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3、剣聖 前編

イルクの告げた言葉に衝撃を受けた俺が回復するまでに時間を要した。


「襲撃って・・・どういうことですか!?それに、容疑者ってッ!」


食ってかかるかの如く、立ち上がりイルクに問い詰めようとするが、イルクはどこ吹く風とばかりに動じずソファーでくつろいでいる。


「まあ、落ち着きたまえ。容疑者と言っても一応だからね。それに詳しい事、知りたくないの?」


「・・・お願いします」


今すぐにでも聞きたい事は山ほどあるが、渋々とイルクに従い腰を下ろす。


「事が起きたのは・・・そう、君がクロス王国の王都ビヨンテを出てちょうど二日後だったか。それは何の前触れも無く、唐突に起きたらしい」


最初の発見者はしがない肉屋の店主だった。

いつものように開店の準備をしようと肉の貯蔵庫へと向かうと、何やらガタガタと物音がするのが聞こえた。

泥棒かと思った店主は肉包丁を持って開けると、そこには。


「オークが肉に齧りついていた?街の中で、ですか」


「その通り。私も耳を疑ったよ。ああ、この話が聞けてるってことは店主は生きてるだろうから、安心してくれ・・・じゃ、話を続けよう」


イルクは淡々とクロス王国の事件の概要を話し出した。


「その証言からに当てはまる時間から、オークを始め、ゴブリンにリザードマンなど、様々なモンスターの目撃情報が急増したんだーーーー」


◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆



〜王都ビヨンテのある通り〜


昼下がり。

いつもならば、この時間帯のビヨンテは人で賑わっている。


だが、その日は違った。


人で賑わっていた通りは今は誰もおらず、食べ物や靴など物が散乱している。


「ママ、どこに行ったのー!・・・ひっく、うぅえぇぇん、痛いよぉ」


母親とはぐれてしまった一人の少女が道端で(うずくま)り泣いていた。

怪我をしているのか、足からは血が流れている。


ガラリと後ろで何かを蹴った音がした。

少女は自分を探してくれていた母かと思い、期待の眼差しで後ろを振り返る。


「ブヒヒヒヒヒ」


しかし、そこに居たのはオークであった。

獲物を見つけたオークはベロリと舌舐めずりをし、下卑た笑みを浮かべながら少女に向かって走り出した。


「ひッ・・・だ、誰かッ!ママ、たすけて!」


「ブヒイイイイイ!」


少女を腰が抜け逃げられず、向かって来る恐怖に目を瞑った。


「ブヒヒ、ッブべ!?」


「・・・?」


何故か衝撃が来ず、それどころかオークの悲鳴らしきものが聞こえた。

恐る恐る目を開けると、そこには一人の狼人族の女性が居た。


そして、先程のオークが倒れていた。


「少女の悲鳴が聞こえたかと思って来てみたら・・・おい豚。今、何をしようとしていた」


「ブ、ブビッ」


女性から放たれる濃密な殺気に、背を翻し死に物狂いで逃げ出そうとするオーク。


「逃す訳ないでしょ」


しかし、目にも留まらぬスピードで移動した女性がオークの前に立ちはだかり、足を後ろへ振りかぶった。


「裁かれなさい」


そして、女性は渾身の力を込めオークの股間目掛け、蹴りを放つ。


放たれた蹴りは股間にめり込み、そのまま止まらず頭まで到達し、オークの巨体を真っ二つに割いた


そして蹴りを放った女性ーーーーレヌスは足を振るい、付いた血をピッと飛ばした。


レヌスから出ていた殺気は嘘のように消え、安心させるように笑顔で少女の方を振り向く。


「もう大丈夫よ」


「あ、ありが・・・あ」


「あら」


少女は安心して気が緩んだのか、意識を手放した。

レヌスは素早く動き、ポフと大きな胸で優しく受け止める。

・・・少女を受け止めた時、レヌスの顔がだらしなく緩んでいたが、気にしないでおこう。


そのレヌスに声を掛ける者がいた


「無事でしたか、レヌス」


