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10、バビオンの変わらぬ一日 part2

大分遅くなってしまい申し訳ありません。

【異世界農業】


異世界から渡った料理人、沢辺誠一。

そして、狼人族の女の子、アンちゃん。


彼らは今、誠一の魔法で造り出した異空間にいた。

その異空間は広く、辺り一面が土で覆われ茶色一色に染まり、見上げれば青空が。


因みに、最近忘れがちになっているが、誠一はこんなに魔法をバンバン使っているのは、大変異常なことなのだ。

そもそも、異空間を創造するのに、どれだけ莫大な魔力が必要だと思っているのだ。それはもう呆れるくらいに。

しかし、誠一は異世界人でイマイチその重大さに理解出来ず、アンちゃんは幼いという理由もあるが、一番の理由は気にしたら負けだと思っているからである。


「うっし。これで準備OKと」


「私も出来たよ!それで何をするの?」


二人の格好はカッパにビニール手袋、足には長靴。

いつものとは違う農業スタイルに、不馴れであるアンちゃんはすこし戸惑っているのか、履いた長靴の感触を確かめるように足踏みをしている。(因みに、これも誠一作である)


「これから野菜の様子見だよ。程よいのがあれば収穫して、料理に使って味見しよう」


「トマトもある?私、またピザが食べたい」


「あるある。よし、ちゃんと熟してたら今日の夕飯はピザにしようか」


「やったー!楽しみだなあ。~~~~♪」


俺は裏でこっそりと野菜を育てていた。

俺が所持する能力【森羅万生】。これは生物を、つまり植物(種を含めて)も創造することは出来ないので、野菜の種は祭りの時にもお世話になったビル商会で購入した。


多くの支店を持つ超大手の商会であるビル商会。食材から生活用品、木材に魔道具、はたまたペットや変な薬まで幅広く取り扱っている。

そこで俺は種以外にも、砂糖に醤油など結構お世話になっている。


話は変わるが、この異世界ガルテアには砂糖・塩は普通に安価で市場に出回っている。

昔は金貨一枚もしたそうだが、かつて異世界に飛ばされた【勇者】が製法を広め、今では誰でも手に入れられる。

誰かは知らないが、ほんと感謝だな。



閑話休題



余程ピザの味を気に入っていたのか、鼻歌を歌って俺の隣を歩いて付いてくる。

俺は微笑ましく思いながら、歩幅を小さくして目的の畑を目指すのであった。


ふと、暫く歩いていると、アンちゃんの犬耳がピクピクと動いた。


「何か聞こえるよ、お兄ちゃん。これは、音楽?」


「うん?ああ、()()に近づいてるからかな」


「アレ?アレって何?」


「そうだな。先にそっちの方から見てみるか」


俺は進む方向を変え、少し寄り道することにした。



アンちゃんの耳が捉えた音の発信源。そこには、大きなビニールハウスがいくつも在った。

アンちゃんは珍しそうに眺める。


「畑の真ん中に建物?しかも、透明で中が見えてる」


「これはビニールハウスて言うんだよ。この中で作物を育てて、次いでに実験も兼ねて、クラシックっていう音楽を流しているんだ」


「野菜も音楽をきくの!?」


「ははは。野菜に音楽を聴かせると成長するって噂が有って、試してみたくなっちゃったんだよ。他にも、色々な実験をしててね」


とある都市伝説に音楽が植物の成長を促すというのがある。

これは音楽による振動で野菜が刺激されるからではないかとも言われている。

俺はこれを思い出して、()()()()手を加え試してみたのだ。


アンちゃんは興味深そうな顔をして、更に話を続けた。


「へえー。で、お兄ちゃん。結果はどうだったの?ねえねえ!」


「えッ…………ははは。あー、うん。変化はあったよ…………一応」


「…………何だろう。いきなり不安になってきたよ、私」


歯切れの悪い返答に、何とも言えない不安が込み上げてくるアンちゃん。俺は苦しいが笑って誤魔化し、アンちゃんと共にハウスの中に入った。


「…………ねぇ、お兄ちゃん」


「アンちゃん。俺も何を言いたいのか分かる。だけど、お願い。何も言わないで」


ハウスに入り、音楽実験の結果を目にしたアンちゃんは、半目でこっちを睥睨してきた。俺は予想通りの反応に申し訳無く思いながらも、目頭を押さえる。

改めて、俺は問題のモノを見る。

そこには、


「凄くデカイね」


「ああ、超弩級だね」


人の頭よりも大きなサイズのイチゴがなっていた。

葉っぱ一枚一枚も通常の物とは比べ物にならない程大きく、二人で見上げる形になっている。

ここまで大きいと、ちょいとホラーだ。

実際にこれ見たアンちゃんが引いてるし。


このハウスではクラシックを流してた。

もしかしたら、異世界の作物が地球の音楽と化学反応が起きたのでは!…………と思い込みたいが、こうなった明らかな原因が俺の頭から離れてくれない。


「…………お兄ちゃん。何やったの?」


「いや、アンちゃん。迷いなく俺が原因だって思わないで、悲しいから。…………まあ、その通りなんだけど」


はあ、とため息を吐きながらも、アンちゃんに俺の憶測を話す。


「多分だけど大量の魔力のせいだと思うんだよ、コレ」


「魔力?」


ある日、俺はこの世界にいるモンスターのことをスマホで調べていた時、とあるモンスターの項目に目が止まった。



・トレント

木に似たモンスター。通常は蔓や葉による攻撃だが、中には特異種として魔力を持ち、魔法を放つトレントもいる。この特異種は、大きければ大きい程魔力の量が多いため、大きい個体には警戒しなくてはならない。



これを見た時、俺はふと、ある事が頭に(よぎ)った。


これ農業にも応用出来ないかな、と。


トレントの特異種。これが大きい個体がたくさんの魔力を持っていると書いてあるが、これは観点を変えれば、魔力を沢山植物に送り込めば大きくなるのではないか。

勿論、これはモンスターに限った話かもしれない。だが、百聞は一見に如かず。物は試しだ―――――というのが、ここまでの経緯(いきさつ)である。


「で、その結果がこれと。今、この場に流れている音楽には、音と共に微少な魔力が流れる仕組みになっているんだよ。でもね、このイチゴ、見た目のインパクトだけじゃないんだ。ほら、試しに食べてごらん」


