4、鉄板
【前回までのあらすじ】
セシルがあばばしたら、キレイになった。
以上。
「……?如何致しましたか、先生」
「いや、如何しましたって……」
セシルの様子がおかしい。
いや、いつも平常でおかしいのだが。
今回のは尚更おかしいというか、気色が違うっていうか。
どうやら一時的なショックで悟りを開いてしまったようだ。
こんな予定は無いし、予想もしていなかった。
ジョージ(INウォーレス)を見るが、どうやらあっちも同じようだ。
クラスメイトであるアンディーが代表して、気味悪そうにセシルに問いかける。
「え、えーと……大丈夫かセシル?」
「おや、アンディー。これは異な事を……私はセシル。以前変わり無く、それ以外でもそれ以上でも無く」
「いや、何処からどう見ても別人だろ!」
「騒乱不及。我不変也」
「喋り方変わってる!」
「ああ、見て!窓の外から小鳥が飛んでセシルの肩に!」
「曇ってた空が晴れて、セシルに後光が!」
「明らかに後遺症あるじゃねえか!」
「……いや、前からこんなもんだったろー。うん、大体変な子だったし」
「目をそらすなー!」
「彼之者失平常心」
「お前はうるせえから黙ってろー!……っておいッ!何処に行くんだよ!」
ウザくないセシルに気味悪がっているクラスメイト。
しかし、その騒乱はどこ吹く風とばかりに、セシルはある場所へと向け足を進める。
このまま山まで行って仙人みたく自然と一体化でもするつもりなのではと危惧するが、そうではなかった。
セシルが動いた先、そこに居たのはココであった。
まさか自分の方に来るとは思っていなかったココ。
あからさまに警戒する。
「な、何よセシル……?」
「───────う、うぅぅ」
セシルが突如泣き出した。
流石の奇行にココも面食らう。
「ちょっと!本当に何よ!?」
「私は今、罪悪感に苛まれています!自分の不甲斐無さに。ココ・クズノハ。貴女に謝罪を……!」
ココが慌てふためく中、セシルは咽び泣き始めたのは懺悔。
ココへと膝をつき謝罪をする。
「数々の暴言……ああ、どれ程貴女の心を傷つけただろうか……謝罪してもし尽くせぬ我が蛮行!どうか……どうか……!
「……ッ!?な、何かしらこれ?確かにこの馬鹿には謝罪を求めてたけど、いざされると寒気が止まらないわ……!」
セシルの突然の謝罪に対して、ココは身震いして鳥肌の立つ腕をさすっている。
……うーむ……しかし、こっちの方が平和なのでは?
違和感ハンパないが、いつものに比べてコッチの方が異常だけど、世間的には正常よりだしなあ。
しばらくこのままで良いんじゃないか、と考えていると、咽び泣きながら言葉を重ねる。
「しかし、それよりも……それよりも私は悲しまずにはいられない。何故、神は平等では無いのか!」
……あれ?雲行きが怪しく……。
セシルは顔を上げる。
その視線の先にはココと…………ココの後ろに居たアビゲイルが。
そして、尚更付け加えるなら、視線の中心は顔ではなく、2人の胸を行き来する。
察しの良いFクラスのクラスメイト達は巻き添えを食らわないように2人から距離を取る。
「何故、神はッ……くっ!何故、運命はココに試練を!?彼女が何をしたと言うのだ!悪行など行わぬ平凡で平坦なだけの少女なのに!主よ、貴方は知らぬのですか!彼女が豊胸に良いからと牛乳を飲み過ぎて腹を痛めたことを!最近、妹に胸囲を越されそうで焦りを覚えて────」
「死ねえええええ!」
「そもさんッ!!」
ココの鋭い蹴りがセシルの顔面にクリティカルヒット。
そして、ひっくり返ったセシルに馬乗りになり殴り続ける。
それを見て浮かぶのは一言。
「大丈夫みたいだな」
「そうですね」
はい、次行きましょー。
◆
部屋中央の天井から血塗れのセシルが縄でぐるぐる巻きにされ吊られていた。
「あ……ああ…………この世に不変の安寧は無く……しかし、私たちの内に神はあり…………」
未だ戻り切ってはいないようだが、放置で。
「という訳で、次はココ」
「……アレを見て良く平然と進められますね」
「この世界は理不尽と変人で占められてるからな。それが俺が学んだ事だ」
気にしてたらキリが無い。
切り替えていこう、パパッと。
「嫌ですよ。私、ああはなりたくないし」
「今、ジョー、じゃなかった、ウォーレスさんが改良加えているから。……終わりましたー?」
「おう、終わった終わった」
作業に取り掛かっていたジョージが腰を上げ、工具を片付ける。
流石、元勇者。
手際が良い。
「これで100%大丈夫さな」
「だってさ。ほら、もし何かあったら金貨1枚賭けても良いし。保証するから」
「……まあ、そこまで言うなら」
渋々ではあるが、何とか装置に座る。
ジョージに合図を出し、気持ちが変わる前にココの計測を開始させる。
「────同調開始」
魔力の供給の為に装置には触れておく。
ジョージの詠唱に装置が呼応し、淡い光がココを包む。
そして、それはものの数秒で終わり、
「終了したぞ」
「……本当に何も無かった……それで結局何が分かるんですか?」
アババせずに済み、安堵した様子のココ。
そして、装置から取り出したデータを記した紙をジョージの2人で見る。
色々と得意の分野が載っているが、中でも一番才能があったのが、
