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12、ぶらっでぃーふぇすてぃばる

直訳

血祭り

取り敢えず、セシルを正座させ話を聞いていた。


セシルの周りでは妖精たちが興味深そうにフワフワと飛んでいる。


「……つまり、落ちた先でオヤツ用にと偶然持ってたメロンパンで懐柔し。その後、俺らの姿を中継で確認しつつ悪戯の指示を出していたと」


「はい、そうです!」


返事は満点。

それ以外全部赤点。


セシルの周りを飛んでいた妖精たちが陽気に騒ぎ出す。


「セシルは凄いんだぞー!」「あんな的確な嫌がること思いつかない」「才能だー!」「悪戯の先生!」


「フッ……自分にこんな隠れた才覚があったなんて。自分が怖い」


「そだなー、俺もお前の馬鹿さ加減が怖いよ」


きっと世の中で最も必要とされない才能ではなかろうか。


「じゃ、その天才様とやらにお灸を据えるとしますか」


拳を鳴らしながらセシルに近づけば、ビクリとセシルの体が強張る。

何とかしようとセシルは妖精達に助けを求める。


「た、助けてー、マイフレンドー!」


「ふふふ、人間め」「覚悟しろ〜!」「受けた恩を返すときー!」「やらいでかー!」


セシルの懇願にノリの良い妖精たちは、誠一達に襲い掛かろうとし、


「ほーれ、シガレットクッキーだぞー」


「「「わーい、お菓子だー!!」」」


セシルを見捨て、お菓子を拾いに行った。

妖精達にとってセシルとの友情はお菓子一個分より劣るようだ。


「セシル裏切ってこっち側につくんだったら、もう一個やるぞ」


「喜んで裏切る!」「あいつ酷い奴なんですよーダンナー!」「YES、ユア・マジェスティー!」


「薄情者おおおお!!」


秒で寝返った。

セシルも哀れだが、同情の余地は無し。


「……さてと、味方は居なくなったわけだし」


セシルに顔を向け、断罪の準備に取り掛かる。


「ま、まさか……殴るつもりじゃないですよね?拘束されて動けない俺を、先生が。そんな訳無いですよね。体罰反対!」


「……確かに。まあ、その通りだな。必要以上の暴力はいけないとは思う。……ということで、セシルと同じ立場で、被害者達なら権利があるってことだな」


ちらりとセシルの後ろの方を見ながら呟く。


「へ?」


とんとんと、何者かがセシルの肩を叩く。

セシルが振り向いた先には、


「「「…………」」」


Fクラスの生徒たちが立っていた。

皆んな一様にボロボロだったり、汚れていたりと何かしらのイタズラは食らったような有様で、額に青筋を立てセシルを睨んでいる。


因みにだが、ここまで手配したのは鳥籠に捕らえている妖精に手伝わせ、俺が行なった。

当然、会話の内容も中継で全員知っている。


そして、先頭にいるのは無表情でセシルを見下ろすココ。


無表情な上、終始無言なのが非常に怖い。

右手にはどこで拾ったのか、拳大の石が握られている。


ここからは生徒たちに任せよう。

妖精の園に来た本来の用件を済ませに、生徒たちを置いて先に進む。


「裁きは来たようだな」


「あ、ちょっ先生待っ!!」


空間に出現させた穴をくぐる寸前に見えたのは、ココが石を振り上げた姿だった。


セシルの悲鳴が響き渡ったが、自業自得である。

一応念の為にサキュバスのイリスさんも置いてくし、放置で。


だがせめてもの情けだ。

念仏だけは唱えておこう。


「南無阿弥陀仏」


セシルよ、どうか安らかに。





奥へと進むと尚更ファンタジーでファンシーな空間が広がっていた。


明るく照らすは淡く光る苔。

その光が洞窟から突き出ている水晶に乱反射し、幻想的な空間を醸し出している。

そして、その光に呼応するかのように、白いフワフワの塊が宙を漂っている。


だが、それよりも、何よりも特筆すべきは大きな木の根。

ただの木の根ではない。


形容し難いほどに、恐ろしくデカイのだ。


見上げれば天井から突き破るように伸び、そのまま止まることなく地中へと突き進んでいる。

しかも、根の一本であるにも関わらず、その太さは優に30mを超えている。


その根の中心に玉座のような凹みがあり、そしてそこには他の妖精達に比べて2回りも大きな妖精が鎮座していた。


