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3、剣聖 後編

アインバッハの城門では激戦が繰り広げられていた。


突如現れた魔物ケルベロスから避難した民を守る騎士とメイド、そしてそれを率いるメイド長スーデリカ。


その向こうからは剣戟が響き渡る。


「オラァッ!」


魔人の男が繰り出すは乱撃。

剣術というには、それはあまりに無骨。

しかし、それは荒々しくも獣の牙の如く鋭利。

豪腕から放たれる一撃を真正面から受け止めようとすれば、剣どころか骨まで砕かれるであろう。


だが、


「・・・ふんッ」


ガキンッ!


【剣聖】であるダンテ・グレトリーはその一撃を盾で受け、弾き返した。


魔人の男は間髪入れずに袈裟斬り。

しかし、それも盾によって阻まれる。


眉間に突き―――剣でいなされる。

右手首へ斬り―――盾で受け流される。

わざとスキを作る―――飛びつかない。

盾の死角から首と見せかけ足首へ―――後ろに一歩下がる。

砂を蹴り上げ目潰し―――首を傾け避ける。

背後を取りにかかる―――盾で牽制し決して取らせない。


バルムは1秒の間に様々な手を繰り出し、ダンテは敵が放つ攻めを弾き、いなし、避け、(すべ)て見切る。


「シッ!」


「うおッ!?危ねぇ!」


そして、攻撃の合間に魔人の男が一瞬でも気を抜けば剣の一閃が繰り出される。


魔族の男は高揚しているのか、無邪気な笑顔を浮かべると攻撃を一旦止め、ダンテと距離を取る。


「やり辛え。やり辛えなー、おい。相手の攻撃を防いで、有利になったら斬り返す。お手本そのものだ」


極論を言ってしまえば、ダンテのやっていることはクロス王国騎士が始めに学ぶ基礎のことのみ。


人間離れした動きでも、多彩な剣術を繰り出す訳でもない。


敵の攻撃を盾で防ぎ、スキが出来たら攻撃。

それだけだ。



だが、それは究極と言えるほどに磨かれていた。



例え相手が人間離れした動きでも。

例え多彩な剣術を繰り出そうとも。

決して相手を優位に立たせず、後の先を取る。

基礎の、いや、騎士の体現者が、正にダンテ・グレトリーそのものであった。


「歳とって衰えてるなんて噂聞いてたが・・・なかなかどうして。むしろ磨きが掛かってるんじゃねぇか」


「その言葉、敵からのものではなければ素直に喜べたのだが。・・・して、貴様は何者か?」


魔族の男は剣を肩に担ぎ、ニヤリと笑う


「おお、こいつは失礼。そういやまだ名乗っちゃいなかったな!遅ればせながら、自己紹介だ。我が名は魔界の公爵が一人、バルム・デ・ロイ!剣術と共に名前を覚えときな!」


魔族の男、バルムはどこぞの三文役者の如く口高々に名乗りを上げた。


「ならば、重ねて問おう。貴様の目的は何か。我が主の首か」


「うん?・・・いやいや、違うさ。別にあんたらの王様の首目的で現れた訳じゃない。俺は『暴れられる』って聞いたから、ここに居るだけさ」


バルムは嬉々としてそう答えた。


「・・・ならば、貴様はただそれだけの事で民を傷つけたのか!」


ダンテは怒りを浮かべるギリリと奥歯を噛み、バルムを睨む。


「おいおい、そう怖い顔すんなよ。俺はこの計画に乗じて剣聖と戦えりゃ、それで満足だったのさ」


「計画?」


「そおさ。モンスターで街を引っかき回し、そのスキをついてクロス王国の城に潜り込み、命を奪う」


「だが、それは残念ながら失敗に終わったわけだ。今なら、刑を軽くなると思うがね?」


バルムの声に、クロス国国王ウェルナーが切り返す。


しかし、逆にバルムはウェルナーの言葉に笑みを浮かべた。


「失敗ねぇ・・・ククク。いやいや、そのセリフが出たって事は計画は成功してるってことだなんだなぁ、これが」


