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22、初耳ですが 後編

更新遅くなって申し訳ありません

~夜~


「食事に来たわよ」


そう言って机仕事を一段落終えたリズ王女が部屋へと入ってきた。勿論ガスパーも一緒だ。

ひょっこり現れた城のメイド長であるスーデリカさんの連絡のおかげで俺は事前に食事の準備ができ、正に今料理の準備が整ったところだ。


「お疲れ様です」


そのまま、こちらにどうぞと言おうとした。

だが、その前に王女専属執事のガスパーが流れるように動くとリズ王女が座る椅子を引き、どうぞとばかりに空いた手を椅子に向ける。

リズ王女はガスパーの行為が当たり前のようにその椅子に腰を置く。


それは王城にとっては何気ない光景であろう貴族と執事の見事なやりとり。

それが目の前のこの人たちは王様の娘とそれに(つか)えている者なのだなと、未だに王族に料理を振る舞っているのだと実感が湧かない俺の中の現実味を増やしてくれる。


まあ、普段の二人とのギャップにただ驚いたってのもあるが、自分が動きがフリーズしているのに気づき、軽く咳払いをしてリズ王女に料理の説明をする。


「ナムル風蒸し鳥のサラダとキノコとナスの秋のチーズグラタンです。グラタンは熱いので火傷に注意してください」


ホワイトソースはバター、豆乳と牛乳を半々、小麦粉の代わりにエルフ豆粉で製作。

そのホワイトソースに少しの醤油で香りづけした炒めたシメジと軽く湯がいたブロッコリー、海老を投入し耐熱皿に盛り付けその上にチーズをふりかける。

後はチーズの上にトマトと挽肉のミートソース、さっと多めのオリーブオイルで揚げた小さなサイコロ状のナス、粉チーズを乗せて焼けば完成。


サラダの方は蒸した鳥のササミを手で裂き、レタス、キュウリ、さっと茹でたモヤシに入れる。

ごま油、塩、レモンの果汁などの調味料を野菜に掛け軽く混ぜ、盛り付けたものだ。



チーズの狐色に焦げた表面から漂う香ばしい匂いに、リズ王女はゴクリと唾を飲む。


リズ王女はスプーンを手にし早速とグラタンを掬う。

溶けたチーズによるトロリとした一本の橋がスプーンとお皿を結ぶが、自重によって崩れ落ちる。

食べたいというはやる気持ちを抑え、数度フゥフゥと息を吹きかけ口に入れる。


「ホフッ?!ハフハフッ!」


もう冷めただろうと思っていたグラタンはまだ熱く、口の中でアッチコッチと暴れ馳け廻る。


「ハフッ、モク、モグモグ」


次第に熱さが落ち着き、味がはっきりとしてくる。


表面の焦げたチーズだろうか。カリッとした音が聞こえたかと思えば、香ばしい匂いが広がる。

海老のプリプリッとした食感、キノコと焦がし醤油の芳醇な香りに油を通したことで色の鮮やかなナスの旨み。


特筆すべきはクリーミーな白いソース。


様々な具材達がさながら母の抱擁の如く包まれ、より一層この料理を高みへ昇華させる。


グラタンから一回離れ、サラダも食す。


口に入れ咀嚼する毎にシャキシャキと音がなる。

ごまの香りに、レモンの果汁が口の中をリセットしてくれる。

そして、鳥肉が何とやわらかいこと。「蒸す」という工程一つでここまで変わる物なのか。


これまた夕食も綺麗に平らげるリズ王女。


やはり美味しそうに食べてくれるのは嬉しいものだ。料理人冥利に尽きる。


「リズ王女、今日一日を通してどうでしたか。糖質制限は行けそうですか?」


「ええ、大丈夫よ。このまま続けて頂戴」


うん、大丈夫なようだ。

一応、今の内にこれからの事も話しておくか。


「このまま食事を続けて行けば痩せていきます。ただ、途中で体重が減りにくくなると思うんですよ。その時はラジオ体操をやって貰います」


「らじ、何それ。ガスパーは知ってる?」


「いいえ、聞いたことがないですね。セーイチさん、それはどういった体操なのですか?」



ラジオ体操。



これを聞いて「はんっ!こんなの何の効果があんだよ」と、思った方。

決してラジオ体操を侮ってはいけない。


ラジオ体操は全身の400もの筋肉を使い、真剣にやると汗が流れ、カロリー消費も高い。

また、姿勢・便秘改善にも効果があり、綺麗な身体のラインを作り出す。


国が推奨するだけの事はある訳だ。


そのことを説明すると、素直に驚いている。


「素晴らしい体操ね」


「一回5分もかからずに終わるのでお手軽です。入浴の前などにやるのがいいかと。・・・・・・ところで、ひとつ聞いてもいいですか?」


「うん、何かしら」


本当に、突拍子もなくにだが、ある事を聞きたくなった。


「今更ですけど、こんな会って間もない俺にこれといった警護なしで対面していいんですか、リズ王女」


正に遅まきながらの質問に、リズ王女は愚かガスパーも呆れた顔をしている。


「セーイチ・・・本当に今更ね」


「す、すみません」


「ふぅ、まぁいいわ。質問に答えるけど、一応ベルナンのお墨つきだからね。結構、信頼度は高いのよ。ベルナンに感謝した方がいいわよ」


「なるほど」


そこまでベルナンさんが凄いということか。


しかし、ベルナンさんに感謝か。


ほっほっほっとドヤ顔でニタニタと笑っている憎たらしい顔が浮かぶ。


「そ、そうです、ね。感謝し、しないとです、ね」


「と、とても嫌そうなのが分かるわ・・・そんなに感謝したくないのね」


はい、あの人に素直には感謝できないです。


「ああ、それと護衛が居ない訳でもないわよ」


「え?」


リズ王女からの驚きの一言。

護衛って、もしかして忍者みたいに天井裏にでもひそんでいるのか。


俺は何処かに居るかもしれない護衛を見つけんとキョロキョロと天井を見回す。


「どこを見てるのよ。セーイチの目の前にいるじゃない」


そう言われ、前を向けど、居るのはリズ王女以外にはガスパーくらいしか・・・


「え、もしかしてコレですか」


「ええ、コレよ」


「ちょっと、コレって失礼ですね」


「いや、すまん。驚いてつい」


「こう見えても私強いんですよ。それに、もしもの対処用に自慢のナイフも持ってますからね」


そう言ってガスパーは懐からゴソゴソとその自慢のナイフとやらを取り出した。


銀色の鈍い輝きを放ち、握りの装飾は無かったが一目でお高いことが分かる。


分かるのだが、


「それペーパーナイフだよな」


「これ、どんな紙でも切れるんですよ」


「そりゃペーパーナイフだもの」


「これがあれば、まるで紙のようにスパスパとーーー」


「だってペーパーナイフだもの」


どうやら本気で言ってるようだ。


俺は再びリズ王女に視線を合わせる。


「え、本当にコレですか」


「ええ、護衛はコレよ」


「二人共、ひどいですよ」


尋ねたが、やはり護衛はガスパーのようだ。

どうやら真実とやらは変わらないらしい。


こんななんちゃって執事が護衛とは。

警戒されてるのか、されてないのか。



まあ、衝撃的な事実発覚はとりあえず置いくとして。

俺が始めた話なのだが、話を元に戻そう。


「これからも俺がダイエットのサポートします。リズ王女、頑張りましょう」


「よろしく頼むわ、セーイチ」



こうして初めの一日は終わり、リズ王女のダイエットが火蓋を切って落とされたのでだった。

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