「ええ、この子も私も大丈夫よ」


「は?誰が貴女のような年増の心配などしますか。そちらの見目麗しい女性が無事かどうか聞いただけですよ。これだから年増は」


レヌスに声を掛けたエルフの男性は少女に向ける慈悲に満ちた顔とは違い、反吐でも出そうな顔をレヌスに向ける。


それだけ言うと、再び慈悲に満ちた顔を少女に向け、手をかざした。


「ヒール」


エルフの男性が回復魔法を唱えると、少女の身体に魔法陣が浮かび、みるみる傷を修復していく。


明らかにレヌスと少女の対応が違う。


「あなたも変わらないわね。流石はロリコン四天王の一人」


「貴女もですよ。ヨダレを拭きなさい・・・何が起きてるか分からないが、運がいい事に集会に来ていた他のロリコン四天王がここに居る。幼女と少女の身の安全は保障されていると言っても過言ではない」


そうね、とレヌスは同意する。


クロス王国にはレヌス達ロリコン四天王の他にも、数多くの【紳士淑女の会】のハイスペックな変態(メンバー)が暗躍している。

レヌス達のように誰に言われずとも、それぞれが自分の愛を優先して人々を守るだろう。


「さて、この子を保護したけど何処が安全かしらね?」


「それなら、ウェルナー陛下の居るアインバッハ城か、この都市のギルドでしょうね。または、ビル商会という手もあるかと」


「なら、城に行きましょう。この子の親もそこに居るかもしれないし・・・ところで、何か変な匂いしない?」


「?特に感じませんが、どうかしましたか?それとも屁でも漏らしたから誤魔化したいんですか」


「いえ、ちょっと気になっただけよ。行きましょう。あと、流石に殴るわよ」




〜ギルド前〜


「・・・まったく。何故、いつもいつもいつも騒ぎに巻き込まれるんだ私は」


一人、とある男がギルドの前で項垂れながら座り、愚痴を零していた。

この人物は都市バビオンのギルドでギルドマスター副長を務めている(よわい)30ほどの男性、名をマッシュ・ドローミと言う。(第参章AnotherStoryを参照)


「突然ウェルナー陛下直々に呼ばれ緊張で胃が痛くなり。なんとかポジティブにバビオンでの激務(ベルナンの世話)が休めるじゃないかと思えば、疲れの元のベルナンがコッソリ付いてきて。そして着いたと思えばモンスターって・・・・・・」


ギルド内部にはケガをした街の人々がおり、ギルドの周囲ではギルドのメンバーが忙しなく動いている。

にも関わらず、ブツブツと溜まりに溜まった愚痴をギルドの入口付近で放ち続けるマッシュ。


本来、怪我人の手当てもせずに愚痴をこぼしているだけであれば邪魔以外の何者でもない。罵詈雑言が浴びせられることだろう。


しかし、彼はただ愚痴を零しているだけではない。


「グギ、グギギギ!」

「シャァァァ?!」

「ブゴオオッ」


「ああ、もう!煩いなッ。お前らは!」


それは『異様』の一言であった。


ギルドの周囲には100に届く数のモンスターが地面から伸びた鎖により拘束されていた。


蜥蜴人(リザードマン)は鋭い歯で噛み千切ろうと、豚人(オーク)は鎖を殴りつけ、ゴブリンは掴み、自分に絡み付いた鎖を必死に外そうとするが、逆に自分の身体が傷つくだけでビクともしない。


敵を拘束するこの鎖。

この鎖こそがマッシュ・ドローミの固有能力(ユニークスキル)

制限が付き纏う鎖(グレイプニィル)


マッシュ・ドローミが決定したカテゴリ(制限)に当て嵌まる者を問答無用で拘束する鎖。

有効範囲は200m。そのカテゴライズが多ければ多いほど、拘束する範囲のターゲットが絞られ拘束力が強まる。


【ギルド半径100m】【モンスター】【ギルド内に居る者に敵意を向ける】【今日(こんにち)ビヨンテに侵入】


そして現在、このカテゴライズに当て嵌まる者だけ、つまりギルドに近づくモンスター達を拘束している。


使用中動くことが出来ないなど使い勝手が難しく、拘束するだけで殺傷能力はゼロであるが、それ故に、こと相手を捕縛することにおいてクロス王国でマッシュの右に出る者はいない。


