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17、削ぐのと、凍らすのと、昔に返るのと

いつもありがとうございます

リズ王女が話してくれた理由(わけ)


体型って…………つまり太ってるってことだよな。

しかし、それって結構前からその体型だったんだろうし。人がいきなり太るわけないしな。

なのに、理由が太ってること。


そう言えば、リズ王女が閉じこもる前に舞踏会だかパーティーがあったとか陛下が言ってたな。そこで何かしらあったのか?


「詳しく教えて貰っても」


「…………いいわ。そう、あれは舞踏会でのこと――――」



~~~~~~~~~~~~~


煌びやかに飾られたパーティー会場。

その場に居る者たちも、まるで負けじとばかりに装飾品で己を着飾っている。

見える顔は主に若人(わこうど)ばかりで、顔に(しわ)を刻んでいる者は僅か。

今宵は貴族たちの、このクロス王国を未来を築く跡取り候補の顔合わせ。


その中で、ただ一人だけがどこの輪にも入らずにいた。

リズ・クロス。この国の王女。

リズ王女の近くには誰もおらず、孤立しているかのよう。

さらに、特徴的な体型がその様子を更に浮き彫りにしている。


そんなリズ王女は金色の前髪で表情は伺えず、うつむき、


「はぐ、むぐむぐ。ごく、この魚料理、微妙ね」


咀嚼していた物を飲み込み、味への感想を洩らしていた。


見た目は素晴らしかったけれど、味がぱっとしない。むしろ、見た目での期待を裏切って残念になってしまっているわ。

評価はおまけして『B+』かしらね。今回は割りと不味いまでとはいかないけど、普通ね。


リズ王女は魚料理が乗っていた皿を空にし、次の料理へと手を進めた。


~~~~~~~~~~~~~



「あの、開始早々すみません。今の回想、絶対関係ないですよね。あんたの唯の料理の感想ですよね。真面目にお願いできますか」


「軽い冗談よ。因みに、この時私が孤立してるわけじゃなくて、誰も話しかけられなかっただけだから」


「リズ様はエs、お食事の最中に話しかけられると機嫌が悪くなるので。そのことを皆様も察して、満腹になるまでステイ(放置)してます」


「王女は犬かなんかですか」


しかも、さらっとエサって言おうとしたぞ、メイド長。

ほら、リズ王女も半目で何か言いたそうな顔してるし。

なんか…全体的にリズ王女の扱いが雑だな。

それとも、これが王族にとってはフォーマルなのか…………いや、それはないだろ。


「多分ですけど、本当に下らない理由(こと)でしょうから、すいませんが簡潔にお願いします」


「何か貴方も失礼になってきたわね。一応、私王女よ。……まあ、そうね。さっさと言って終らすかしら。単純に言うと、そもそもは引き籠ろうとした訳しゃないのよ」




「その舞踏会のあと、ドレスを脱ごうとしたら食べ過ぎのせいか脱げなくなっちゃって」


うん。間違いなく食べ過ぎでしょうね。

あと日頃の貯まった脂肪も。


「それで、何とか一人で無理矢理脱ごうとしたら、破けてちゃってね、ドレス。で、そんな私のちょうど前に人ひとり映せる姿見。それに映った私を見る私。弛みきった体。見慣れてる筈なのに、なんか、ね…………ヤバイと思った」


…………あれ、なんでだろう。涙が込み上げてきた。

他人事のはずなのに。

いや、他人事って訳でもないな。今は若返って忘れていたが、俺も同じような経験あるし。

生前、俺も料理の味見や残った食品を勿体無いからと無理に食べて、いつだか食べる量が増え、ふと気づくと既に取り返しのつかない体型になっていた。

そんな時にお正月の大掃除にアルバムを偶然見つけ、捲ると若かりし頃の自分。

そして、今の自分との落差。


もうね。あれは経験者だとマジで共感できる。


「ん?でも、それが引き籠ると何の関係が?」


引き籠る前の出来事は分かったが、引き籠る原因だと、ちと弱いんじゃないか?というか、何か違和感がある。


すると、ベルナンさんがニタニタと小馬鹿にしたような笑みを浮かべ、俺に耳打ちしてきた。


「おいおい、察せんかセーイチ。リズはこの悩ましい『ぼでー(笑)』のせいで、人に会うのが急に恥ずかしくなったに決まっと―――」


「スー、お願い」


「へ、いきなり何じゃ。首なんか掴んで」


「せいっ」


ヒュン、パリーン!


「ぬわああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!」


「ベルナンさーん!!」


それは、突然のことであった。

リズ王女が声を掛けると、スーさんが無駄の無い動きでベルナンさんを窓へと投げた。

放り投げられたベルナンさんは悲鳴を上げながら、窓を割って突き破り、下へと落ちていった。


「ちょっと何でやったんですか、リズ王女!?」


「ムカついたからよ」


「うん、それは俺も思いましたけど!」


「お兄ちゃん。多分、ベルナンおじいちゃんだから大丈夫だよ。だから、落ち着いて」


突然の行動に慌てはしたが、リズ王女には激しく同意してしまった。

まあ、アンちゃんの言う通りベルナンさんのことだから簡単に死んではないだろうし、大丈夫か。

てか、アンちゃん落ち着きすぎじゃない。


俺も機嫌損ねて、投げられないように気をつけなければ。

とりあえず話を再開させよう。


「それで、理由は何なんですか」


「……………くつ…」


「はい?」


「だから筋肉痛よ、筋肉痛」


 ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆


話を聞いたところ。


どうやら、痩せようと決心したリズ王女は衝動的に体を動かしたらしい。それはもう無茶苦茶に、しかも、2日ぶっ通しで。


いや、本当にアホですか。何かにでも取り憑かれたんじゃないか、この王女様は。


「てことは、何ですか。衝動に任せて動いていたのは良いものの、ついに限界きてどっと押し寄せた疲れに寝てしまい、その時ちょうど部屋の外からの陛下達の声に気づかず…………で、起きた時には何故か大事になっていて、理由が理由なだけに顔を合わせずらく、現在まで部屋に閉じ籠っていたと」


「そうよ」


「すみません。王女様相手に失礼な言葉を使ってはいけないと解ってはいるんですが一言だけ。本当にしょーもな!」


「返す言葉がないわ」


あんなに勿体つけられて、オチがこれかい!

