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8、歓迎

互いに笑った後、俺たちは食後の紅茶を飲んでいた。

というか、ガルテアにも紅茶はあるんだ。

緑茶もあるのかな?

誠一がそんな事を思いなから飲んでいると、レヌスが話しかけてきた。



「それでセーイチ、あんたは今後はどうするつもりなの?」


「とりあえずギルドでお金を稼ごうかと。ギルドの仕事はどういったものなんですか」


「色々ね。ギルドに届いた依頼を達成して報酬をもらうの。依頼は家の手伝いからモンスター退治、貴族の護衛なんかもあるわ」



報酬は依頼の難易度により変わり、緊急依頼などもあるそうだ。

しかし、ランクが低いと危険な依頼は受けられない。

俺の今のランクは登録したてで、最も低いFランクだ。

コツコツ稼いでいくしかないな。

自分の店を持つのは当分は先だなと少し落ち込んでいると、レヌスさんがある事を聞いてきた。



「そういえば、仕事をしている間、アンちゃんはどうするの?」


「・・・宿に待っていて貰おうかと」


「それじゃ、アンちゃんが可哀そうでしょ・・・そうだ!私が面倒見てあげるわ」


「・・・・・・」


「何よ、その目は!何が不満だってのよ」


「不満じゃなくて、不安なんだよ変態」


「大丈夫、絶対に舐めたりなんかしないわ」


「そもそもの基準がおかしいだろ!」



しかし、何気にレヌスさんに任せるのが、今のところ一番良い方法だ。

俺が悩んでいると、アンちゃんが俺の袖を引っ張り話しかけてきた。



「お兄ちゃん。私、ここでお手伝いする」


「本当にいいの?」


「うん、私もお兄ちゃんの役に立ちたいの」


「アンちゃん・・・!」



可憐な笑顔で主張するアンちゃん。

まったくこの子はなんて良い子なんだ。

俺はアンちゃんの意志を尊重して、レヌスさんに頼む事にした。



「レヌスさん。お言葉に甘えて、アンちゃんをよろしくお願いします」


「良いわよ。この子の事は任せなさい」



誠一の言葉にレヌスは真剣な顔をして応えた。



「レヌスさん・・・」


「堅苦しい礼なら要らないわよ」


「また涎が垂れてます」



慌てて涎を拭くレヌスを見て、誠一は本当に大丈夫なのかと心配になるのであった。


◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆


不安を残しながらもアンをレヌスに預け、誠一はギルドに足を運んでいた。

早く報酬の高い依頼を受けるためにも、ランクアップ目指して意気揚々として来たのだが、



「あの、セーイチ様。ギルマスからの呼び出しがあります」


「え~」



出だしから(つまず)いていた。

依頼を受けようと、受付嬢ブーケの持っていくとベルナンさんに会いに行けと告げられた。



「絶対に行かないといけないのか?」


「あ、当たり前です!ここのギルマスですよ、バビオンで二番目に偉いんですよ!」



必死に力説するブーケ。

ベルナンさん、そこまで凄かったのか。

だが、今は全く行く気分ではない。

解りやすく例えるなら、昼飯にラーメンを食べるつもりだったのに、カレーを食べる事になったみたいな。

・・・余計に解りにくいか。

とにかく、今はそんな気分ではない。



「じゃあ、この依頼終わった後に会うよ」


「すぐに行って下さい!会いに行くまで、依頼は受理しません!」



これならどうだ、とばかりにドヤ顔をするブーケ。

それを見て俺は、しょうがないなとため息を吐いて、



「じゃ、今日は帰るわ」


「お願いですぅ!行ってくれないと私も怒られるんですよー!」



ちょっとした意地悪で帰るフリをしたら、ブーケに泣きつかれて懇願された。

普通に可愛いい顔をしているのに、涙と鼻水まみれで台無しだ。



「はぁ、分かったよ」



俺はため息を吐きながら重くなった足を二階へと進めた。


しかし、一体何の用だ?

