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11、第一号

文章が下手ですみません。

「始まったわね。しかし、あの領主様も変わらないわね」


「あ、レヌスさん。その格好は?」


いつの間にか、店の前にレヌスさんが立っていた。

小人の楽園で良く見るエプロン姿ではなく、何故か衛兵の制服の格好だ。

上着のサイズが合っていないのか、大きな胸がきつそうに押し込められている。


「ボランティアよ、ボランティア」


「ボランティア?」


「こんなに人が多いと、親とはぐれて迷子になる子供が必然的に出るのよ。そういった子供を保護して迷子 センターまで送るの」


「用事って、その事だったんですか」


「私の将来の夢は迷子センターのお姉さんだったのよね~」


「失礼ですが、あんたの夢が叶わなくて、俺は心底ほっとしましたよ」


もう習慣になりつつあるツッコミ作業をする。

俺も成長したなあ・・・嬉しくないが。

そんな事を思っていると、魔導式拡声器から音が流れてきた。



ピンポンパンポーン♪



『迷子センターからのお知らせです』



「ほら、早速出たわ。こんな感じで連絡されるのよ」


「へー、なるほど」


日本のデパートみたいだなと思っていると、



『迷子センター担当の衛兵が気絶させられ、衣服が剥ぎ取られました。現在、犯人は衛兵の服を奪い、逃走。容姿は女という事しか解っていません。皆さん、サイズの合っていない衛兵服を所持した不審な人物を見つけ次第、連絡を下さい』



