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9、バビオンの変わらぬ一日 part1

今年最後の投稿です!(*`・ω・)ゞ


何とか間に合って良かった( ̄¬ ̄)


7月16日 午前5時 


元日本人、沢辺 誠一の朝は早い。


日が上がりかけ空が薄く明かりに染まる中、誠一はベッドから身を起こす。グッと体を伸ばすと、体からポキポキと音がなった。

出そうになるアクビを噛み殺しながら、隣でまだスースーと可愛らしく寝ているアンちゃんを起こさぬように静かに部屋を出る。


1階の食堂に降りると、調理場には既にレヌスが作業していた。

フレンチトーストを売り始めてから人気になり、朝食にと〈小人の楽園〉に足を運ぶ人が増えた。(因みにテイクアウトOK)

繁盛しているが、一向に子供が訪れないとレヌスさんが嘆いていた。

どれだけ周囲に危険人物だと認知されてるのやら。


俺は挨拶を交えながら、Myエプロンを身につける。


「おはようございます、レヌスさん」


「おはよう、セーイチ。今回もまた頼めるかしら」


「全然構いませんよ。じゃ、そこの一角借りますね」


俺はレヌスさんの邪魔にならぬよう移動し、食材をあさる。

毎朝、宿の厨房を借り、アンちゃんと誠一の二人分の朝食を作っているのだ。


〈小人の楽園〉には朝食のメニューもあるのだが、誠一は料理の腕が鈍らぬようにとレヌスに頼み厨房を使わせて貰っている。

たまにだが、先程のように頼まれて、レヌスさんの分の朝食も作る時ある。


今日は…………洋食でいくか。

と言っても、米がないから和食は無理なんだけど。

パンも好きなんだが、俺は根っからの日本人。やはり一番は米だ。俺の体に流れる血が米を欲しているのだろう。

…………いや、この体には日本人の血は流れていないか。なんか、そうだなあ…………多分、心か魂が求めてんだ。うん、そんな感じ。


まあ、取り敢えず今それは置いといて。

洋食の朝食…………うん、あれにしよう。


食材は卵にレモン、ベーコン、トマト、セロリにその他もろもろ。

後はマフィンなんだが、食パンで代用するか。


まずはソース。

卵を卵黄と卵白に分け、卵黄・塩・胡椒・レモン果汁・水を温めながら泡立て器でかき混ぜる。普通は湯煎で温めるが〈魔法想造〉の魔法で代用。ほんと、能力さまさまだ。

ある程度混ざったら、そこに溶かしたバターを入れ、更に混ぜる。

これでソースは完成。


次はポーチドエッグ。

鍋に水を入れ、鍋の底にくっつかないよう皿を鍋底に沈めた後、火にかけ80℃まで上げる。

そのお湯の中に卵を割れないように入れ、4分ほと茹でる。


慣れていない人が行うと、卵が割れて失敗してしまうことが多々ある。このように卵を割れ難くする為に、お湯にお酢を加えればよい。

卵の白身にはたんぱく質が多く含まれている。このたんぱく質は塩・お酢を加えると分子構造が変化し、固まるのだ。


茹で上がったものを、おたまで掬い、氷水にさらす。


後は、水気をきったポーチドエッグと軽く炒めたベーコンを、耳を切り取っておいた食パンに乗せ、上からオランデーズソースをかければ、


「エッグベネディクトの完成!」


エッグベネディクトの他にも、トマトとセロリのスープを付けて朝食の準備は終わった。


すると、グッドタイミングなことに6時を知らす街の鐘の音が外から聞こえた。

俺は料理に保温と乾燥防止の魔法をかけ、意外に寝坊助なアンちゃんを起こしに行った。



こうして誠一の朝が始まる。





《ベルナンの訓練》


誠一が空間魔法によって、異空間に作り出した訓練場。

そこで誠一とベルナンは日課の訓練を行っていた。


「ほれほれ~。(さば)ききらんと死ぬぞ~」


「危ねぇ!早すぎますよってうわおっ!」


俺は迫り来る敵の攻撃がヒットしないよう攻撃を避ける。

今回の訓練は地面に書かれた半径2mの円から出ず、ベルナンさんが能力で作り出した5体の仮想敵からの攻撃を捌くというもの。敵への攻撃は禁止、また自分に重力を250倍・ステータスダウンの魔法で多大な負荷を自らに掛けている。

