おまけ話 アンの冒険 〜揺れる尻尾に逆立つ尻尾〜
誠一によって作られた異空間。
その内の一つは土が耕され種が植えられ農業が営まれている。
大根からトウモロコシにイチゴなど多種多様な手広く育てている。
・・・たまに、ウニョウニョと動いてる野菜もあるが。
野菜の世話は祭の時に制作した人型ゴーレムのスケ・カクの二人に任せている。
その異空間に、スケ・カク以外の1つの影が見えた。
「よいしょっと!これくらいで良いかな」
狼人族の少女、アン。
彼女は誠一から貰った腕輪を使い、好きに異空間に出入りすることが出来る。
たびたびだが、こうやって異空間に入っては果物を取ってお腹を満たしているのだ。
付けていたエプロンにイチゴを乗せ、運ぼうとするとポロっと2、3個ほどイチゴが転がり落ちてしまった。
欲張り過ぎちゃったかな、と思いながらも落ちてしまったイチゴを拾おうとするが、
「あれ?おかしいなぁ?」
イチゴが落ちたであろう場所を探すが、赤色の身は見当たらず緑のへたしかない。
その時、アン狼の耳がコソコソと何かが動いてる音を拾った。
バッと振り向くと、その何かは野菜の影に隠れながらガサゴソと逃げて行く。
アンは思わず立ち上がると、走って追いかける。
アンは幼いながらも人狼族である。
身体能力は並ではない。
何かはアンよりも遅く、距離を詰められる。
しかし、あと少しという所で逃げる音が止み、静かになる。
音が消えた辺りを野菜を搔き分け探すが、何かは消えてしまった。
代わりに、
「何だろう、この穴?」
1つの穴があった。
自然に出来た物ではなく、人為的に掘られた物であるのが見て取れる。
大きさはアンがちょうど通れる程の大きさで、深さは分からない。
アンは少し躊躇ったが、好奇心には勝てず穴へと潜る。
穴はグネグネうねっており、意外に長い。
余りの長さに引き返そうかと思っていると、
「あ、光だ!」
ようやく出口が見え、急いで光を目指し出てみると、
「な、何ここ?」
そこには驚きの光景が広がっていた。
そして、その光景に目を奪われる余り、アンは背後の存在に気づけず、
「え、わっぷ?!」
しばらくすると、穴の付近からアンの姿が消えていた。
◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆
「ただいま〜アンちゃん・・・って居ないな。また、畑の方か?」
ギルドのクエストを終え、宿に帰って来たがアンちゃんの姿が見えない。
畑に居るだろうと当たりをつけ、早速異空間を開け畑に向かうのだが。
「あら?居ないな」
アンちゃんの姿はそこには無かった。
俺は田吾作姿のカクとスケに見てないかと聞く。
カクとスケは頷くと、畑に開いた穴を指さす。
「・・・もしかして、この穴に入っていったのか?」
俺がそう聞くと、二人は頷き肯定する。
アンちゃん、度胸あるなぁ。
アンちゃん、穴にハマって抜けなくなった、という訳ではないな。
魔法を使ってエコーで調べたが、何かが詰まってはいなかった。
「でも、何で穴なんかあるんだ?」
この穴を作った覚えは俺には無い。
自然に出来た訳ないし・・・・・・まさか。
俺は穴を見ていると、あの事を思い出した。
そして、異空間を開け、あの場所へと移動する。
「やっぱり、ここか」
移動した先には、村があった。
村と言っても、縄文時代に見られるような藁で出来た家が集まり、どちらかと言えば集落が的確か。
しかし、その村は少しおかしいのだ。
家が明らかに小さい。
子供なら入れるだろうが、大人では小さ過ぎて中で立つこともままならないだろう。
そして、その村の住人も特殊であった。
「わっふ、ワオーン!」
「「「ワオーン!」」」
住人は人ではなくモンスターであった。
人間の子供より小さく全身がフサフサ。クリクリとしたつぶらな瞳で、体は全体的にモコモコと真ん丸。
表現するならばデフォルメされた犬が二足歩行している。
一言で言うならば、愛玩毛玉。
OLさんなんぞが見ればヒーヒー言うほどの愛くるしさ。何処ぞのゆるキャラとして採用され食っていける程に。
こいつらの正体はコボルト。
モンスターであるのだが、全く問題はない。
訳あって俺の異空間に居るのだが、まあ今はそれよりもだ。
コボルト達は円状に密集し、遠吠えをしズンチャカズンチャカとステップを踏んで踊りをしている。
その中央では、
「何してんのアンちゃん?」
「お兄ちゃん、助けて!」
アンちゃんが祀られていた。
首からは何かの牙か骨で作ったネックレスを掛け、頭には花で作った冠。
そして、アンちゃんの前には果物と木の実がお供えされている。
アンちゃんは危害を加えられてる訳ではなく、この歓迎?された状況に戸惑って居るだけのようだ。
俺はコボルト達に声をかける。
「お前達、何してんだ?」
「ワンワン!ワンワンワン!」
(訳:神様だ!皆集まれ!)