「あむ、モグモグ……甘い!とっても甘いよ、お兄ちゃん!」


「多分、クラシックばっかり聞いて育ったから、甘くなったんだろうね」


「えっ?」


「アンちゃん。お願いだから純真無垢な目で『何、頭がおかしな事を言ってるの』みたいな顔をしないで。実験の結果、曲によって成長のタイプが変わるんだよ。本当に」


アンちゃんに心配そうな顔を向けられ、ガチで凹んだ。

確かに、俺だっていきなり先程のような事をベルナンさん辺りが言ったら、腕の良い医者を即勧める。

でも、哀しいかな。どうしようもなく、これが事実っぽいのだ。

ほらと、アンちゃんを隣のビニールハウスに連れていき、証拠を見せる。


「うわっ!?このきゅうり、凄いグネグネしてる。それに葉もトゲトゲしてる」


「ここでは、デスメタルって言う激しい曲を流してたんだ。ワケ有って今は止めてるけど」


「ワケって、なにがあったの?」


「あー……口で説明するより、見せた方が早いか。このきゅうり、味はちょいと苦めで、しかも近づくと」


ざわ……ざわざわ……ざわざわ


「風がないのに葉っぱが揺れてる!」


「で、更に近づいて触れようとすると」


ザワ……パシンッ


「きゅうりの葉っぱがお兄ちゃんの手をはじいた!?」


「このように攻撃してくる。結構強いから、野菜泥棒なんかを自分で撃退できる。まあ、収穫しようとする農家の人にも無差別で攻撃しちゃうけど」


「野菜としてダメでしょ!」


はい、まったくもってその通りです。

アンちゃんの的確なツッコミで俺の耳が痛い。


俺はきゅうり(あれをきゅうりと呼べるのだろうか)に目を向けると、今にも襲い掛かりそうに忙しなく動いている。

捨てるのは勿体無い。というか危険だ。

本当にどうしたものかね、コレ。


目の前の『闇落ちきゅうり(仮名)』の処理に悩み、そんな時だった。


『Your God's Mail!』


突然ポケットに入れていたスマホから、無機質な音声が聞こえた。

その音声に驚き、慌ててスマホ手に取り覗くとメールのアプリに「新着あり 1件」の文字が浮かんでいた。


俺は恐る恐るメールを開けると、


――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――


From:ハナミ

To :沢辺誠一

件名 :すみませんでした


どうも、神のハナミです。

誠一さんの方は如何お過ごしでしょうか。

楽しく快適に生活できているでしょうか。

こちらでは最近先輩に仕事のことで怒られ、少しクタクタです。

人と神の時間感覚は違うので2ヶ月間ぶっ飛ばしで説教続き。

こんな時は甘い物でも食べて、忘れたい気分ですよ。

今は夏。私は暑さでバテそうです。

何か私に質問がある時は、気軽にメールで聞いてください。

ではでは。



PS.空に転移してしまい、ごめんなさい

あと、以前に贈って貰ったフレンチトーストにリンゴのピザ?美味しかったです。また料理のほう贈ってくれないでしょうか。


―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――


俺はメールをそっと閉じ、空を見上げた。



ツッコミ所が満載だ。

先輩って誰だよ。てか、何の仕事だよ。

メールの着信音の『Your God's Mail!』って、ちょいちょい神様アピールしてくるけど、何なの。流行らせたいの。

以前に【自宅警備印】のアプリで贈った料理食べてくれたんだ。ちょっと嬉しい。



などなど、次から次へと俺の心に湧水の如く沸き上がってくる。

だが、そんな事は今はどうでもいい。



俺がいきなり黙ってしまった事に不審に感じたアンちゃんが声をかけてきた。


「お兄ちゃん、どうしたの」


「何でもないよ。そうだ、アンちゃん。さっきのイチゴのハウスからイチゴを何個か採って来てくれないかな」