つまり、今とても辛い。

俺はベルナンさんに抗議するが、


「ふむ、口を動かす余裕があるようだし、スピードアップするかの」


と言って更に加速させやがった。


焦りで集中にムラが生じた。

これを見逃す甘い相手ではない。

防御の隙を掻い潜り、敵の剣が己の首に迫る。慌てて体を反らし避けようとするが、虚しくも敵の剣が達する。

この敵は幻術で作り出された敵の為、首に穿たれた剣は誠一に傷ひとつ付けることなく通過した。


しかし、


『Oh,nice gay』

『Hey,come on!』

『食べちゃいたい』


突如、自分の頭の中に、ムキムキのブーメランパンツのおっさんに囲まれた映像が流れてきた。


「おうえぇぇぇぇぇぇぇぇぇ」


余りの気持ち悪さに吐き気を催し、体が震えて思わず立っていられなくなる。


「ほっほっほ。ワシが作り出したこ奴等が持つ剣には、特定の場所に当たると恐怖の映像が流れる特注品よ。どうじゃ?余りのショックに吐きそうじゃおうえぇぇぇぇぇぇぇぇ」


「何であんたもダメージ食らってんだよ!」 


「いや。これな、ワシの能力で作ってるから魔力で繋がってての。こっちにも映像が流れて来るんじゃよ」


「それなら何でこんな仕様にしたの!?」


二人が回復するまで、しばらく時間を要したのであった。



~15分後~



ショッキング映像から回復した二人は地べたに腰を下ろし、反省会を開いていた。


「さてと、誠一。先程の失敗点は回避の動きが大き過ぎるんじゃな。あと、お前さん、神様のせいで無駄に目が良すぎるからの。避けるのが早過ぎるて、攻めを修正されて逆に当たってしまっとる。それと、戦闘の最中に集中を疎かにする馬鹿が何処におるか」


「そんな事言われてもなぁ」


「セーイチ。次の春には学園に行くのじゃろ。今のままでは生徒に示しがつかんぞ」


「…………了解です」


ベルナンさんに正論を言われ、改めて気を引き締める。


そう。どうやら俺は学園で料理の知識だけでなく、魔法など他のことも教えなければならないらしい。他のことの中には戦闘も入っているらしい。


だが、泣き言を言わせてもらうと、キツいのです。しかも、自分で自分に負荷かけるって、ドMじゃあるまいに。


そんな泣き言を胸の中で呟いていると、ベルナンがよっこいせ、と立ち上がった。


「まあ、これは戦闘への過剰な恐怖心を克服するしかないかの。身体強化の魔法とか魔法の訓練は、ワシが教えるのはそれが終わってからじゃな。それまで自分の力で練習せい」


「魔法の訓練?こう言っちゃなんですが、大抵の魔法なら簡単に出来ますよ」


試しに小さな火を出したいと思い浮かべると、指の先から小さな魔法陣が浮かび、ライター程度の火がシュボッと人差し指から出た。

ほら、と言ってベルナンさんに見せつける。そんな俺を見て呆れたように首を横に振る。


「ワシが言いたいのは、魔法を使えるように、では無く『使いこなせ』ということじゃよ。どんな名剣と言えど、使い手が悪けりゃナマクラじゃ」


遠回しに馬鹿にされたぞ、俺。

まあ、図星だから言い返せないが。ワイバーンの一件もあるしな。


しかし、今更ながら不安になってきたぞ。やるべき事がこんなにあるのに、来年には教える立場。大丈夫だろうか?


