正月特別編 どんな時でも変わらない
今年最後の投稿です
今日は12月31日。
あと10時間で一年の終わりを迎え、新たな一年が始まる。
新年がめでたいのは異世界でも変わらないようだ。
この年の終わりはアンちゃんとベルナンさん、レヌスさんの4人で年を過ごす。
レヌスさんだけが少し遅れて来るらしいが。
ウェルナー陛下達は王族だけでの神聖な祝賀会があるとのことで、流石に昨日から明後日までは俺も城に居れないとのことで、俺は一旦帰郷してきたのだ。
俺が居ない間のレシピは城の料理長に渡してあるので心配なく。
そんなわけで俺が作ったコタツに皆で入ってまったりしている。
コタツは二人とも好評で、特にアンちゃんが猫のように丸まっている。
ベルナンさんはアンちゃんに甘く、まるで正月で久しぶりに会ったお爺ちゃんと孫みたいである。
「その甘さを俺にも分けて欲しかったぜ、ったく」
そして、俺は現在ベルナンさんとのジャンケンで負け、予約していた酒を受け取りに行く最中だ。
あの野郎、まさかジャンケンごときで能力使ってくるとは。
卑怯だろ、卑怯。
「まあ、能力のことを忘れていた俺もアホだが・・・ん?」
寒さに震えながら歩いていると、知り合いの姿を見かける。
「レヌスさんだ。子供のストーキング中、って訳じゃないな。珍しい」
変な病気にでもかかったのだろうか、となかば失礼なことを考える誠一。まあ、本人の日頃の行いせいではあるが。
ふむ。どうやらレヌスさんはどこかしらを目指しているようだな。
「怪しい」
いや、たいていあの人は怪しいことしてるがな。
気になった俺はイタズラ心で気配阻害の魔法をかけレヌスさんの後を追う。
次第に人通りが少なくなり、誰かに見つからないように路地裏を歩いていくレヌスさん。
そして、路地裏のある行き止まりで止まる。
すると、レヌスさんが行き止まりをコンッコンッコココンッと叩くと声が聞こえた。
『イエス、ロリータ』
「ノー、タッチ。バット、イエス、ストーキング」
『よし』
(よし、じゃねえよッ!)
気の抜ける合言葉と、問題発言に思わずいつもの癖でツッコミを入れそうになる。
何とか堪えることには出来たが、バレてないよな。
不安になりつつレヌスを窺うが、バレた様子はなく特に大丈夫なようだ。
合言葉が聞こえてからしばらく待っていると、何も無かったはずの行き止まりが開いた。
驚く俺に対してレヌスさんは平然とその先へと進む。
俺も慌ててレヌスさんを追う。
(これは地下に続いているのか)
そこには長い通路があった。
その謎の通路をレヌスさんは迷うことなく進む。
(よく考えると、ホブスさんの姉で変態の宿の主ということしか知らないな、俺)
好奇心で始めたことを少し後悔する。
どれ程まで下へと歩いただろうか。
気付けば通路は終わり、開けた場所に辿り着いていた。
そこにはレヌスさんだけでなく、他の人間もいた。
その数およそ3000人ほど。
獣人、人間、ドワーフ、耳が長いがあれはエルフか!
比較的に女の人の数が少ないが、老若男女問わずそこに集結していた。
地下にこんな大きな秘密の場所があったのにも驚きだが、なぜこれほどまでに人がいるのか。
それと、何かとレヌスさんを見てはコソコソと話をしている。
レヌスさんは人波を通り抜け、更に前へと進む。
そして、この場所の前方に着くと4つの椅子と壇上があった。
その壇上の後ろには大きな布が向こう側を隠すように掛けられていた。
4つ椅子の内3つには既に人が座っている。
これも統一性がなく、一人はガタイがよい髭もじゃのドワーフ、一人はひょろりとした長身のエルフ、一人はどこにでもいそうな太った人間の男。
レヌスさんは開いた椅子に腰をかける。
「遅かったではないか、レヌス」
「貴女のことです。どうせ、衛兵を撒くのに時間がかかったのでしょう」
「レヌス殿、少しは抑えてくださいよ。優秀な衛兵にバレないよう、日をズラして集会に来るよう手配するのは私なのですよ」
「それくらい別にいいでしょ」
何の接点もなさそうな他の3人と気さくに話すレヌスさん。
まったく繋がりが想像できないでいると、ひときわ大きなざわめきが起こる。
『宗主様だ』『宗主様!』
1人の老いた男性が壇上を目指して真っ直ぐこちらに歩いてくる。
宗主様?