「大丈夫だけど、お兄ちゃんはどうするの?」


「俺はちょっとヤらなきゃいけない事思い出したから、アンちゃんだけで先に行っててくれないかな。すぐ終わるから」


「う、うん。わかった」


アンちゃんは俺の突然のお願いに疑問を持ちながらも、イチゴを採りにハウスを出ていった。

ほんとにいい子だなあと、そんな事を思いながら俺はハウスに音が外に漏れないよう防音の魔法を掛ける。

ついでにきゅうり達にも狂暴化の魔法をかける。


暫く深呼吸をして、動きが活発になり今にも襲いかかってきそうな『闇落ちきゅうり(仮名)』の前に行くと、スマホを(かざ)し、


「件名『ごめんなさい』なのに本文とPSの内容が逆だろ!本文の後半、お前の愚痴じゃねえか!しかも、謝罪文より料理の感想文の方が長いってどういうことだあああああ!」


溜めに溜めていた心からの叫び(ツッコミ)と共にアプリ【自宅警備員】で、全てのきゅうりを丸ごと送った。




その日、神界ではどこかの女下っ端(したっぱ)神の悲鳴が響いたとか、響かなかったとか。







【夜は淫魔にご注意を】


「では、今日はここまでで。続きは明日からでお願いします」


「了解です。俺が夕飯を作りますので、それでよろしいですよね」


「え、ええ。宜しくお願いします」


俺、沢辺誠一は現在、商人の護衛のクエストに就いている。

どうしても今日は帰れそうにない為、今回は依頼者と他の護衛の人達と共に野宿である。

こうなる事は事前に分かっていたので、ベルナンさんにアンちゃんにはしっかり言付けしておいた。

この日の夕飯は、依頼者である商人のノルスさんと話を付け、俺に作らせてもらうことにした。

ただ、全く知らない怪しげな冒険者が作る飯とあってか、ノルスさんは不安そうな顔を隠し切れずにいた。


「まあ、楽しみにしててください」


~2時間後~


「いやぁ誠一さん、料理大変美味しかったです!……それでですね、出来れば明日の朝食の方もお願いしても」


「構いませんよ」


商人含め他の護衛の人達も、誠一の料理の虜になっていた。

あんなに不安そうにしていた商人も、余程気に入ったのか朝食の調理まで頼んできた。

俺は快諾し、さっさと見張りの仕事に向かうのであった。


夜はモンスターなどに襲われないように、交代交代で見張りをする。

俺は一番始めを担当させて貰い、そして、時間が経ち次の人と交換すると、俺は眠りに着いた。


~~~~


深夜。

月明かりに照らされ、その姿が見えた。

女。若い妖艶な女であった。

露出の多い服を身に纏い、絹のような白い肌。背中から生えている悪魔のような翼で空を飛んでいる。


「あんなに人間がいっぱ~い。久しぶりにお腹が溜まりそう。ふふふ」


彼女の名はイリス・グラッス。魔族である。


イリスは緩やかに高度を下げ、地に足を着ける。

しかし、誰もイリスの存在に気づかない。

彼女は隠蔽魔法により、妨害されずに警備の男のすぐ横を通り抜ける。


(フフ。楽過ぎて笑っちゃうわ)


「さて、どれから頂こうかしら」


舌舐めずりしながら、最初の獲物を探す。

友達は屈強な男を好むが、私はどちらかと言えば若さを重視する。

まあ、こんな護衛の中にいる事はほとんど無いのだけど。


「ん?何かしら」


ふと、どこからか()()を感じた。

しかし、それが何かが分からない。気になって、そこへ行ってみると、


「この男から?」


辿り着いた先、そこには一人の男がぐーすかと気持ち良さそうに眠っていた。

おかしな事に男が眠っている地面は、プニプニと弾力があり柔らかい。


「面白いわね、これ。どうなっているのかしら?魔法?」


プニプニと地面の感触を楽しむ。

少し地面の感触に嵌まっていたが、自分の本来の目的を思い出す。

慌てて地面から手を放し、改めて男を観察する。


若い。それに意外に体も鍛えられている。地面から考えるに、魔法が得意、つまり魔力もあるはず。


