3、 ふりだし
沈黙に包まれたギルド。
「ふぅ~、ちゃんと手加減できて良かった!」
その中で誠一は、達成感に満たされていた。
男が無事飛んでいったのを確認し、誠一はホブスとの特訓を思い出した。
◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆
「いいか、誠一。ギルドに入ったら大抵は誰かに絡まれるから、倒せるようにしとけ」
「それ、決定事項なんですか?」
林の中でホブスと誠一が立ち会っていた。
誠一はこれからの為に、ホブスから教えを乞うていたのだ。
「絡まれた場合は相手に攻撃をさせてから、思いっきりブン殴れ。周りがドン引きするくらい。相手が先に手を出せば、捕まる事もない」
「いや、当たり屋じゃないですか、それ。そこまでする必要あるんですか、やり過ぎでしょ」
「十分ある。むしろ、そこまでしないと面倒くさい事になるぞ」
「どういう事ですか?」
ホブスさんは真剣な顔を作り、まっすぐこちらを見据えている。
俺は背を正し、話の先を促した。
「まず、倒せないと最悪の場合、死ぬ」
「いきなり、ハードル高いな」
「普通に倒したら、復讐があるだろう」
「ほほう・・・」
「だからこそ、相手に復讐の気さえ無くさせるぐらい、ぶちのめした方が良い。ついでに慰謝料として金を奪えば、懐も潤う」
「最終的に俺の方が質が悪くなってんじゃねえか!」
心配しか感じないよ、その作戦。
やっぱり、この人は残念だった。
「大丈夫。この通りやればギルドのメンバーから注目を集める。これで誠一も友達百人できるさ」
「俺は子供か!」
「ちゃんと、あっちで頑張るのよ。友達と仲良くしなさいね」
「お前は母親か!?」
ツッコミの連続で疲労感が半端なく、ハァハァと息が乱れてしまった。
ホブスはボケるのを止め、話を続けた。
「途中からふざけてしまったが、これは本当の事だ。それ以外に方法を思いつくか」
「・・・確かに、その方法が妥当かもしれませんね」
自分で考えられる作戦を思いつく。
コンクリで海に沈める、大金で従わせる、亡き者にする、暗殺する・・・駄目だ、リスキーすぎる。
鮫島さんがいれば、もっと手軽に済んだのに。
「お前、意外に腹黒くないか」
「そんな事無いですよ」
だが、実際ホブスさんの言うように叩きのめした方がいいのだろう。
考えた末、俺はホブスさんの言葉を信じることにした。
しかし、それだとある問題が浮上する。
「だが、その前に誠一は・・・」
ホブスさんは溜息を吐き、ジト目でこっちを見てきた。
俺は目を合わせまいと顔を反らす。
二人の周りには、無残にもバラバラに砕かれた木々が散乱している。
先ほど、試しに殴ってみたところ、木がへし折れた。
軽く力を入れたつもりだったのに、この有様だ。
「手加減を覚えないとな」
「・・・はい」
こうして特訓が始まり、森の木が次々に犠牲になったのだった。
◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆
誠一は過去の訓練が無駄ではなかった事を実感し、努力が報われた。
すると、唖然としていた受付嬢が復活した。
「いや、いやいやいや!あれは、どこからどう見ても手加減できてないですよ!」
「何を言う。肉体が爆散せずに、ちゃんと原形を留めているじゃないか」
「基準自体がおかしいです!」
受付嬢は誠一の非常識ぶりにツッコミをいれていると、やられた男の仲間がショックから回復したのか、一斉に誠一に襲いかかってきた。
「うおおおおおおおおおお!」
「ジョナンの仇!」
「ぶった切ってやる!」
「俺の魔法を喰らえ」
流石は腐っていてもBランク。
見事な連係プレーで誠一に攻撃を仕掛けた。
それに対し誠一は、
「手加減ぱんち!×4」
「「「「ブベトバッ!?」」」」
四人を瞬殺し、壁に新たな穴を作った。
そして、ギルドの外から、また悲鳴が聞こえた。
「ふ、心配するな、峰打ちだ」
「あなたは剣使ってないでしょうが!」
「大丈夫だよ、100分の1ホブスの力しか出してないし」
「『ホブス』って何の単位ですか!」
「受付のお姉ちゃん、気にしたらキリが無いよ」
「小さい子に慰められたー!」
おかしいな、これで大丈夫の筈なのだが、どこが変なのか全く分からない。
不思議がる誠一に、アンちゃんに気を使われ落ち込む受付嬢。
ちなみに、1ホブスはホブスさん一人分の戦闘力で、100ホブスはバーサーカーモードの時に必要な戦闘力だ。
しかし、ギルドにいる人は全員ホブスさん並みとまではいかないが、力を持ってると思っていたが、意外に弱いんだな。
まあ、全員がホブスさんと同等の力を持っていたら、それはそれで困るのだが。
とりあえず、さっさと登録して、これから寝泊まりする拠点を探そう。
そう思い、涙を流す情緒不安定な受付嬢に話しかけ、
「おい、そこの君」
「ん?」
後ろからかけられた声により遮られ、話しかける事は出来なかった。
どこかで聞いた声だなと思い、後ろを振り向くと、
「ギルドから人が壁を突き破って、吹っ飛んできたって知らせがきたんだけど」
「・・・・・・」
門にいた衛兵が立っていた。
「ちょっと同行願えないかな」
「・・・はい」
誠一は再び留置場に行くため、足を進めた。




