6、計画
大変遅くなって、すみません!
「お腹空いたわ…………」
そんな言葉と共にリズ王女の腹の虫の音が部屋に響く。
しかし、悲しきかな。そんなのは何時もの事なのか、誰も気にとめない。
――――いや、正確には二人だけ違うが。
1人はダンテ。渋い顔をしているが、言っても無駄な労力だと知ってか無言。
そして、もう一人は、
「リ、リズ様。はしたないですよ。腐っても王女様なんですから、しっかりしないと」
「一言多いわよ。何気に貴女って失礼よね……ターナ」
メイド服姿の猫耳が頭から生えた女性がおどおどしながらもリズ王女に注意をしていた。
その言葉にリズ王女は半目になって、ターナと呼んだ女性を睨む。
バッサリと切り揃えられた茶髪に、右に左にと揺れる細長い尻尾。
クロス王国メイド隊の一人、猫人族【ターナ】。
誠一についていったガスパーの代わりとして来たメイドである。
ターナはリズの指摘に慌てて謝罪した。
「す、すみません!いつも私、うっかり本音が出ちゃうんです。本当にわざとじゃないんですよ!」
「貴女、喧嘩売ってるわよね。よーし、分かったわ。戦争ね。戦争しましょう」
リズ王女が冗談を言い、ターナをからかう。
…………いや、リズ王女の額に青筋が浮かんでいるから、わりとガチかもしれない。
しかし、不意にターナの猫耳がピクッと動き、リズ王女から扉の方に視線が動いた。
「お、話をすれば来たようだ」
そのターナの反応を見て、ウェルナー陛下はそう口にした。
以前にも語ったが獣人は魔力では劣るが、身体能力は群を抜いている。
その優れた聴力が部屋に向かってくる誠一達の足音をとらえたのだろう。
因みに、同じ獣人であるレヌスは……「幼女がひとり、ふたり、zzz~」と寝言を言って寝ていた。
そうこうしている内に部屋の扉が開き、料理を運ぶ為の配膳リフトをガラガラと押しながら誠一達が入ってきた。
扉を開けると見知らぬメイドさんが部屋にいた。
あの子がガスパーの言っていた代わりの人であろうか?
そんな誠一の疑問に気づいたのか。ターナが誠一に頭を下げ自己紹介を始めた。
「わたしはクロス王国メイドの1人、ターナと申します!」
「あ、こりゃどうも。自分は 誠一・沢辺 といいます」
誠一もペコリと頭をさげ、挨拶しかえす。
すると何故かターナさんが少し驚いたような顔をした。
だが、ターナさんはすぐに普通の表情に戻り、誠一は気のせいかと考えた。
料理が冷めてしまう前に出さなくてはと、皿に被さっていた蓋を開けると、
「お待たせして申し訳ありません。どうぞ、ワイバーンの肉をサンドした、ステーキバーガーです」
2つに切られたパンに挟まれるワイバーンの肉。
肉の他にもレタス、玉ねぎ、輪切りされたトマトが見える。
形が崩れないようにか、真ん中に串が刺さっており、串の先にはオーストラリアの国旗が付いている。
旗は遊び心で付けただけで特に深い意味はない。
自信満々の笑みで料理を差し出す誠一。
その品を見た誠一を除く全員は、
『………………』
揃いに揃って渋い顔をしていた。
誠一はそんな表情を見ても、半ば予想していた為、動揺しない。
ワイバーンの肉は味は悪くない。むしろ、旨いとも言えなくはない。
だか、その肉は硬い。
獣人の鍛えた成人男性のアゴならばなんとか噛み千切れなくもないだろう。
だが、この場に居るのは女性が4名とメンバーの半分を占める。
はっきり言って、ワイバーンの肉は、この状況で使うのを避けるべき食材の1つであろう。
しかし、誠一は周りの反応にまるで気にせず、バーガーを乗せた皿を全員の前に並べようとする。しかし、誠一が動くより先にターナとガスパーが皿を並べてしまった。
流石は王族の執事&メイドだと関心しながらも、誠一は料理を勧める。
「どうぞ、温かい内に。ワイルドに手で食べてしまっても良いですし、また、食べやすいようにとナイフとフォークも用意しておりますので」
全員は実は誠一がワイバーンの肉の特性を知らないのではと疑った。
だが、手を伸ばす者がいた。
「ナイフとフォークを使いますか、バース様」
「いらねぇ。それと、俺も様付けじゃなくていい」
それはバースであった。
バースはガスパー達が並べた料理を見つめた。
目の前に置かれたステーキバーガー。しかも、ワイバーンの肉だ。
バースが若い頃に食べたことが有り、この身をもってワイバーンを体験した。
しかし、バースは知っている。
目の前にいる料理人は只者ではないと。
そして、バースは期待しているのだ。
あの祭の時のように。
また自分の度肝を抜いてくれるのではないかと。
バースは意を決し口を大きく開け、ステーキバーガーにかぶりついた。
「あぐっ……………………」
周囲の者達はバースの反応を固唾を飲んで見守る。
