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10、ようこそ妖精の園へ!(当園でケガをされても、当方は一切責任を負いません)

昼休み時間が終わり、午後の時間。


Fクラス生徒達はまたもや教室を出て、誠一達と共に遠出していた。


しかし、今回の行先を委ねたのは、ジョージ(In ウォーレス)でも誠一でもなく、


「ここが妖精の園、で良いんですかイリスさん?」


「何よセーイチ。信用してないの〜?」


「いや、そういう訳じゃなく……一見ただの森にしか見えなくて」


この場所を指定したのは、誠一の回りをフヨフヨと浮いている悪魔サキュバスのイリス。


誠一の言葉にイリスはムスゥと膨れっ面に。


……狙ってやってるんだろうけど、可愛いな。


その自然にしか見えないあざとさに動揺しながらも、誠一は慌てて否定する。


現在、誠一達が立っている場所は生い茂った森林の中。

確かに大自然さは感じなくはないが、これといって目立つものはない。


「妖精の園って言うから、もっとファンシーな所かと思ったんだが」


見渡せど木、木、木。


拍子抜けと言えば拍子抜けである。

それは生徒達も同様であり、特にカレンが肩を落としていた。


「妖精……絵本の妖精さん……」


妖精と聞いて1番目がキラッキラッしてたし、ほんとにFクラス1番の乙女チックさ。

だが男だ。


まあ、それは置いといて。

もう1人平常運転でおかしな奴が。


「セシル。その虫カゴと虫取り網、どっから持ってきた?」


「妖精って言うから、ご飯も食べないで昼休みに急いで取ってきたのに……どこにも居ねえ!砂糖水も用意したのに、俺のワクワクをリターンプリーズ!」


「いや、カブトムシじゃねえんだから……」


水筒ぶら下げながら、バックまで背負って。

そのバックからはメロンパンが顔を覗かせている。


Fクラス、1人だけ遠足中の小学生が混じってる。


「妖精の園ってのは、イメージ通りのあの小さな妖精が沢山居るかと思ったんだが……」


「いや、ここで合ってる」


誠一がイリスに質問しようとしたが、その前にジョージが動いていた。

ジョージはおもむろに一本の木へと向かって進んだ。


歩みを止めず、そのまま木にぶつかるかと思われたが、


「「「なっ………!?」」」


「ほら。私の言った通りでしょ〜」


「これは……幻術か」


ジョージは木へと飲み込まれ、姿が消えた。

そして、消えた筈のジョージの声が、木の中から響いた。


『おーい、コッチだー』





「これは……なるほど、妖精の園ね」


ジョージに続いて、恐る恐るながらも木へと飲み込まれた先には満開に咲き誇る花園が広がっていた。


先程まで周りを囲んでいた木々は消え、鼻に届くは花の甘い香り。

いきなり現れた異世界。


周りの景色に感心しながらも、生徒達が全員来ているかを確認しておく。

アビゲイルとココも、流石にファンシーな展開に心躍っているのか、顔に出ている。

まあ2人よりもカレンもまだ妖精の姿は見えないながらも「絵本の通りだ!」と興奮した様子で、セシルは……妖精よりも花の近くを飛んでいる蝶が気になるようで、虫取り網を構えている。


「入口が幻術で隠されてるとは……。でも、入口が分かってたなら、何でイリスに場所聞いたんだ?」


「いや、入口は魔術の痕跡からさっき見つけた」


あれ、そうなのか?


