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24、贈り物

パーティーから一ケ月後。


パーティーの後、俺は役目を終え、次の旅の為に準備に取り掛かった。

王城の専属料理人に糖質制限の仕組みとレシピも教えてあるので心配ない。


少し前まで雪が降っていたのに、今では冬の寒さも成りを潜め始め、遠くから春の足音が聞こえてくるようだ。


そんな朗らかな気候の中、俺は新天地へと向かう為、王都ビヨンテにてビルゲイ商会の行商の馬車に荷を乗せ移動の準備に勤しんでいた。


今日は雲ひとつない快晴、正に絶好の旅日和である。


「お兄ちゃん、全部積んだよー!」


手伝ってくれたアンちゃんは褒めて褒めてと頭を俺に突き出してくる。


「ありがとね、アンちゃん」


「えへへ〜」


頭を撫でてあげると、顔を綻ばして喜ぶアンちゃん。フサフサの尻尾もブンブン振られている。

やはり、可愛いらしい。


「忘れ物はないわよね、セーイチ。あと、私にも撫でさせて」


「レヌスさんも見送りありがとうございます。そして却下です。鼻血を拭け」


レヌスさんはわざわざ俺たちのお見送りを兼ね、手伝いに来てくれていた。

とても気遣いは嬉しいのだが、変態なのでアンちゃんには近づけさせない。


レヌスさんはケチねと軽く文句を言いながら、ハンカチで鼻をゴシゴシと拭く。


「まったく、アンタって人は」


いきなり鼻血を流されても平然としている俺はため息を吐く。


(・・・本当にいろいろあったなぁ)


衛兵には囲まれ、勧められた宿に入れば開幕変態。

祭りに参加してゴーレムを作成。

ワイバーンにも出くわしたり、王様にも出くわした。

クエストを受け、小説に出てくるような冒険者の真似事なんかもした。


短いようで濃密な日々だった。

ハチャメチャで騒がしくはあったが、いざとなると寂しいものだな。


今日でここから離れ、次の場所へと移るのだ。


「そうだ、レヌスさん。忘れてた事がひとつだけありました」


「ん、何かしら?というか、出発間際に思い出すなんて慌ただしいわね」


大事な事を思い出した俺はアンちゃんに声を掛け、こっちに来るように呼ぶ。

レヌスさんは何をするのかと不可解そうな顔をしている。


そんなレヌスさんに俺は、頭を下げた。


「遅くなってしまいましたが。レヌスさん、今までお世話になり、ありがとうございました」


「あ、ありがとうございました!」


俺は忘れていた感謝の言葉を述べた。

アンちゃんも揃って感謝の言葉を言い、頭を下げる。


突然の事に鳩が豆鉄砲を食らったような顔をしていたレヌスだったが、くすりと小さく笑った。


「どういたしまして。此方こそ、お世話になったわ。何か困ったことが有ったら私に頼りなさい、セーイチ」


「ええ、その時は是非お願いします」


お互いに笑みを浮かべ、握手をする。


「では、そろそろ。ベルナンさんにもよろしく言っといて下さい」


「元気でね。セーイチ、アンちゃん」


「またね、レヌスさん!」


その別れの言葉を最後に俺達は馬車に乗り、アンちゃんと共にレヌスさんに手を振りながらビヨンテを発つのであった。




〜第参章 完〜














しばらくして、王都ビヨンテから遠く離れた頃。


アンちゃんがごそごそ自分のバッグを漁っているかと思えば、包装紙でラッピングされた包みを差し出してきた。


「アンちゃん、これは?」


「あ、あのね、お兄ちゃん。開けてみて」


何故かモジモジとしているアンちゃんの言われるがままに、包みを丁寧に開けていくと、


「これは、ハンカチ?」


中から出てきたのは白のバンダナであった。

白い布地に花の刺繍が施されている。

そして、隅には辿々しくも「セーイチ・マコト」の名と犬の顔らしきものも刺繍で描かれていた。

所々花びらが歪んでいたりなど失敗した点が見られるが、製作者の一生懸命さが伝わってくる。


「お兄ちゃん、それは私の感謝の気持ちなの」


「え?・・・もしかして、これってアンちゃんが作ったの?」


「うん!お祭りの時に布と糸を買って作ったの」


祭りの時というと、バビオンでの事か。

そう言えば、アンちゃんと一緒に隠れて何かしら買っていたが、あの時か。


「私、いつもお兄ちゃんにお世話になっているから、お返しがしたくて。ほんとはね、もっと早くプレゼントするつもりだったんだけど、上手くいかなくて」


段々と声が尻すぼみになっていくアンちゃん。


「お花もね、難しくて失敗しちゃって。名前も歪んじゃって、ごめんねっわぷ!」


気づけば、嬉しさのあまり俺は思わず抱き締めていた。

無意識であった。

それほど、抱き締めずにはいられなかった。


俺の行動に、顔を赤らめ驚くアンちゃん。


「お、お兄ちゃん、どうしたの?!」


「ありがとうアンちゃん。本当に嬉しいよ」


そう言ってアンちゃんの頭を慈しむように優しく撫でる。

あたふたとしていたアンちゃんであったが、次第に落ち着き満面の笑みを浮かべた。


「え、えへへ。良かったぁ」


この時ほど体が若返っていて良かったと思った事はない。ただでさえ感極まってるのに、歳で緩くなってしまった涙腺では涙が止まらなかったであろう。


ああ、プレゼントというのは、こんなにも幸福を届けてくれるのか。


すると、アンちゃんは何かを思い出したように、ハグから抜け出す。少し名残惜しそうな顔をしていたように見えたが、気のせいか。


「そうだ、お兄ちゃん。レヌスさんからお兄ちゃんに渡してって」


そう言うと、アンちゃんは再びバッグを漁り手紙を取り出した。


「レヌスさんが?」


何だろうかと思い、封を開けると中には一枚の書類が入っていた。

そこには、達筆な字で記されていた。




〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜


セーイチ・サワベ殿


貴殿の働きを鑑みて、審議の結果、我等が同胞レヌス氏の強い推薦の元に【紳士淑女の会】の入会を認める。


その証をここに示す。

今日から貴殿は我等の同胞だ。規律を破りし時は全勢力をもって抹殺することを忘れるべからず。


貴殿の今後の活躍に期待する。


※会員カードを同封しておく。入会費はタダで一年毎に更新が必要となるので注意されたし。


〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜




ボッ!!!


読んだ瞬間、跡形も無く燃やした。

無意識であった。

燃やしても根本的な解決にはならないが、燃やさずにはいられなかった。


「あの野郎、最後に何をしてくれたんだあああ!」


さっきまでの感動が台無しだよ!

人からのプレゼントに殺意が湧いたのは初めてだよ、チキショー!




セーイチの慟哭が馬車から響き渡る。

しかし、それはビヨンテに届くことはなかった。




本当に最後がしまらない誠一であった。


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