15、3バカ
分かりにくい事がありましたら、感想でビシバシ言って下さい!
これからも頑張ります!
突然の敵襲。
先程までの楽しそうな雰囲気は今となっては欠片も見当たらず、人々は避難に徹する。
子供はよく分からぬままに、ただただ涙を流し親にすがりつく。
魔導式拡声器からは市民の避難誘導を促すギルドマスター副長たちの声が、
『み、皆さん、あわ、慌てずに中央ににに、避難してくださぁぁいぃ!』
『あんたが一番落ち着け、副長!』
『な、何を言って。私は落ち着いてオボロロロロ!』
『うわぁぁぁッ!?副長があまりの緊張で吐きやがった!』
・・・余計に不安を掻き立てている気がするが。
◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆
一方、都市を囲む城壁付近では、
「数は多いが、ワイバーンは決して倒せない相手ではない!魔法部隊と弓部隊で羽を攻撃し、墜落させろ!」
『了解ッ!』
「接近戦部隊は墜落したワイバーンのトドメと、遠距離部隊の守備だ!気を抜くな!」
人間に獣人、女性に男性、若いのから老いたのも別け隔てなく様々な人々が武装し集まっていた。
兵の数は優に千五百。
全員が市民を、そして都市を守る為に集い、隊長らしき人物の号令に沿って闘いの備えをしていた。
そんな最中、三体のワイバーンが下降し、構える兵士たちの方に向かってくるのが遠目で確認できた。
覚悟していたものの、緊張が走る。
だが、この場に逃げる者はいない。
「お前ら、何としてでも守り抜くぞぉぉぉぉ!」
『ウオォォォォォォォォォォォォォォ!!!!!』
隊長の気合いの一声に、腕を掲げ全員が応じる。
攻めてくる敵を睨み、隊長が今まさに攻撃の指示を出そうとした。
その時であった。
「おい・・・何かおかしくないか」
最初は少しの違和感。
だが、それはワイバーンが接近し目視できるにつれ、違和感は確信に変わる。
ワイバーンは酔っているかのようにフラフラと飛行し、兵士たちの手前で土煙を上げながら下降し地に着いた。
――――いや、そうではない。
「あのワイバーン・・・既にボロボロじゃねえか」
ワイバーンは飛行を維持できず不時着したのだ。
上がっていた煙が晴れ、敵の姿を改めて確認する。
三体は何かに喰い荒らされたかのように、羽が、腹が、脚が、尾が、顔が無惨に抉られ、血が傷口から溢れだしている。
あまりに唐突に不自然な光景を目の前にして、誰も声を出せず沈黙する。
しかし、その沈黙も長くは続かなかった。
「コヤツらか・・・事件起こしたのは」
『ギルドマスター!!』
沈黙を破ったのは、ギルドの長にしてバビオン都市実権者No.2であるベルナン。
その人物がいつの間にか兵士たちの方を向き、墜落したワイバーンの傍に佇んでいた。
いつもと変わらない笑顔、しかし様子がどこか違う。
何かあったのか問いかけようとしていた、その時であった。
グルルッ・・・
ベルナンの後ろから唸り声。
視線をベルナンからズラすと二匹のワイバーンはまだ息絶えていないのか、鎌首を上げ、ベルナンを睨んでいた。
「――――――ッ!ギルドマスター、後ろ!」
ワイバーンは口を開き、鋭い牙をベルナンに突き立てようとしていた。
それに気づいた兵士たちは慌てて魔法を放とうとしたが、間に合わない。
ワイバーンは真っ直ぐベルナンを狙い首を伸ばし喰らいつこうと、
「貴方たちね。諸悪の根元は」
「お前らか。無粋な真似してくれたのは」
―――――――出来なかった。
新たに現れた二人により一方は頭を潰され、もう一方は首を切断され、ワイバーンは物言わぬ躯となっていた。
「おお、レヌスか。しかし久しぶりに見たの、その大槌」
「久しぶりね、ベルナンのお爺ちゃん。」
一人は豊満な胸をした犬耳の女性。たぶん人狼族であろう。
銀に鈍く輝く巨大なハンマーを担ぎ、ギルドマスターと親しげに話している。
