12、 繁盛!
更新遅れてすみませんでした。
インフルエンザにかかってしまい、現在ダウン状態です。
なんとか更新できました。
皆さんも体に気をつけて下さい。
「ありがとうございましたー!」
誠一は品を大量に購入してくれたお客様に礼をし、心の中で料理が認められた事に喜び、ガッツポーズをした。
お客の男性は注文した品が入った袋を両手に持ち、悠々と店を去った。
「・・・しかし、どこかで聞き覚えのある声だったなあ」
誠一はお客の男性の声を聞いた気がする。
だが、あの男性とは面識が無く、間違いなく初対面だ。
しばらくグルメリポーターのように絶妙なコメントをした男性について思い出そうとしていたが、
「気のせいか・・・あ、そこのお姉さん、お腹空いてない?今ならサービスするよー」
誠一は疑問を頭の隅に追いやり、客引きを始めるのだった。
◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆
誠一が商売に取りかかる頃、アンとブーケは都市を散策していた。
人で埋め尽くされ、前に進むのがやっとだ。
アンはあまりの人の多さに疲れながらも、初めて見るものに目を取られている。
「すごい!あれは何、ブーケお姉ちゃん」
「あれは最近、魔法大国で造られた魔導式写真機ですね。隣にあるのは、ええと・・・」
「簡単な操作が出来る手乗りサイズの超小型ゴーレムじゃな。操作範囲は狭いが良いのぉ、欲しいのぉ」
「へえー、そうなんですか・・・て、ギルマス!?」
ブーケが説明でおぼついていると、職場で聞き慣れた老人の声が補足した。
キョロキョロとブーケは目線を動かし探したが、それらしき人物は目に入らない。
しかし、代わりにブーケの耳にある音を拾った。
クゥ~~~
それは、空腹を知らせる腹の虫の鳴き声。
私のお腹からではない。
そもそも、自分の腹の虫はあんな可愛らしくではなく、もっと豪快に音を立てる。
音の発生源に目を向けると、アンが音を隠そうとお腹を手で押さえ、恥ずかしさで顔を赤らめていた。
しばらく無言だったアンだが、言葉を漏らした。
「・・・お腹空いたぁ」
「ふふ、そうですね。少し早いですが何か買って食べましょうか」
ブーケはアンの反応に思わず微笑み、食事の提案をした。
気付けばセーイチ様から離れて、時間も経つ。
もうすぐ昼食の時間に差し掛かる。
それに今の方が店も混んでいないだろうから、ちょうど良い。
「そうと決まれば、あそこに行かなくては」
「どこに行くの?」
「バスRUNガイドですよ」
「何それ?」
ブーケの口から出たワードを聞き、不思議がるアン。
そんなアンの疑問に答えるべく、ブーケはアンと手をつなぎ目的の場を目指し歩きながら説明を始めた。
「バビオンの領主、バース様は知ってますか」
「祭で宣言した人だよね」
「はい、その通りです。開幕の言葉でもそうでしたが、バース様は紳士には程遠い破天荒な性格なんです。でも、貴族なのに都市の人々にフレンドリーに接し、種族差別をしません」
「いい人だね」
「全くもってそうですね」
領主様が誉められたのが、自分の事のように誇らしくなるブーケ。
「その領主様には、ある趣味が有るのです」
「どんなの?」
「食べ歩きです。それはもう凄く、若い頃には奔放と人類大陸のグルメ旅をしていたと話も。そんな領主様は、食べた中で素晴らしかった料理は都市の掲示板に貼って宣伝していました。」
話を続けていた二人の足はいつしかた止まっていた。
目の前には大小それぞれの紙が貼られた掲示板が立っていた。
紙には、意外にも綺麗な文字と手描きの地図が書かれている。
「いつしかバビオンの名物になり、バース様が駆け回って食べる姿から、バスRUNガイドと呼ばれといます」
「それがこれなんだ」
「ええ、舌が肥えていてコメントも的確なんで、皆さん参考にするんです。ここに載っている店に行けば、ハズレは絶対に無いです」
「へ~、あの下に書いてある星は何?」
アンが指差した先には、紙に印された★のマークがあった。
星の数はまばらで最高で四つ、最低でも一つは付いていた。
「あれは評価です。数が多い程、美味しさが上がっていきます。まあ、星一つでも凄い評価ですが。・・・速いですね、既に露店の評価があります、流石は領主様」
「お兄ちゃんの店も有るかな」
「どうでしょう。この祭での飲食関連の露店は数が多いですからね。既に貼られている店のは祭前に宣伝していた有名店のものですし」
まあ、有名店だからと言って、必ずしもガイドに載る訳ではない。
バースはサクラなどは一切せず、正直者である。
それがまた市民の信頼を生んでいる。
「セーイチ様の料理は美味しいのですが。それこそ大きな運があって、領主様に偶然巡り会わない限りは、こんなに早くに貼り出される事は無いでしょう」
説明を終え、ブーケはどの店に行こうか見ていると、衛兵が一人現れ、バスRUNガイドに新たな紙を貼り付けた。
その紙にはなんと、
「あ、あれはセーイチ様のお店の評価!? 」
「本当だ。しかも、星が五個もあるよ」
噂をすればなんとやら、ご都合展開の如く、新たに追加された紙には誠一の店についてが記されていた。
全くもって運が良すぎる。
アンはその評価を見て、笑顔を浮かべる。
好きなマコトお兄ちゃんが高い評価をもらったのが嬉しいのであろう。
しかし、
「・・・まずいですね」
「お姉ちゃん?」
何故かブーケの顔色は優れず、喜びではなく哀れみの感情が浮かんでいる。
書かれた文章は誠一の料理を褒めちぎり、星が五個も付いている。
故に何がダメなのかアンには判らない。
首をかしげるアンにブーケは言葉をかけた。
「ご飯を食べた後にセーイチ様のお店に寄りましょう。答えが解りますよ」
~数時間後~
「肉まん三つ頼む!」
「私はリンゴジャム」
「おい、料理はまだなのか!」
「レシピが無くなったぞ、追加してくれ!」
昼食を終え、戻ってきたアンは誠一の店の前に出来た人の塊に唖然としていた。
塊を構成している全員が誠一の料理を求めない訪れた客だ。
「あぁ、やっぱりこうなりましたか・・・」
ブーケは自分の想像と違わなかった光景を見ていた。
星は最大で五個なのだが、滅多な事では五つも星は付くことはない。
バスRUNガイドに掲載されただけでなく、領主様から最大の評価をされたのだ。
店が繁盛しない筈がない。
しかし、大量の客に対応するのは誠一はただ一人。
その結果―――――
「誰か、へるぷみー!!」
誠一の悲鳴は虚しく、祭の喧騒に響くのであった。