「う~ん、そうね。最初はこの子にしよう!」


そう言うと、イリスは誠一の体に入り込んだ。


彼女、イリス・グラッスはサキュバスである。魔族にカテゴリされる。サキュバスは精神体となり、他人の心の中に入る。そして、夢の中でナニな事などをして精神エネルギーを吸収し、腹を満たすと言われている特殊な魔族である。


▼▲▼▲▼▲▼▲▼▲


「何、ここ?」


ここは、男の夢の中のはずだ。

しかし、この夢はイリスが知らぬ物ばかりで構成されていた。


多くの人が行き交い賑かな町通り。

薄い箱には小さな人が入り、聞いたことも無い歌を奏でている。

日が暮れている筈なのに、明るく照らされている。

自分の足の下には硬い灰色の床。

すぐ横を人を中に入れ、走る鉄の箱。


「夜なのに明るい。それに、この家の素材は何かしら?レンガじゃないわね」


全てが見たことがない物だった。

見慣れぬ光景に目を取られていると、イリスの背後から声が掛けられる。


「そこのお嬢ちゃん、お腹は空いてないかい?」


掛けられた声の方に振り向くと、そこにはこの夢の持ち主が立っていた。

イリスは(ここ)に来た本来の目的を思いだし、慌てて男に返答する。


「失礼ね。こう見えても私は貴方よりも年上よ。まあ、お腹は空いてるのには同意するけどね」


ペロリと舌舐めずりして、イリスは男を魅了し堕とそうとする。

しかし、


「それなら家の店で食べていきなよ。お姉さん、外国人か何かかな?凄い格好だねえ。観光、それとも仕事?まあ、取り敢えず日本に来たっていう記念で、安くするよ!あ、でも、もしかしたらハーフかな。日本語上手かったし。でも、ハーフの人でも別嬪(べっぴん)さんだから安くしちゃうよ。さあさあ、どうぞどうぞ」


「え?あ、あの、ちょっと待ちなさいよ!」


どうしたものか。男の怒濤の言葉に戸惑ったイリスは、あれよあれよと連れていかれるのであった。


~数分後~


…………何故こうなったのかしら?

現在、私は男の店のカウンター席に座っている。

こじんまりとしたお店で、カウンター席からは厨房の様子が見えるようになっている。

店の内装は良く言えば年期がある。悪く言ってしまえば古くさい。


男を食べる(性的な意味で)はずだったのに、気付けば、私が食べる(料理的な意味で)ことになっている。

前を見れば男がニコニコした顔で、グラスに水を注いでいる。

今からベッドインするような雰囲気ではない。

私は自分の失態に呆れ、ハァとため息を吐いた。


まあ、夢の中で料理を食べることでお腹は膨れるんだけど。

でも、今までの経験上、(ここ)での料理は不味いのよねえ。

夢の中で出てくる料理は、言ってみれば記憶である。つまりは、その夢の主が現実で口にした事がある物しか出てこない。


こんな冒険者の男たちが食べる料理は肉料理ばっか。お肉は嫌いではないけど、私は断然甘い物が好きだ。

しかも、安物ばっかなのか、味が大して美味しくない。

それだったら性行為に及んだ方が、自分は満足し腹も膨れる。


取り敢えず適当に目の前の男の料理を食べてから、魅了すればいいわね。

そんな事を考えていると、男が質問をしてきた。


「で、お姉さん。何にしましょうか」


イリスは男の出す料理に全く期待せず、注文することにした。


「甘いのが食べたいわ、私」


「分かりました。甘いのですね。デザートはメニューのこの欄になります」


「え?あ、ありがとう。……デザートあるんだ」


頼んだイリスは期待せずに言ったのだが、まさか有るとは思っていなかった為驚きながら、渡された紙(透明な柔らかい板みたいな物に挟まれている)を受けとり目を通す。


しかし、大丈夫なのだろうか。

デザートと言って、ただ砂糖をぶっかけたような料理が出てこないだろうか。

そもそも、この紙に書かれている文字は見たことの無い文字ばかり。