そう告げ、拡声器は動きを止めた。


放送を聞いていた人々は、物騒ねぇと心の不安を口から漏らしている。

俺はその放送にとてつもなく思い当たる人物を知っている・・・てか、目の前にいる。

俺はしばし固まっていたが、話を切り出した。


「・・・レヌスさん、ちょっとそこまで一緒に付いて来てくれませんか」


「ああっと!急に用事を思い出した!」


レヌスは脇見もせずに、駆け抜けた。

チッ、勘づかれた!しかも意外に速い。


「逃がすか!!」


「何やってんじゃ、セーイチ」


逃げた犯人(レヌス)に追撃しようとしていたら、後ろから声をかけられた。

振り向くとラフな格好をしたベルナンさんが立っていた。


「ベルナンさんですか。ちょうど今、罪を犯した知人を捕らえようと」


「どんな知り合いじゃよ。そもそもお前さんが離れたら誰が店番するんじゃ」


確かに頭に血が上って、冷静じゃなかった。

ベルナンさんに注意され、自分の愚行を反省する。

流石はギルマス、しっかりしているな。



ピンポンパンポーン♪


『現在、ギルドマスターが職務放棄して逃亡中です。・・・あのジジイ、俺に全部押し付けて遊びに行ってんじゃねえよ!』

『副長、落ち着いて!言葉乱れてます』

『見つけ次第、生死問わず捕まえろ!!』

『殺しちゃ駄目ですよ!』



不穏な言葉のあと、ブツッと音をたて拡声器がきられた。

バビオンの市民は、またかと呆れていた。

俺はすぐに後ろを振り向いたが、ベルナンの姿は既になく、紙切れだけが残されていた。


『遊びに行きます、探さないで下さい』


「お前もかよ!」


ギルドでの話は冗談じゃなく、マジだったんかい。

自分の知人の非常識さを改めて目にし、脱力感に包まれていた。

まだ祭が始まったばかりなのに、何故俺はこんなにも疲れなければならんのだ。


「おい、店主」


そんな時であった。


またもや、呼びかけられた誠一。

どこか聞き覚えのある声のした方を見ると、知らない男性が佇んでいた。


「見たところ飯屋だと思ったんだが、まだやってないのか」


「あ、いえ、営業しています」


歳は四十あたりだろうか。身長は百九十はある、灰色の髪をオールバックに整えた男性が店の前に立っていた。

二人の知人の対応に疲れていた俺はしばらく呆けていたが、目の前の男性が客であると気づき、慌てて応える。

男性は俺の返答を聞き、そうか、と頷く。


「それは良かった。ところで店主、ここは何の料理を売っているんだ」


「えーと、三つの料理をやっているんですが・・・説明しても解りづらいと思うので、ひとつ味見をどうぞ」


「いいのか?」


「お客様第一号なんで、オマケですよ。その代わりと言っては何ですが、出来れば宣伝して頂けるとありがたいですが」


誠一は早速、お客をもてなすために、調理機器の蓋を開ける。

蓋を開けた瞬間、閉じ込められていた湯気が誠一を包む。

突然のことに男性客は驚くが、誠一は少しも気にせず料理を取り出し、サッと紙で包んで男性客に手渡した。


「どうぞ、肉まんです」


「おお・・・!」


肉まんからは、まだ湯気がたっている。

男性は誠一から肉まんを受け取り、驚く。

柔らかそうな生地から軽いと思っていた料理は、意外にもズッシリと重みを感じた。

初めて見る料理を男性客はマジマジと眺め、誠一に質問をする。


「この、肉まんと言ったか。パンの一種なのか?」


「どちらかと言うと饅頭ですが、まあ、そんな感じです。中は熱いので気をつけて下さい」


「ふむ、では頂くか」


男性は興味津々な顔をし、肉まんにかぶりつき、目を瞑りながら咀嚼を続けた。

誠一が男性の反応が無いことに不安になっていると、


「旨い!ふんわりとした皮の中にぎっしりとジューシーな肉と甘い玉ねぎが詰まっている。溢れてくる肉汁が仄かに甘い皮に染み込み、それがまたたまらん!」


目をカッと見開き、称賛の声を上げた。

まるでグルメリポーターのようなコメントを聞き、誠一はほっと安堵の息を吐いた。

男性はしばし肉まんを味わっていたが、誠一に疑問を問うてきた。


「しかし、一番の驚きはこの生地だ。どうすれば、こんなに皮が白く柔らかく焼けるのだ」


「それは、焼いたのではなく、蒸したんです」


「ムシタ?」


蒸すという言葉を聞いたのは、男性にとって初めてだろう。



何故なら、ガルテアには「蒸す」という技法が存在しない。



レヌスさんのプリンが()()のではなく、()()れていたのに疑問を感じ調べた結果、判明した。

アンちゃんが祭前日の確認で、蒸器(むしき)が壊れていると勘違いしたのは、この為だ。

俺はサンプルの蒸器を男性に見せながら、説明した。


「一段目の鍋で水を沸騰させ、二段目の鍋で上がってきた水の熱で調理をするんです。料理の作り方を知りたい場合は、店の隅にレシピが置いてあるので、ご自由に取ってて下さい」


「そんな方法があったのか・・・他の料理も一通りくれ!」


「はい、喜んで。ひとつは少し時間がかかりますので、先にこちらをどうぞ」


俺は石窯から二品目を取り出した。

それは、きつね色をした麺棒のように細長いもの。

この料理もまた男が初めて見るので、どんな味なのか皆目検討つかない。


「何だ、この棒状の料理は?」


「本来は半月型なんですが、カルツォーネと言うピザです」


「ピザ!?形が全く違うぞ!」


ガルテアには、勇者により広められたピザが存在する。

男性は、聖都でピザを食べたことがあり、知っている。

だからこそ、想像とかけ離れた形に驚愕せざるを得ない。


男性は確かめるべく、好奇心にまかせ片手に持ったカルツォーネにかぶり付く。


「うむ、たしかにピザだ!そして、文句の付けようが無く美味だ。もっちりとした生地に、トマトの旨味が濃縮されたソースとトロトロに溶けたコクのあるチーズが絡み合い、絶妙なハーモニーを奏でている。

何より、普通のピザと比べ、食べ易く、手が汚れにくい」


男性はあっという間にカルツォーネを食べ尽くし、勿体無いとばかりに口元に付いたトマトソースを舌で舐めとっている。

誠一はお客第一号様の反応を見て笑顔を浮かべ、三品目を提供した。


「お待たせしました。唐揚げ串です」


ジュ~と音をたてる茶色の塊が四つ、木の串に刺さっている。

これまた男にとって初見の料理。

だが、目の前の誠一が作った今までの2品が、あれほどまでに美味だったのだ。これが不味い筈がない。

料理を受け取ると、二の次も告げず即座に唐揚げに噛み付いた。


「あ、熱ッ!だが、旨い!カリッとした食感の後に、中に閉じ込められていた肉汁がじゅわと口一杯に広がる。プリッとした肉には、何もかかっていないのにしっかり味が付いている。ところで、一体どうすれば、こんなに周りがカリカリに?」


「これは高温に熱した大量の油に小麦粉をまぶした鶏肉(正確にはコカトリス肉)を入れ、調理するんです。この技法を揚げると言います」


男性に説明しながらも、誠一の頭には、何故揚げる技法が広まってないのかという疑問が浮かんだ。

だが、今は目の前のお客様が優先だ。

誠一は、シメを男性に渡した。


「喜んで頂いたようで嬉しいです。最後にこれをどうぞ」


「これは・・・さっきのカルツォーネ?」


男性は(いぶか)しそうな表情を誠一に向けるが、誠一は笑ったままで答えない。

誠一の表情を見て、何かを察した男性客は目を細める。


「何か企んでいるな、店主」


「なーに、ちょっとした戯れですよ」


「・・・良いだろう。お前の考えに乗ってやろうではないか!」


誠一の企みに真正面から挑戦し、出されたカルツォーネに喰らいつき―――――


瞬間、男性の脳裏に電撃が走った。



「これは・・・甘い!?」



口に広がるのは、男性客の予想に反して甘味。

甘酸っぱい果実が生地に包まれ、柔らかくなりながらも僅かに残るシャキシャキとした食感が男の口を支配する。

料理の虜になっている男性客に誠一は説明をする。


「リンゴジャムです。くし切りしたリンゴをレモン汁と砂糖で煮詰めました。デザートとしてどうぞ」


驚愕した男性を見て、自分の思惑(イタズラ)が成功したの知り、誠一は破顔した。

ハッと立ち直った男性は誠一のニヤニヤした顔を見て悔しそうに拳を握った。

そして、突如、男性は誠一に向かって、



「店主、全ての品を五品ずつくれ、リンゴジャムのは六品で!持ち帰りでだ」


「毎度ありがとうございます」



男性の要求に満面の笑みで誠一は答えるのだった。



教えて!お料理コーナー!


Q、マルゲリータピザの『マルゲリータ』って、どういう意味?


A、それはマルゲリータ王妃が食べて気に入ったからだよ。

ちなみに、マルゲリータピザはバジリコ(バジル)の緑にトマトの赤、チーズの白でイタリアの国旗を表しているんだ。

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