「妖精の住処は異空間にあってな。それで、入口が定期的に移動するんだよ」


「私のような精神体の存在は妖精と交流あるから知ってるけど、人間とかだと偶然迷い込むしか無いわよね」


「何でそんな面倒臭いことを?」


外敵から身を守る為とかか……いや、それならそもそも敵が入ってくるかもしれない入口を作る必要がないし。


「食糧をためる為に、とか?」


「いいえ。あの子達は花の蜜を摂取すれば良いから、ここで食べ物に困ることは無いわよ。知ってる?妖精印の蜂蜜ってパンにかければ頬っぺたが落ちそうになるのよ」


「へぇ。それは是非とも食べてみたいな」


「なんなら、私も食べてみる?甘〜く蕩けるような一夜を保証す・る・わ・よ♡」


男子勢がザワッつくが、ここはスルーで話転換。

イリスさんが「もう、イケズ」と呟きながらも、それでもしっかり答えてくれる。


「それなら入口を転々と作るのは、一体全体?」


「それは獲物をここへと迷い込ませるためよ」


「獲物?」


そう呟いた時、後ろの方から「うべじゃ!?」という聴き慣れた悲鳴が。

見れば、アンディーが逆さ吊りになっていた。


「「「アンディー!」」」


「もうノルマとなりつつあるな」


またお前かい、アンディー。

衝撃映像なみな光景にも驚かない自分がいる


アンディーの足には植物の蔓が巻きついて、高く吊り下げられていた。

その姿はまるで、罠にかかった獲物のようで、


「妖精ってのは、悪戯好きでな。誰かが慌てふためく姿が好きなんだよ」


「獲物って……そういうことかい」


取り敢えずファイヤーボールで蔓を撃ち、アンディーを地面に落とす。

グベっと悲鳴が聞こえたが、まあ大丈夫だろう。アンディーだし。


「つまりドッキリ仕掛けて、それ見て楽しんでるのか」


「まあ、そういうこった。迷い込んだ人も妖精が飽きるまでからかわれてから、外に解放されるってな」


はた迷惑な種族やな。


「で、どう交渉するんだよ?」


目的があって妖精の所まで来たのは分かるが、妖精見当たらないんですが?


「俺の時は姉ちゃんが作ったクッキーで仲良くなってな」


姉ちゃん?

姉がいたのかとも気になったが、購買でクッキーが売られていた理由が分かった。

お前がクッキーを広めたのか。


「蜂蜜しか食えないんじゃ?」


「基本的にはね。でも、意外と雑食で、大好物が甘いものなのよね」


「まだ食べた事のないお菓子でも渡せば、1発で親友認定になるぞアイツら」


「おもっくそ食べ物で釣られてんじゃん」


それで良いのか、妖精よ。

だが、俺的にはそっちの方が得意分野である。

手っ取り早くて助かるが。


「その妖精はどこに?」


「それがな。この中の何処かには居るんだが、妖精は幻術魔法の使い手で、中々見つけられないんだわ。だから、しばらく歩き回っていれば」


「いれば?」


「……俺たちがその間、悪戯にかかってれば会えるチャンスがくる、はず」


「雑だな。何で一番肝心なのごアバウトなんだよ」


「しょうがねえだろ、妖精の行動は気紛れなんだから」


俺の言葉にジョージも渋々と言った様子で呟く。


「まあ、今回リアクションが若々しい生贄が沢山いるからな。悪戯の矛先は間違い無く分散する」


俺の生徒を生贄言うなや。


意外とゲスいよなジョージ、と考えていながら生徒達の姿を見ていると、


「…………あれ?そう言えばセシルどこ行った?」


遠足少年化していセシルの姿が見当たらない。

どうりで静かだと思ったら。


すると、ジーンがわざわざ挙手をして発言を求めた。

はいどうぞと指名する。


「さっき『珍しいカブト虫だ、わー!』って追いかけてったら、突然現れた穴に落ちて消えました」


「平常運転だけど何してんだアイツ!?」


後ろで早速生贄が犠牲にとジョージが呟くのであった。





「大丈夫なんだろうな、おい」


「安心して。悪戯はしても、絶対に殺す真似はしないわ」


「多分、落ちた先で顔に落書きでもされてる頃じゃねえかな」


あの後、消えたセシルは一旦放置して、妖精の園を散策を開始。


生徒達もセシルの姿を反面教師とし、警戒しながら密集して移動している。


このまま何も無く終わるかと思われたが、そうは問屋が卸さない。


誠一が踏みこんだ地面からカチリと音が鳴った。


「ん?何か踏んだ?」


ふと、下へと視線が向かって、


────ゴォオオン!


上から金タライが落ちてきた。

それが誠一の頭へと当たり、良い音が響く。


強靭なおかげで痛くはないが、皆の視線が集まって恥ずかしい。


しかし……何故金タライ。


「アハハ!ほら、殺傷能力無いだろ」


そう言ったジョージの足下からもカチリと音が鳴る。


言ったそばから何やってんだよと思っていると、ジョージの頭の上にタライが突如姿を現して落ちてきた。


だが、分かっているなら対応は容易。


「甘いわ!」


ジョージは腕でガードし、タライを受け止めて、



────バチコンッ!



