3、はじめまして
いつも読んでいただきありがとうございます!
・・・あかん、チビりそうだ・・・マジでチビってないよな。
うん、濡れてない。一先ず大丈夫だ。
とにもかくにも、今は状況の整理だ。
恐らく、十中八九、間違いなく、俺がここに居るのはワイバーン関連だと思われる。
バレたのは、俺の後ろにいるベルナンさんが告げたのだろう。
俺の目の前に立っている人たちは、何か有ったらマジで国が動くレベルである。
ならば、ここで俺が取るべき対応はひとつだ!
バースがカミングアウトしてから誠一が決意するまでに要した時間は僅か一秒。
誠一はすぐさま行動へと移る。
鎖で縛られ不完全だが、致し方ない。
前の四人を見据えると同時に己の体勢を整え、全力で技を放つ!
誠一から放たれる気迫。
王直属騎士団団長ダンテ・グレトリーは誠一が何かするのを察し、何が起きてもすぐに動けるよう構える。
空気が張り詰める。
そして、誠一はカッと目を見開き、四人に向かって、
「本当に申し訳ありませんでしたー!!!」
ゴンッと頭を床に打ち付け、全身全霊をもって謝罪した。
予想とは違った誠一の行動に、ダンテは思わず膝から力が抜けコケかける。
暫し部屋は静寂で包まれるが、ウェルナー陛下がプッと吹き出し笑い声をあげる。
「ハッハッハッハッハ!いや、失礼。あまりにも可笑しくての、つい……プッ、ハッハッハ」
ツボに入ったのかウェルナー陛下は腹を抱え大笑いする。
その王の反応を見て、王妃は王様に釣られフフと微笑し、ダンテは苦虫を噛み潰したような顔をしている。
誠一は自分の思っていたのとは違う王達の言動に戸惑う。
誠一にとって、王様のイメージと言えば、椅子にふんぞり返っている偉そうな人といったものであった。
だが、自分の眼前に座る王とのイメージのギャップに少なからず驚愕していた。
未だに肩を揺らす王に領主バースが声をかける。
「おい。笑いすぎだぜ、ウェル。坊主が付いていけなくて驚いているぞ」
「それを言うなら、さっきみたいに敬語を使うのはもう終わりか、バース?もっとも全く似合ってなかったがな」
まるで昔からの友のように親しく会話する二人。
(一体、どゆこと……?)
更に混乱する誠一にウェルナー陛下は微笑みながら説明する。
「そう畏まらんで良い、セーイチとやら。それと勘違いしているようだが、私達は別にお主を罰する為に呼んだのではないぞ」
「え?違うんですか」
誠一は王の言葉にハテナを浮かべる。
国を納める王様相手に敬語を使うのを忘れる誠一であるが、ウェルナー陛下は気にせず続ける。
「逆に聞くが、お主がしたことに何の問題がある?市民を襲わんとするワイバーンを早急に討伐し、都市防衛に貢献しただけではないか」
……確かにそうだ。
改めて他人から指摘されると、そう思えなくもない。
あ、でも、いきなりあんな大きな魔法を使って周りが不安になっただろうし。それでも大丈夫なのだろうか。
誠一は恐る恐る王様に確認をする。
「えぇと、つまり、俺はお咎め無しですか?」
「無罪どころか報酬を与えるべきだろ。なあ、ダンテ」
「……たしかに、セーイチ殿は最上級に該当する魔法を行使し、ワイバーンを滅しただけ。問題と言っても最上級魔法に市民が不安になったのと、魔法によって荒れた土地の整備が大変であっただけですので」
魔法には初級、中級、上級、最上級、伝説級、神話級とランク分けされている。
少量の水を出す、ライター程の火を点すなどの魔法は初級。
勿論の事だが、魔法の位が上がる毎に威力も増し、難易度も増す。
伝説級に至っては勇者が使っていた魔法レベルである。
机上の空論だが、理論上では神話級魔法と伝説級以上が存在するとされているが、未だ人類が発動したことはない。
〈閑話休題〉
王様に話を振られたダンテは、王様の意見に同意する。
だが、ダンテは目を細め、王様に
「それと……陛下、貴方はもう少し王族である自覚を御持ちください」
「いいじゃないか、別に。私は堅苦しいのが苦手でな」
ダンテは王様に注意するが、王様はどこ吹く風と言わんばかりに受け流す。
そんな主の様子を見て、ダンテはハァと溜め息を吐く。
どうやら王様のフレンドリーな態度は毎度の事のようらしい。
とにかく怒られずに済み、逆に褒められた。
安心し、誠一はホッと息を吐く。
そして、心に余裕が生まれ、ある疑問に行き着いた。。
「・・・じゃあ、何で俺は鎖に巻かれているんだ?」
鎖を巻く理由が見当たらない。
事情を話し、普通に連れてくれば良かったのではないか。
俺は鎖を巻き付けたであろう張本人、ベルナンさんの方を向く。
ベルナンはサムズアップし満面の笑みで言った。
「そっちの方がセーイチが取り乱した反応が見れて、面白そうだったから(笑)」
「テメェ、表出ろや!」
拘束していた鎖を、飴細工の如く易々と引きちぎり、ベルナンに襲いかかった。
◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆
~数分後~
現在、誠一達は机を挟み、向かい合ってソファーに座っていた。
片方には誠一・ベルナン・レヌス(鎖付き)が座っている……いるのだが、ギスギスとした空気を漂わせている。
誠一は舌打ちをしてベルナンを睨む。
「チッ、次こそは息の根を止めてやる」
「ほ~、ヤれるもんなら、さっさと見せてほしいのぉ」
「「ああんッ!!」」
軽い挑発に乗り、ゴンッと互いの額をぶつけ、睨み合う誠一とベルナン
メンチを切る二人にレヌスが宥めに入る。
「ベルナンのお爺ちゃんもセーイチも王様の前に喧嘩しない。恥ずかしくないの」
「「お前が言うな、この変態!」」
「アアンッ!?ロリコンの何が悪いのよ、コラ!」
「「開き直った!」」
ワーキャーと野猿のように騒がしい馬鹿×3。
対して、気品溢れる王様達はその光景を見て、不愉快に……なってはなく、それどころか涙を浮かべ笑っていた。
ただ1人、ダンテはソファーには座らず、王様の側で直立し、呆れた顔をしていたが。
「ハッハッハッハ。王宮に1人は欲しいな、アリッサ」
「フフ、そうですね、あなた」
「それは駄目です。バース様も何か言って下され」
「ダンテの言う通りだぜ、ウェル。1人では意味がない、3人セットでなければな」
「そう意味ではありませぬ!」
王様達へのツッコミを終えたダンテ。
場を立て直すためにダンテは咳払いをし、己の主君を促す。
「ウェルナー陛下、そろそろ本題を」
「ああ、すまぬすまぬ。さて、セーイチ。先程も申したが、私達はお主を断罪するつもりはない」
「え?あ、はい」
誠一はウェルナー王に声をかけられ慌てて返答する。
真面目な話のようなので、馬鹿3人は背を正してソファーに座る。
ふと、誠一は自分の紹介をしていないのを思い出し、拙い敬語で自己紹介をしようとする。
「あ、自己紹介がまだでした!俺、いや私は――――」
「良い。お主、『セーイチ・サワベ』については既にベルナンから話を聞いている」
誠一はその言葉を聞き、心臓が跳ねる。
心配な点、それはベルナンが何と言ったのか、そしてどこまで話したのか。
内心では焦りながらも、何とか表情を変えなかったのは我ながらファインプレーである。
誠一は自然を装い、ウェルナー陛下の続きの言葉を待つ。
「セーイチ・サワベ。長い間、ここから遠く離れた場所で生活していたが、ある目的のため旅に出る。旅の際に偶然知り合った元Sランク冒険者ホブスの紹介の下、バビオンに足を運ぶ。そこでベルナン、レヌスと知り合う。旅の目的は自分の知識を広めることである……間違いないな?」
「は、はい!仰る通りです」
「犯罪を犯したことも、犯罪を犯すつもりもないか?」
「滅相もない!有りません!」
誠一はウェルナーの言葉を肯定した。
先程の内容に虚実はない。
遠く離れた場所(日本)から来たわけだし、自分の知識を広めるために旅をしている。間違いはない。
勿論、犯罪を犯すつもりもこれっぽっちも無い。
……まあ、一回だけ留置場で拘束されたが。
どうやら、ベルナンさんは上手い具合にはぐらかして説明していたようだ。顔には出さず誠一は心の中でホッと息を吐くのであった。
誠一の応答を聞いたウェルナー陛下は苦笑する。
「そう畏まらんで良い、セーイチ。先程も申したように、お主を呼んだのは報酬を与える為だ」
「報酬……ですか?」
「そうだ。今回の都市防衛に貢献した者達には少なからず報酬を渡している。勿論、大いに活躍した者にはボーナスが追加される」
話を聞くと、俺以外には参加した全員にギルドから報酬が行き渡ったそうだ。ここしばらく俺はギルドに足を運んでおらず、報酬が渡せなかったため、現在に至るとの事だ。
自分が引き込もってしまったが故に周りの人達に迷惑を掛けてしまったことが恥ずかしく微かに顔を赤くする誠一。
しかし、報酬を渡すだけで王様が出会うであろうか?
普通に有り得ないよな。
まさか危険人物として目を付けられてないよな、と誠一が心配していると、ウェルナー陛下が軽い感じで言う。
「という事で、報酬を渡そうと思うのだが何が良い?今は機嫌も良いし、出来る範囲内でなら叶えるぞ」
「ウェルナー陛下……」
王様の自由気ままな発言に思わず頭をおさえ疲れた顔をするダンテ。
そんな中、誠一はアレを思い出した。
「報酬ですか……それでは」
頭に浮かんできた物のことを冗談半分で言葉にしようとする誠一。
しかし、それは不意に部屋に響いた扉を開く音によって遮られたのだった。
扉の方に目を向けると、そこには――――
「失礼します、お父様。先程から、大きな音が聞こえたのですが何かあったのですか?」
これが俺、沢辺 誠一とクロス王国の姫様との初の顔合わせであった。
ジゴク(睡眠時間平均2時間)であった試験も遂に終わり、やっと投稿することが出来ました。
これからも粉骨砕身で頑張ります!