しかし、バースはステーキバーガーにかぶりついた状態で動かない。
部屋が妙な静寂で包まれる。
未だに固まっているバースに、流石に誠一も心配になり声をかけるべきか迷った。
だが、その必要はすぐに無くなった。
「ガツガツガツガツッ!」
いきなり動き出したかと思えば、バースは一心不乱にバーガーに食いついた。
みるみる内にバースの手に納まっていたバーガーは無くなり、最後に残ったのは、
「…………うまい」
バースの至福の笑みであった。
その表情を見て、あまり乗り気ではなかった周りも自分の前に置かれたバーガーを手に取り食べ始め、その顔が驚愕で染まる。
「何だ、これは!?さして力を入れなくとも、あのワイバーンの肉が噛みきれてしまう程柔らかい!」
「この微かに酸味のある甘めのソースが肉に合っている。しかも、このソースが肉の油くどさを抑え、更に食を加速させる!」
「これは本当にワイバーンのお肉なの」
「アグッ、ムシャムシャムシャ。モグモグ」
「リズ様。せめて、もう少しゆっくり食べて下され。お願いですから……」
ナイフとフォークを上品に使い食を進めるウェルナー夫妻を始め、口々に料理への称賛をのべる。
リズ王女も気に入ったのか、ダンテの言葉などお構いなしと一心不乱にハンバーガーにかじりついている。
皿にあったハンバーガーは瞬く間に皆の胃袋の中へと消えた。
暫し恍惚とした顔をしていたが、ウェルナー陛下はハッとし、表情を正した。
咳払いをしつつ、ウェルナー陛下はこの料理の作り手の方を見て料理について誉める。
そんな言葉に誠一は笑顔を浮かべ、胸に手を当て大袈裟に礼をした。
「いやはや、あまりの美味しさに驚いてしまったよ」
「そのような言葉を頂けるとは恐悦至極であります、陛下」
「しかし、これは本当にワイバーンなのかね?下手をすれば私が今まで食べてきた肉の中で最も柔らかいかもしれない。一体、どんな魔法をつかったのか」
「いえいえ、陛下。私が使ったのは魔法ではなく――――――科学です」
「カガク…………とな?」
何だそれは、と一同は首を傾ける。
誠一はどう説明すべきか考え、口にした。
「簡単に言うと、料理を美味しくするための知識です」
もし、この場に地球人がいれば『チゲーよ!』と誠一の曲解というか虚解にツッコミを入れるだろうが。悲しきかな、此処にそれは居らず。
変に改変された情報を、そうなのかと鵜呑みにし関心する王族メンバー。
「して、そのカガクとやらを用いて、どのようにして肉を柔らかくしたのだ」
「それは、これです」
ウェルナー陛下の問いに誠一は行動で示した。
料理を運んできた台車に置かれていたカゴからある物を掴み取り出す。
その手に握られていた物は、
「それは…………果物のキウイ?」
王妃であるアリッサがどこか自信無さげにその名を言った。
そう、誠一が手にしていたのはキウイであった。
しかし、王様達はそれがワイバーンの肉の調理に如何にして関係しているのか想像がつかないでいた。
「実は今回ハンバーガーに使った肉は焼く前にキウイの果汁に漬けたんです」
皆さんも一度くらいなら、この料理の名を耳にしたことがあるだろう。
『パイナップル入り酢豚』
名前の通り中華料理の酢豚にパイナップルが入った料理である。
パイナップルが入っているのは、別に罰ゲーム用でも間違えて入れちゃった―――――という訳ではない。
その理由の1つ、それは『肉を柔らかくする』為である。
パイナップルにはブロメリンという酵素が含まれている。
ブロメリンとはパイナップルの果汁や葉から作られる消化酵素の一つで、タンパク質を分解する能力にすぐれており、このブロメリンが肉を柔らかくするのである。
そして、今回、誠一が使用したキウイはアクチニジンというタンパク質を分解する酵素を多く含有している。
キウイの果汁にワイバーンの肉を20分漬けることで、硬くなる原因となる肉のタンパク質が分解され柔らかくなったのだ。
また、キウイには消化の働きを助け、胃腸への負担を軽減する作用がある。
ハンバーガーのソースは、肉に使ったキウイ、ワインなどを加えて作り上げた。
肉を柔らかくし、かつ消化を助ける。
この手に収まる果物によって、ワイバーンの肉が変化を遂げたのだ。
誠一は異世界人である王様達に、理解しやすいように噛み砕いて説明した。
「まさか、キウイにそんな効果が有ったとは」
ガスパーが心底驚いた様子で、空になった皿を見つめた。
若い頃からあらゆる料理を食べ続け、料理の知識なら、そんじょそこらの料理人に負けないと自負していたガスパーにとって、誠一の言葉は衝撃的なものであった。
そんなガスパーを尻目に、説明を終えた誠一は考えていた話を王様に切り出す。
今から言おうとしている事はとても突拍子も無いことだ。
しかし、自分の夢の為にも言わずには居られなかった。