「……これは」
「ココ君。君の向いている系統は【陰陽術】だ」
「オンミョウジュツ?初耳ですが、それは一体……」
この異世界では俺も初耳だが、元の世界では初耳ではない。
やっぱこの前の葉子さん関連か。
ジョージの方へと顔を向ければ、何かを思案している。
そして、考えがまとまったのかココへと話しかける。
「ココ君。君は魔法を行使し辛いと感じたことはないかい?技術的な問題という意味ではなく、まるで何かに魔法の流れを邪魔されているような」
「そ、それは……!」
図星なのか、ココのその反応にジョージは納得した表情をし、更に言葉を送る。
「いや、ある筈だ。上手くいかぬ事へのもどかしさを」
ジョージはココだけでなく教室中の生徒全員に聞こえるよう、まるで講義を行うかの如く説明をする。
「陰陽術は良く知る私達の魔法とは異なる系統だ。この大陸に陰陽術という概念はない。だが、勇者の自伝の一つにとある島国にて発見した陰陽術の表記がある。そこには柔らかな白い穀物を主食とし、こちらの国とは異なる魔法形態を所持した国がある、と」
島国と言われてイメージされるのは狐獣人の葉子さん達の事。
確か蛇使いの女が変な札を使っていたな、と思い出す。
「多くの歴史学者は権威を強めるための誇張だろうと判断しているが、私はそうは思わない」
「それは……何か物的証拠でもあるんですか?」
ココは懐疑的にジョージにそう問いかける。
対して、ジョージはスグに解答を送る。
「彼が証拠だ」
ジョージは俺の方を指差し、ココは疑問を顔に現す。
俺は思わず表情が崩れそうになるが、精一杯のポーカーフェイス。
事前に打ち合わせしてなければヤバかった。
こちらが内心焦っているのを気にしないかの如く、ジョージは話を、都合の良い嘘を続ける。
「【勇者の遺物】……これは、知ってるかな」
「……?それぐらいなら。しかし、それが一体?」
「先も言ったが、実はこの装置、勇者ジョージの遺品なんだよ。そして、これは彼無しでは、誠一無しでは作動出来ない……そこまで言えば察しの良い子なら分かるんじゃないか?」
「─────まさか」
「そう。彼は、誠一こそが学園創始者にして勇者ジョージの子孫なんだよ」
ざわりと教室が騒がしくなるが、当然真っ赤な大嘘です。
しかし、本人の許可、むしろジョージの発案なのだが、を貰ってこの設定で通す。
これから生徒たちの前でチート能力を披露しても、勇者の遺物や勇者の子孫だからと言えば、無理くりではあるが都合が良いし誤魔化せるとの考えからだ。
ジョージは生徒たちが動揺している内に畳み掛ける。
「彼が隣国のクロス王国から推薦されて教師になったのは知っているかな」
『私、聞いたことある』
『……あれって噂じゃなかったのか』
『そうか……子孫だったから……』
『なるほど。通りで』
言っとくがこれに関しては嘘では無い。
だからこそ明言はせず、勝手に勘違いしてくれる。
「しかし、この装置だけでは勇者の血を引いている確証足り得ないだろう。……だからこそ、これを見せよう」
ジョージから合図が来たので、俺はスマホを操作してこの時のために制作した品を出す。
それは一つの扉だ。
そう扉だけが立っている。
俺は扉に手をかけ、扉を開ける。
すると、本来であればただ向こう側が見えるだけなのに、扉の先にはそこだけ別の光景が広がっていた。
「ま、まさか……それって!?文献にも残ってた瞬間移動の魔導具かよ!」
「正解だ。これも勇者の遺物であり、誠一の秘密の一つだ」
その現象に、レジナルドが目を見開いて驚愕する。
過去にジョージは同様の魔導具を作っていたそうで、まさかレジナルドが知っていたとは思わなかったが、それを再現して作ってみた。
因みに扉の色はピンク。察してくれ。
扉の向こう、そこには先日に訪れた葉子さん達の住む土地が。
ココ・クズノハの得意分野が陰陽術。
ならば、すぐさま聞きに行こう。
「論より証拠。さあ、皆。出掛ける準備をするんだ」
◆
そして、陰陽術を習いに以前お世話になった葉子さんの住む地に生徒と共に訪れた。
今回は前回とは違いある程度の立地も知っているし大勢なこともあって、倉庫ではなく300m程離れた場者に降り立つ。
最初こそ本当に遠く離れた異国の地に移動した事実に動揺を隠さず騒がしかった生徒達だったが、現在はとある理由で静かである。
そのとある理由というのは、
「はい。という事で、あっという間に着きました。では、これから件の葉子さんに会う訳ですけど。皆、失礼の無いようになー」
すっ、と1人が質問を求め挙手をする。
ココ・クズノハだ。
「はい、ココ。何かなあ?」
「先生。瞬間移動の魔導具も、先生が勇者の血を引いているという事に異論は無くなりました。でも……」
チラリと横を向く。
俺も見たくはないが、しょうがなく横を向く。
「そこの者、一体何者だ!何処から現れた!?」
視線の先には抜身の刀を構えた巫女さんが立ち構えていた。
此方を威嚇するように睨み付け、警戒度がMAXなのが初対面でも見て取れる。
「何でこんなに警戒されて居るんですか?」
「……聞かないでくれ……」
解らないけど、慣れで理解した。
……いつものヤツや。