補足になるが、この能力のせいでサボり癖のベルナンの元に抑止力として配属された節もある。

当の本人が聞いたら泣いて悲しがるであろう。


そんなこんなで、ギルド防衛のため動けず、モンスターたちの喧しい声にすっかり辟易し始めている時であった。


「おーおー、やっとるのー」


「・・・ギルマス、やっと戻ってきましたか」


バビオン支部ギルドの長、ベルナンが姿を現した。


ここのギルマスには会わん方がええじゃろ、とか言って姿をくらましてたが、この緊急時だというのにいつもと変わらずのんびりした印象だ。


「いつ見ても厄介な鎖じゃよな、これ」


ベルナンはモンスターを縛り付けている鎖を忌々しそうに見る。

毎度のように脱走するベルナンは、いつもマッシュの鎖によって拘束されている為、この鎖の頑丈さを嫌という程身に染みている。


「いままでどこ行ってたんですか?」


「ああ、ウェルナーと連絡を取っておった。『住民を見つけたらアインバッハ城に集めてくれ』じゃと」


陛下を呼び捨て・・・自分がそんな事をした日にはあまりの恐れ多さにストレス性の胃痛で胃が潰れてしまう。


「それは分かりましたけど・・・靴に血が付いてますよ。何かあったんですか?」


「うん?・・・ああ、帰り道でグレーウルフに遭遇しての。殺気向けて飛びかかって来て、ついでじゃし倒してきたんじゃよ」


平然と言っているが、グレーウルフ自体はそこまで強くないのだが、必ず30以上で群れを成して行動し、連携した動きで獲物を狩る厄介なモンスターだ。

Aランクの冒険者でも危ういというのに、そのグレーウルフの群れと対敵して傷どころか付いているのは靴の一滴の血で出来た汚れのみ。


流石は元SSSランクのことだけはある。


「あと、コレもちょうど見つけての」


よく見れば、手には何かの液体が入っているらしき壺を持っている。

言うや否や、ベルナンは持っていたいくつかの壺をモンスターに投げつけた。


壺はモンスター達に当たると割れ、中身をぶち撒けた。


「この匂い、もしかして・・・」


「ほれ、『ファイヤー』」


マッシュは漂ってきた匂いで壺の中の液体の中身を察する。

ベルナンは魔法を発動し、ぶち撒けた液体に向けて炎を放つと、


ボッ、ブワアァァァァァァ!


『グギャギャギャァァァァアアア!』


液体に引火し、炎がモンスターに蛇が巻きつくかの如く纏わり付き、モンスターは悲鳴を上げ、もがき、苦痛の表情で死に絶えていった。

液体の正体は油であった。


そのベルナンの突飛な行動を見ても慌てることなく、むしろ呆れているマッシュ。

こんなことで驚いていては、ベルナンの下でギルド副長は務まらない。


「あー、もう何してんですか。後処理が面倒臭くなるじゃないですか。あと、臭いです」


「有効活用じゃよ。一々ナイフで刺して殺しておったら疲れる上に日が暮れてしまう。マッシュも力は極力温存しておけ」


「・・・何か見つけたんですか?」


ベルナンの含みを持った言い方に疑問を覚えるマッシュ。

ベルナンは炎が民家に飛び火しないよう見張りながら、口を開いた。


「・・・妙にモンスターが統率されている」


「統率って、これがですか?それにしては雑すぎではないですかね」


「確かに。じゃが、行動ではなく、モンスターが向かう方向がの。何かに導かれるように都市の中枢部へと進んでおる」


(いや、導かれるではなく、何かを避けておる?)




バガアァァァァァァァァン!




