7、終わり悪けりゃ全て台無し
――――――学園の詳細が決まり次第、連絡をいれる。
そう陛下から言われ、今回の会合は解散となった。
そして現在、屋敷から去り、俺の両隣にはベルナンとレヌスが共に歩いていた。
因にだが、俺は今、自分がバビオンのどこら辺を歩いているのか分からない。(レヌスさんもだが)
別に3人で仲良く迷子になったわけではない。
理由は簡単。
隣にいるベルナンさんが能力を使い、俺とレヌスさんに幻術をかけているのだ。
なんでも、陛下達の居場所は秘密の為、あの屋敷がバビオンのどこに存在するのか俺達に分からせないように幻術をかけているそうだ。
今思えば能力を使って俺を連れて来たのも、それが理由だったのもあるのだろう。
相変わらずスゴイ、というか厄介極まりない能力だ。
現在歩いている道は現実なのか幻なのかの区別ですら定かでない。
今回のように二度と同じ轍を踏まぬよう気を付けなくては。
俺が今回の失敗を反省していると、ベルナンさんがある事を聞いてきた。
「ところで話は変わるが、セーイチよ。お前さん、ワイバーンとの戦闘で何かしらの違和感を抱かなかったかの?」
「違和感ですか?」
数が多かったこと…………って、それぐらい誰でも思うか。
それ以外はワイバーンとの戦闘は前回が初めてだったのもあり、何かおかしかったのは全く分からない。
俺が悩むが答えは浮かばず、出るのはクエスチョンマークのみ。
そんな誠一をベルナンが目を細め観察していたが、いつもの雰囲気に戻ると疲れたようにため息を吐く。
「もうよい。…………はあ、無駄な心配して損したわ」
「ん、何か言いました?」
「いんや、何も。レヌスはどうじゃった?」
ベルナンさんはレヌスさんにも同じ質問を投げ掛けた。
レヌスさんは俺みたいに悩まず即答した。
「逃げに転じるのが遅かったわね。普通は何匹か潰せば逃げるのに、まるで何かに憑りつかれてたみたいに逃げずに人間を襲おうとしてたわね」
「やはりそこか。これはワシの能力で分かったんじゃが、あの蜥蜴共、頭の中は飢餓で埋め着くされておった。人を食おうとする意思しか無かったわ」
流石は腐っても元SランクにSSランク。
人間性は駄目でも、観察眼が優れてらっしゃる。
しかし、ベルナンさん。人間だけじゃなくモンスターの心まで読めるのか。
「凄いですね。ベルナンさん、モンスターの考えている事まで分かるんですか」
「おぼろげにじゃがの」
俺が能力を誉めると、ベルナンは胸を張りホッホッと笑う。
自分の能力が誉められて、どうやら満更でもないようだ。
ふと、二人の意見を聞いている内に記憶が刺激されたのか、俺もある事を思い出した。
「あ。そう言えば、ワイバーンを解体した時、ワイバーンの胃の中が空でした」
俺が回収したワイバーンは全部、胃どころか腸の中にも何も無く、排泄物すら無かった。
その時はひたすら無心になろうと没頭して手を動かしていた為スルーしていたが、二人の話に触発されたのかふと思い出したのだ。
「空っぽねえ。それでお腹空いてたのかしら」
「いや、あれは空腹だけでは無いじゃろうな」
「………………あのー、今回の事件って、やっぱり誰かが引き起こしたんですかね?」
俺は思わず二人に尋ねていた。
その質問を聞いた二人は「何を言っているんだコイツ?」と言う顔を俺に向けてきた。
「当たり前でしょ。陛下がいらっしゃる時にワイバーンが300出現なんて、不自然過ぎるわ」
「誰もワイバーンの接近に気づかなかったしの。見張りの証言ではいきなり現れたとの事じゃし。恐らく何者かの能力じゃろうな」
否定してくれることに僅かな期待を込めて聞いたが、返ってきた答えはやはり誠一が予想していたものであった。
面倒くさい事に巻き込まれなければいいが。
誰がこんなこと仕出かしたんだよ。
「そうですよねー…………はあ、何が目的でこんな事を」
そんな俺の呆れ混じりにこぼした言葉にベルナンさん達が反応した。
