3、勇者直伝(そのままの通りです)
「……なあ、先生。何でか反省室を出てからの記憶があやふやなんだけど。……何か知ってるか」
「ん〜?分かんないな〜……ところでクッキーあるけど。食べるか?」
「やった、ラッキー!」
俺も記憶が消えててラッキー。チョロいぜ。
とまあ、問題も解決したので次へ進もう。
今日は前々から考えていて計画の決行日だ。
「さて授業を始めようと思いますが……今日はいつもと少し違います」
俺の発言に生徒たちは?を浮かべる。
この日のために、既に学園長にも許可は取っている。
「それでは今日は特別講師に来て貰いました。どうぞ、お願いします」
そう声を掛けると教室のドアがゆっくりと開かれる。
生徒たちの視線を集め、そこに立っていたのは、
「はい、学園図書館司書のウォーレスさんです!皆、拍手ー!」
「は、ははは……どうも〜。…………何で俺が」
まばらの拍手の中、ぎこちなく入ってきたのはミゲル学園長の元学友であるウォーレス。
彼は作り笑いを浮かべながら、一瞬こっちを恨みがましい目で見てきた。
俺はそれに気づかないフリをしながら話を進める。
「さて、今日の授業では特別な器具を使って診断を行います」
またもや教室のドアが開き、数匹のコボルトが大きな装置を引いて持って来た。
それを教壇前に設置していると、やはりというか、気になったレジナルドが質問をしてくる。
「先生……それは一体?」
「これは特別な魔導具でな、とある筋から入手したんだ。ほら、俺ってビルゲイさんと仲がいいだろ」
────────と言うのは嘘である。
パッと見で古めかしく歴史を感じさせる装置だが、これはそういうデザインというだけで誠一のスキルで制作した魔導具だ。
明言こそしないが、それとなくビルゲイさんから入手したと匂わせる。
それらしい理由付けである。
「これはこの学園の創始者ジョージが試作していた装置でな。それぞれの魔力の波長、魔力量、系統を測定。しかもその人物の得意な傾向、例えば剣術などが判明してしまう装置だ」
装置の説明をした時の生徒たちの顔はというと、…………眉唾物といった感じか。
まあ、ドラえもんの秘密道具並みに夢みたいな装置だからな。
「ただ、この装置が出すデータを読み取るのに知識が豊富な人材が必要不可欠。そこで、図書館に保管された蔵書を全て網羅するほどの猛者であるウォーレスさんに来て頂きました」
生徒たちの懐疑的な表情には気にせず話を進めていると、ウォーレスがこちらに近づき耳打ちしてきた。
「……おい、本当に大丈夫なんだろうな!?」
「大丈夫大丈ー夫」
なんたって最初の一人さえ成功させちまえば、あとはモーマンタイなんだから。
と言う訳で、後ろを振り返りウォーレス、俺たち二人の狙っていたターゲットの肩を掴む。
そして、当のウォーレスは「は?」と訳の分からぬ顔をしている。
「では、一旦座って」
「いや、何でオ、私が最初なんですか!」
暴れるが、逃がさぬよう放さない。
「デモンストレーションよ。デモンストレーション」
ミゲル会長からもらった許可証を盾に、有無を言わせず装置へと固定させる。
そもそもこの装置は人の得意分野を測るだけではないのだ。
「安心して。あっという間すぎて夢を見ているかのように直ぐに終わるからさ…………だから先に言っとくごめん(ボソリ)」
「おい、今なんて────!」
謝罪と説明はまた今度で。
間髪入れずに、スイッチを入れる。
装置は青白く輝きだして、
「あばばばばばばば!!」
ウォーレスの体がガクガクガクと激しく痙攣し始めた。
「ちょ……せ、セーイチ先生!痙攣!ウォーレスさんが痙攣してますよ!」
アビゲイルが慌てて、俺に装置を停止させるように計るが、
「大丈夫大丈夫。すぐ終わる。だから近づくな巻き込まれるぞ」
「さっきから大丈夫だけしか言ってねえぞ、あの講師」
「あれ見て、どう安心しろと?!」
「大丈夫の中身がカッスカスじゃねえか!」
「そんな事より早く止めてやれ!」
………確かに時々だが骨が透けてるように見えなくはないが。
強くしすぎたかなー、と呑気に考えていると光りが納まる。
……同期が終わったか。
装置に近づいてウォーレスの───────いや、コイツの腕から拘束具を外す。
生徒を安心させるためにも、コイツに反応を促す。
「も〜心配し過ぎだって。お前もそう思うだろ?なあ、ウォーレス」
「────その通りですよ皆さん!至ってなんて事も有りませんでしたよ!」
満面の笑みでそう答えた。