ベルナンは思考していたが、それは街に響いた謎の爆発音によって突如遮られた。


「な、何ですか、この音は!?」


「音がした方向・・・ビル商会じゃな」




〜ビル商会本館〜


戦場と化したこの都市で、ビルゲイ・ストレは・・・・・・商売をしていた。


いやはや、耳を疑うのも無理はない。

しかし、これに嘘偽りは無い。

彼は武器を掴み腕を振るのではなく、商機を掴まんと自慢の舌を振るうのだった。


「さあさあ、寄ってらっしゃい見てらっしゃい!今か今かと大群を組んで迫り来るはモンスター。そして、立ち向かうは勇敢なギルドの皆々様!その強さは正しく百戦練磨の猛者であられる。されど、敵の数は百を超え、倒しても倒しても数が多くてキリがなく、武器はボロボロになる一方。そんな時にはコレ、使い捨て魔力爆炎器(キラーボム)!」


「ソピア王国で最近出来たばかり、生まれたてホヤホヤの新商品!コイツに一定量の魔力を流し込むと、あら不思議。なんと爆炎魔法が発動して、モンスターを一層!今なら、戦闘中ということもあっての銀貨3枚!これでアナタの命が守れるなら、なんと安い!」


「どうも毎度!はいはい、銀貨はこちらで受け取ります、皆様どうぞ!・・・・・・え、何?爆炎が強すぎる?ええ、確かに!威力のことを考えすぎて、敵おろか味方まで吹っ飛ばすほどで!え、返品?絶対不良品おしつけただろ?いえいえ、そんな事はありません!それ程までの高威力、今こそキラーボムが輝く瞬間ではないですか!有効活用、かつ街の平和を守りたいという、私の善の心です!なので、決して在庫処分に丁度良かったとか、私の財布が膨らめば良いな・・・なんて事は考えてません!」


「え?街守るどころか、爆発で家が壊れてる?どうすんの?いえ、それは私は関係ない。だって、あなたが買って、投げて爆発して壊した。つまりワタシ、カカワッテナーイ!つまり、無罪!イェーイ!!・・・失礼、流石にテンション高すぎでしたね。大丈夫、燃え移った家は私達ビル商会が新築同然で手厚く直します!4割引きで!しかも、ビル商会で扱っている家具で使える3割引クーポン券も付けちゃいます!得、なんと得か!本来よりも安く新築に!そして私の懐には新しいお金が!つまりは私も貴方も幸せニッコリ、win-winですね」


「という訳で、ギルドの皆さん。じゃんじゃん気にせずモンスターを家諸共、破壊して下さい!・・・って皆さん、敵はあっちですよ。何でこっちにキラーボム構えてるのですか!?」


・・・うん、どうやら大丈夫そうだ。




〜アインバッハ城〜


日本の伝統的なゲームである将棋。

将棋での敗北条件は王将が取られること。


誰もが知っているルールだ。


王は取られぬよう、囲いを作り守りを固めるのが定跡。

奥に篭り、安全を確保してから動く。


それは現実においてもそうだ。

王の首は取られてはならない。


しかし、ウェルナー・クロスは違った。

敵からの襲撃に対し、この国の王はむしろ誰よりも最前線に立ち、騎士の指揮を取っていた。


「第一隊は城の警備!第二隊から第四隊は住民の救助にアインバッハ城までの護送!第五隊から第八隊はギルドと連帯してモンスターの殲滅!第九隊は城壁で外からの新たな敵に備えて待機!以上だ、急げ!」