じゃあまさか、何かの宗教なのかここは!
宗主と呼ばれた男は壇上へ上がると、口を開いた。
「諸君。偉大なる我らが神の思想と同じ志を抱く諸君。今回も我が招集に誰一人欠けることなく集ってくれたこと感謝している。諸君の働きをさぞ神はもお喜びだろう」
『オオオオオオオオオオッ!』
響き渡った宗主の言葉に此処にいる人々が声をあげ沸き上がる。
レヌスさんを含めた四人も声をあげてはいないが感銘は受けているようで、見て分かるほど明らかに尊敬と崇拝の眼差しを宗主に向けている。
・・・こりゃ決まりだな。
これは何かしらの宗教団体で、レヌスさんはそれに所属し心から崇拝している。
地下で、年齢を問わない多種族が、宗教の集会。
王族の命を狙ったワイバーンの件もある。
もしかしたら、その事件の裏にこの団体が関係している可能性はある。
最悪の場合、俺の手でーーーー
「では、今から第164回、我らが神であるロリコン神である勇者『サイトウ・シンイチ』の信念を崇拝する【子どもを見守る会】の報告と忘年会を始めよう!」
『ウオオオオオオオオオオオオッ!!』
「・・・・・・・・・はい?」
その宗主と宣言と共に壇上の後ろにあった布が落ち、その向こうには料理と酒が置かれていた。
へ、ついていけないよオレ。
いつの間にか酒の入ったコップを片手に持ち、話しを続ける。
「また今年も無事【子どもを見守る会】は一年を終えることができ、少女の笑顔がより増えた。これも皆の働きがあってのものだと私は思う!新たに迎える新年も我らの神の思想を忘れず、少女の笑顔を見守っていこう!」
「では、カンパーイ!」
『カンパーイ!』
「いやー、お久しぶりですな。そうだ、素晴らしいお宝があるのですが1つどうです」
「いやはや、これはありがたい。では、吾輩からも御返しにこちらを」
「うん?どうしたのです、レヌス。あんまり酒を飲まずに」
「ちょっとこの後に大事な集まりがあってね」
「・・・少女だな。して、合法か」
「安心しなさい、私の愚弟の子よ。会の規則は破ってないから」
「なんと羨ましいのだ、レヌス殿」
「やあ、飲んでいるかな。四天王の諸君」
「宗主!」
「いや、しかし流石は宗主。貫禄が我々とは違いますな」
「宗主と言えば、若い頃に強盗に人質に取られた少女を守るため、強盗の視線を引き付けスキを作るために裸になって自分の尻にタバーーーー」
「帰ろう」
俺はどうでもよくなって、その場から離れた。
ロリコン四天王も、【子どもを見守る会】も、明らかに日本人のロリコン神『サイトウ・シンイチ』と、宗主が尻にブッ込んだのがタバコかタバスコのどっちかも、俺には分からない。
てか、理解したくないし、ツッコミも追いつかん。
でも、1つだけ、こんな俺でも分かったことはある。
俺は通路を戻り、外に出て空を見上げた。
俺は一言。
「世界は今日も平和だ」
心の底からその言葉が出ていた。
これは不変の真理だ。
そして、俺は何とも無かったのようにお酒を取りに行くのを再開したのだった。
明けましておめでとうございます!
善いお年を