「「「ワオーン!」」」
コボルト達は一斉に俺の前に集まって来た。
全部で三十人程も居るため、一ヶ所に集まると壮観だ。
因みに、コボルト達の言ってる事は俺には理解できる。
ビバ、異世界語翻訳。
※ここから翻訳された内容を記す。
「神様呼びは止めてくれ。で、何してたんだ?」
『神様と同じ匂いした』
『神様の仲間』
『歓迎しなきゃ』
『歓迎、歓迎!』
『踊れ、踊れ!』
なるほど。
アンちゃんから俺の匂いを嗅ぎとって、歓迎してくれてたのね。
「そりゃありがとな。ところで聞きたいんだが、その備えている果物はどこから採ってきた?」
『俺ら、穴掘るの好き』
『趣味!娯楽!』
『1人、掘り続けたら抜けた!』
『知らない所』
『そこになってた』
『変な格好した2人、くれた』
『熟れすぎ、傷み、間引きって』
やっぱりか。
大方の予想は出来ていたが、あの畑の穴はお前らのかい。
どこをどうしたらなるのか分からないが、どうやら畑とコボルトの村が繋がっているらしい。
この異空間、作った本人の俺でも詳細が分からない為、今回のことで衝撃の事実が発覚した。
この話を聞いて無責任だと言わないでくれ。
現代人だって、携帯を使ってはいるが仕組みが分からないだろう。あれと同じだ。
てか、カクとスケがそんな事していたのにも驚きである。
「お前ら、畑から採っても良いけど、畑の作物採り過ぎるなよ」
『『『『『はーい!』』』』』
コボルト達に軽く注意をしていると、祀られていたアンちゃんがこちらへ近寄り、質問してきた。
「お兄ちゃん、このコボルト達は何でいるの?」
まあ、それが気になるのは当然だわな。
俺は事情をかいつまんで説明することにした。
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
コボルト。
犬に似たモンスター。
しかし、スライムよりも弱く、最弱のモンスターとも言われている。
群れで生息し、主食は木の実や虫に小魚。
手先は器用であるが、性格は臆病で人間の姿を見れば一目散に逃げる。
人に危害を加えることもなく、何故コイツらがモンスターのカテゴリなのか怪しい次第である。
こんな感じなので、ギルドにコボルトの討伐依頼など来る筈もなく。
だからこそ、その依頼は異色を放っていた。
ある村からの依頼がギルドに張り出されていた。
それは村の畑の野菜が盗まれるというもので、始めは野菜泥棒だけであったのだが、最近では家畜の鶏が盗まれたらしい。
「で、村の1人がコボルト達が盗んでいるのを見たと」
「ええ。しかも、可愛いらしいというか、おかしな事に家畜が盗まれた家の前に沢山の木の実が置かれていたそうで。是非、調査をして欲しいらしくて」
「なるほどね〜。そりゃ確かにおかしいわ」
この依頼、調査対象がコボルトな上に賞金も安い。
その為、受けてくれる人がいない。
そこで、白羽の矢が立ったのがギルドの変わり者である俺な訳だ。
こうしてギルドの受付嬢から頼まれてる。
俺は断る理由もなく、一度コボルトを見てみたいと思ったのもあって、この依頼を許諾した。
俺は指定の村へ魔法で瞬間移動(普通の魔法使いはできない)し、聞き込み調査をする。
俺が依頼を受けて来たというと皆驚きながらも、答えてくれた。
調査の結果、このような事例は初らしく、怪我人は無し。
夜の犯行で、始めは一週間に一度の被害であったが、今では毎日とのこと。
コボルト達は村近くの山のどこかに住んでいるらしきこと。
以上のことが判明。
ということで夜まで待ち、目的を探るためにもコボルトを尾行することに。
村人にもその旨を話しておく。
そして、夜。
証言通り、コボルト達が現れた。
その姿を見た瞬間、あらかわいいと思わず言いかけるなどして危なかった。
わざと泳がせ、気配遮断の魔法をかけ追跡。
コボルト達は野菜を抱え、えっちらおっちらと山を登っていく。
よく見るとコボルト達はボロボロで疲れた様子。
そして、長い事歩き、辿り着いたのは大きな洞窟。
そこへコボルト達は入っていく。
俺も付いて行こうとするが、洞窟から嗅ぎ慣れた匂いに思わず止まる。
血だ。血の匂いだ。
そして、腐臭だ。
(これはキナ臭くなってきたぞ)
俺は気を引き締め、中に入ると
(あれは、何でオークが?)