含みのある言い方に(いぶか)しんでいたダンテが、ハッと何かに気づいたように背後の城を見る。


「・・・・・・ッ、まさか!?」


「そういうこと。俺は囮。本命は別さ」



◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆



その刺客は自分の姿を不可視にする能力(スキル)を持っていた。


今頃、陽動の魔族が動いていることだろう。


刺客はただ一人のターゲットを捜していた。

そして、それはすぐに見つかった。


二人の騎士が扉に立ち、警備をしている一室。

音も無く騎士たちを殺し、中に侵入すると、そこには王女が居た。


リズ・クロス。クロス国王女。そして、自分のターゲット。


刺客は懐からショートソードを取り出し、迷わずに王女へと接近する。


(その命、覚悟!)


意を決して、命を奪わんと飛びかかった。


まさにその時。


刺客は王女の背後から現れた人影を目にした。

そして、その人影は不可視であるはずの己に向け、蹴りを放ってきた。


「何!ぐはッ!?」


姿を消していた刺客は攻撃を横腹にモロに食らった。

予想だにしない一撃に思わず声を上げ、吹っ飛ばされた。


隠形は解けてしまったが、すぐさま体勢を立て直し睨みつけると、その人影は王女を自分の視線から隠すように立ちはだかっていた。


「貴様・・・何者だ」


「何って、見て分かりません?」


刺客の問いに燕尾服の執事、ガスパーは太々しく答えるのだった。


「ただの王女専属の執事ですよ」



◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆



「いや、知ってるよ。君が囮なの」


「「は?」」


ウェルナーが平然と言い放った言葉にダンテとバルムは固まった。


ダンテがはウェルナーに言及した。


「あの、陛下?私はそのこと知らないのですが」


「ああ、言ってないからな。お前、嘘下手だし」


今度こそ、ダンテは驚愕のあまりに固まってしまった。


「王都での騒動。モンスターの狙ったかのようなこちら戦力を分散させる配置・・・モンスターを操作しているのかな」

「例えば、モンスターが嫌いな匂いでも使ってとかね」

「で、決まりはバルム君の大盤振る舞いな戦い方。ここまでくれば、怪しまない方がおかしい」

「見張りに置いた騎士は老害共の息のかかった者だし、いなくなることになっても安心だ」


淡々と。ウェルナーはたわいもないことのように話す。

驚きから回復したバルムはウェルナーに問いかける。


「・・・いやいや、おいおい、ちょっと待て。てことは、何か・・・・・・王様、あんたは自分の娘が狙われてると知っておきながら。それを承知で餌にしたのか。こんな状況で?」


「餌とは心外だな。罠と言ってくれ」


一国の王はさも平然と言い捨てた。

その顔には笑みを浮かべて。


バルムはその笑顔が、自分よりも遥かに弱い一人の人間が、(おぞ)ましく見えた。



◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆



太々しく笑う執事(ガスパー)を刺客は睨みつける。

対して、ガスパーは武器を持った敵が目の前だというのに平然としている。


「死にたくなくば、そこをどけ。武器も持たずでは、どうしようもなかろう」


「武器ならありますよ、ほら」


そう言ってガスパーは胸ポケットから、一本のペーパーナイフを取り出した。


(・・・嘗めやがって)


刺客は優先対象を目の前の執事に変更する。


姿を消す能力を発動し、再び己の姿を消し、執事へと襲いかかる。

この執事は只者ではない。


(ならば、無手の内に倒すのみ!)


