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16、後悔、先に立たず

いつも読んで頂き、ありがとうございます。

更新が大変遅れてしまって、すみませんでした。

下手くそながら、頑張ります!

ベルナン・カヌア、六十八歳、独身、男性、元SSランク。


言わずと知れたバビオン支部のギルドマスターである。

老いているが毎日の鍛練力を欠かさず、相手が一般兵士ぐらいならば軽く圧勝できる実力を持っている。


だが、他のSSランクに比べると、高いレベルのわりに筋力・俊敏・耐久力の値が低く、いかんせん差がある。

真正面からの力比べでは、負けるのはベルナンであろう。



ならば、何故、その他のSSランクの強者を差し置いて、ベルナンがギルドマスターに推薦されたのか?



その理由は――――――――



● ● ● ● ● ●


そこには地獄のような光景が広がっていた。



バビオンがワイバーンで埋め尽くされていた。



立派に(そび)え立っていた壁は崩壊し、以前の壮大さは想像もできない。

都市を、市民を、家族を護らんと脅威に立ち向かっていった兵士たちは死に絶え、焦点の合っていない目が何も無い虚空を見つめていた。


そしてワイバーンたちは己の目の前で逃げる獲物を、空腹を満たさんと喰らっていた。

牙をたて咀嚼する毎に、求めていた血と肉の味がワイバーンの口の中に広がる。

ワイバーンを制止するものはなく、貪り続けるのだった。


そして、そして・・・


● ● ● ● ● ●



対して眼前の惨状を目にした兵士たちは、言葉が出なかった。

兵士の視線の先には――――――――



ワイバーンが共食いをしていた。



空で球体状に密集し、同胞に牙を立て狂ったように喰らう。

己の身が喰われようが、まるで気づいていないのか、何もなかったかように咀嚼を続ける。

時間が経つ毎に食らいつかれたワイバーンは弱り、力尽き地に落ちていった。



兵の隊長を務めるダニエルは何が起きているのか解らず、茫然としていた。

いや、ひとつだけ解る事がある。

隊長は視線をずらす。

その視線の先には、


「ふむ、まあまあかの」


ベルナンが目の前に広がる光景を見て、いささか不満そうに声を出していた。


現状を造り出しているのは間違いなくギルドマスターだ。

ギルドマスターはただ立ち、ワイバーンを見ているだけ。

だが、確実に()()をしている。


(これがギルドマスターの力・・・!)