……生徒たちが一歩後ろに下がったので、逆効果か。
◆
ふむ、初めに出る言葉が悪態で無いのなら、どうやら成功したようだ。
生徒達に見えぬようにハンドシグナルで問いかける。
『上手くいったのか?』
『ああ。無事にウォーレス君の体を借りてるよ』
『それは良かったよ、ジョージ』
隠すのはいけない事だ、なので率直に、簡潔に言おう。
今現在、ウォーレスの体には、元勇者のジョージが乗り移っている。
この装置、適正能力を読み取る機能の他に、一回限りの機能で幽霊のジョージを憑りつく仕掛けを仕込んでいたのだ。
ジョージが言うには、幽霊というのは精霊のように精神体であるとのこと。
そして、この世界に存在するエルフという種族は、元来精霊魔法の使い手であり精霊との相性が高い。
その為、エルフの体は精霊などの精神体を受け入れやすい体質となっている。
そして、ジョージは学園を創始するほどの博識者であるが、200年のブランクがある。
その為、憑りつく先は知識を有している者が好ましく、
(つまりは、ウォーレスさんが正しく優良物件だったんだよな)
ハーフエルフで、シルフィさんが太鼓判を押す人材だ。
ちなみに、現在ウォーレスの意識は夢の如くまどろみの中にあり、ジョージが体を返却すれば意識が戻る。
言い訳すれば騙せないことはないだろうが、そこの所は正直に話すことに決めている。
まあ、今はそれを置いていく。
「ほら、どこか変な所があるかい?無いだろう!」
ウォーレス、もといジョージは大手をふるいアピールをする。
「さて、安心して試せる訳だけど────一番手、誰行く?」
俺がそう聞くと、ザッと、皆が一斉に教室の奥へと下がった。
「あれ、誰も居ないのかー?」
「いえ……先生、普通にあれ見て出る人居ませんよ」
一番隅っこからアビゲイルが抗議の声を上げる。
困ったが………まあ、こう言えば、確実に一人が決まる。
なので、提案する。
「しょうがないな。じゃあ、誰か一人推薦された人ので行こうか」
「「「なら、セシルが良いと思います」」」
うん、揃った速答。
一人除いた約全員からの回答なので、逃げる前に周りにいたクラスメイト達が仲良くセシルを確保。
素晴らしいチームワークだことで。
当のセシルは簀巻きにされながらも、抗議の声を上げる。
「て、テメェら!俺が何をしたって言うんだ!?」
「女子寮への覗き」
「人の物を盗み食い」
「俺のエロ同人を勝手に借りパクしたこと」
「ああ、それはダメだな」
「重罪だ」
「取り敢えず、生理的に無理」
ほぼ全員から被害届が届くは届くは。
最後、キツネ耳の子のだけは苦情じゃなく、純粋な嫌悪だし。
「畜生ー!覚えてやがれー!」
「言い訳の猶予もないな……という訳で判決有罪」
日頃の行いを悔め。
釣り上げられた魚みたく暴れるセシルを何とか装置に固定する。
「いやー!やめてえぇぇぇ!洗脳されちゃうううう!エロ同人みたいにビクンビクンってなって犯されるー!」
「するかアホ!……そう暴れるな。次の装置被験者の指名権していいから」
「「「──────────────」」」
すると面白いほどに、その言葉を境にピタリと教室内の動きが一斉に止まった。
辺りは静寂に包まれ、誰かの生唾を無理やり飲み込む音ですら、こちらへの耳へと届く。
そして、彼らの視線は装置の、括り付けられた者に向かう。
セシルは全員の視線を受けながら、こちらを見上げると満面の笑みで、
「……なら、ココで。一番嫌がりそうだし」
「こ、こいつ……!!後で殴り殺す!」
「はは、ざまあ!死なば諸共、俺を殴ったところであばば顔晒すの確定だ!我が生涯に一片の曇りなし、さあ先生やっちまってくだ『スイッチオン』あばばばば!」
「ジョー、……ごほん、ウォーレスさん何してんの?」
「いや、無駄に長かったから。ちゃっちゃと終わらせたくて」
容赦ねえなあ、せめて言い切らせてやれよ。
そう言ってウォーレスは装置の水晶玉に手の平を乗せると、同調が始まり装置が淡く光りだす。
幻想的な光景ではあるが、隣であばば言いながら震える生徒がいるのでシュールさこの上ない。
「……ほい、終わり」
ウォーレスが触れてから、ものの数秒で終わり装置が停止する。
拘束具を外しながら、俯いているセシルに問いかける。
「ほら、あっという間だし大丈夫だったろ。なあセシル?」
「────はい、先生。寧ろ心が清々しく、安寧で満ち溢れています」
「「「誰!?」」」
そこには一ミリの穢れを感じさせない清々しい目をした、きれいなセシルがそこにいた。