先ほどは油断が上に殺気が溢れていたのかもしれない。

今度は油断をせずに素早く、音を殺して移動しショートソードを心臓目掛けて突く。


しかし、ガキンッと刺客の繰り出した攻撃はまたもや防がれた。

刺客は一旦執事から距離を取る。


(やはり、私が見えている!?・・・いや、それよりも)


「・・・執事、そのソードどこから出した」


ガスパーの手には先ほどのペーパーナイフが消え、代わりにソードが握られていた。


確かに刺客が襲いかかるまではガスパーの手にソードは無かった。

しかし、現にあのソードにより刺客の攻撃は弾かれた。


「さあ、気づいたら有りました」


「ほざけ!『風の刃よ、疾れ!ウィンドカッター』!」


刺客は素早く詠唱すると、王女目掛けて魔法を放つ。


ガスパーはすかさず魔法が王女に到達するよりも速く動き割り込み、はらい上げたソードで風の刃を切り裂く。


それが刺客の狙いだった。


魔法の対処に気を取られている隙に、ガスパーの懐へと潜り込んでいた。


この間合いならソードにとって不利であり、刺客のショートソードの方に利がある。

ガスパーが今から切り返し振り下ろすよりも速く、息の根を止められるーーー筈だった。


「甘いですよ」


ドガッと刺客の側頭部に衝撃が走った。


「グガッ?!」


首にショートソードが達する目前で、謎の一撃により倒れこむ。

ガスパーが追い打ちをしようとするが、刺客は床を転がり回避する。


「意外にしぶといですね、あなた」


「はぁはぁ・・・・・・どういうことだ。何故・・・」


刺客は混乱していた。


あの状態から、自分よりも先に攻撃が決まるはずがない。確かに懐に入っていた。

刺客はガスパーを睨む。

その見える真実が未だに受け入れられず、尚更刺客の混乱に拍車をかけた。


「何故、その手に握っているのが棍棒に変わっている!ソードは何処にやった!?」


「棍棒だけじゃないですよ。この通り」


そう言うと、ガスパーの握っていた棍棒がグニャリと曲がった。


「なっ!?」


そして棍棒は盾へと変化した。


「ほら、盾もありますよッイッタァ!」


棍棒から変形した盾を見せびらかしていたガスパーの後頭部にスコッーン!とリズ王女が投げた靴が当たった。


「国宝で遊ぶんじゃないわよ、バカスパー」


「だからって、靴投げることはないでしょうが!何ですか、痩せたからって調子乗ってんですかリズ様」


刺客などそっちのけで言い合う二人。

しかし、刺客はそんな二人など眼中にないのか、ガスパーの手にする盾、いや、武器を食いつくように睨んでいた。

そして、ある可能性を思いつく。


「国宝・・・御伽噺に出てくるようなその武器・・・・・・ッ!まさか、それは『勇者の遺物』か!?」


「はい、そうですよ」


けろりと、特に隠すわけでもなく答えるガスパー。


「これ、私のイメージ通りに変形するんですよ。武器に限らず、糸のように細くも出来ますし、大小も自由です。まあ、私にしか使えないんですけど」


それどころか、武器の説明をしてきた。

懇切丁寧に。こちらに分かるように。


刺客は実力が備わっていた。

それ故に人一倍プライドが高かった。

この任された任務、成功するかどうかは自分に掛かっている。


それが、目の前に、眼と鼻の先に標的がいると言うのに、たった一人の男によって止められた。


それも、ただの執事だと宣いやがった。

力で及ばず、不可視の攻撃も通じない。

それどころか、自分(ヤツ)は手の内をあっけらかんと(おのれ)に明かした。


明らかに下に見られている。

見下されている。

いや、敵視されてすらいない。


「・・・ふ、ふざけるなああああ!」


男は怒りを孕んだ叫びを上げ、ガスパーへと飛びかかる。


「『風よ、疾く速く我を導け!ウィンドステップ!』」


ガスパーに相対する直前で、風の魔法を纏い加速し、一直線でガスパー目掛けて突っ込む。

そして更に、王女に向け不可視化したナイフを投擲する。

自分の不可視化のスキルは自分だけでなく、物にも付与することができる。


タネは分からないが、この執事には不可視の攻撃は効かない。

ならば、最速にして全力で相討ち覚悟で殺しにかかる。


(さあ、王女を守れ!その隙を突いて殺してやる!)