武器を見るからに、ワイバーンの頭を潰したのはこの女性だろう。
そして、二人の会話にもう一人が加わる。
「レヌスさん、ベルナンさん。三日ぶりですね」
「あら、セーイチ。あなたとは祭りでちょくちょく顔合わせたじゃない」
「ハハハ。何のことだか、さっぱり覚えがアリマセンネー(棒読み)」
服にフードが付いた変わった服を着た、どこにでもいそうな青年。
恐らく首を切断したのは青年だと思われるが手には武器が握られていない。魔法で仕留めたのか。
この男について、ほとんどが謎だ。
ここが戦場にも関わらず、まるで街中でのように話しを続ける。
しかし、三人共、会話こそ親しげではあるが、凄まじい殺気が周囲に渦巻いている。
「ところで、二人はどうしてココに?」
「なに。ちと、あそこの飛んでるハエ共に用事があってな」
「あら、私もそうなのよ」
「奇遇ですね、俺もなんですよ。てか、ベルナンさん、さっきから怒ってませんか?体に悪いですよ」
「ホホ、その通りじゃの。あまりの怒りで頭が吹っ飛びそうじゃ」
「むしろ怒りが通り越して、逆に笑えてくるわね」
「本当、まったくもってその通りだ」
「ホホ、ホホホホホ、ホホホホホホ!」
「フ、フフフ、フフフフフフフフフ!」
「ハハハハハハハハハハハハハハハ!」
狂ったような笑い声は谺し、静寂に包まれた城壁を支配する。
本来ならベルナンはともかく、突然現れた正体不明の二人に声をかけるべきであろうが、触れられる空気ではない・・・というか、関わりたくない。
三人は笑ってはいるが、目が笑っていない。それが余計に不気味さを引き立たせている。
いったい何が彼らをそこまで奮い起たしているのか。
笑い続けていた三人。
だがしばらくすると、笑い声がいきなり止み、ワイバーンの群れを憤怒の形相で睨む。
そして三人は許せない己の怒りをワイバーンにぶつけた。
「楽しみにしてた大道芸を中止にしおって!どうしてくれんじゃ!」
「究極にして至極の存在である子供たちを泣かして!折角、衛兵を撒いたのに!」
「人様の大切なお食事TIMEを妨げやがって!どれだけ並んだと思ってんだ。お前らのせいで食えなかったじゃねえか!!」
『『『怒っていた理由、それかい!!!』』』
あまりに小さく、予想の斜め上の理由にツッコミをいれる兵士たち。
だが、そんなツッコミは三人は気にせず、邪悪な笑みを浮かべ敵を睨み、
「「「覚悟しやがれ、この糞トカゲ共がァァァァ!!」」」
憤怒のベクトルが各々まったく違う三バカどもが合わさって、憎きワイバーンに襲いかかるのだった。
「・・・隊長、俺たちどうすれば」
「聞くな。俺も今、混乱してるから」
そして、怒涛の勢いで進行する三人に付いていけず、思わず脱力してしまった兵士たちは状況に置いてかれるのであった。
◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆
ワイバーンの最も厄介な内の一つは、飛ぶ事である。
ワイバーンは決して弱い訳ではないが、強すぎるという訳ではない。
巨体で鋭い牙をもっているが、地べたに居座っているだけなのであれば動きが鈍く、討伐も困難ではない。
だが、ワイバーンは進化により羽を生やし、機動力を得た。
そんなワイバーンのメジャーな対処方法は、兵士が行っていたように距離をとって弓や魔法などの遠距離攻撃。
しかし、元来、魔力が低い人狼族であり、弓もそれほど得意ではないレヌス。
この方法では、頑張ってもレヌスの魔力では三体が限界であろう。
筋力が優れてはいるが、あそこまで高く飛ばれたら流石に届かない・・・まあ、出来ないこともないが。
疲れるので、この方法はあまり取りたくない。
ワイバーンが攻撃可能範囲内まで下がってくるのを待つという手もあるが、それでは逃げられる可能性がある。
そこで、レヌスが選択した行動は、
「せいッ!」
ビュンッッ!