サイズの違いもあるが、誠一は一目で目の前の妖精がかの妖精女王だということに気づいた。


幼さを感じさせる他の妖精達と違い、大人びた姿で落ち着きを払っている。

そして、水晶のように透き通ったその瞳からは、全てを慈しむかのような慈愛に満ち溢れていた。


彼女はこちらを見上げ、小さな口からは鈴の音のような声を溢した。


「初めまして、勇者よ。……そして、久しぶりですねジョージ」


「おう、久しぶり。元気そうだなクイーン」


ここまで来れば驚かないが、どうやら彼女はウォーレスの体にジョージが入っているのを知っているようだ。

そして、俺のことも。


借りているウォーレスの声で、しかし、どこか少年のように砕けた口調はジョージのもの。


「驚かないんだな、クイーン」


「貴方ならこれくらいのことはしそうだと……どこかで、頭の片隅には思っていましたから。……ジョージ。再び会えたこと、私は嬉しいです」


2人は慣れ親しんだ友人のように話を続ける。


「キーコは最近どうよ。変わらずか?」


「ええ、ご覧の通り。私たちを守ってくれています」


「妖精じゃねえから、見て分からん訳なんだが……まあ、元気なら良いか。ドラ子の方は?ここに来てたりするのか?」


「30年に一度くらいでこの場所に。彼女なら変わらず自由に過ごしていますよ。何でも、最近は魔族に変身するほど上達したとか」


「あのアホドラがねぇ。成長しない生き物はいないってことか」


「ふふふ、彼女が聞いたら怒りそうですね」


ジョージの口からは知人の事から始まり、下らない世間話へと展開していく。

数分会話を交えただろうか。


2人は満足したのか会話を切り上げ、クイーンが切り出した。


「……ふぅ、年甲斐もなくはしゃいでしまいました」


「そんな言う程老けてねぇだろ。まだまだ若いぜ、クイーン」


「ふふ、相変わらずお上手ね。さて……それで今回は何をしに来たのですか?」


「話が早くて助かる。実は精霊たちに力を貸してもらいたくてな。それで一応許可を貰いに来たってことさ」


「なるほど……貴方のことです。悪用はしないとは知っていますし……ええ、構いませんよ」


「サンキューな」


どうやらジョージのおかげで了承は得られたようだが、俺は話に置いてけぼりである。


「えーと……妖精じゃなくて、精霊?それに精霊に助力して貰うって……精霊を使役するのか?」


俺の疑問に応えたのは妖精女王。

しかし、答えではなく訂正でだが。


「使役ではありませんよ、勇者。精霊を縛り付けることは叶わないのです」


「……??」


「あー、つまりだな。精霊に気に入られれば、精霊達が力を貸してくれるのさ。それが俗に言うところの精霊魔法」


精霊魔法。

確か、エルフとかが得意とする魔法の一種。


精霊とはさながら信仰の元であり、そして自然そのものでもある。

日本風に当てはめるならば、八百万の神みたいなものだ。


精霊の個体差はあるが、その力は非常に強力であり、精霊の力の最もたるもので、大地を破り辺り一帯を砂漠に変えたという事例があるそうだ。


その力を借り受ける精霊魔法は当然強力であり、しかし、


「でも、それってエルフや一部のドワーフにしか無理なんじゃないのか?」


「いや。極論言ってしまえば誰でも精霊魔法は使える。ただ、精霊に会うには特殊な目が必要なのさ」


なんでも、精霊は自然豊かな場所に集まり、そして普通の人間では見えないそうだ。

その為、昔は絵本や昔話に出てくる架空の存在として崇められていたそうだ。


しかし、280年前にエルフは種族特有の眼により、精霊を見ることが可能だということが判明。

これにより精霊は実在することが証明され、そしてエルフの目は"精霊眼"とも呼ばれたそうだ。


中には、人間などの他種族でも同様に精霊眼を持つ稀有な存在もいるらしいが、100年に1人いればいい確率らしい。


この解明に人間が時間がかかったのには、亜人差別でエルフと人間の仲が最悪であったのも関係している。


ちなみに、これを証明した人物こそ、学園創始者のジョージである。


「精霊魔法ってのは、ざっくり言ってしまえば、妖精が気に入った人物に助力してるだけって話なんだがな。ただ、何を気にいるかなんて千差万別でな。武芸に秀でたり、音楽に秀でたり。はたまた顔が好みだからって力を貸す精霊も居るらしいぞ」