ダニエルはベルナンに畏怖と尊敬の混じった視線を送る。

その事に気づいたのか、それとも偶々だったのか。

その時、それが聞こえた。


『馬鹿者。ボーとしてないで兵を動かさんか』


突然、頭に鳴り響くベルナンの声。


慌てるダニエル。

ギルドマスターがいきなり自分に声をかけた事に驚いた訳ではない。

ダニエルはベルナンに視線を向けていた。

だからこそ気づいた。


ベルナンの声が聞こえた時、ベルナンは口を動かしていなかった。


辺りを見回すが、周りにいる他の兵士たちには聞こえていないのか、ワイバーンの方を見ている。

聞こえているのは自分だけか。

ダニエルは混乱するが、頭に響くベルナンの声は続く。


『ワイバーン共なら、今は夢を見ておるわ』

『墜落しただけで、まだ息があるのもおる』

『兵士たちに命じて、トドメを刺せ』

『わしの術から捕らえきれないワイバーンもおる。気をつけろ』

『無茶はするでないぞ。しばらくすれば王国直属の軍も動き出すじゃろ』

『それまでの辛抱じゃ』


ゆっくりとベルナンは落ち着かせるようにダニエルに語る。

そして、最後にベルナンはワイバーンから視線を外し、ダニエルを一瞥した。

一瞬、だが、しっかりとダニエルの目を見て、


『期待している。任せたぞ』


勇気付けるように、ベルナンはワイバーンに視線を戻し言葉を切った。


会話とは言い難い、一方的な言葉の投げ掛け。

しかし、ダニエルにはそれで十分であった。


ギルドマスターの能力は気になるし、解らない事だらけだ。

だが、今はそんな事はどうでもいい。


ダニエルから先ほどまでの混乱は消えていた。

気を引き締め、未だに茫然と眺めている兵士たちに腹の底から声を出し、命令をする。


「お前らァァァ!!何をしている!!」


突如響き渡る声に驚き、兵士たちがダニエルの方を見る。


「まだ脅威が無くなった訳ではない!気を引き締めろォォォ!」


『・・・ッ!了解!』


兵士たちはダニエルの言葉に、現状を思いだし、己の武器を再び握りしめる。

ダニエルの(命令)に応え、整った動きを見せる兵士たち。


ベルナンは目を反らさずワイバーンを睨み、しかし、飛び交う激声に耳を傾け、わずかに口角を上げる。



「この都市を狙った罪。民を脅かした罪。そして、何よりもわしの生き甲斐()を潰した罪」


ベルナンは己の職務を果たす為、ベルナンは闘う。


「その身をもって、()()()のじゃな」



◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆


〈ステータス〉


「ベルナン・カヌア」


種族:人族


Lv.79


HP(ヒットポイント):2700

MP(マジックポイント):3000


筋力 :610

俊敏 :690

耐久力:540

技量 :2500

知力 :780

運  :70


固有能力(ユニークスキル)

異心伝心(テレパス)

相手の心を読み、遠くの相手にでも自分の考えている事を伝えることが出来る。また、五感も共有出来る。極めれば応用技として、相手に幻術を見せる事も可能。この能力には並々ならぬ技量の高さが要求される。


〈称号〉

・ギルドマスター

バビオン支部のギルドのまとめ役。元々はSSランクであったが、バビオンの領主バースからのスカウトに応じ着任する。面倒くさい時は書記の仕事の大半を副長に押し付け、町に飛びだし奔放と駆け回る。


・ギルドの宿敵

ギルドメンバーを百回以上、戦闘することでこの称号を得る。

(主な犠牲者はギルド副長)


・永遠の若き心

子供達と波長が合う。(精神年齢が近いため)

ワガママで周囲の人(主にギルド副長)を困らせる。

効果:HP上昇


◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆





レヌスとベルナン、二人から離れた場所。

そこに誠一はいた。

そして、その誠一の周囲にはワイバーンの死体が並べてあった。


もしも他人が誠一の近くに置かれたワイバーンを見れば、ある事に疑問を持ったであろう。

たった1人でワイバーン数体を倒したのか―――――ではない。

それよりも不可解な事。


何故、誠一の周りにあるワイバーンは全て違う仕留め方をされているのかだ。


ある死体は首を切られ、体から全ての血が抜かれ。

ある死体は苦しそうに顔を歪め、窒息されて。

ある死体は全身を氷に包まれ、凍死して。

どれを取って見ても同じものは無く、様々な死因が見て取れた。


そんな奇妙な光景を生み出したであろう誠一はというと、


「これがワイバーンの胃か。解剖図より少し大きめだな」


スマホのアプリ〈God先生〉で調べた解剖図をもとにして、一体のワイバーンを呑気に(さば)いていた。


「って、こんな事している場合じゃない!」


他の者達があくせくと戦っている中、気ままに没頭してワイバーンの部位を調べていたが、誠一は自分のやるべき事があったのを思い出す。

解剖していたワイバーンを〈異次元ポケット〉にしまい、その場を駆け、


「他のワイバーン、傷む前に早く仕舞わないと」


仕留めた他のワイバーンを〈異次元ポケット〉に収納するのだった。

もし、ここにブーケがいたら「そっちですか!戦いなさいよ!」とツッコミをいれていたであろう。

しかし、この場には誠一しかおらず、気にすること無く作業を続ける。


因みにホブスさんから聞いた話だが、ガルテアには〈異次元ポケット〉のようなアイテム・魔法は滅多にないらしい。

確か空間魔法が必要で、使い手が指で数える程しかいないからだっけ?