王の勅命を受けた騎士達は一斉に動く。


既に城門付近には自力で逃げて集まって来た住民がいる。


そして、その住民の手当てや介抱しているのは騎士だけではなく、メイドであった。

人手が少ない今、メイドも駆り出されていた。


何とか王城に逃げ込み安堵する人々。

しかし、怪我人が集まることで人の血の匂いが濃くなり、飢えたモンスターを引きつける。


『グキャキャキャキャ!』

『シャーーーー!』


ハイエナの如く匂いを嗅ぎつけ、わらわらと群がって来た。

そのままモンスターが迫り、騎士と相対しようかとした時。


それは一瞬であった。


ヒュンと、小さく風を切る音がした。

気付いた時には、今まさに襲い掛からんとしたモンスターの眉間に、心臓に、喉に、眼球に、適確に急所に投擲されたナイフが刺さっていた。


モンスターの大半は悲鳴をあげること叶わぬまま骸となり、残ったものも息はしているが致命傷を負っている。


そのモンスターの命を奪った者の名は、メイドの長、スーデリカ。

彼女はスカートを手で摘まみ、恭しく頭を下げる。


「いきなりの不意打ち失礼しました。ですが、ここより通すなと陛下より言いつけられていますので。命の惜しい方はどうかお取り引きを」


丁寧な言葉とは裏腹にスーデリカの瞳の奥は底冷えするほどに冷徹であった。


何とか生き延びたモンスターが恐怖から命欲しさに逃げようとするが、


「はい、ほいっと」


短刀が背中から心臓目掛けて刺し入れられた。


音も無くモンスターの背後から現れた猫人族ターナを筆頭としたメイド達によりトドメを刺さされていく。

メイドの可憐な姿とは裏腹に、見事に急所への一撃でトドメを刺している。


騎士より立派に戦闘してるのではなかろうか、このメイド達。手当てされている人々と騎士はそう思わざるをえなかった。


スーデリカはそんなメイド隊を観察していた。


(何名か仕損じてましたね。あとで教育しなくては)


スーデリカがそんな事を考え、メイドの何名かは悪寒を感じて身体を震わせた。


このまま事態は治まるかと思われた。

そして、その男の声は何の予兆もなく現れた。


「いや、まったく怖いねぇ。メイドじゃなくて暗殺者のがピッタシじゃないの、あんたら」


「・・・ッ!?いつの間に!」


スーデリカは背後を取らたことを理解した。


気は張り巡らしていた。

だが、一切の気配を感じることなく、その声の人物はそこにいた。いや、出現した。


自らの失態を恥じながらも、ナイフを構える。

対して、外套を深々と被った謎の男は変わらず自然体。


「ウーン。アンタのような別嬪と剣交えるのは楽しそうだが・・・生憎、相手は別に用意してあんだよな」


その男の言葉を皮切りに、騎士達が居た場所から轟音と悲鳴が響く。


すぐさま後ろを振り向く。


そこには6メートルもの大きさで3つの頭を持った黒の猛犬(ケルベロス)がいた。

グルルルと大きな牙を剥き出しに唸り、空腹なのか目が血走っている。


「ケ、ケルベロスだと!?何でここに、グワァッ!!」


騎士の一人が突然のことに動けず、ケルベロスの攻撃をマトモに食らってしまった。


「落ち着きなさい!メイド隊の半数は騎士の援護を!固まらず散開し、牽制しなさい!」


スーデリカが叱咤し、それは一瞬、ケルベロスに気を取られた一瞬であった。


男はスーデリカが制止するよりも速く駆けた。

その向かう先は、


「・・・ッ!?陛下ッ、危ない!」


騎士とメイドが止めようとするが、ケルベロスが狙っていたかのように邪魔をして軽率には動けない。


その間にも飛び出した刺客は騎士とメイドが阻止するよりも速くウェルナーへ到達した。

男は迷いなくウェルナーの首めがけて剣を振りかざした。


ガキンッ!


しかし、刺客の剣はウェルナーの前に現れた盾により弾かれた。


「・・・だから、言ったではないですか陛下。貴方は城の中で指示をしていて下さいと」


「私が奥に居ては、私を守る為の騎士が城に残る。なにより、王の堂々とした姿を見せれば民も安心するというものさ。だろ、ダンテ」


「その分、私の気苦労が増えるのですよ、陛下」


片手に盾、もう片手には剣。

そして鎧を着込みフル装備をしたダンテがウェルナーへ繰り出された一撃を受け止め、男を弾き飛ばした。


苦労をかけてくる(ウェルナー)に対しダンテが溜息を吐いていると、微かに笑い声が聞こえてきた。


ウェルナーの命を奪おうとした謎の男からだ。


「いやはや、流石流石。結構本気でやったのに弾かれちまった。噂通りで安心したぜ。騎士団長ダンテさんよ」


男の顔を隠していたフードが、ハラリと落ちた。

その下にあったのは、人間とは明らかに異なる青色の肌。

ギラギラと獲物を見つけたかのような目をした魔族の男。


「いや、盾の剣聖と言った方が良いかな。ダンテ・グレトリー」

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