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16、頼んで、頼って、頼られて

多くの要望・疑問があり、鳥モデルのバジリスクから、コカトリスに変更しました。

迷惑をおかけして、すみません。

真夜中となり、宴会が終わった。

参加し、騒いでいた村人達は各々の家に帰り、眠りについた。

疲れたのか、それとも酒の飲み過ぎで酔っ払ったのか、宴会の時とは一変し森は静寂に包まれ、月明かりが照らしている。

そして、そんな中、俺、誠一はどうしているかと言うと、


臨戦態勢でホブスさんと対面していた。


俺は全身を鎧で包み、右手には刀を、左手には盾を構えている。

対して、ホブスさんは自然体で立っているだけだ。



事は一時間前に遡る。



アンちゃんの爆弾発言の後、アンちゃんの説得を試みたのだが、断固として自分の意志を曲げず、俺は折れた。

だって、駄目って言おうとすると泣きそうになるんだもん。俺には無理だよ。


しかし、アンちゃんが一緒に来るとなると、一番の難関がある。


あの親バカ(ホブス)だ。

自分の娘が、村を出て俺に付いて来るのだ。

もし、そんな事を聞けば、間違いなくアイツは理性を失い、復讐の獣と化すだろう。


襲われると分かっていて話したくはないが、避けては通れない道だ。

そして、俺は【森羅万生】で造り出した刀、盾、鎧を装備し、万全の状態でラスボス(ホブス)に立ち向かい、現在に至る。





「いいぞ、別に」


「・・・・・・え?」





俺は耳を疑った。

ホブスの口から、予期しなかった言葉が放たれたからだ。

誠一は一瞬思考停止をしたが、


「有り得ない!さては、俺の隙を作って、亡き者にするつもりだな!小さな頭でそんな策を良く考えたな!」


「お前にとっての俺のイメージが良~く分かった。それについては後で問いただすとして、俺はいいぞって言ったんだ」


誠一はこれまでのホブスを思い出し、狼狽(うろた)えながら盾を構え直した。

自分の事を全く信用しない誠一に、青筋をたてながらホブスは説明した。


「前に夫婦でバビオンにいたって話したじゃねえか。あれは成人の儀で行ったんだよ」


「成人の儀?」


戸惑う誠一にホブスは説明をした。

ホブスさんの説明によると、人狼族では子供を村から旅に出し、世界を学ばせるそうだ。

ホブスさん夫妻は、幼馴染だったらしく、十三才の時に二人で一緒に村を出て成人の儀を行ったらしい。


「つまり、成人の儀のアンちゃんを俺に同伴させるという事ですか。でも、それって成人の儀として良いんですか?」


「いいんだよ。昔は誰も知人がいない地で、一人でやらせたそうだが、最近は、町にいる親戚の家に預けるなんてのもあるから」



なるほど、だからホブスさんは怒らなかったのか。

しかし・・・


「俺で良いんですか?」


「お前を信頼しているからな」


「ホブスさん・・・!」


「コカトリス並みに強いボディーガードなんて他にいないし」


「ああ・・・やっぱり。そんな事だろうと思っていましたよ」


俺の力(物理)を認められ、嬉しいような、虚しいような。

落ち込んでいると、不意にホブスさんが笑顔になって誠一の耳元に(ささや)きかけた。


「ただし・・・娘に手を出したら容赦しねえからな。分かってるよな?」


「は、はい!もちろんですよ!ハ、ハハハハハハ」


ドスを利かした声で釘を刺され、誠一は渇いた笑い声しか出なかった。


◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆


宴会から翌朝、そこには四人の人影がいた。


ホブス一家と誠一だ。


誠一の服装は、ホブスのお下がりではなく、カミクロの上下セットだ。

レダさんが修復し、朝に渡してくれたのだ。


「本当にありがとうございます、レダさん」


「下手でごめんなさいね。あと、お礼なら夫に言ってあげて」


「おい、レダ!」


「この人、私に誠一の服を直そうって言い出して。色が同じ布を探して、ご近所さんから貰ってきてくれたのよ」


「ホ、ホブスさん・・・!」


ホブスさんは、レダさんに秘密をばらされ、顔を赤くし照れている。

俺はホブスさんの心遣いに心打たれた。

いつもは駄目で、不真面目で、どうしようもない重度の親バカだと思っていたが、改めて見直した。


「何故だろう、誰かに貶されている気がするんだが」


「そんなことないですよ」


意外に鋭いホブスさん、野生の(かん)だろうか。

話をそらすべく、誠一は話を進めた。


「短い間でしたが、ありがとうございました」


「お父さん、お母さん行ってきます」


「セーイチ、また来てね。アン、迷惑かけちゃダメよ」


「うん、分かった!」


元気よく挨拶をするアンちゃんの頭を()でながら微笑むレダさん。

レダは頭から手を離すと、そっぽを向いているホブスの方を見た。


「ほら、あなたも何か言って」


「・・・アン、元気でやれよ。困ったことがあったら、すぐに相談しなさい。お父さんたちが駆け付けるから」


「うん!お父さんも元気でね」


恥ずかしがってたホブスさんは、自分の娘と目線を合わせ、優しく語りかけた。

こうして見ると、立派な父親にしか見れない。

話を終えたホブスさんは、不意に俺の顔を見た。


「誠一・・・」


「は、はい!」


突然、話しかけられ驚く誠一。

娘に手を出したらコロスと言われ、また脅されるのかと怯える。

そんな、誠一にホブスは、




「娘を、アンを頼む」




真摯に頭を下げた。

誠一の目の前には、一人の娘を思う父がいた。

誠一は、一瞬、呆気にとられるが、すぐに真剣な顔をして、



「任されました」



父親の信頼に答えた。


 ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆


村の入り口に、ホブス夫妻が立っていた。

アンと誠一は二人に別れを告げ、(すで)に村を去って行った。

母と父は娘の姿が見えなくなっても、未だに娘がいるであろう方向を見ていた。


「行っちゃったわね」


「そうだな。・・・・・・レダ」


「なに、あなた?」


「もう我慢しなくていいんだぞ」


「・・・・・・・」


その言葉を口切りに、レダはホブスの胸に顔をうずめた。

微かな嗚咽(おえつ)の音と共に、ホブスの服に染みが生まれる。


「ウウ・・・ヒック、あなだ~」


「よく(こら)えた。大丈夫、二度と会えないわけじゃないんだから」


ホブスは妻の涙を受け止め続けた。

しばらくし、レダは泣き止み、夫の胸から顔を離す。


「ヒック・・・ごめんなさい」


「良いってことよ。たまには、俺にも頼れよな」


「・・・フフ、ありがとう」


涙をふき、笑顔になるレダと白い歯を見せるホブス。


そこには、仲むつましい夫婦の光景があった。














「ところで、レダ」


「何、あなた?」


「少しの間、膝を貸してくれ」


「・・・はあ~、本当にあなたという人は」



レダは何かを察し、呆れながらも破顔して腰を下ろす。

ホブスは、その膝に顔を埋めると、




「うわああああああん!俺の娘が、他の男の所に行っちまったよー!」


「大の男が泣かないの。ほら、いい子、いい子」




声をあげ、レダにすがりつくホブスと(なぐさ)めるレダ。


やっぱり、最後は締まらないホブスであった。






第一章  ~完~


次回、新章開幕

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