5、変
俺はベルナンの手を借り、起き上がった。
頭も冷静になった。
先程からのベルナンさんの発言、そこから導き出される解答は
「心を読『ブブー、チガイマース!』・・・」
俺が喋っている最中に、被せてきたベルナンさん。
変顔で言ってくるので、腹立つ。
「惜しいけど全く違うんだな~これが」
「じゃあ一体何なんですか」
「それは・・・教えな~い!」
「殴っていいですか」
「殴れたらの~」
む、ムカつく。
あのドヤ顔を今すぐ殴りたい。
出しそうになる自分の腕を抑える俺に、ベルナンさんは表情を戻し話しかけてきた。
「それと小僧、出来ない事は軽率に考えるんじゃないよ」
「出来ないって何がですか」
「脅しじゃよ」
「そんな事できま」
「人を殺した事も無いのにか」
「・・・!」
ベルナンさんの言葉に、思わず口をつぐむ。
先程までとは違い、真剣な顔をし誠一に語りかける。
「小僧が本気を出したら、ワシどころかこの都市すら消せるだろう。しかし、小僧。それをお前さんはやらない」
事実を改めて知らされ、自分が化け物と大差無いなと自嘲する。
そんな落ち込む誠一にベルナンは諭すように優しい声をかける。
「小僧について全ては分からないが、本心は伝わってくるからの。お主は間違いなく『善人』じゃよ。じゃから安心せい」
ベルナンさんは不安になる俺の背中を押すように断言した。
「困った事があったら、ワシの所に来なさい」
「・・・ありがとうございます」
ベルナンは笑顔を誠一に向けた。
誠一はベルナンさんが信用に足る存在だと思った。
「さて、新人への忠告はここまでにして、世間話をしようかの」
◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆
その後、ベルナンさんと様々な話をした。
過去にホブスさんが起こした失敗、現在の親ばかっぷり、レダさんとホブスさんの初々しかった頃の話にベルナンさんが振り回されたなど。
話は盛り上り、気付けば日が沈みかけていた。
「おお。もう、こんな時間か」
「しまった、宿まだ見つけてないのに」
「なんじゃ、まだ宿をとってないのか」
「バビオンに着いて、すぐに留置所にいたので」
「・・・入って早々、何やってんじゃよ」
誠一の言葉に呆れていたベルナンはある事を思い出した。
「それだったら、ちょうど小僧にピッタリな所があるぞ」
ベルナンさんは思い出したように、紙と筆を取り出し何かを書き始めた。
てか、羊皮紙じゃなくて紙なんだな。
これも勇者の誰かが伝えたのか?
そんな事を疑問に思っていると、ベルナンさんが書いていた紙を渡してきた。
「『小人の楽園』と言う名前の宿じゃ。そこの主人はホブスの知り合いでの」
「そこは何処にありますか?」
「ここから直ぐじゃよ。ほい、そこまでの地図じゃ」
「ありがとうございます。では、また」
「おう。今度はお茶菓子でも用意しておくよ」
ベルナンさんに別れを告げ、俺は寝てしまったアンちゃんをおぶって、宿を目指した。
◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆
「・・・セーイチか」
ワシは部屋で思い返していた。
五人組の酔っ払いの苦情が来たから、成敗する為に赴いた。
だが、ワシが手を出す前にアノ小僧が倒してしまった。
しかも、ホブスの知り合いときたものだ。
「しかし、あのホブスがの・・・」
ホブスから渡された手紙には、セーイチが勇者であること、恩があることが書いてあった。
そして、最後にこう記されていた。
『セーイチは化物みたいに強い』
『だが、心配する事はない。アイツは只のお人好しなバカだ』
『セーイチは言わば力を持ったガキだ。戦闘技術を教えてやってくれ』
『俺よりジジイの方が上手いはずだ』
『頼む』
あの生意気でワガママなガキが、ワシに頼ってきた。
「ワシに頭を下げるとは、人は変わるものだのう」