「グギャッ!」
ワイバーンに向けて、人の頭ほどのサイズの石の投石であった。
地面に落ちている武器を拾い集め、投擲し標的に当てる。
シンプルかつ原始的な攻撃方法。
しかし、神話においては巨人を打ち倒し、戦争においても厄介な攻め。
馬鹿にすることは出来ない。
レヌスによって放たれた石は唸りをあげワイバーンに命中。
その衝撃にワイバーンの巨体が揺れる。
しかし、
「グギャァァァァ!」
「まあ、倒せないわよねぇ」
予想はしていたが、ダメージは入っているものの決定打に欠ける事実に溜め息を吐く。
勿論、何百とヒットさせれば倒せるだろうが時間がかかる。
しかも何割かは避けられるだろう。
それに何より、コレでは逆にフラストレーションが溜まる一方だ。
「やれやれ、コレ疲れるからやりたくなかったんだけどなあ。あと周囲に被害が出ちゃうし」
まあ、なんとかなるか。
レヌスはしばし悩んでいたが、気持ちを切り換えて別のプランに移る。
降ろしていたハンマーを手に取り、ゴルフのように構える。
ドワーフ製作のウォー・ハンマー。
かつては、レヌスも成人の儀でバビオンのギルドで働いていた。
そこで稼いだ金を叩いてオーダーメイドで造らせた逸品。
ちょっとやそっとの無茶をしても壊れない頑丈な現役時代の相棒である。
ここ最近は長いこと使っておらず久しぶりに手にしたが、昔と変わらず良く手に馴染む。
その事に苦笑しながらも、ハンマーを勢いよく振りかぶり、
「せいやッッ!」
レヌスは足下に集めて置いていた石を打ち上げた。
ハンマーで弾かれた石礫は散弾銃の如くワイバーンに向かって飛来し迫ってくる。
だが、先程の投石とは違い、狙いが正確定まっていない。
そう思いワイバーンは回避に入り―――――
「遅いわね」
すぐ近くから女性の声をワイバーンの聴覚がとらえた。
次の瞬間、声の主を確認する間もなくワイバーンの頭にウォー・ハンマーが降り下ろされ、そこで意識が途絶える。
もしも、そのワイバーンがレヌスの動きを見ていたら思考停止していたであろう。
空高くにレヌスがいること、石礫を打ち上げてから今の一瞬でワイバーンを二十以上を仕留めたこと、そして何より――――
レヌスが狼の如く宙を蹴り、縦横無尽に地のように空中を駆けていたことに。
現在、レヌスは落下していくワイバーンの背に立っていた。
レヌスは少しだけ息を荒げながらも、自分の足下に向かって言った。
「言葉は解らないだろうけど、貴方たちにこの世の真理を教えてあげるわ」
レヌスは意味がないだろうと思いながらも、ワイバーンに向かって言葉を紡ぐ。
「華は手折るものではなく愛でるものよ。来世で忘れないように、頭に叩き込んでおきなさい」
◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆
〈ステータス〉
「レヌス」
種族:人狼族
Lv.71
HP:5800
MP:100
筋力 :1500
俊敏 :2100
耐久力:1000
技量 :550
知力 :97
運 :82
〈称号〉
・月狼
空中を大地のように駆ける姿から、ギルドメンバーからこの名を付けられた。元SSランク。
・小人の楽園の店主
宿屋〈小人の楽園〉のオーナー
ギルドの依頼で稼いだ金の大半を使い、合法的に子供と接触を企み創設。しかし、現在もその夢は上手くはいっていない。
・留置場の常連
衛兵によって留置場に三十回以上連行されることにより、この称号を得る。
・ロリコン四天王
変態(幼児限定)。
幼い頃、自分の姿を鏡で見て動悸を速めてしまった時は自分が重度のナルシストなのではと不安になるが、年を重ねロリコンであると自覚し安心する。
ガルテアに存在するロリコンの頂点の内の一人。
ここまで重症だと神の手でも改善させるのは困難。