8、クロス王国
料理を早く作りたいのに…………(T-T)
誠一達が走っている一方、静かになった部屋。
そこには、さっきまでのふざけた雰囲気は微塵も無かった。
その中でダンテは目を閉じ、佇んでいた。
ダンテから漂う雰囲気から、休憩をしている訳ではないのは誰の目にも明らかである。
しばらくしてダンテは目を開け、ウェルナーに報告した。
「陛下。ベルナン殿含め、計3名は充分離れました」
「そうか。大義であった」
ウェルナーは労いの言葉をダンテにかける。
次にウェルナーはガスパーに問うと、ガスパーは流れるように答えた。
「それでどうであった、ガスパー」
「はい。足運び、姿勢から推測するに武術の心得はほとんど無いと思われます。しかし、決して身体能力が低いという訳ではなく、むしろ高いかと」
ガスパーは顔からは誠一と話をしていた時のふざけた雰囲気は消え、軍人のように黙々と告げた。ガスパーは更に説明を加えた。
「また、料理中に行使していた魔法は精度が高く、それを息をするかのように使いこなしていました。誠一殿は魔法に関して卓越した技術、または魔法をサポートする〈能力〉を所持しているかと」
「ふむ…………バースはどうだ」
ウェルナーはガスパーの言葉を聞き暫し黙考すると、バースにも顔を向け質問した?
「ガスパーが見張っていた時点で可能性がほとんど無いが、俺が食べた限りじゃ毒や呪いの類いは反応しなかった。まあ、あそこまでの料理への真摯さだし、毒なぞ盛るのはしないだろうな」
そのバースの言葉にウェルナーはどこか申し訳なさそうな顔をする。
「そうか。……いつも毒味役を押し付けて、すまぬな」
「なに。俺には効かないし適任だろうよ。でもまあ、今回は無駄越しだったな」
「そうであるな。それで、ターナよ、お主はどうだ?」
はははと、ウェルナーはバースの言葉に少し笑うと、猫人族のメイドであるターナの方に顔を向ける。
「え?わ、私ですか!?」
突然の指名にターナは慌てふためいた。余程驚いているのか、尻尾がピーンと伸び、猫耳が忙しなく動いている。
ターナは何回か深呼吸をし息を整え、自分の考えをまとめながら口に出した。
「あの、え~と、獣人に偏見を持たない優しい方かと。それと―――――戦いたくないですね」
「それは何故か?」
「そのですね………………どうしても誠一様を殺せるイメージができないのです。イメージというより、そのぉ、勘ですが」
ターナは不安そうにしどろもどろしながら言う。
獣人の第六感は馬鹿にはできない。
それは血で受け継がれた本能なのだろうか、獣人の鋭い感性により生み出された勘はかなりの確率で当たる。
そんな折に、ダンテが口を開いた。
「陛下。少しよろしいでしょうか?」
「構わぬ。何だね、ダンテ」
「誠一殿がワイバーンを倒したのが本当ならば、放置するのは危険かと。只でさえ先刻のワイバーン事件に、最近の魔族の暗躍の噂。あまりにも怪し過ぎます。それに仮に誠一殿が今回の事件に関係なく、今は善人であるとしても、この先間違いを犯さないと決まった訳では」
ダンテは自らの主に進言をした。
しかし、ウェルナーはどこ吹く風とばかりに取り合わない。
「そう気にせずとも良い。セーイチ君の手綱はベルナンが握っている。それに、変に藪を突いて蛇が出たらどうする。それと、彼の言葉は我が妻の眼に引っ掛からなかったのだぞ」
「ええ、あの子の話に嘘は見つからなかったわ。遠くから来たのも、教師になりたいのも、ワイバーンについて詳しく知らないのも、全て『嘘』ではなかったわ」
「しかし!」
「大丈夫だ、ダンテ」
「…………何故そう思うので?」
ウェルナーは笑って先程まで誠一達と話していた口調に戻り、
「勘だよ、勘」
確信のないそのふざけたような理由にダンテはこめかみを押さえ、今日一番の溜め息を吐くのであった。
その言葉を境にウェルナーの雰囲気が気楽なものへと変わり、部屋の張りつめた空気は無くなっていた。
最後にウェルナーが周りを見回し、声をかける。
「まあ、無いだろうが…………もし、何かあった時は頼むぞ」
「「「「ハッ、我が命に代えても!」」」」
彼等の主の言葉に、配下3名と領主1名が忠義を持って応じるのであった。
◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆
昔々あるところに、といっても今から25年ほどの少しだけ昔。
とある所にそれは大きな王国がありました。
しかしそんなある日のこと、王様が重い病気にかかってしまい倒れてしまいました。
その日を折に、王国の水面下で王位継承権の争奪戦が始まりました。
それは熾烈を極め、相手を失墜、毒殺、事故と見せかけて暗殺など、皆手段を選びませんでした。
そんなドロドロの闘いに一人の若者が巻き込まれました。
若者は人気の少ない場所に呼び出され、信じていた腹違いの兄に盗賊を差し向けられたのです。
盗賊の頭が若者の胸に剣を突き立て、そして若者の始末を依頼主に報告した盗賊達は、依頼主に口封じで殺されましたとさ。
だが、この話には続きがある。
偶然なのか、はたまた狙ったのか。若者が盗賊に襲撃された場には、あるギルドに所属するSSランクの冒険者が出会わせていた。その存在を誰にも認知されずに。
そして、それから一年後、死んだはずの若者は何故かピンピンしており、千の護衛を引き連れ王城に乗り込むと、他の王位継承候補者を全て蹴り落とし、王様になりました。
その王となった若者はその手腕を持って、国を先代王よりも見事に統治しました。
獣人を差別せず国民を大事に思う寛大さ、敵対した者に対する冷酷さを賞して、その若者―――王はこう呼ばれた。
【簒奪者】ウェルナー・クロス
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〈ステータス〉
「ダンテ・グレトリー」
種族:人族
Lv.63
HPヒットポイント:3500
MPマジックポイント:2100
筋力 :870
俊敏 :430
耐久力:1030
技量 :760
知力 :320
運 :90
〈固有能力〉
・鷲の眼
自分の周囲の半径2.5kmまで索敵可能。
〈称号〉
・苦労人
10年以上、胃痛に悩まされる者に贈られる称号
・クロス王国王直属騎士団団長
・???
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〈ステータス〉
「バース・シセ」
種族:人族
Lv.25
HPヒットポイント:540
MPマジックポイント:290
筋力 :75
俊敏 :30
耐久力:190
技量 :26
知力 :21
運 :34
〈固有能力〉
・悪食
何でも食らう。この者の食事を止めることは出来ない。
効果:状態異常・呪術の無効
〈称号〉
・美食家
・バビオン領主
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〈ステータス〉
「アリッサ・クロス」
種族:人族
Lv.15
HPヒットポイント:260
MPマジックポイント:510
筋力 :16
俊敏 :13
耐久力:10
技量 :14
知力 :55
運 :32
〈固有能力〉
・真偽の審議
相手の言葉が嘘だと視界が赤に染まる。
発動条件は相手を目視すること。
〈称号〉
・クロス王国王妃
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〈ステータス〉
「ウェルナー・クロス」
種族:人族
Lv.18
HPヒットポイント:410
MPマジックポイント:360
筋力 :30
俊敏 :25
耐久力:22
技量 :50
知力 :62
運 :460
〈能力〉
・幸運
何か良いことが起こるかも
効果:運上昇
〈称号〉
・簒奪者
王位を奪取した者に与えられる。
・獣人の友
・クロス王国国王
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次回 『バビオンの変わらぬ一日 ①』