面食いかよ。


しかし好みがマチマチなら、自分を気に入ってくれるのは偏るだろう。

そして、波長の合う精霊と会うには、多くの精霊と遭遇し、そもそもの母数を増やしたほうが断然有利。


なるほど。

エルフに精霊魔法の使い手が多いわけだ。


「それじゃあ、ドワーフや妖精も、エルフ同様に精霊眼を持っているのか?」


「妖精はそうですけど」


「ドワーフは持ってないな。ただ、ドワーフの人間離れした職人技に感銘を受ける精霊もいてな。精霊の恩恵を受けることが多々あるのさ」


精霊から祝福されたということは、職人としては一流の証であり、作り出す作品には恩恵が受けられる。

正しく神がかった品か。


そして精霊の恩恵を受けた剣は絶大な力を放ち、人々はそれを魔剣と呼ぶ。


「ま、そのせいもあってドワーフとエルフの仲は最悪なんだがな」


エルフはどうやら精霊眼を持つことから精霊の祝福を受けた種族として主張していたようで。

ちょいナルシストかな。


しかし、精霊を見ることが出来ず、その上で、実力のみで精霊の寵愛を勝ち取っているドワーフのことが認められないらしい。


「まあ、この妖精の園にも精霊がいてな。だから、こうして足を運んで許可を貰いに来たのさ」


確かに、精霊魔法を習得すれば生徒たちの早急な戦力向上に繋がる。


「でも、俺ら見えないんだろ」


「誠一の目の前に居るのが誰だか忘れたのか?精霊の研究をしてたんだぜ、俺は。公表こそしてないが、精霊を可視化する魔法くらいはお手の物よ」


おお、流石はジョージ。

元勇者は伊達ではない。


「それでも、見えるまでは第一関門。そもそも気に入られなければ意味がない」


「何すれば気に入られるんだ?」


ただ精霊の居る場所行って終わり、なんて事は無いし。

何かしらアピールは必要だろうと思い、ジョージに問いかける。


「そうだな……無難な所で言えば精霊に捧げる歌や舞か。あとは珍しい物や特技とか披露する、とかか?笑わせるような芸とかでも良いらしいぞ」


……芸人のオーディションかなんかかよ。


「まだまだ先は長そうだな……」


「とりま、今日はこれで帰るとしよう。精霊関連はまた日を改めて」


「では、またの来訪をお待ちするとしましょう……ああ、それと。その籠に入っているその子は置いていって下さい。後でお灸を据えておきますので」


「ギクッ!!」


妖精女王の言葉に、誠一達に捕らえられていた妖精(※自主的に)は籠の中で体を震わす。


さっきから妙に静かだと思っていたが、裏切ったのが気まずいから存在感を消していたのか。


籠の妖精は慌てて弁明を図る。


「い、いや……これはね、クイーン!そう、呪い!全〜部、この人間のせいなの!」


対して、妖精女王はふふふと笑いながらも、妖精の言葉を鵜呑みにはしない。


「愛しい我が子よ……この妖精の園で起きた事を私が知らないとでも?──残り2つです」


「え、待ってクイーン!何その残り2つって、突然のカウントダウン!?怖いよ!私は優しいいつものクイーンが好きだなあ!」


なけなしのその言葉に、妖精女王は微笑み、


「ふふ……残り1つよ」


「ごめんなさいでしたー!私が悪かった、だから許してクイーン!」


ゼロになる前に、危機感を覚えた妖精は土下座して妖精女王に謝罪した。


……もし0になっていたらどうなっていたのやら。


「……よろしい。分かってくれれば良いのです。その謝りに免じて、お説教とオヤツの蜂蜜抜きで許しましょう」


「あ、それでも怒るんや」


「そ、そんなあ〜……」


籠の中で妖精はショックで崩れ落ちる。


……お前、お菓子の家全部食べたくせに、まだ甘い物食い足りんのかい。


よくこの小さなお腹に入ったものだよ、ホント。


俺は籠を下ろし、中から妖精を取り出す。


「それじゃ、そろそろ失礼します妖精女王」


「クイーンで良いですよ、勇者」


「なら、俺の事は誠一と。勇者呼びは……どうにも慣れなくて」


この年でその名称を言われると、どうにもむず痒い。

それに、面倒ごとを防ぐ為に一応隠しているし。


「そうですか。ならば、セーイチ。再び会える日を楽しみにお待ちしています」