オークが洞窟の奥に居座っていた。
そのオークの周りにはコボルト達がおり、手には先程コボルトが盗んできた野菜が握られている。
このオーク、ほぼ塞がってはいるが大きな怪我をしている。
それに、明らかに他のオークと違う。
まず、身体が通常よりも大きく、普通のオークは肌色だが、コイツは灰色だ。
すると、オークは握っていた野菜を口にするのかと思いきや、洞窟の壁へと叩きつけた。
野菜は無惨にも飛散し、コボルト達はオークの行動に怯えている。
オークは口を開いた。
「オい、オレハ肉を持ッテこイ、と言っタゾ」
何と人間の言葉で喋りやがった。
カタコトではあったが、確かに聞こえた。
本来オークは豚のような鳴き声しかしない。それがこのオークの異常さを語っている。
このオーク、怪我が完全に癒えるまでコボルトに食料の調達を命令していたのか。
しかも、オークの手には鎖が握られ、その鎖は1匹の涙目のコボルトの首に巻き付いている。
このことから想像するに、コボルト達は人質をとられ逃げることも叶わず、命令に従っているのだろう。
よほど酷使されているのか、身体に怪我をしていないコボルトはいない。
・・・・・・胸糞悪くなってきた。
「見てて、いい気分がしねえな」
「ダれだ!!」
俺は気配遮断の魔法を解き、オークの前に姿を現わす。
俺は思っていたのよりも声を荒げていた。
突然の俺の登場に慌てていたオークだったが、俺の体格、顔を見ると、ニタニタと明らかにこちらを舐めた目に変わった。
まあ、パッと見で農夫みたいに弱っちく見えちゃうからな、俺。
「あイツラかと思っタが、驚カセヤガッテ。お前、覚悟はデキテるだろウナ」
(あいつら・・・?このオークに傷を付けた人物だろうか)
オークは人の胴よりも太い棍棒を軽々持ち上げ、舌舐めずりをしながら俺を見ている。
「チョウど良イ。肉が食いタカッ」
「ほいっと」
ボキンッ!
オークはまだ何か言おうとしていたが、俺は気にせずオークの首めがけ蹴りを放った。
俺の蹴りに反応出来なかったオークは、何も出来ないままに首の骨が折れ、その巨体が倒れた。
なんと実に呆気ない。
相手を見た目で判断して甘く見た上に、敵前で話に惚けるとは。
ベルナンさんが居ればネチネチと弄るほどのミスだ。
変に人の言葉話せたせいで構わず襲ってこないなんて、コイツ弱かったなあ。
「・・・グッ、ロォォォ、こロし」
「とりあえず、ダメ押しにと」
俺が指を鳴らすと魔法陣が浮かび上がり、炎がオークめがけて殺到した。
何か聞こえたように思ったが気にしない。
「グガアアアアアア!」
まだ生きていたのか呻きと共に弱々しくも炎から逃げようとしている。
首折れてんのに、生命力だけは一丁前やな。
だが、炎は卑しい蛇の如く巻きつき、草には燃え移らずオークだけを燃やす。
数秒も経たずに炎が収まり、オークは骨まで炭と化していた。
確実に息の根は止めろというベルナンさんの教えに従い、シッカリと処理をした。
「さてと、お次はお前らかな」
俺は置いてかれ状況を飲み込めていないコボルト達に振り向き、イメージし新たな魔法陣を浮かべる。
コボルト達は自分達も殺されるのかと怯え、泣いたりお互いに抱きしめ合ったりなどしている。
失礼な、俺を何だと思っているのだ。
俺は魔法を実行するとコボルト達が光に包まれ、怪我は消え、毛並は綺麗になり、疲労が消えていった。
今回の事件、一番の被害者はコイツらだしな。
モンスターではあるが、これぐらいはしても良いだろう。
「ほら、これやるからあの村にはもう行くなよ」
ついでに、俺はスマホのアプリ【異次元ポケット】から貯めていた果物を取り出して、コボルト達にプレゼントしてやる。
「それじゃあな」
俺はそう言って帰ろうとしたのだが、