地面から発生した蔓が、ガラ空きのジョージの股間を打ち据えた。

二段構えに、ジョージはぱたりと倒れる。


「「「……おぅ」」」


容赦ない一撃に男子陣は股間を押さえる。


というか、ウォーレスの身体借りてるわけだから、後で怒られないかが心配。


「確かに殺傷能力は無いけど、コレが続くのはキツいぞ」


「かぁ、はあま……!い、いや、おかしい。イタズラのレベルが明らかに上がって、るだと?」


そりゃ200年も経てばな。


時差ボケで想定出来てなかったのか。


「しっかし、気をつけて行かないとな……良いか、お前ら。慎重に進んで───」


「あ、やべっ」


言った瞬間、後ろから『カチリ』という音が誰かのぼやきと共に聞こえてきた。


見ればジーンの頭の上にタライが発生していた。


……変な所で抜けてるよなジーン。


そのままタライが落ちてくるが、


「オラッ!ふん!」


普段鍛えているかいあってか、腕でタライを弾き、次の股間への振り上げをジャンプで避ける。


「「「おおー」」」


「へへっ、どんなもんよ」


ドヤ顔で着地するジーン。


────スパーン!


その着地の瞬間を狙ったかのように、ジーンのスネに蔓が叩き込まれた。


「ッ〜〜〜〜!」


「うわ、見た目に反して地味に痛いやつだ」


ジーンはスネを押さえて、うずくまる。

何か、的確に嫌な所を突いてくるよな。


顔をしかめ痛がるジーンを見て、腹を抱えながらアンディーは笑う。


「全く、何やってんだよジーン。馬鹿だ『カチリ』……あ」


お前ら学習しろよ。何回やんだよ、このくだり。


「そもそも逃げちまえば!」


アンディーは今までと違い、何が来ても良いようにすぐにバックステップで後ずさる。


すると、タライはアンディーが先程まで立っていた場所に落ちていき、



────タライが直角に曲がり、アンディーの顔面に叩き込まれ、股間とスネへの蔓がそれと同時に叩き込まれる。



これは避けようが無いな。

リズムゲーから負けイベに変更されました。


「がプパっ!?……り、理不尽だろ」


「「「アンディー!」」」


「……あ、タライに『ズル禁止』って書いてある」


「悪戯にルールなんてあったのね……」


カレンとアビゲイルが足元に転がってきたタライを覗き込んで、そんな事を言っている。


用意良すぎだろ妖精よ。

そんな事を考えていると、


…………クスクスクス


ふと、不意に小さな笑い声が聞こえてきた。


それはとても陽気に、そして無邪気な笑い声。

しかも複数人居るのか声はそこかしこから聞こえ、しかし笑みを溢す存在を確認する事は出来ない。


「まさか、この声は……」


「妖精だ!」


その言葉に呼応するかのように、妖精達が囁き始める。



……『クスクス』……『うまく行った』……『沢山居るわね!』………『どうしようか?』…………『からかいましょ!』……………『そうだそれが良い!』…『なら言われた通り』……『ええ、ええ!』…………………『分散させましょ!』



囁きはつむじ風のように俺たちを囲み、最後の言葉と共に嘘のように忽然と消えて静かになる。


何かを察したのか慌ててジョージが注意を喚起する。


「全員、離れろ!」


しかし、掛け声は既に遅く、急に地面が消え、全員を囲うほどの大穴と化した。


「「「わぁああああああッ?!」」」


「セーイチ、捕まりなさい!」


「───ッ!?」


イリスは俺の方へと手を伸ばす、穴に落ちぬよう持ち上げてくれる。

ギリギリで、ついでにジョージを足で挟み上げる。


何とか穴の縁に降り立ち、3人は何とか難を逃れる。

そして、開いていた大穴は閉じていく。


「あ、ありがとう、イリス」


「お安い御用よ」


穴は完全に塞がり、危機は去った。

しかし、


「しかし、助かったのは良いが……」


「どうしよ…………生徒達とはぐれた」


Fクラスの生徒達が穴に飲まれた。

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