手紙を読んで、ワシはセーイチが危険ではないのかと危惧し、部屋に来るように呼んだ。
そこでセーイチの心の内を探ったのじゃが、
「とんだ無駄骨だったのう」
セーイチの心から、人を絶対に殺したくないと伝わってきた。
恐らくじゃが、平和な場所に暮らして常識として教えられたのじゃろう。
だが、ワシがセーイチを信頼したのは、それだけではない。
セーイチの心から最も伝わってきたのは、料理への熱意であった。
基本的にセーイチは自分の料理で人を喜ばそうとしか考えていなかった。
巨大な力を持っているのに、料理の事で頭がいっぱいじゃった。
ベルナンは思わず苦笑を洩らす。
「まあ、そもそも神が選定して転生するタイプに悪人であるわけが無いのじゃが」
しかし、何とも矛盾した小僧だったのう。
どれ程のものかと試してみたが。
あんなワシの小細工に引っ掛かるとは。
動きも、てんで素人じゃし。
膨大な力はあるのに、使い方を全く知っておらぬ。
正しく赤子じゃ。
「これは鍛えがいがあるの。ホッホッホッ」
ベルナンは朗らかに笑い、また訪れて来るのを楽しみに待つのだった。
◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆
アンをおんぶしてギルドから出た後、誠一は小さな二階建の宿屋の前にいた。
木の看板には、『小人の楽園』と彫られており、端に子供の絵が描かれている。
「ここか。ギルドから近くて日当たりも良いし、絶好の場所だな」
「うーん・・・ここはどこ?」
「お、起きたかアンちゃん。今日はこの宿に泊まるよ」
「はーい」
俺の背中から降りたアンちゃんは目を擦りながら欠伸をしている。
俺もアンちゃんも疲れていることだし、さっさと入るか。
安ければいいなと思い、誠一は扉に手をかけた。
カランコロンとベルの音が鳴り、食事場らしき場所が目に入った。
そして、その中心にはエプロンを着け、犬耳の生えた三十代ほどの女性が佇んでいた。
この人がホブスさんの知り合いだろうか。
女性はベルの音に反応し、長く青い髪を翻しながら入口の方を向いた。
「ひ、久しぶりの幼女!ハァハァ・・・」
「すいません。店、間違えました」
女性がアンちゃんを見て、狂ったとしか思えない発言をしたのを聞き、俺はすぐに扉を閉めた。
・・・何か前にもこんな事があったような。
俺は扉から一歩下がり、看板を確認する。
看板には『小人の楽園』と書かれていた。
俺は現実に目を向けられず、逃避に入る。
「あ、もしかして偶然にも同じ名前の店か」
「『小人の楽園』はバビオンに一件しか無いわよ」
「マジかよ。じゃあ他の理由が―――」
あれ、俺は誰と会話をしているんだ?
俺は隣に視線を移すと、
「いらっしゃい。ようこそ、『小人の楽園』へ」
「ぐ、くるちい・・・」
アンちゃんを大きな胸に埋めながら抱きしめている青髪の女性が当たり前のようにいた。
女性のご満悦の表情を浮かべ、だらしなく笑っている。
「ねえ、この子貰っても良い?」
「変態退散!」
「ぶべっ!」
無意識に俺は1ホブスの力で女性を殴っていた。
やば、ついツッコミの拍子でやってしまった。
しかし、
「・・・甘いわね。そんなんじゃ私は倒せないわよ」
「立ちあがった!」
ば、バカな!なんとも無いだと!?
そして、混乱する俺の頭にふと浮かぶワード。
このタフネスさ、犬耳、既視感、そして子供好き。
ベルナンさんは知り合いと言っていたが、
「もしかして、あなたはホブスさんの血縁者ですか」
「ん、お客さん。私の愚弟の知り合いなの?」
ベルナンさんが言っていたホブスさんの知り合いは、ホブスさんの変態な姉であった。
いつも読んで頂き、ありがとうございます!
ベルナンさんの能力はまだ秘密ですが、第弐章の終わり辺りで出したいと思います。
これからも頑張りますので、よろしくお願いします!
※明日の投稿は21:00になります