どこか真剣な表情をした誠一に気づいたのか、ウェルナー殿下はふざけずに聞く姿勢をとった。
「すみません、ウェルナー陛下。よろしいでしょうか」
「うむ?何だね、誠一君?」
「俺……自分は未だ知られていない多くの料理の知識を、もっと大勢の人物に広めたいのです。その為に…………ウェルナー陛下、お願いがございます」
誠一は頭を下げ、真摯に言った。
「自分を学園で教師として働かせてもらう事は出来ないでしょうか」
この世界には各々の国に少数ではあるが、学園が存在している。
神様から貰ったスマホで調べたところ、学園創設には150年程前のとある勇者が貢献したらしい。
その事を知った時、俺はある計画を思い付いたのであるけど
ウェルナー陛下は誠一の突然の願いについて、訝しげに問い返す。
「学園だと?それは、『教師として』という意味であるか」
「はい。自分の知識、科学という存在、つまりは料理の知識を生徒に教えたいのです」
「………………何故、それを望むのかな?」
ウェルナー陛下は誠一の本心を探るように尋ねる。
誠一は下げていた頭を上げ、ウェルナー陛下と目を合わすと、
「全ては美味しい食事の為です」
自分の回答を返した。
しかし、その言葉を言ってから、ふと誠一は我に返り焦り出した。
相手はどんなにフレンドリーであっても、王族。
衝動的に言い切ったが、今更ながら自分がやってしまった事の凄まじさに冷や汗が止まらない。
先程からウェルナー陛下の反応もなく、さらに誠一の不安に拍車をかけた。
しかし、どうやらそれは要らぬ心配であったようだ。
「………………ぷっ。ハハハハハハ!食事、食事の為にだと……ッハハハハ!駄目だ、笑いが止まらん!」
沈黙していたウェルナー陛下が不意に吹き出したかと思えば、腹を抱え、盛大に笑いはじめたのだ。
突然のウェルナー陛下の反応に全員が少なからず驚いた。
(アリッサ王妃だけが、「あらあら、貴方ったら」と平然として呟いていた。流石、夫婦である)
次第に笑いが治まり、ウェルナー陛下は目に浮かんだ涙を指で拭うと話を再開した。
「いや~、今日は良く笑う日だなぁ。おっと、すまない誠一君。困らしてしまったかな」
「い、いえ、そんなことは…………」
復活したウェルナー陛下に聞かれ、誠一は慌てて返事をする。
どうやら自分の発言で陛下の気分は害されていないようだ。
ウェルナー陛下は身を整えると、誠一の願いの返答を伝えた。
「改めて、誠一君。結論から言うと、君の願いを叶えるのは――――――無理だ、今はね」
「そ、そうですか。まあ、そうです…………ん?『今は』?」
やはり駄目かと思ったが、ウェルナー陛下の言葉にどこか引っ掛かった。
「そう、今はの話だ。今から学園に許可を貰おうにも学園は入学式をとっくの前に終え、学業も半ばだ。途中から入るわけにもいかんだろ。たからこそ、今は待ってくれ。生憎と都合のつけそうな友人もいるし、遅くとも来年の春までには話がつくだろう」
「という事は、つまりは…………」
確かめるように恐る恐ると聞く誠一に、ウェルナー陛下は笑みを浮かべ告げた。
「来年の春からは教師の職に就いて貰うことになるだろう」
「――――――ッ!ありがとうございます!!」
少しずつではあるが、着実に己の夢へと近づく誠一であった。
「ああ、一応注意しておくが。セーイチは、一国の王の推薦だから、変な事をすると首が飛ぶ可能性があるから気をつけてくれ」
「は、ははは、はは」
ただ、続いて告げられた言葉に誠一は引きつった笑みを浮かべることしかできなかった。
もしかしたら夢に着く前に、先にあの世にいってしまうかもしれない誠一であった。
Q:…………Q君とー(棒読み)
A:A先生の~!
Q&A:教えて、お料理コーナー!
A:イエーイ!ドンドン、パフパフパフ!
Q:………………(*´-`)
A:ではQ君!質問よろしく( `・ω・´)ノ
Q:カボチャって、何で『南瓜』て書くの?
A:カボチャは、昔、カンボジアから日本に渡ってきたんだ。カンボジア、つまりは『南』蛮から伝わった『瓜』の意味で『南瓜』って書くんだよ。
また、カボチャの事を群馬や埼玉の方言で、形が茄子に似ている事から「トーナス(唐茄子)」などと呼んでいるんだよ。
今はハロウィンの季節。皆もカボチャを使った料理を作ってみよう!
A:ところで、どうしたんだいQ君。元気が無いぞ
Q:いや、あのですね…………やっぱり、僕の名前ってQなんですか?
A:そうだよ!もう、しっかりしなよ、Q君☆
Q:ドヤ顔止めろ。殴りますよ
A:Q君
Q:何ですか
A:カリカリしちゃ、ダ・メ・だ・ぞ(ヾノ・∀・`)
ドカッ、バキッ!
Q:えーと、A先生が何故か急に気絶したため、今回のコーナーはここまで。では、また今度お会いしましょう




