゃないだろ、君」
俺は苦い笑みを浮かべ、イルクさんの言葉を否定する。
・・・まあ、普通ではないな。下手すりゃ剣聖さんより強いだろうし。
心の中で慌ててしまった為、今の見た目を忘れ自分のことをオッさんと言ってしまった。
イルクさんは俺が冗談を言ったのかと思い、笑っていたが。
「普通の料理人は国王から推薦なんて貰えないけどね。・・・と、無駄話もここまでにしようか。君の連れも疲れてるようだしね」
そう言われ横を見ると、アンちゃんがクワ〜と可愛らしいアクビをし目を擦っていた。
まあ、長旅の上に留置所で拘束されてた訳だし。逆に疲れてない方が変だよな。
「さっき渡した書類に従って来てくれれば良いから。幸運を祈ってるよ。来た時と同じで彼女について行くといいよ」
そう言うと、ここまで案内してくれた女性がいつ間にか俺らの側に立っていた。
「今日はありがとうございました」
「いやいや。むしろゴメンね。変な疑いかけちゃって」
俺たちはイルクさんに一礼し、退出するべくソファから立ち上がろうとした。
「そうだ。最後に一つだけいいかな」
「・・・?なんでしょうか?」
・・・したが、イルクの質問が飛んで来た。
「今回の襲撃事件、なにか知らないかい。誰が首謀者そうとか。一般人の意見としてなんでも良いから」
なんだかワイバーン襲撃事件を思い出す。
あの時もベルナンさんに同じような質問をされていたっけ。
「んー・・・何も無いですね。この事件も今知りましたし、怪しい人?変態とかはよく見かけましたけど」
「そうか。いや、知らないならそうだよね。質問は以上さ。今日はすまなかったね、セーイチ・・・セーイチ何くんだっけ?」
「俺の本名は誠一・沢辺です、イルクさん。では、失礼します」
「ああ、また会おう。その時はしっかり上着を着とくよ」
「いや、まずパンツ履けよ!」
誠一は最後にツッコミをして部屋を出ていった。
その時、誠一の首に付いていた微小なモザイクが消えたことに、誠一たちは始終気がつくことはなかった。
〈Side イルク・モルザ〉
「いやー。面白い人だったなぁ、彼」
股間にモザイクをかけているイルクは立ち上がり、ソファを倒す。
そのソファの裏には夥しい数の魔法陣が刻まれていた。
「少なくとも、危険人物じゃなさそうだし。ほいっと」
イルクはそんなことを呟きながら指を鳴らすと、ソファにあった魔法陣は消えていった。
誠一は気づいていなかったことだが。
イルクはツッコミで殴られた時に、誠一の首に、より明確に言うならば動脈の上に極小のモザイクを貼っていた。
イルクは、人が嘘を吐く時、表情は変わらずとも、脈が速くなる事を知っている。
イルクは問答をする際にモザイクから伝わる振動から、誠一が嘘をついているか確認していたのだ。
もし、相手が身分を偽り、襲撃関連者だった場合、魔法陣を発動し、爆発させる手筈であった。
「うん、良かった良かった。爆発なんてしたら片付け面倒くさいし・・・・・・でもなぁ」
イルクは心底残念そうに口からこぼした。
「敵だったら実験動物に出来たのに」