翻訳しようとすれば各々の単語のい意味くらいならなんとかなるが、正直面倒くさい。

一体何を頼めばいいのかしらね。


暫しメニューと睨めっこをしていたが、文字解読は諦め目の前の男に託した。


「ねえ、この中のオススメを頂戴」


「オススメですか?となると……あれだな。少々お時間いただきますが、よろしいですか?」


「構わないわ」


「ありがとうございます。そこにある雑誌等でも読んで時間を潰して下さい」


そう言うと男は厨房の奥へと引っ込んでしまった。

私は取り敢えず男に勧められた通りザッシとやらを手に取った。


「ザッシって本のことなのね。それにしても精巧な絵ね」


そのザッシの表紙には女の顔の絵が精密に書かれていた。

この絵は最近人間の町で噂の写真ってやつかしら?

中に書かれている文字はやはり理解出来ないものであったが、表紙と同じような人間の女性が着飾った絵があり、その珍しさに興味を持ち、ペラペラと(めく)っていく。

すると、ある物が目に止まった。


「何かしらこれ?爪に何か付けてる?」


そのページには女性の異様な爪が書かれていた。

爪の色が赤・青・緑とカラフルに染まり、更に銀粉のような小さくキラキラとしたものが掛かっている。

不気味だ。全くこの爪をしている女性の意図が分からない。

あまりに気になった為、そのページにデカデカと書かれた文字を解読すると、


「小さな」「場所」「男」「倒す」「手段」


これらの単語の意味から導き出される答えは、


「なるほど!これは護身用の武器なのね」


恐らくこの禍々しい色をした爪に毒か何かしらの物を仕込んで、男を油断させた所で倒すんだわ。小さいから持ち運びには便利だし、暗殺にも使えそう。

このザッシっていうのは女性の為に作られているのね。いい時間潰しになるわ。

他にどんなのがあるのかしら。


更に興味を持った私はザッシに釘付けになっていると、男の声が掛けられた。


「お客様、料理の方お持ちしました」


「え、もうそんなに時間が」


どうやら、私は自分が思っていた以上にザッシに夢中になってしまっていたようだ。

そもそも、この男を襲おうとしていたのに、私は何をしているんだ。


本来の目的を思いだした私は、名残惜しいが雑誌を元あった場所に戻し、料理をさっさと食べてしまうことにした。

しかし、一体どんな料理なのだろうか。


そんな少し不安になる私の前に置かれた料理は


「お待たせしました」


思わず声が出てしまうほど美しかった。


「こちら季節のフルーツを添えたふんわりパンケーキです。ごゆっくりどうぞ」


綺麗な円形を描いている小麦色のパンケーキ。

その周りには色とりどりに光沢を放つラズベリーやストロベリーが散りばめられている。砂糖で煮てあるのだろうか。

料理が乗った皿の近くには一緒に小皿が置かれ、そこから甘い香りが漂ってくる。見た感じではハチミツのようにも見えるけど、匂いからして違うわね。


「そちらのメープルシロップをお好みの量をかけて、お食べください」


「え、ええ。じゃあいただくわ」


どうやら小皿に入っているのはメープルシロップと言うらしい。

とにかく言われた通りメープルシロップを少しかけ、口に運ぶ。


「~ッ!美味しい!」


スポンジのように弾力あるふわふわとした食感のパンケーキ。

そのパンケーキを覆うメープルシロップの芳醇な香りを宿した甘さが口に入れた瞬間に舌を駆け巡る。

ほぅ、と艶やかな吐息を思わず漏らしてしまう。

今度はラズベリーを添えてみる。


「はぁ~…………幸せだわぁ」


先程とは全く別物の味に変わった。

ラズベリー単体で食べてしまえば、キツいであろう酸味。

しかし、砂糖煮されていることで酸味が和らぎ、この甘酸っぱさがパンケーキに見事にマッチしている。

飽きることの無い味のバリエーション。

手が止められない!


気づけば、私はこのパンケーキに夢中になってしまっていた。