それにあったとしても、ワイバーンを数体入れて、まだ全然入るといった代物は無いとのこと。


ホブスさんからは、〈異次元ポケット〉について容易に話すな、と釘を刺された。

負けることはないだろうが馬鹿な奴が奪い取ろうとする、とのことだ。

ホブスさんに注意されたのもあって、一応だが今は対策として認識阻害の魔法を使っている。

難しい言葉で言ったが、簡単に言うと、秘密な道具のいし⚪ろ帽子みたいな物だ。


これで俺は他の人から認識されないだろう。

それに今は兵士の人達は別の事に集中している。


収納作業を終え、誠一は城壁の方に目を向ける。

一般人なら肉眼では城壁にいる人が豆粒サイズにしか見えないが、誠一にはしかと見える。

城壁にいる兵士たちは弱ったワイバーンの群れに魔法と矢を放ち、確実に仕留めている。

隊長格らしき人物が上手く兵士を動かし、着々と数を減らしている。

この調子ならバビオンが陥落する恐れも無いだろう。


しかし――――


俺は兵士から、二人に焦点をずらす。


「やっぱり二人共スゴいな」


予想していた以上に強い二人、レヌスとベルナンに感嘆の言葉を送る。


ベルナンさんは恐らく、というか間違いなく幻術を視せてるな。

俺も稽古の時に良くやられた。


今なら解るが、俺がベルナンさんに倒された時も、幻術を使っていたのだろう。

あの時、俺は幻術で造り出された虚像を殴りバランスが崩れたところを投げられた…………といったところか。


最近では幻術にも慣れ、鍛練の組手で一本取れるようになった。

・・・その後に、ムキになったベルナンさんに奥義や秘奥義など出され負けたが。

負けたのが悔しいからって、奥義出すなよ。

子どもか、あの人は。



対して、レヌスさん。

ベルナンさんは毎日の鍛練を通して知っていたが、やっぱりレヌスさんも強かったのか。

初対面で殴った際に、あまり効いてなかったからオカシイとは思っていたが。


一瞬で二十一体も倒すなんて。

しかも、地を駆けるかのように空を移動するとは。

まあ、神様の能力で笑ってしまう程向上した身体能力のおかげで、あの技のタネは解ったが。

そのタネとは、


「まさか、ハンマーで打ち上げた石の礫を蹴って、空を移動するなんて」


いや、断じて言うが、嘘でも冗談でもなく本当の事だ。

実際、俺も見た時、自分の目を疑った。

力業かつ高等な技術を要求される、絵空事のような芸当だ。


だが、あの人はそれをやってみせた。

そりゃあ、あんな姉がいたら弟のホブスさんも強いのも納得だな。



・・・今更だが、文章で改めて確認するとスゴいな、初対面で殴るって。

日本だったら警察沙汰じゃねえか。


というか、ふと思ったんだか、俺は未だにまともな出会い方というのをしていないのではないか

・・・いやいやいや!そんなはず無いだろう。


俺は出てきた疑惑を打ち消そうと、輝かしいガルテアでの思い出を頭に浮かべる。


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


異世界転成してまず、


「ぬおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!アベシッ!?」

「ゴゲブリェ!?」


空高くから落とされ、コカトリスとバトル。




コカトリスを倒し、下山している際に、


「この変態野郎が、死ねやァァァ!!」


「俺は変態じゃねえって言ってんだろ!話を聞けェェェ!」


半裸の俺を見て、変質者と勘違いしたホブスさんとバトル。




食事を振る舞い、ホブスさんと友情を築き、


「私、マコトお兄ちゃんだったら、い、一緒に寝てあげても・・・いいよ」


「この変態野郎が、死ねやァァァ!!」


「俺は変態じゃねえって言ってんだろ!って、これってデジャビュ!!」


その男の友情は呆気なく散り、親バカと命懸けのバトル。




村を離れ、都市に入ろうとしたら、


「武器を捨て、大人しく投降しろ!」


衛兵に武器を向けられ、拘束&留置所を初体験。




宿に泊まろうとしたら、


「ひ、久しぶりの幼女!ハァハァ・・・」

「すいません。店、間違えました」


変態とエンカウント。


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~



「・・・・・・・・・・・・・・」


あれ、なんでだろう。

涙と鼻水が止まらない。ガルテアにも花粉症ってあるのだろうか。


過去を振り返り、ダメージ(精神に)を思わぬ所でくらった誠一。

ガルテアを転成し今までの中で、最大のダメージではなかろうか。

意識してみると自分の辿ってきた道は不規則でグニャグニャに曲がりくねっていた。


不運過ぎるだろう。

神様に『幸運』を頼んだはずなのに、何このありさま。

その内、俺の上に隕石でも落ちるんじゃないのかな、ハハハ。

・・・本当に起こりそうで笑えない。


『グギャギャギャ!』


てか、半分がバトルって。

しかも、バトルのほとんどがホブスさんが占めてるじゃねえか!

