12、仕返しも程々に
「やって来ました!王都ビヨンテ!」
ベルナンさんから渡された手紙の内容は王都に来てくれとのことであった。
どうやらお願いした学校の件の詳細が決まったらしい。
ベルナンさん(ベルナンさんもウェルナー陛下に呼ばれたとのこと)とアンちゃんと共に、急いでバビオンを出発し、馬車で揺られ四日間。
王都のど真ん中にそれはもう豪勢で壮大な城が建ち、それを囲むように町が栄えている。城下町ってやつだな。
人で埋め尽くされ、活気に満ち溢れている。やはりだが、ビヨンテはバビオンとは比べものにならないほどに。
事前に有名な観光地はアプリ『ガルテアの歩き方』で調べてある為、準備は万全である!
そんな少しおかしなテンションになっている俺に同伴者のベルナンさんが話かけてきた。
「おい、セーイチ。少しは落ち着かんか。お上りさん丸出しじゃぞ」
「すみません、ベルナンさん。自分、昔は良く旅をしてまして、どうにもね」
俺は指摘され、後ろを振り向きベルナンさんに謝る。
「まったく。年甲斐もなくはしゃぎおって」
そこには両手に大量のお土産品を抱えたホクホク顔のベルナンさんが立っていた。
「いや、あんただけには言われたくないわ。何ですか、それ。いつの間に買ったんですか?修学旅行中の学生ですか」
「さっき小物店で見かけての。限定品と書かれておったから、ついな」
完全に商人の策略に嵌まってるよ、この人。
ベルナンさんに注意しようとすると、
「お兄ちゃん達、他の人の迷惑になるから騒がないの!」
「「ごめんなさい…………」」
アンちゃんに注意されてしまった。
王都に来て早々、子供に怒られる情けない良い年した大人二人の構図が出来ていた。
てか俺らだった。
◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆
気を取り直して、俺、アンちゃん、ベルナンさんの一行は城を目指して歩いていた。
俺はアンちゃんとはぐれないように手を繋ぎ、ベルナンさんの背中を追いかける。
俺とアンちゃんが初めてみる王都の町並みに目を取られていると、先導して歩いていたベルナンさんに指摘を受けた。
「セーイチ。観光に夢中になるのもよいが、サイフをスられぬよう気を付けとけ」
「大丈夫ですよ。しっかり周りにも気を使ってますし、財布には対スリ用の魔法がかけたありますから」
「最後の言葉が不安なんじゃが。逆にスリの方が心配になってきたぞ」
「そんな危険な魔法じゃないですよ。ただ」
ドンッ!
「おっと、ごめんよ」
不安な顔をして振り向くベルナンさんに説明しようと口を開くが、通行人にぶつかってしまい遮られる。
そして、
「へへっ、ちょろいもッウギャアアアアアアアア」
突然、ぶつかった通行人(男)が叫び声をあげ、足を押さえて転げ回った。
転げ回る男の手には俺の財布が握られていた。
「……ただ、何なんじゃ」
「足の小指を角に全力で打った時の10倍の痛みが流れるけど。うわ、痛そー」
「地味に嫌じゃの、それ」
「落ち着いてる場合じゃないよ、お兄ちゃん!このオジサン、泡吹いてるよ!」
アンちゃんに言われ、スリの男に目を向けると泡を吹いて白目を向いていた。うん、見るからに気絶してますね。
相当痛かったのだろう。
「やっぱり5倍に抑えとくべきだったかな」
「小指に激痛が走って捕まるとか哀れじゃのぉ。ほれ、そんなもん王都の見回り兵に任せて、さっさと行くぞ」
そんなテキトーな扱いで良いのだろうか。
…………まあ、自業自得だし別に良いか。
俺はベルナンさんに従い、さっさと財布を回収し城に向かおうとしたが、
「よいしょ……あれ?ふん!…………ダメだな」
「どうした?」
「このスリ。俺の財布を固く掴んだまま気絶してて財布が取り難いんですよ」
「気絶しても獲物を放さんとか、そこまで行くと尊敬するわい」
「ちょっと待ってて下さい。ふん!放せやコラ、ぬらぁ!」
力を入れすぎて財布が壊れぬように引っ張り、やっとの事で男の手から財布を取り返せた。
「ったく、素直に放せよな。さてと、ベルナンさん。お待たせしました。城に行きましょう」
「うん。行きたいんじゃがな、多分もう少し待つことになるぞ」
何故かベルナンさんが哀れみの顔をスリにではなく、俺に向けている。
俺はどうしてそんな顔をするのか解らず聞こうとするが、その必要はすぐに無くなった。
「そこのお兄さん」
俺の後ろから声を掛けられ、振り向くと
「一部始終見せて貰ったんだけど、ちょっと同行をお願いできるかな」
見回り兵の人達が立っていた。
しかし、何故かスリにではなく俺の方を疑わしい目で見ている。
俺は説明しようとして、
―――白目を向いて気絶する男
―――その男から容赦なく財布を無理矢理奪い取る男。
―――この光景を見て、他の人はどう感じるだろうか。
俺が立たされている今の状況を理解した。
俺は必死に弁明にはかる
もしかしたら、ここで慌てず落ち着いて話をしていれば結末は違ったのかもしれない。
まあ、後の祭りなのだが。
「え、いや!違いますよッ!俺は財布を奪い返しただけですって!本当ですって!」
「はいはい。話は全部、本部で聞くからね」
「お願い、ちょっと待って!嫌だあああ、もう留置場は行きたくないいいい!」
「お、お兄ちゃーん!」
「哀れじゃの」
俺は声を大にして訴えるが、ただ無意味に、そして虚しく響くだけであった。
こうして俺は二度目の留置場を経験することになったのだった。




