6、喧嘩
「つまり、ベルナンのお爺ちゃんに薦められて、この宿に来たと。私はレヌスって言うの」
「俺は誠一です。気軽にセーイチと呼んで下さい」
現在、俺たちは『小人の楽園』で椅子に座り、話合っていた。
アンちゃんはレヌスさんが怖いのか、俺の袖を掴み離れまいとしている。
動物大好きな睦美さんが飼っていたチワワを思い出すな。
怯えるアンちゃんを見て、レヌスさんは、
「ハァハァ、保護欲を掻き立てられてスゴク良い!守ってあげたくなっちゃう」
「落ち着け、今のあんたは襲う側だ」
鼻息を荒げて興奮している。
アンちゃんを守る為、いつでも拘束できるように備えている。
しかし、
「弟は過保護で姉は変態って、ベクトル真逆だろ」
「あの愚弟。『アンちゃんを貸して(半永久的に)』て言ったら拒否されてね。それ以来、過保護になったのよ」
「全ての元凶はあんたか!」
そりゃ、トラウマで過保護にもなるわ。
というか、俺はこの人のせいで二回も死にかけたのか。
何で、この変態は捕まっていないんだ。
「うへへへ、食べちゃいたいぐらい可愛いわねその子」
「レヌスさん、本当に大丈夫ですか?」
「任せなさい!・・・ジュル」
「衛兵さーん!ここに変態がいまーす!」
「冗談よ、冗談。安心なさい。この宿、『小人の楽園』では子供の安全を私が保証するわ」
「レヌスさんだから心配なんだが。てか宿の名前の意味、薄々分かってはいたが、やっぱりか・・・」
「大人はどうなっても構わないけど」
「格差ありすぎだろ!」
不安になりながらも、他に宛もないので泊まることにした。
すると、隣のアンちゃんのお腹の虫が鳴いた。
その音を聞いたレヌスさんは席を立ちあがり、袖を捲くった
「夕飯作ってあげるから、待ってなさい」
「・・・ありがとう」
「ありがとうございます、レヌスさん」
「銅貨一枚ね」
「金取るのかよ!・・・て、宿だから当たり前か」
「アンちゃんは無料で良いわよ」
「おい!」
~数十分後~
「はい、どうぞ。食糧が残り少ないから、これしか出せないけど」
レヌスさんは机に料理を置いた。
机に並べられたのは、野菜入りのスープに皮がパリパリな丸パン。
そして、
「これは・・・プリンですか!」
「あら、知ってるの。そう、これは『小人の楽園』の名物よ!勇者の失われたレシピを苦労して文献から調べ、研究して、子供の為に作ったの!」
動機は不純だが、そのぶれない熱意に尊敬する誠一。
だがレヌスは突如、疑問を浮かべた顔をした。
「美味しくて有名なんだけど、子供は全く来なくてね。代わりに保護者が買いに来るのよ。何がいけないんだろう?」
「鏡を見れば、原因が写し出されますよ」
レヌスさんへのツッコミをほどほどにし、俺はプリンを観察する。
表面が焦げているところを見ると、焼きプリンか。
食べようとカップを持つと、冷気が手から伝わってきた。
「どうやって冷やしているんですか?」
「宿の裏に深く掘られた井戸にがあってね。そこに濡れないように専用の容器に入れて、沈めているのよ」
なるほど、本当に工夫してるな。
プリンについて考えていると、アンちゃんが食事を食べきっていた。
「おいしかった!」
「そう、嬉しいわ!」
プリンを深く気にいったのか、さっきまで警戒していたレヌスさんに笑顔を向けた。
レヌスさんはアンちゃんが喜んでいるのを見て、自分の事のように満悦の表情だ・・・あ、また涎垂らしてる。
しかし、アンちゃんの言葉は、そこで終わりではなかった。
「だけど、お兄ちゃんの料理の方が好き」
瞬間、レヌスさんの表情が固まる。
俺はレヌスさんの変化には気づかず、プリンを口にしていた。
スプーンをプリンに沈め、すくい取る。
削り取られたプリンはその形を崩さず、プルプルと揺れている。
焼かれているため、香ばしい匂いが鼻をくすぐる。
口に入れると、甘すぎず濃厚な卵とミルクの味が広がった。
食感は硬すぎず、柔らかすぎずの絶妙な食感。
トロッとしたプリンも好きだが、こういった硬めのプリンも良い。
スプーンが底にたどり着くと、下に隠れていた褐色のカラメルが溢れてきた。
今度はプリンとカラメルソースを絡めて口に運ぶ。
瞬間、カラメルのほろ苦さとプリンのクリーミーな風味が広がる。
カラメルのほろ苦さがプリンの味を更に浮き彫りにする。
全くもって良くできている。
誠一がプリンを味わうのを楽しんでいると。レムスが話しかけてきた。
「・・・セーイチ」
「ん?何ですか、レヌスさん」
「私と勝負よ!」
「・・・ハイ?」
何故かレヌスさんに勝負を申し込まれた。
◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆
問答無用で勝負する事になり、誠一は宿の厨房に案内されていた。
厨房は広く、竈と石窯がある。
「食糧庫はこっちよ。厨房は好きに使っていいわ」
「何でこんな事に・・・」
まあ、好きな人が自分の自慢の一品よりも他人が作った物の方が良いと言われたら、そりゃ対抗心わくわ。
しかし、食材が全くないな。
「週一で買っていてね。ちょうど、明日に買いに行くの。プリン用の食材は残っているんだけど、他はほとんど残ってないのよ。あ、蜂蜜は少し残っているわ」
「そうですか・・・あのパンは使わないんですか?」
机の一角にカゴに入れられた丸パンが目についた。
「恥ずかしいことに、パン屋に仕入れの数をミスって伝えちゃってね。使いきれなかったの」
俺も店を始めた頃はよく間違って、失敗していたな。
懐かしくなりながらもパンに触ると、長時間経ったためか硬くなっている。
「勝負は市場で買ってきた後になるから、明日の昼ね」
「・・・いえ、他の食材は必要無いです」
「は?」
限られた食材で料理を作る。
そんな事は地球でもよくあった。
この場にある食材で作れるメニューを考え、レヌスさんに宣言した。
「俺は、この乾燥して硬くなったパンを使って朝食を作ります」
誠一はレヌスにパンを見せつけ、売られたケンカに挑むのだった。
食事の表現描写が下手ですみません。
明日の投稿は21:00になります。
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