あー、もー本当疲れた。脱力もんだよこれ。


どっとわき出た疲れに苛まれていると、俺はふとリズ王女のさっきの言葉を思い出した。


「確か理由を話す前に、俺が役立ちそうだからとか言ってましたけど。もしかして、『リズ王女の弛んだ体(それ)』関連ですか」


「おい、人指して『それ』言うな。といか、『それ』に見えない悪意を感じるのだけれど」


「気のせいです気のせい」


「…………まあ、今はいいわ。以前に貴方が振る舞った料理のように、私が知らない知識を貴方は有している。そこで、痩せるのに最適な方法がないか聞きたいのよ」


なるほど。そう来ましたか。

しかし、最適なダイエット方法ね…………

これまた難しいことを。

俺は医者じゃないけど、料理人として出来る限り要望(オーダー)に応えなくては。


ダイエット方法を考える前に、まずは情報収集しないとな。


「話す前に、いくつか二、三点ほど質問いいですか?」


「別に構わないけど、国家機密に関わる事なら話せないわよ」


「いえいえ、そんな大した事は聞かないので安心してください。リズ王女の生活リズムが知りたいのですが。詳しくじゃなくても、大まかで結構ですんで」


アゴに手を当て、思い出すように


「そうね…………7時頃に起床して、その後お父様たちの手伝いをするわ。あとは政治や経済について勉強ね。ああ、少しだけ休憩がてらに庭園でお茶をするわ。それらが終わったら、浴場に行って、床につくのは大体11時かしらね」


「陛下のお手伝いとは?」


「詳しくは教えられないけど、簡単に言ってしまえば、領主たちがお金を誤魔化してないかとか、圧政をしてないかの確認よ」


意外にも生活リズムはしっかりしているんだな。

しかも、殆どが仕事か勉強とは。恐れいった。

これはさぞ立派な女王になるだろう。


となると、太った原因は、


「では、食事の回数は?それと、どのような料理を口にしますか?間食をいれてですよ」


「大まかに言えば、間食を入れると五食よ。朝、昼、夕食は至って普通の食事。仕事の合間にお菓子と果物など。あと夜にどうしてもお腹が空いて食べちゃうわ」


「スーさんから見た場合、リズ王女の食事の量はどれぐらいですか?」


確実性を増すために、客観的意見をメイド長であるスーさんに求めてみた。

スーさんは突然のパスにも慌てることなく、淡々と答えた。


「間違いなく多いです。特に甘いものに関しては尚更でございます」


「例えばどれほど食べるので?」


「ジャムをたっぷりつけてスコーン五個をペロリと平らげます。仕事の最中もつまみやすいからとサンドイッチを口にしております」


やはり、食い過ぎか。

というかスコーンか。イギリスからでも勇者が送られてきたのか?




リズ王女の話を聞き、とりあえず思い出したダイエット方法を挙げていく。


「それなら、古代エジプト式ダイエットとかならすぐに体重が減りますよ」


「だ、だいえっと?それは」


そういや、ダイエットって和製英語だったか。


「えっと、安直に言ってしまえば痩せる手段・工程のことですね」


「へー。で、その古代エジプト式?だったかしら、すぐにでも痩せるの?」


「はい。3時間もしない内に」


「そんなに速く!?良いじゃない!それで、やり方は?」


「太った兵士に対して使われていたもので、刃物で肉を直接削ぎ落とします(※実際に行われていた方法である)」


「アホか!?却下よ、却下!」


「では、冷寒ダイエット。気温を急激に下がることで体温を上昇させようとして体の脂肪が燃えるのを利用して痩せます」


「…………で、欠点は?」


「なにぶん素人な者で、これをやるとしたら寒さの限度がいまいち分からず、下手すると凍死します」


「却下!」


うむ、だろうな。

にべもなく二つの案は却下されてしまった。


とは言え、これは予想出来た。てか、俺もそんな案を渡されたら首を横に振るわ、全力で。


しかし、困ったもんだ。

そもそもの話、最適なダイエット方法は無いらしいのだ。


とある日本の医者達に『最適なダイエット方法は何か?』と聞いたところ、最も多かった答えは



【特になし】



であった。

この解答の意味は、つまり、『普通の食事に充分な運動と睡眠時間をとる』といった、()()の生活をしていれば痩せる、という意味だ。


しかし、近年の日本では、コンビニ食や外食などの偏った食事、仕事の疲労や時間が足りずに運動不足、スマホなどの操作で深い眠りにつけず、社会が提示する普通の生活が困難になっている。


俺も、店の仕込のための睡眠不足、残った食材がもったいないからと食べたりで普通の生活とやらは出来ていなかった。


そんな時、ふとある方法を思い出した。


「あ、そうだ!一つ、良い方法がありました」


「またふざけた内容なら、投げるわよ」


ヤバイ、王女の目がマジだ。


「や、やめて下さい。これは安全で切りもしないし、凍死もしませんから。そのダイエット方法の名は」


「名は?」


俺は勿体つけて、はっきりとその方法を宣言した。


「原始人の食生活をモチーフとした『糖質制限ダイエット』です!」

精読ありがとうございました。


やっと章のタイトル回収できました!

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