…………いや、違うな。なんとかするんだ。


不安なら不安が無くなるまで努力すれば良い。

幸運なことに目の前には優れた師がいる。


俺は立ち上がり、ベルナンさんの方を向く。


「次の訓練、お願いします!」


「ほっほっほ。言われずとも」


そんな俺の姿を見て、ベルナンさんは軽快に笑うのであった。





「では、次は恐怖心を克服する訓練じゃな」


「オス!…………ところで、ベルナンさん。それ何すか?」


「うん?見ての通り、斧じゃけど。ほれ、お前さんが以前何本も作ったやつじゃよ」


「ええ。それは分かりますが…………何故そんなに大量に。100本近くあるんじゃ」


「正確には90本じゃ」


「そんな事は聞いてないです」


ベルナンの足下には(おびただ)しい数の斧が置かれ、手にはその中の一本が握られていた。

あの斧は全て俺が【森羅万生】の練習で作り出した物だ。


明らかに、嫌な予感しかしない。


「…………何に使うんですか?」


「セーイチに」


「どうやって?」


「無防備なお前に斬りかかる。OK?」


「やだよッ!馬鹿なのアンタは!?」


俺は慌ててベルナンさんから距離を取る。


「大丈夫じゃろ。前の訓練の時なんか、少し痛みに馴れさせようと、ワシの短剣で斬りつけたら」


▲▼▲▼▲▼▲▼▲▼▲▼


「じゃあ、ゆくぞー。怖くても目をつぶるんじゃないぞ」


「ほ、ほんとに必要なことなんですか?別に必要ないんじゃ…………」


「ガタガタ言わず、黙ってやられい。ほい」


ベルナンは誠一の腕目掛け、己の短剣を振るう。

その短剣が誠一の腕に一筋の赤線を描いた


ヒュンッ、ガキッ!


――――筈だった。


「「はあ?」」


人の腕と剣では到底出せない音が二人の耳に響き、無意識に声が出ていた。

二人が誠一の腕を確かめるが、そこには切り傷どころか、かすり傷すらなかった。


そして、ベルナンが手に握られている短剣を目を向けると


「ぬおおっ?!ワシの短剣があぁぁぁ!」


短剣の先が欠けており、それに気付いたベルナンはショックのあまり膝をついていた。


そんなベルナンの姿を本来被害者である筈であった誠一は、いたたまれない気持ちで見つめていた。


▲▼▲▼▲▼▲▼▲▼▲▼


「あれで済んだんじゃから、大丈夫じゃよ。てか、一回くらい傷つけ」


「あ、テメェ!実は短剣が折れたこと根に持ってんだろ!」


「ああ、その通りじゃよ。手加減せずとも大丈夫じゃろ

 (そんな訳ないじゃろ。手加減するから大丈夫じゃよ)」


「待って!本音と建前が逆になってる!」


「いいから()られい!せいやーっ!」


「うぎゃあぁぁぁぁ」



ベルナンは殺意を持って斧を振りかぶり、誠一は迫る己の師から逃げ惑うのであった。






《バビオンの影》


とある家屋の一室。そこは薄暗く、不気味な空気に包まれている。

その部屋には、顔を隠した4人の男女。


その中の1人が口を開く。


「今日は4人ですか。では、これより定期報告を始めましょう。司会は、この私【×印(バツじるし)】が務めさせて貰います」


【×印】と名乗った人物。シルエットの凹凸からして女性なのだろう。だろう、と曖昧なのは、その人物の顔が仮面で隠されているからだ。

【×印】は司会の名に違わぬよう、話を進める。


「まずは【潔白の仮面】さん。報告を」


【潔白の仮面】

そう呼ばれた男?は顔を独特な形をした白い布で覆っている。

【潔白の仮面】は【×印】に応じ、口を開く。


「我が秘宝を探索中に()()()を発見。衛兵に突きだしておいた。その後、我も捕まりそうになったが、今回は逃げ切れた。ギリギリであったが」


衛兵に捕まりかけた、と不穏な言葉が出るが、この部屋にいる誰も気に止めない。

それどころか、【潔白の仮面】の言葉に共感する者がいた。


「あー。超分かるぞ、それ。あいつら、また捕獲のレベルが上がってたよな。稀に捕まるし」


その発言を聞いた1人―――大きな胸の膨らみからして女と推測される―――が嘲笑を浮かべる。


「それは、貴方がトロくて、隠れるのが下手なだけでしょ。【観測者】」


「あぁっ、言うじゃねえか。速さだけしか取り柄がない【子守唄】が。そんな事言うなら、今回のブツは要らないって事だy『すみませんでした。侘びに靴でもお舐めすれば宜しいでしょうか』…………切り替えも速いよな。呆れ過ぎて、逆に尊敬するぜ」