「普通に考えれば、タイミング的にウェルナー達の命を狙ったんじゃろうが…………う~む」
「一番の謎はそこよね」
何故か微かに困ったような顔をして言い淀む二人。
ベルナンとレヌスの表情の意味が分からず、誠一は質問していた。
「どういう事ですか?」
「今回の事件、犯人の目的が王族殺害だとすると、おかしな点が多々あるんじゃよ」
「おかしな点ですか?」
「うむ。例えば、ワイバーンの数。確かに300は多いが、王族が訪れるとあって、バビオンの警備はいつにも増して厳重。しかも、ウェルナー達の周りはクロス王国直属護衛軍で固められている。この状況ではワイバーンの数が足りないのは目に見えておる」
「もしかしたら、それ以上を用意出来なかったのかもしれないけれど。ただ、それなら、わざわざ祭中じゃなくて、日が沈んで寝静まった頃とか陛下方の移動中に不意討ちした方が成功する確率が高いわ。なのに犯人はそうしなかった」
「………………つまり、目的は王族殺害ではなく別にあるということですか」
おいおい。どんどんキナ臭くなってきたじゃねえかよ。
解決したと思っていた事件がまだ終わっていないかもしれない。
誠一の額からは知らずの内に冷や汗が流れていた。
何とも言えない不安が誠一の心の中で渦巻く。
そんな誠一の心配とは裏腹にレヌスとベルナンはコロッとにいつもの表情に戻り、あっけらかんとした口調で口を開いた。
「どうなのかしらねえ。もしかしたら、都合があってそうせざるを得なかったのか。はたまた、ただ単にアホだったのか」
「まあ、話をしてても仕方がない。この事についてはウェルナーやバースとか、偉い奴等に任せていれば良いんじゃよ」
「いや、あんたは働けよ。あんたギルマスだろ」
能天気とも取れる発言と無責任な発言。
そんな二人に呆れ混じりでツッコミながらも、いつもと変わらぬ姿に少し救われた誠一であった。
「そう言えば、レヌス。ホブスの娘っ子はどうした?」
ふと、ベルナンさんが思い出したようにレヌスさんに聞いた。
俺もベルナンさんの言葉に慌てて思い出す。
「王様との面会」という衝撃的過ぎるイベントにより、すっぽりと頭から抜け落ちてしまっていた。
俺は自分の失態を悔いながらも、レヌスさんを問いただした。
「あっ、そう言えば!アンちゃん、今どうしてるんですか。まさか宿に1人で置いてきたんですか」
「もう、セーイチ!そんな無責任な事する訳ないじゃない。私を何だと思ってるのよ」
「「変態のトップクラス」」
「そうね。自覚はしてるわ」
まさかの開き直った返しに、俺達は思わず呆れた。
「ここまで来ると、いっそ清々しいのう」
「こっちの方が余計に質が悪いよ。で、話を戻すがアンちゃんはどうしたんだ?」
「孤児院をやってる知り合いに預けてきたわ。心配しないで。信頼できて子どもには絶対に手を出さない人だから」
「ほお~、なら安心だな……………………で、知り合いの人物像は?」
「その人、50歳より上しか恋愛対象として見れない熟専なの。ね、心配ないでしょ」
「わあー、それなら子どもには絶対に手を出さないから安心だねー、って言うかボケっ!!」
何なの。お前の知人は変態しかいねえのか!?
思わず久しぶりにノリツッコミしちゃったよ。
てか、異世界の変態&変人率多すぎだろうがよ!
「大丈夫よ。以前に彼、『一から育てあげる…………アリかも』と言ってたけど多分大丈夫よ」
「どこの光源氏計画だ!?その会話のどこに安心できる要素があるんだよ、余計に不安だわ!」
こうしてはいられない。アンちゃんが変な事を教えられる前に急いで帰らなければ!
「ベルナンさん、俺達はいつまで幻術をかけられる必要がありますか!」
「ん~、あとちょいかの」
「なら急ぎましょう!ったく、ここには変なヤツしかいねえのかよ!?」
「「…………セーイチの周りだけじゃろ(でしょ)」」
「うるせーっ!!」
誠一は叫び、街に虚しく響き渡るのであった。