戻ると、セシルが磔にされて数名から木の棒でつつかれていた。


セシルはタンコブやら鼻血やらボロボロで、パンツ一丁にされた挙句、バカやアホと落書きされていた。

妖精達も野次を飛ばし囃し立て、鼻の穴の中にキノコやら木の実を突っ込んでいる。


その断罪の光景に俺は驚愕を隠し得なかった。


「……驚いた。報復を食らった筈なのに、セシルが未だ原型を止めているなんて」


「最初に言う台詞がそれって、流石にどうかと思うわ私。着眼点おかしいわよ」


俺がセシルへの罰が予想の半分ぐらいに驚きを表していると、その呟きを聞いていたイリスが呆れたように言う。


「いや、もうちょい酷い有様だと思ってたから。お前ら、どうかしたのか?」


報復中のFクラス生徒にそう聞くと、イリスとジョージが呆れた表情をこちらに向けてきたが、スルーで。


すると、Fクラス生徒たちは一旦手を止め、少し離れた場所にいるリッツとアビゲイルを指差していた。


スケッチブックを手にしたリッツが座っているアビゲイルの姿を模写しているかと一瞬思ったが、どうやら違うようだ。


近づいてみると座っているアビゲイルは誰かの頭を膝枕してあげていて、その寝姿をリッツがスケッチしている。


その人物はスヤスヤと寝息をたてており、


「……ってカレンじゃん。どうしてこんな所で寝てるんだ?」


余程良い夢でも観ているのか、えへへ〜と笑みを浮かべて、寝言を漏らす。


「帽子屋さんとウサギさん……もうお茶は飲めないよ〜……」


……男の寝姿の筈なのに、なんか観てはいけないような気がして目を逸らしそうになる。


その寝姿はとてもあどけなく、儚く、しかし男だ。


「疲れて昼寝……って訳ねえよな」


すると、セシルの頭に木の実を乗せていた妖精達がフワフワとこちらに来て喋りだす。


「わたし達が夢を見せてるの!」「悪戯しないで、すやすや〜」「不思議な国の夢〜」「メロンパンの提案で!」


「メロンパン……ああ、セシルのことか」


せめて名前で呼んでやれ。

お菓子の記憶で頭一杯じゃねえか。


しかし、セシルが何故カレンだけ悪戯の標的にしなかったのやら。


「ん……ぅん……」


あ、セシルが起きた。

ちょうど良いので聞いてみた。


「おーい、セシル。なんでカレンには悪戯しなかったんだー?」


「かふっ……カ、カレンは……中等部の頃から、妖精に会いたがっていて……本人は隠してるつもりだったけど……子供みたいに夢見てたんだ……」


そういや、最初の方でも目をキラキラさせてたな。


「もしかして、気を使ったのか?お前が?


「ふふっ…さ、流石に……純度100%の、ガフッ………乙女心満載の夢を……俺でも、壊すわけにはいかないで、しょ……ガクリ」


それだけ言ってセシルは気を失った。


その顔は悔しそうに、しかし、やり遂げてどこか満足げにも見えた。


見れば他の生徒たちは渋々と、セシルの判断を肯定していく。


「俺らにした事を許せねえけど、カレンちゃんにしたことは褒めるべきだ」

「うむ、立派だ。だから往復ビンタ50回で許してやる他ない」

「ええ。ファンクラブNo.十桁会員として、ここは寛大な心で判断しなくては」

「寝姿……しかもアビゲイルの膝枕付き……レアだ」「俺、カメラ持ってるぞー」「褒めてつかわす」「有り難きお言葉」

「後で写真くれ」「私も、3枚頂戴」


業が深いな、カレンファンクラブ。


だがまあ、セシルにも善意の心は残っていたようで、その行いにより報復が軽減したのだろう。


「なるほど……この世に完全な黒など居ないと言うわけか」


「いや単にチキっただけですよ、この馬鹿」


「…………」


俺が良い感じにまとめようとしたが、ココはそれを許さなかった。


そして、ココよ。

その手に持っているカラフルなキノコ、セシルに食わせるつもりなのか。

容赦ない。


1人、全く知らぬ存ぜぬのカレンは気持ちよさそうに夢を見ていた。


「う〜ん……ああ、赤の女王がぁ〜」


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