だが、刺客の意に反して、執事は動かなかった。


「はい、終わりです」


「なっ!?」


あと少しでガスパーの首に到達するところで、刺客の手が止まった。

いや、何かによって止められたのだ。


王女に放ったナイフも同様に、空中で静止していた。


「う、動かないッ!?・・・ぐっ、貴様、何をした!」


「まだ気づかないんですか?さっき、言ったじゃないですか」


馬鹿にするように、呆れたように、ガスパーは刺客に問いかける。


混乱しながらも、刺客はキラリと自分の腕に光る何かを見つけた。


「これは・・・糸か!?私の腕に糸が巻きついている!」


それは注視しなければ見えないほどの、髪の毛よりも細く、まるで蜘蛛の糸のようなもの。


その糸が刺客の腕だけでなく、足、首、腹と全身に巻きついていた。


『糸のように細く出来ますし』


ガスパーの先ほどの言葉がふと頭によぎる。


「まさか、この糸はその勇者の遺物からか!」


「正解です。やっと気づきました?この勇者の遺物を形無しの作品(クラフト・ナイフ)って言うのですが、見えない程細く伸ばして部屋中に張り巡らせてたんですよ」


(勇者の遺物。知ってはいたが、どこまで規格外なんだッ!)


ならば、見えない筈の自分の位置を掴んでいたのも説明がつく。

この執事(ガスパー)は蜘蛛のように糸から伝わる

振動で位置を把握していたのだ。


ジタバタと身じろぎするが、糸が体に食い込むだけである。

追い詰められ、手詰まりの刺客から出てきたのは2度目となるこの問いであった。


「・・・・・・貴様はッ、貴様は何者だ!」


「またそれですか・・・」


ガスパーはその言葉に心底うんざりしたように溜め息を吐く。


「さっきも言いましたが。執事ですよ。時には王女様の世話して、時には行き過ぎた行動を諌め」


ガスパーは言葉をつむぎながら、形無しの作品(クラフト・ナイフ)をソードに変形させスタスタと刺客へ近づく。


「そして時には王女様を守る盾となり剣となる」


重ねて言葉をつむぐ。


「執事兼、ただの当代剣聖ですよ」


その言葉にポカンと口を開け、驚愕の表情を浮かべる刺客。

そして、刺客は何かしらの言葉を発しようとするが、


「ま、そんなことよりも」


ソードを振りかざし、遮るようにガスパーは告げる。


「俺の(オンナ)に手を出してんじゃねえよ」


「ちょっ、ま・・・!」


刺客の意識は言い切る前に、そこで途絶えた。


◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆


一方、城門では。


未だにバルムはダンテと打ち合っていた。


(ここまで待っても来ないってことは・・・あの旦那失敗したかねー)


バルムは首を切り落とそうとする一撃をギリギリでかわしながら、そんなことを考える。


「どうやら君の相方は失敗したようだね」


ウェルナーはバルムの心を見透かしたようにそんな事を言ってきた。


バルムはダンテから一旦距離を取る。

そして、ダンテに対して警戒しながらも、ウェルナーに話しかけた。


「それにしても王様。アンタって存外にも非情なんだなぁ。娘さん囮にするなんて」


すると、ウェルナーは先ほどの笑みとは違って、人間らしい苦笑を浮かべて呟いた。


「そんな事はないさ。なにせ、クロス王国の最大戦力を戦場に出さず、ぴったり護衛に付けさせているのだからね。むしろ親バカじゃないかな」


「うん?ん〜〜?」


この国の最大戦力。

目の前の王はそう言った。


バルムはその言葉に何か引っかかり、自分でも自覚している足りない頭を総動員する。


そして、ある考えに行きつく。

剣聖はそれぞれの代の王毎に配属される。

ならば、次の剣聖がいてもおかしくない。


「・・・おいおい。まさかもう一人剣聖がいるのかよ!カッ〜、全くもって俺はついてるな!二人の剣聖に出会えるなんて。是非とも戦いたいね。いや、否が応でも戦わせてくれ!」


