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14、ふざけてますか?いいえ、真剣

なんと、本作品『料理人は異世界へ渡る』が第四回ネット小説大賞の一次選考を通過しておりました!


これからも粉骨砕身で頑張ります!

俺は不安にかられていた。

地球にいた頃に、よくニュースで悪徳商売に引っかかった人が映っているのを目にしていた。

あんなの本当に起こるのかと思っていたが、前言撤回、起こりました、。

てか、自分が引っかかりました。

今、俺の頭の中でうろ覚えのドナドナが再生されている。


…………いやね、今回は悪徳商売じゃないし。ただの頼みだし。


まあ、その()()とやらをしてきた人が――――


「ここだ、セーイチ君」


一国の王様、ウェルナー陛下なのが大問題なのだが。


ウェルナー陛下に付いて行き、しばらくすること十数分。

お城広いなぁと思いながら、着いたところは大きな扉の前。


この先にウェルナー陛下が手を焼くほどの問題があるのかと思うと、手の汗が止まらない。


一体、この先には何があると言うのだ。


「でだ、セーイチ君。君に言った頼みとは………………」


次に続く言葉が恐く、気づかぬに唾を飲み込む。


そして、俺は想像を越えるウェルナー陛下の頼みに度肝(ドギモ)を抜かれた。























「娘のリズをこの部屋から出してくれないかね」


「………………………………………………はい?」


ほんと、度肝どころか毒気まで抜かれて思わず聞き返しちゃったよ。



 ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆



――――ことは一週間前に起こった。執事のガスパーからリズが部屋から出てこない、と連絡が来てな。誰が何と言おうと部屋から出なくてね。そう。私と妻も呼び掛けたさ。


――――原因は分からぬ。私の凄腕家政婦(メイド)が調べても理由が掴めずときたものだ。ただ、ひきこもる前の日に貴族同士の社交界があった。その時に何かあったのではと、私は推測している。陰口とかでも言われてたのではないかな。長い間ずっと。リズは立派な娘でね。何か辛いことがあっても私たちに言わず、努力家でね。もっと甘えさせればよかったと後悔するほどに。


――――ああ、死んでないのは確認しているから大丈夫だ。返事はないが、扉と床の隙間から『安心してください 生きてます』と書かれた紙が出てくるからね。食事に関しても心配はいらない。各部屋には緊急時用の乾パンに水などの保存食が常備されている。まあ、それが今回の仇となったわけだが。


――――私はこの後、どうしても外せない用事がある。ここにガスパーとターナの二人を置いておく。何かあれば、二人に言ってくれ。


――――では、任せたよ。


そう言ってウェルナー陛下は、リズ王女専属執事のガスパーと前回のワイバーンバーガーの時にいた獣人のメイド、ターナさんを残し去っていった。



率直に言おう。

そんな話を聞いた俺の感想は、



そげなことを言われましても………………



と至って面白みの欠片も無い普通の感想である。


まさかファンタジー世界で、こんな一休さんじみたお題を出されるとは。


自分は包丁の扱いは知ってても、思春期の娘さんの扱いは全く分からん。お手上げた。しかし、頼んできたのがお偉いさん、しかも国のトップときたもんだ。


そして何よりも、今までの大きな恩がある。

ここはなんとしても報いたい。


だから、



「という訳で……………………第一回、誰が開門できるかな決定戦!」


「「イエーイ!」」


他の人の知恵を借りることにしました。





リズ王女の閉じ籠る部屋の前に居座り、大喜r……もとい会議を始めることにした。


「えー、という訳で、リズ王女を部屋から引っ張り出すのに、何か良い案を一緒に考えてください!」


俺が手伝いを求めたのは、ガスパーとベルナンさんの二人である。


因みに、ベルナンさんは先ほど、髪を後ろで纏めた綺麗なメイドさんに脇に抱えられて連れてこられた。そのメイドさんは俺にベルナンさんの身柄を受け渡すと、何処へともなく去っていった。