心当たりがまったくない。

疑問に思っていると、ギルドマスターの部屋に着いた。

誠一は少し不安になりながらも扉を開けると、ベルナンが準備体操をしていた。



「おお、来たかセーイチ」


「おはようございます、ベルナンさん。それで何で俺は呼び出されたんですか?」


「それは勿論セーイチの特訓をする為じゃ」


「・・・はい?」



ベルナンの突拍子な発言に、困惑する誠一。

突然の計画を聞かされ唖然とする誠一に構わず、ベルナンは続ける。



「これからは毎朝ワシの所に来なさい。闘い方を一から教える」


「ちょ、ちょっと待ってください。俺は早くランクアップしたいんです」


「それならセーイチはBランクにしといたから大丈夫じゃ」


「はあ!?」



何それ!全く知らないんだが。

ベルナンは急な展開に付いていけない誠一などお構い無しに話を続ける。



「昨日、セーイチが倒した酔っ払い共が居ったじゃろ。過去の犯罪もボロボロと露わにされての。ギルドに貢献したという事でBランク昇格、それと賞金として銀貨十枚が授与じゃ」



机の上に置いてあった銀貨の入った袋をベルナンがホイと投げた。

セーイチは呆然となりながら袋を受け取る。



「さて、これで断る理由も無くなった訳じゃ。これなら問題ないじゃろ」



気付けば誠一の逃げ道は(ふさ)がれていた。

こうして、ベルナンの指南が始まったのだった。


 ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ 


日が沈み、ギルドから宿に戻ってきた誠一はレヌスに今日の出来事を話していた。



「・・・という事があったんですよ」


「ベルナンのお爺ちゃんがねえ」



あの後、辺りが暗くなるまで特訓は続いた。

今日は剣の握り方から、心得まで戦いの基礎を一通り叩き込まれた。

明日からは午前の間だけと言っていたので、依頼は午後に受けることにした。


因みに訓練する場所は、想造魔法で作った異空間で行われた。

ベルナンさんに言われてやってみたら、普通に出来てしまった。

この事はレヌスさんには話さず割愛をしたが。



「でも、良い事だらけじゃないか。通常よりも早くにランクアップして大金も手に入った。しかも、あのベルナン直々に手取り足取り教えてくれるんだから。普通じゃ有り得ないわよ」


「そうなんですけど、ズルしたみたいで・・・ところで、やっぱりベルナンさんって凄かったんですか?」


「ベルナンのお爺ちゃん、衰えちゃったけど元SSランクだしね。昔は多くの人が弟子にしてくれって殺到したのよ。まあ断固として首を縦に振らなくて、今じゃ頼み込む人はいなくなったけど」



強いとは思っていたが、そこまで凄かったのか。

自分の境遇は幸運なんだなと改めて思い直す。

口添えしてくれたホブスさんと俺の為に時間を割いてくれるベルナンさんには感謝が絶えないな。


・・・ところで、



「アレは何ですか、レヌスさん」



気になっていた物に視線をずらす。

視線の先にはお盆を持って食事を運び、お手伝いをするアンちゃん。


だが、気になったのはそこではない。


アンちゃんが着ているのは黒のワンピースに、フリルのついた白いエプロン。

膝まで伸びたスカートからフサフサな尻尾が右に左にと振られている。

その服は間違いなく、アレであった。



「何故にメイド服・・・」


「可愛らしいでしょ!」



そう、アンちゃんは地球の秋葉原でよく見かけるメイド服の格好に包まれていた。

いや、たしかに似合っているんだが。



「絶対似合うと思って、友達の所持品から借りてきたのよ」


「何で友達が子供サイズのメイド服持ってんだよ!あんたの周りは変態ばっかなのか」


「なに怒ってるのよ。可愛いでしょう、プリンを買いに来たお客さんが頑張ってるアンちゃんを見て『大丈夫?』『怖くない?』とか心配されて、もう『小人の楽園』のマスコットよ。見回り中の衛兵も、あまりのアンちゃん美しさに驚いて二度見していたんだから」


「誘拐されたと疑われてるだけだろ!」



本当に、この人は何で捕まらないんだ。

俺がレヌスさんに頭を痛めていると、アンちゃんが不意に声をかけてきた。



「ま、マコトお兄ちゃん。私が可愛くないから怒ってるの」


「え・・・」



どうやらアンちゃんは、俺がレヌスさんに大声でツッコミをいれてるのを、自分が似合ってないからではないかと不安になったようだ

尻尾もしょぼくれて、小さな瞳からは涙が溢れ出そうとしている。

俺は慌てて、アンちゃんの勘違いを正した。



「ち、違う違う!とても似合ってるよ」


「・・・ほんとう?」


「本当だ、嘘じゃないよ」


「・・・良かったぁ、嬉しい!」



誠一に褒められたアンちゃんは花のように清純な笑顔を咲かせる。

気分を良くしたのか、尻尾を千切れんばかりに振り、皿の片づけをしに去って行った。

そんなアンちゃんの後姿を見守っていると、俺の肩にポンと手が置かれた。

誠一が振り向くと、レヌスさんがサムズアップをしていた。



「ようこそ同志よ。今日はお祝いだな」


「俺はロリコンじゃねえ!」



誠一のツッコミが『小人の楽園』に響いたのであった。


これからも頑張ります!

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