1、 到着
新章開幕
雄大に広がる草原。
青い空を飛ぶ巨大な異世界の鳥。
そして、
エンジンを唸らせ、ガルテアを走るワゴン車が一台。
ファンタジーにそぐわないソレは違和感を醸し出し、ファンタジー感をブチ壊していた。。
しかし、ワゴン車の運転手はそんな事など気にせず前に進む。
それに乗っているのは勿論、
「スゴイ、スゴーイ!」
「始めは怖がっていたのに、適応力が高いね、アンちゃん」
「マコトお兄ちゃんだったら、しょうがないかなと思って」
「アンちゃんにとって、俺はどういうイメージなの・・・」
『ピギャ!』
「あ、また何か引いちゃった」
「私にも運転させてー!」
「それは、また今度ね」
「え~」
人狼族の少女アンと神のミスにより生まれたチート料理人の沢辺誠一であった。
『ピギャギャ!』
「あ、また引いちまった」
途中まで徒歩だったが、代わり映えのない風景に早くも飽きた二人。
誠一は別の移動手段を考え、地球で乗っていたワゴン車を思い出した。
車の構造は、常連客の『平成のエジソン』と名高い上田さんから良く話を聞かされていたので、ある程度は知っていた。
車を【森羅万生】で土から造り出し、ガソリンの代わりに魔力、エンジンの代わりに【想造魔法】でタイヤを動かしている。
事故防止の為に、バリアを張ってあるので安心だ。
はっきり言って、能力の無駄遣いである。
もしこの場に、魔法の知識を持つ者がいたなら白目をむいて驚愕しただろう。
多くの魔法が常時発動しているので、10メートル動かすだけで、常人ならば魔力が枯れ果ててしまうのだ。
だが、能力の副作用によりMPが神がかっているので、一週間走り続けても魔力が枯れることはないだろう。
そんな事を知らない二人は、時折響くクラッシュしたモンスターの断末魔の声をBGMに二人は突き進んだ。
~旅立ってから二日後~
夜は車で過ごすなどをして、車を走らせバビオンを目指した。
アンちゃんは助手席で寝ている。
そう言えば、赤ちゃんは、自動車の振動がお母さんの鼓動のように感じて、安心して寝てしまうと、産婆の丸子さんが言ってたっけ。
地球での事を思い出していると、遠くに草原にそびえ立つ人工物が見え始めた。
「おお、あれがバビオンか!アンちゃん、着いたよ。そろそろ起きな」
「ウ~ン、あと十時間・・・」
「前回も思ったけど、寝すぎだからねアンちゃん!」
走っていると、窓からチラホラと馬車に乗った人の姿も見えてきた。
なぜか皆、馬車から転げ落ちそうになっているんだが、何かあったのだろうか?
周りに変な事がないか見回してみるが、特に見当たらない。
「ふぁあ・・・マコトお兄ちゃん着いたの?」
「あ、起きたか。ほら見てみな」
「おお~、大きい!」
「まるで、西洋の要塞みたいだな」
車が十分近づき、バビオンが目視できるようになった。
都市全体が巨大な壁に囲まれた、見事な防衛が施された城砦都市が二人の前に広がった。
しばらく二人で見入っていたが、アンちゃんが何か見つけたのか、俺に話しかけた。
「マコトお兄ちゃん、あそこに兵士みたいな人が立ってるよ」
「お、じゃあ、あそこが入り口かな」
ホブスさんから「入口には見張りの衛兵が立っているから、そこに行け」と言われていたな。
俺はバビオンに入るため、ハンドルを切った。
◆ ◆ ◆ ◆
「・・・・・・なあ、アンちゃん」
「・・・・・・なに、お兄ちゃん」
アンと誠一は車を降り、入口の門の前に立っていた。
二人の顔からは生気が抜けていた。
何故こうなったのか、後悔しかない。
「武器を捨て、大人しく投降しろ!」
現在、誠一たちは衛兵に武器を向けられ、包囲されていた。
二人は自分たちの心のように青い空を仰ぎ、現実逃避をしていた。
「これって俺のせいかな?」
「こういうのは、大抵はお兄ちゃんが原因だと思うよ」
「・・・俺も、そう思う」
誠一にとってのバビオンの初の立ち入りは、衛兵に拘束され連行され足を踏み入れたのだった。