平らげた後に残ったのは、溢れんばかりの満足感とほんの少しの寂しさ。

少し汚れてしまった口を軽く拭き、男に話しかける。


「貴方、気に入ったわ!名前を聞いてもいいかしら」


「名前?俺の名前は沢辺誠一だよ、お姉さん。あ、外国の人だから誠一・沢辺の方が良いのかね」


「セーイチ・サワベね。ねえ、手を貸して」


「ん?まあ、良いけど。何をするんだい?」


「ちょっと印を付けるのよ。『我、此の者と契約を結ぶ』」


何も疑わずにセーイチは私に手を差し出し、さっさと仮契約を結ぶ。

小声で呪文を唱え、セーイチの手の甲が一瞬光ったのを確認する。


「ありがとう、もう良いわ」


これでセーイチがどこに居るのかが分かるわ。

こんなに美味しい料理を逃す手はない。


もう少し居たいが、そろそろ制限時間(タイムリミット)が迫っている。

作り出したお金を払い、席を立つ。


「これからもちょくちょく来ると思うから、よろしくね。料理、今まで食べた中で一番美味しかったわ」


「そう言って頂けて感激です。次の御来店、お待ちしております」


そう一言残して、私はセーイチの元から去った。


▼▲▼▲▼▲▼▲▼▲


太陽が上り朝を迎え、空では異世界の名も知らぬ鳥がグルグルと異様な鳴き声をあげている。

誠一は日頃の習慣により、5時ぴったりに目を覚ました。


「ふわぁ~……良く寝た」 


地面をウォーターベット化する魔法のおかげか、それとも頑丈な体のおかげなのか、快適な睡眠を今日も送ることができた。


「今日は良い夢を見れたなぁ。また見れると良いな。…………さて、さっさと料理に取りかかるか」


いや、もしかしたら夢に出てきた料理を美味しそうに食べてくれた女性のおかげなのかもしれない。


俺はファッション雑誌を食い入るように見ていた女性を記憶の片隅に仕舞い、朝食を作るために用意をするのであった。


教えて、お料理コーナー!


   「Qと!」「Aの!」

Q & A「教えて、お料理コーナー!」


ドンドンドン、パフパフパフ


Q「どうも。助手のQと」

A「退院したて☆不絶好調のAです!」


A「前回、Q君にボコボコにされて全治2ヶ月半の怪我を負いました。それはもうスプラッターに。でも、今ではバリバリ全快です☆前回だけに、ププ」

Q「元気そうですし、もう一回病院行かせましょうか先生」

A「すいません!久々のコーナーで調子乗ってましたー!だからその釘バット置いて下さいお願いします」

Q「チッ……さっさといつものやりますよ」



Q、チョコっていつからあるの?


A、チョコの歴史は古くて、実は4000年以上前からあるんだ。初めは生でカカオ豆ごと食べていたんだけど、その後はすりつぶし、甘さがない苦いドリンクとして飲んでいたんだ。カカオ豆は非常に貴重で、当時の王様も薬としてドリンクを飲んでいたんだよ。

このドリンクはその苦さから「チョコラル(直訳:苦い水)」と呼ばれ、その後、スペイン人がこれに砂糖を加えた独自のドリンク「ショコラテ」を開発、この言葉が英語圏に伝わり「チョコレート」になったんだ。

因みに、チョコが日本に渡ったのは1878年だよ。




A「もうすぐバレンタイン!ねえ、Q君。私へのチョコは」

Q「ああ、はい。ありますよ。ちょっと待ってて下さい」

A「ええ!本当に!たまには言ってみるもんだなあ」


ガチャガチャ、ゴトン!


A「……Q君。何そのマシンガン。まさか撃つつもりじゃあ」

Q「大丈夫です。弾の代わりに豆が装填されてるので。凄い痛いだけです」

A「痛いんじゃん!しかも、それだと節分!」

Q「大丈夫ですよ。豆にペンでチョコって書きましたから。ファイア!」

A「せめて豆をチョコで覆えェェェェ!いやァァァァァァ」



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