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5、運命の修正力

明けましておめでとうございます

「貴様!聞こえているのか!」


はいはい聞こえてます、そして分かってます。

なんせ慣れてますからね、こういう事!

このままだとあらぬ誤解で、お縄になってしまう。


……それだけは御免被る!!


折角、物語の開幕が久しぶりに留置所以外のスタートだったのに。

まさかコレが運命の収束力か。


しかし、諦める事はない。

俺には幾度と失敗した苦い経験があるのだから。


これは冤罪だ。

ならば、嘘を吐かず、正直に、相手に分かりやすく、落ち着いてすぐさま弁明をする事に。


「俺の名前は沢辺誠一です!以前、お米探してたら蛇と葉子さんに遭遇した者で。あ、蛇は殴ったら灰になりました。なんかそれらしい証拠持ってませんし、突然現れたけど怪しい者ではないですよ!」


「「………」」


「やっぱり怪しい奴め!」


「いや全くもって本当にその通りだわな!」


あかん、逆効果だった。

相手の方、こっちを敵認定したのか腰に携えた刀を抜き放ち、構える。


「しかも悪霊憑きを供とし、邪な魔を従えているとは……」


あ、悪霊憑き……?

もしかして……ウォーレスさんの身体に憑依させてるジョージのことか?

しかし、悪霊憑きはまだ分かるとして、『邪な魔を従えている』とは…………んーむ、身に覚えが無いぞ本当に。


「やはり捨て置けん!覚悟!」


「……え?うわおおお!?」


「───ッ!?アレを避けるとは……逃げるな!大人しくお縄に付け!」


「無茶言うなや!」


相手が刀を振ってきたので慌ててしゃがみ、虫の様に手足を動かして這い逃げる。


向けられたのは刃でなく峰であったことから俺の拘束が目的なのは分かるが、それでも当たると痛そうなので避ける。


……いやまあ、当たっても傷付かないし痛く無いんだけども……。


それこそ、以前ベルナンさんのお気に入りの剣を折ってしまった事あるし。

素人ながらでも見るからに高そうな刀だし、折って賠償金なぞ払いたくも無い。


困り果て、ここはジョージに助け舟を、と思って振り向くが生徒と共にちゃっかり避難している。


「頑張れ〜」


「他人事だと思いやがって……!どうにかして『無理』早えよ!何か案無いのか?」


「……んー、自己紹介が足りなかったとか?」


……成る程。




「────どうも、初に御目にかかります!私、学園講師をしている沢辺誠一と申し上げます。以前、天照 葉子様と縁を結ぶ機会が御座いまして。あ、良ければ菓子折りどうぞ!」


「ちぇりあッ!」


「うぎゃあうおお!?」


菓子折りが真っ二つにされた。

それでも普通に最後まで聞いてから斬りかかって

来たので、巫女さんが真面目な人なのは分かった。





「全然駄目じゃねえか!」


「いや、ホントに実行するとは……」


遠くでジョージが呆れた顔しているのが見える。

……こちとら藁にも(すが)りたいんだよ!

チクショー……折角来訪用のお菓子作ったのに。

真っ二つになった菓子折りをアイテムボックスに戻しながら逃げ続ける。


気のせいか段々と一撃一撃が、速く、そして鋭くなってきている。

又も巫女さんの刀を避けると、巫女さんは尚更目に力が入っていき、こちらへ向けて喝を飛ばす。


「ええい!ちょこまかと、逃げるでない!」


「逃げないと斬られるでしょうが!」


取り敢えず距離を取ろうとするが、相手がそうはさせてくれない。


「"大地よ、我が敵の動きを封じよ"、土石塞!」


「げっ!」


行く先を突如迫り上がった岩の壁で堰き止められる。

急ブレーキをかけて一瞬思考の空白が生じ、しかし、背後からの踏み込みの音に引き戻される。

首だけ回し、視線の先、巫女さんの接近を許していた。


彼女が手にしているのは刀。

身体を背後へとしならせ、今までの中で最速の一撃。

抜刀されたそれは此方の首を狙っており、しかも刃の方で、


「せりぁあ!……ちっ、素早い!」


髪が数本舞うのを感じながら身体を沈め、目の前の土壁を蹴って加速を得る。

巫女さんの真横を滑るように擦り抜け、距離を取る。


彼女が振り抜いた先、土壁が斜めにズリ落ちていく。


「ちょ、ちょっと!拘束するんじゃないの!?完全に殺しに来てんじゃん!後ろの石壁なんかバターみたく切れてんじゃん!」


「その言葉……拙者の渾身の一刀を軽々避けて良く言うわ!」


あ、この子、顔に似合わず割と戦闘系だわ。

どうやら結構本気の一撃が避けられたので、俺を強敵認定してくれちゃった模様である。


……どうしたものか……。


ここで相手が頭のネジが一本抜けてるどころか逆に二本くらいしかない変態枠なら容赦なく殴れるのだが、いかんせん変態じゃないし、ギリまとも枠だからなぁ。

正直言って気が引ける。


うーむと悩む中、ふと、妙案を思いつく。

……そうだ、そもそも葉子さんに説明して貰えば良いんだ。


何故こんな簡単な事を思いつかなかったのだろう。

それで万事解決じゃないか。


相手はどんどんヒートアップして行きそうだし。

これは早めに葉子さんに説明して貰わないと。

屋敷まで200mあるかないか……ならば、戦略的撤退!