ガスパーに聞いたところ役職はメイド長らしいが、それしか知らない。

謎に包まれた女性だ。


おっと話がズレてしまった。

そんなことは置いといて、会議にとりかかろう。


「では、今からフリップを配ります。思いついたアイデアをこのフリップに記入して下さい。そのアイデアがOUTかSAFEかの客観的判断をターナさんにお願いします」


ターナさんに確認を求めるが、イマイチ反応が悪い。半信半疑というか何というか、ハッキリ言えば俺の頭が正常かどうかを疑ってる目をしている気がする。


「あのー、セーイチ様。頭の方は正常ですか?何か変な薬でもキメてますか?」


あ、気のせいじゃなかった。本当に思ってたようだ。

てか、意外に失礼だな。


「至って正常ですから安心して下さいよ、ターナさん。ほら、やるんだったら楽しくの方が良いじゃないですか。てか、こうでもしないと、正直緊張でやってられません」


俺の心からの言葉に、ターナさんは、はぁそうですかと言って納得はしてくれたらしい。


そんなことをしていると、


「ほい」


「では、ベルナン様の考えをどうぞ」


開始直後に勢い良く手を挙げたのは、ベルナンさんだった。

ターナさんは戸惑いながらも、しっかりと司会進行を自らしてくれた。流石は国王の下で働くメイド。素晴らしい。


名を呼ばれたベルナンさんは記入したフリップを自信満々に俺らに見せた。


そのフリップに書かれていたのは『会話による和解』


「ワシの考えは、心と心のキャッチボール。つまりは会話じゃよ」


「あれ?意外に普通」


キャッチボールがこの世界にあるんだなと思いつつ、ベルナンさんの至ってまともなプランに俺は驚きのあまり、思わずそう口にしていた。


その俺の呟きが耳に入ったのか、何か言いたそうに俺のことをジト目で見てきた。

しかし、すぐに俺から目線を戻し、話を続ける。


「あんな体系のせいで実年齢より上に見えてしまうが、まだ20にも満たぬ子供よ」


「今、さらっと王女様のこと貶したぞ、この人」


「気のせい気のせい。まあ、任せておけ」


そこには、ベルナンさんのフリップ見せてきた時と同じ自信満々の顔があった。

その顔を見て、不安になってきたんだが。良く見てきた表情だが、どんな時にしてたっけ?


ベルナンさんはリズ王女の扉の前まで行くと、鼻から深く息を吸い、



「おらッ!出てこんかい、ワレェェェ!どんだけ人様に迷惑かければ済むと思っとるんじゃ、アァァン?!」


「何やってるんですかぁぁぁ!ベルナン様!部屋の中に居るのリズ様、王女、この国のトップの娘、姫様ですよ!?」


ポッケに手を入れ、ガンガンと扉を蹴りながら中に居るリズ王女へ罵詈雑言を投げつけ始めたベルナンさん。

慌てて審査員役のターナさんがベルナンさんを止めにかかる。

ベルナンさんはそんなターナさんに真顔で言い訳、もとい説明をする。


「だって、これを続けてれば必ず出てくるって、顔に傷のあるオッチャンが言っとたし」


「それは使う状況が違います!むしろ追い詰めてます!TPOを考えて下さいよ!」


ああ、そうだ。あの表情は無茶苦茶な訓練内容を告げる時の顔であった。

てか、流石は国王の下で働くメイドさん。

ベルナンさんのボケに茫然とせず、的確なツッコミでしっかり対処している。


ベルナンさんの突飛な行動へのツッコミで疲れているターナさんに、アンちゃんが水の入ったコップを手渡す。アンちゃん、なんて気が利く子なんだ。

しかし、ターナさんのツッコミを見てると………………なんだろう。このほっとした感じ。

今日は安心して会話に参加できるな。


などと、幸福感に包まれていると、もう1人の男が動き出した。


「では、次は私が行きましょうか」


ガスパーはそう言うと、フリップをひっくり返し、俺らに解答を見せてきた。


「私の解答は『脅迫』です」


「「アウト!!」」


ほっとしたのもつかの間。ガスパーの斜め45度を越える解答には、俺もツッコミをせずにはいられなかった。ターナさんとシンクロツッコミだ。


「これはダメです、ガスパー先輩!」


「安心しろ、ターナ。脅迫って言っても、あれだから。穏便なヤツだから」


「脅迫に穏便もなにもないでしょ!何ですか、穏便な脅迫って!」


「まあまあ。ダメかどうかは見てから」


ガスパーはターナさんの制止を聞かず扉の前まで行くと、手を懐に入れ、何かを取り出した。


あれは…………手帳?