【観測者】が懐から写真を出すと、【子守唄】と呼ばれた女は土下座をし謝罪する。凄い勢いの手のひら返しに、【子守唄】に対しての怒りも消えていた。


その茶番劇を見ていた【×印】は手をパンパンと打ち、話を戻させる。


「ふたり共、脱線し過ぎですよ。本題に戻りますが、特に事件はありませんでしたか?」


「あーと、どっかの馬鹿共が変な薬を売ろうとしていたから、軽く潰しといた。馬鹿共はギルドに放置してきたっけな」


「やはり、貴方でしたか。うちのギルド副長が問題押し付けられた、と困ってましたよ。まあ、私には関係無いので良いですが。【子守唄】さんの方は?」


「人拐いを7/8殺しにしといたわ。ついでに処理を衛兵に頼んだわね。慈悲で殺さなかったけれど」


「7/8とは容赦がない。逆によく死なずに済んだものだ」


何気に大きな事件らしきものを潰しているが、日常茶飯事なのか誰も驚かない。

その後も会合は続き、ある程度の情報交換をし終えると、頃合いとみた【×印】が〆に掛かる。


「それでは時間も経ったことですし、そろそろ終わりにしましょうか。では、最後に私から一言。最近、明らかにキナ臭い事件が見られます。皆さま。これから先、何か大きな事が起きないとも限りません。

街を守る為。そして、己の愛を守る為に、気を引き締めて下さい」


各々が無言で、言葉で、頷きで【×印】に応じる。



「これにて、バビオン支部『紳士・淑女の夜会』を閉廷します。また次の機会に」



 ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆


「ねえ。前から思ってたんだけど、顔隠す意味あるの?本音を言わせて貰うと、邪魔なのよねぇ」


閉会の言葉のすぐ後に【子守唄】―――仮面を外したレヌスが【×印】に億劫そうに提言する。

そんなレヌスを見て、【×印】は苦笑しながらも言う。


「一応、昔からのしきたりですし。まあ、それ以前の問題で、一人だけ明らかに可笑しいのがいるんですが。【潔白の仮面】さん。何で貴方は白のパンツを被っているのですか?」


そう。【潔白の仮面】が顔を隠している白い布。

その布の形は女性物の下着に酷似している。ていうか、(まご)うことなき白パンである。


誰もが浮かべるであろう疑問を【×印】が聞くと、【潔白の仮面】は心底不思議そうな顔をして答えた。


「うん?顔を隠すのは、この密会の規定ではないか。何を言っているのだ」

 

「…………ごめんなさい。話が通じると思った私が馬鹿だったわ」


「うむ。分かれば良いのだ」


「【×印】。ムカつくのは分かる。でも、ここは堪えろ。だから落ち着いて、右手の短剣をしまえ」


今にも斬りかかろうとする【×印】を羽交い締めをし、同士討ちを阻止する【観測者】。

なんとか【×印】を宥めようと、【観測者】が言葉をかける。


「ほ、ほら、今回の写真(ブツ)はちょいと安くしてやるから」


「あら、それは助かるわ」


【観測者】がその言葉を待ってましたと言わんばかりに、ケロリと元に戻り短剣を納める。


「…………アンタもアンタだよなあ。ほんとーに」


はぁとため息を吐きながら、何十枚か写真を己の懐から出す。


「ほいよ、今回はこんぐらいだ。料金はいつも通りで、【×印】は1割引きな」


子守唄(レヌス)】と【×印】は【観測者】が言い切る前に金を押し付け、引ったくるように写真を取る。


「ああ、子供達のなんとあどけない姿!ハアァ、癒される」


「これよ、これ!やっぱ良いわね。お、男と男のぶつかり合い!ぐふふ…………と、相変わらず流石の盗撮テクニックですね。凄すぎて吐き気がします。てか、キモいですね」


「ふん。そんなに誉めても何も出ねえぜ」


「いや。最後、明らかに貶されてるわよ」


【×印】には体を鍛え抜いた衛兵達が上半身裸で剣の鍛練に励む際の写真が、【子守唄】には菓子を頬張ったり、お昼寝中の幼女の写真が渡された。

その写真を恍惚とした表情で見つめる二人。


今にもヨダレを垂らしそうな変態達を見て、【潔白の仮面】が一言漏らす。


「我はあまり分からんな。たかだか紙ではないか。こんな物より女子(おなご)が身に付けた下着の方が断然良いではないか」


「「「殺すぞ、下着泥棒が」」」


「誰が泥棒だ!あんなドブ鼠と一緒にするでない。我は女子(おなご)の為に、使い込まれ古くなった下着を新品の物に取り換えているだけである!その後、我が古布を再利用して何がいけない!」


「「「法律的にOUTだろ!」」」





『紳士・淑女の夜会』

それは社会に紛れ、影からサポートするクロス王国に存在する謎の秘密結社。

――――とは名ばかりの、表を歩けば即捕まるような事を仕出かす犯罪者予備軍(頭のおかしな奴等)

つまりは、手に負えない変態共の集まりである。


皆さま、よいお年を!(*・ω・)ノ



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