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13、交換条件

【ウェルナーSide】


クロス王国の頂点に組する者、ウェルナー・クロス。

彼は今事務作業に勤しんでいた。


「ふうぅ。まったく……老害どもが。しつこいったらありゃしないな」


老眼鏡をかけ睨むのは、内偵から送られてきた遠くへと追いやった旧世代の貴族たちに関する調査書であった。

どうやら、また性懲りもなく暗躍しているらしい。


しかも、未だに獣人を見下し、差別をしているとは。

折角私が苦労して築き上げた獣人との関係に、悪影響を及ぼしている始末だ。


「面倒くさいな。いっそのこと----」


ヤってしまおうか。

その言葉が口から出る前に、


「陛下。そのようなことは軽々しく口にしてはなりませぬ」


落ち着きのある女性の声に遮られた。

私は平然を装いながらも、声のした方に目線をやる。


先ほどまで確かにそこには誰も居なかったはずだったが、いつの間にか長い髪を後ろで纏めたメイド服姿の女性が佇んでいた。

彼女の名前はスーデリカ。この城で働くメイドたちを束ねるメイド長である。

スーデリカとは長い付き合いで、私は彼女のことを愛称でスーと呼んでいる。


「なんだ、スーか。突然声をかけるでない、驚いたではないか。それと部屋に入るならドアからにしろ。というか、いつもどうやって侵入しているんだ、一体?」


「それは申し訳ありませんでした。しかし、(わたくし)はメイドなもので、こればっかりは」


「メイドだからなのか」


「メイドだからです」


スーはいつもの真面目な顔を一寸たりとも崩さず、私に返答してきた。


長い付き合いだが、スーのこの仮面を張り付けたような真面目顔のせいで、時折冗談なのかマジなのか判断しかねる。


しかし、スーとは長い付き合いになるわけだが、姿、顔と変わらんな。

私も老けて最近は老眼鏡なしでは文字も読むのがつらくなっているのに、スーは異常なまでに変化なし。


やはり、スーは必死に若作りをしているのだろうなあ。

そう思うと、スーも健気なもn----


ヒュンッ、カッ!


風を切る鋭い音がしたかと思うと、机の上にナイフが深々と刺さっていた。


私は投げた張本人であろうスーを見ると、何かを投げたモーションでいるスーがいた。

隠す気がさらさら無いな。


「すみませんでした、陛下。手が滑ってしまいました」


「うん。素直に自分がやったと認めるのは素晴らしいと思うがな。私、王様で主人。君、メイドで従者。アンダスタン?」


「すみません。『ドジっ子メイド』というものです」


「何だそれは?」


「勇者の残した書物に書いてありまして。なんでも、やること為すこと失敗ばかりの駄目メイド、という意味らしいです」


「メイドとして根本的に駄目ではないか」


やはり勇者の考えることは私には理解できんな。


長々と話をしてしまったが、スーに本題を尋ねる。


「で、何があった。まさか、無駄話とナイフを投げるために来た訳ではないのだろう」


「セーイチ様御一行が到着しました。現在は客室にておもてなしをしています」


「了解した。私は今からセーイチ君のところに行く。部屋の掃除を任せる…………あと、傷ついた机を直しといてくれ」


「かしこまりました、陛下」



私は客室を目指し廊下を歩きながら、身だしなみをチェックする。


懐中時計を開き時間を確認すると、既に午後を回っていた。

仕事に集中し過ぎたせいか、時間の進みが速い。


しかし、私の想定していた時間よりセーイチ君たちの到着時間が遅かったな。

もう少し早くに着くと思っていたのだが。

まあ、そのようなことはどうでも良いか。


そんなことを思考している内に、客室の前に辿り着く。

客室の扉を開けると同時に、話しかける。


「やあ、セーイチ君。よく来て――――」


「テメエ!よくも俺が捕まってるときに街で観光なんかしてやがったな!」


「うるさいわい!元はと言えば、お前さんがスられるマヌケだったからじゃろ!」


「ぐー、すぴー、ぐー、すぴー」

 

目元を赤くしたセーイチ君とベルナンが取っ組み合い、客室のソファーでは人狼族の少女が寝ていた。(恐らくセーイチ君が面倒を見ているアンちゃんとやらであろう)


部屋に入ってきた私に目もくれずに未だ続けている。


「……何があったのだ」


数秒思考したが、この状況が全く理解できなかった。



 ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆



あれから数分後。

なんとか目の前のアホ二人を落ち着かせた。

先ほどまで寝ていたアンちゃんはセーイチ君に起こされ、ちょこんとセーイチ君の隣に座っていた。

表情からは緊張した様子がなく、いかんせん幼いため王様というイメージが掴み切れていないのだろう。


――――しかし、王城に獣人の少女か。

最近まで決してあり得ないことだったのにな。

この当たり前になりつつある奇跡が、改めて自分の(まつりごと)が根付いていると教えてくれる。


このままだと思考が長くなりそうなので、とにかく話を始める。


「全く。仮にも王城だぞ、ここは。騒ぎを起こすな、子供じゃあるまいに」


「「だってさぁ、コイツが先に手を出したんだもん」」


「子供か!良い歳した大人二人が何をしてるんだ。というか、ベルナンは何故ここにいる?ギルドの仕事はどうした」


「あれ、陛下が呼んだんじゃないんですか?」


どうやらセーイチ君が頼んで連れてきた訳ではないらしい。

ベルナンの方をチラリと見ると、顔から汗を流している。


「まさか、セーイチ君の呼び出しを口実に仕事をサボ『あ、ワシちょっと用事思い出した!それじゃ!』……………」


ベルナンは脱兎の如く逃げ出した。

ああは言いつつも、必要最低限の仕事はきちっとやっているのだから良いのだが。

まあ、必要最低限だけのため、ベルナンの仕事の大半がギルドマスター副長に押し付けられ、結果、副長が仕事に追われている。

今度、何かしらの褒美を贈るべきか。


「さてと、セーイチ君。話を始めようか」


「あのー、ベルナンさんは良いんですか?逃げましたけど」


「良い。あれはほっとくに限る」


気にするだけ無駄だ。

何より、どこからともなく現れるメイドが気を利かせて対処しているだろうし。


何故かアンちゃんに同情の眼差しを受けながら、私はセーイチ君に書類を渡す。


「さて、これが君が来年の春から通う学園についての書類だ。ここに署名と拇印を頼むよ」


「本当にありがとうございます。陛下には頭が上がりません」


セーイチ君は深々と頭を下げて感謝し、万年筆を手にし書き始める。

私は、セーイチ君がしっかり署名し終わるのをしっかりと確認し、笑顔を作り話を始める。


「そうかそうか。…………でだ、セーイチ君。そんな君に頼みがあるのだよ」


「へ?頼み、ですか?」


「そうだ。ある問題があるのだが、どうしても私の手には負えないのだ。それをセーイチ君に手を貸して欲しいのだ。ああ、別に断っても良いのだが、どうだね?受けてくれないか」


その私の頼みに、セーイチ君の表情は変わらぬが、鼻頭に汗が浮かんでいる。

内心でヤバイとでも思ってるのだろう。

自分でも白々しいと思うよ。わざわざ断りにくい状況になってから()()なんて言っているのだから。

これは頼みではなく、命令だ。


「あのぅ……どのようなことをすれば良いのでしょうか?」


「心配することはない。私には難しいが、君にとっては簡単なことかもしれないしな。まあ、付いて来てくれ」


私はセーイチ君の名が記された書類を回収し、ある所を目指し部屋を出る。

勿論、セーイチ君たちと一緒にだ。


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