やけにボロボロで、年期が入ったものであった。

ガスパーはぺらぺらとページを捲っていき、おもむろに朗読を始めた。


「タイトル『ああ、貴方は……』」


『脅迫』と言っていたのに、ガスパーの口から出たのは意味不明の言葉。ターナさんの方を向くが、俺と同じく頭に(ハテナ)が浮かんでおりガスパーの意図が掴めずにいるようだ。


だが、すぐにガスパーの真意が解ることとなった。


いきなりリズ王女がいるであろう部屋の中から、ガタッガシャンッ!と騒がしい音が聞こえてきた。


その音を聞いたガスパーはニヤリと口角を歪ませると、饒舌に、そして感情込めて、手帳に書かれてるであろう言葉の羅列を口から発する。


『ねえ、聞いてる私の声を 心から溢れ出す切ない孤独の叫びを

 ねえ、覚えてる私の夢を 幼き日から募る貴方への儚い思いを

 ねえ、見ている私の手を 貴方の背中へと必死に伸ばす手を

 ああ、貴方は 何時になっても気づいてくれぬのだろう』


ドンッドンッドンッドンッ!ガンッ!ドガンッ!!


まるで今すぐ止めろと抗議をしているかのような扉から伝わる打撃音。


ここに至って、俺とターナさんはやっとガスパーの考えが悪意に満ちているか理解した。いや、理解してしまった。


「えーと、なになに続きは――――」


「「もうやめたげてぇぇぇ!」」


誰もが隠したがる過去の(あやま)ち。溢れては止まらぬ後悔の波。何も知らなかったこそ生まれてしまった若気の至り。


その産物を披露されるなど、なんと可哀想なことか。

本人は羞恥で悶え苦しんでいるだろう。

ていうか、聞いてるコッチまで恥ずかしくなってきた。


「ガスパー先輩、もう止めてあげて下さい!というか、これだと逆に部屋から出にくくなりますよ!私どんな顔して会えば良いんですか!?」


「暖かい目で微笑む、とか?」


「それトドメ刺しますよ、逆に!!」


「何でお兄ちゃんたち、そんなに必死なの?よく分からかったけど良い詩じゃなかった?」


ゴロゴロゴロゴロ、ドンッ!!


「アンちゃん、ダメ!純真無垢なことは良いことだけど、今は詩の感想ダメ!」


「のうのう、聞いたか。『この孤独の叫びが』じゃと。ぷぷー、笑いが止まらんわい」


「あんたは一番黙ってろ!」


しばし混沌とした状況であったが、説得の甲斐あってか渋々とだがガスパーは爆弾が詰まった手帳を仕舞った。


ふぅ、やっとこれで一安心だ。リズ王女もひとまず朗読が止まって安心しただろう…………心の傷は深いだろうが。

最後になってしまったが、そろそろ俺の答えを発表するか。


俺は疲れているターナさんが落ち着いたのを狙って声をかける。


「では、ターナさん。俺の案を発表しますね」


「え。あ、はいセーイチ様。あの……お願いですから、まともなので頼みます」


よっぽど阿呆二人へのツッコミで疲れたのだろう。ターナさんはそんなことを言ってきた。俺はそんなターナさんを見て、安心させるために苦笑を浮かべながら言葉を口にする。


「大丈夫ですよ。俺の考えは、昔からよくある、ありきたりな方法ですから」


俺はそう言って、フリップをひっくり返して『案』を見せた。


それを見て返ってきた反応は、


「えーと…………ふざけてますか?」


「いや、真剣ですよ」


微妙な顔であった。

お読みいただき、ありがとうございました

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