知人と死闘繰り広げるって、今更ながらバイオレンス過ぎるだろう。


『グギャギャギャギャギャ!』


そもそも俺、最初はボケ担当だったじゃん。

最近、ツッコミしかしてねえよ。

俺、料理するために異世界来たんだよな。

なのに、どうして料理していた記憶より、ツッコミや闘いをしていた記憶の方が多いんだよ!


『グギャギャギャギャギャギャギャギャギャギャ!』



ブチンッ



センチメンタルになっている誠一の頭から何かが切れる音がした。

何時もであれば平常心を保てていたが、なにぶんムシャクシャしていた。

つまりは八つ当たりをしたかったのだ。



「さっきから五月蝿いわ!蝉か、テメエらは!!」



先程から鳴っているのはワイバーンの威嚇の声なのだが、今の誠一には笑い声にしか聞こえず騒音以外の何物でもない。


誠一はワイバーンの群れに手の平を向け、魔法を放った。

激戦(祭での仕事)の末、編み出された誠一の新魔法。



「フード・プロセッサー(強)!!!」



魔法の名を叫んだ誠一の手から放たれた小さな鎌鼬。

始めは手の平サイズの大きさだった。

だが、それはワイバーンの群れに迫るにつれ、次第に膨張していく。


この時、誠一は激情に任せ、ほんの、ほんの少しだけ本気を出してしまった。

例えるなら、コロッケにソースをかけようとしたら、勢いよく噴出し間違えて多めにかけてしまったかのように。

そんな些細なミス。

しかし、誠一にとっての少しは、他人から見れば余りにも巨大。


あれ、これヤバくね?

思っていた以上の現象を前にして、ようやく正気に戻る誠一。

しかし、魔法は既に自分の手を離れ、止めるにはもう遅い。



放たれた魔法は巨大な竜巻となり、成す術もない百ものワイバーンを呑み込んだ。



誠一は冷や汗が止まらず、見つめるしかない。

しばらくすると覆っていた竜巻が晴れた。


そこには火曜サスペンスもビックリの真っ赤な惨状が広がっていた。

ワイバーンの体をズタボロに切り刻まれ、体の部位が欠損している。

誠一の魔法に巻き込まれた全てのワイバーンが息絶え、あっと言う間に討伐されていた。

秒殺である。



誠一は自分が生み出したスプラッタな光景をただただ眺めているだけだったが、しばらくして頭を抱えうずくまる。


・・・やり過ぎた。

もう一度言おう・・・やり過ぎた!

やばい、本当どうしよう。

考えろ、考えるんだ誠一!何とかして解決するんだ!


自分の失態を何とか取り繕うと、脳みそをフル回転させ、最善策をさがす。

そして、誠一は、


「・・・よし、逃げるか」


考えるのを止め、その場に背を向け逃走したのだった


◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆


〈ステータス〉


「沢辺 誠一」


種族 : 超人類


Lv.61


HP(ヒットポイント):8707900

MP(マジックポイント):7005300


筋力 :6003100

俊敏 :5001800

耐久力:4202000

技量 :6802300

知力 :7101000

運  :???????


〈称号〉

・悪鬼羅刹

一度の攻撃で百体以上の敵を倒すことで、この称号を得る。

効果:筋力・HP上昇


・犯罪予備軍

一度、留置所に連行されることで、この称号を得る。


・ロリコン入門者

自分をロリコンと自覚するか、【ロリコン四天王】の称号を持つ者と友情を築くことによって、この称号を得る。


・変人ホイホイ

行く先々で、一癖も二癖もある者たちと遭遇する。


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