『待って下さい、神様!』
『『『神様!神様!』』』
「え?おいおい、何だ何だ!?」
コボルト達は俺を神様などと呼び、群がってきたのだった。
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
「かくして、コボルト達はずっと俺の後を付いてくるので、しょうがなく俺の異空間で住まわせることにするのであった。めでたしめでたし」
『『『わー!』』』
その言葉で説明用の紙芝居を締めるとペチペチペチとコボルト達が拍手を送ってくれた。
「なるほど。お兄ちゃんはこの子達を助けてあげたんだね」
「結果的にだけどね。これは偶然に起きたことだ」
俺は下手すればコイツらを討伐するつもりでいたのだから。
それに何より、ちょっと恥ずかしい。
「だから、そんな敬うな」
『そんなことない!』
『傷癒してくれた』
『食べ物生み出した』
『楽園に連れて来てくれた』
『だから神様!』
『感謝、感謝!』
俺はコボルトにヤメろと言っているのに、即座に否定し尚更ヒートアップするコボルト達。
しかし、あのオーク。未だにアレについては謎だ。
スマホのアプリで調べたが分からず、ギルドにも問い合わせてみたが結局分からずじまいのままである。
唯一の手掛かりを挙げるとすれば、オークが言っていた「アイツら」だ。
アイツらとは一体・・・・・・?
面倒くさいことにならなければいいが。
オークのことを考えていたが、そんな事など御構い無しにコボルト達が俺の服を引っ張る。
『感謝!感謝したい!』
『そうだ!神様あれ出来た!』
『旨い!旨い!』
『是非、一口!』
『持ってこよう!』
そう言ってそそくさと家に戻っては、黒く光る何かを皿に乗せこっちに向かってきた。
『神様、コレ!』
そう言って差し出された皿には、ある料理が盛られていた。
以前コイツらに振る舞ったもので、作り方を教えてくれと頼まれ教えていたのだった。
「おお、自分達で作れたのか」
ひとつヒョイと手掴みし口に入れる。
しっかりと甘く煮てあり、合格点をあげられるほどだ。
「うん、しっかり出来てるな。よくやった」
『褒められた!褒められた!』
コボルトがはおれのことが嬉しいのか、わふー!と吠えてはハシャいでいる。
「なになに?お兄ちゃん、何を食べて、る・・・の」
美味しそうに食べる俺の顔を見てか、気になったアンちゃんは興味津々に料理に駆け寄るが、言葉は尻すぼみになり、足が止まった。
「キャーーーー!」
そして、アンちゃんは悲鳴を上げて一目散に逃げていった。
「しまった。これは強烈だったか」
コボルト達に教えた料理。
それはイナゴの佃煮であった。
見た目はシンプル。
揚げられたイナゴがそのまま佃煮にされ、ゴロッと皿に積まれている。それだけ。
味は海老の佃煮に近く、たまに足が歯に挟まる。
コボルト達が虫を好物としていると聞いたので、教えてみたのがこの料理だ。
ただでさえ地球ですらゲテモノ扱いなのだ。
確かに、虫を喜んで食っている姿は、少女にとっては衝撃的であるか。
逃げたアンちゃんは家の影に隠れ、こちらを見ている。
「ア、アンちゃんも食べてみる?美味しいぞ」
「フシャァァァァァ!」
・・・尻尾と耳を逆立て威嚇された。
そんなにダメか。
『神様。僕達なにかしちゃった?』
『僕達のせい?』
『謝罪?』
「いいや、お前らは全然悪くないよ」
アンちゃんの反応と俺の苦笑いに、自分達が何かしでかしたのではと心配になるコボルトの頭をポンポンと撫でる。
(これから、気をつけることにしよう)
その後、異空間から2人で戻ったのだが、三日間ほどアンちゃんの対応がよそよそしくなってしまった。
その事に人知れず涙を流した誠一であった。
(グスッ・・・美味しいのに)