「その機会はないですよ」


バルムは声のした背後を振り返ると、返り血を浴び真っ赤に染まったメイド長、スーデリカが立っていた。


見ればスーデリカの後ろには身体中に切り傷が刻まれ、血を流し地に伏すケルベロスがいた。

目にはナイフが深々と刺さり、何かの毒が仕込まれていたのだろう、プスプスと音を立て煙が出ている。


(ヒャ〜、おっかね〜)


「流石にこの数相手は厳しいのではないか?」


正面からはダンテが声をかける。


「それとも、隠している奥の手を使うか」


「・・・なんだ、バレてたのか」


確かにこの状況は今のままでは、キツい。

というか、正直言って無理だ。


逃げるべきだが、目の前には剣聖(ごちそう)がいる。


「・・・やっちまうかねぇ」


バルムの纏う空気が変わった。


それを察知したスーデリカとダンテは武器を構える。


そして、バルムは滾る思いを抑えつつ剣を握り直し、


「・・・やめだ、やめ。たしかに魅力溢れる話だが、無駄死には俺の趣味じゃなくてね。という訳で、俺はここで失礼するとしますか」


剣を鞘に収めて、そう告げた。

心の底から残念そうな顔をして。


「逃げれると思っているのですか、ここから」


バルムの周りにはダンテ達だけでなくメイドに騎士も取り囲んでいた。


「ああ、思っているさ。というわけで、頼むぜ大将」


その言葉を境に。なんの前触れもなく。



バルムは音も無く消えた。



「・・・ッ!【鷲の眼(イーグルアイ)】!」


すぐさまダンテは己の固有能力を発動し索敵する。

だが、


「ぐっ、索敵に掛からない・・・ターナ!」


ダンテは獣人のターナに呼びかける。

ターナは獣人の中でも聴覚に優れ、相手の心音から呼吸の音を聞き分けられるほどである。

姿は消せても移動をしているならば、どんなに足音を消そうとしても微かに出てしまう。


だが。


「ダメです!敵の足音どころか、全ての音がいきなりそこから消えました!」


(ターナの耳でも無理か!)


このままでは逃してしまう。

いや、それどころか、もしこのまま陛下を狙われれば防ぎようがない。


「どうすれば・・・」


「ここはワシに任せろ!という訳で任せたマッシュ」


「アンタも頑張れよチクショー!【制限が付き纏う鎖(グレイプニール)】!」


突然の聴き慣れた声がした方を向けば、ベルナンと1人の男性、たしか副ギルドマスターのマッシュであったか、がいた。


「制限!【魔族】【剣聖ダンテと相対

していた者】【バルムという名前】以上の制限に当てはまる者を拘束せよ!」


マッシュは固有能力を発動し宣言するや否や、地面から鎖がどこかを目指し一直線に伸びていった。


「姿が見えなくとも、存在するのならばこの鎖は誰であろうと拘束する!」


鎖は城門を超え町の方へ伸びていき、ガシンッと何かを捕まえた音が聞こえ鎖は止まった。


「捕らえた・・・ッ!?」


しかし、いきなりマッシュの顔が驚愕に染まり、それと呼応するかのように鎖が光となって消えていった。


突然能力を解除し敵の拘束を解いたマッシュにベルナンは疑問を投げかける。


「どうした!敵を捕らえたのではないのか!」


「それが・・・敵が消えました。確かに拘束した筈なのに、いきなり消えて、いえ、この地から消えました!」


「なんだと!?」





こうして、クロス王国襲撃事件は終わった。


負傷者は多かったものの、死者は奇跡的に少なく、これは国王ウェルナーの采配が大きく関わっている。

また、首謀者と思われる敵の攻撃から王を守り通した。


しかし、首謀者を逃し、国の機密文書を破棄・盗難されるといった苦く、不気味な結末であった。

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