────しかし、そもそも相手はコチラを葉子さんが居る屋敷に近づけない為に戦っているのだ。

誠一はすっかりそれを失念しており、そして、相手が何の準備もしていない筈がない。


「させると思うか!急急如律令!」


「ぶべっ?!な、なんだあ!?」


数歩駆け抜けた所で、突如地面から木の壁が生え、誠一は勢いを殺せずぶつかる。

ここで足を止められたのが失敗であった。

瞬く間に、自分を中心に四方八方上下に至るまで包囲した木の檻が完成していた。


ヤバイ閉じ込められた!


何がヤバイって、このデザインがヤバイ。

鳥籠のようにも見えるが、いかんせん自分には檻に見えてしまう。

檻はダメだ。檻は。

嫌でも留置所を彷彿してしまうだろ!


なんて雑念浮かぶくらい意外に余裕な俺であったが、一瞬でそんな物は消し飛ぶ。


檻の外、巫女さんがここぞとばかりに畳み掛けて攻撃に転じる。

取り出したのは一枚の符。

巫女さんは抜き身の刀に符を貼り付け、


「急急如律令!」


と唱えれば、刀が焔を纏った。

そのまま大上段からの袈裟斬りが放たれ、


「焔刃一閃!」


紅く燃え盛る斬撃が此方へと飛んできた。


すぐさま行動に移る。

炎の斬撃に向けて、水魔法のウォーターランスで相殺しようとするが、


「甘い!」


「な、吸収された!?」


遮るように突如地面から生えた木の根に阻害し、ウォーターランスを全て吸収される。

ただでさえ木が水魔法を無効化したことに驚きだと言うのに、しかし、それだけではなかった。

明らかに囲む木の檻がより太く、強靭な物へと変化した。


……巫女、刀、魔法、土壁、急急如律令、符、水、木、火、陰陽術…………そうか!


遅まきながら、巫女さんの魔法のカラクリを理解する。

そして、すぐさま現状の危険度に気づく。


……この考えが正しいなら、"木"の檻に"火"はいけない!


時間はない。

俺は魔法を行使するのではなく、自分の上着を脱ぎ、腕に巻く。

そして、檻の中で体勢を低くし、膝を突く。


「今更何をしようと既に遅い!」


「──────!」


檻の中から、直前に見えた光景は視界を埋め尽くす程の炎だった。


木の檻を喰らい、炎の牙は膨れ上がる。

直後、灼熱を帯びた斬撃は着弾し、爆炎に包まれた。





誠一と相対していた巫女は燃え盛る炎を見ていた。

炎の中に動く影は無い。


「……手強い相手だった」


葉子様を襲撃したという狼藉者の女の仲間だろうか。

可能であれば、捕縛の後に問い質したかったが。


殺したくは無かった。

などと気持ちを暴露すれば、どの口が言うかと罵詈雑言の嵐が来るだろう。

しかし、あの男は、強大な敵にはこうするしか無かった。

最初こそ拘束を図ったが、男の力量に気づき不可能だと断定。

そして極め付けは、拙者を倒す事よりも、奴は葉子様へ接近する事を優先した。

全ては拙者の未熟さ故の不始末。

此方が殺す気でやらなければ、逆にやられていたであろう実力の持ち主。


……葉子様は拙者の命に代えてもお護りする。


「そこの者達!悪いが拘束させて貰う。変な動きはするなよ!」


自分が手を掛けた男に黙祷を送りつつ、納刀する。

そして、気持ちを切り替え、遠くこちらを見守っていた少年少女達に警告をする。

先程の男と違って力量は無いようだし、1人悪霊憑きらしき人物がいるが、大人しく拘束させてくれるだろう。


……殺生は好かないし、子供達なら尚の事に気が進まぬ……。


緊張しながらもこちらを警戒する子供達に近づき、


「……?」


ふと、先程の相手が居た場所が気になった。

何故だ?


炎の勢いは弱まりつつあるが、未だ赤熱の柱を上げている。

しかし、弱まったことで火柱の全貌が把握でき、


……柱の形状がおかしい。


普通、燃え上れば錐のように中心が最も炎が高くなる。

なのに、納まりつつある、と言っても3m以上の高さがあるが、その火柱は形がおかしい。


大げさに言えば形が錐ではなく、円柱だ。

いや、正確に言えば円錐台だが。


その形に至るという事は、つまり、


「中心だけ火力が弱まっている?……まさか」


ある考えが頭を過ぎった時、ボコッ!と背後から音がした。


疑念は抱くも、行動は瞬時に。

刀に手をかけ、背後を向く。


そこには、腕が生えていた。

いや、腕だけでは無い。


「ペッ、ペッ……ヒヤヒヤしたぁ……!」


地面からあの男が這い出てきた。

土で汚れてはいるが、無傷だ。


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