2、諦観への道のり
何故、レジナルドが反省室に居るのか。
端的に説明しよう。
合同授業で、俺こと沢辺誠一が破壊した研究者グロリアのゴーレム。
爆発させバラバラになったパーツの一部を、このレジナルドはここぞとばかりに何個か拝借していたのだ。
……何してんのお前は。
しかもそのパーツ、高価かつゴーレム動作制御の根幹となる重要なものであったようで。
それで、開発者であるグロリアが律義に回収し、パーツが足りないことに気づいた。
で、今に至る。
レジナルドを連れて廊下を歩き、朝の授業へと向かう。
「正直に言うぞ。……馬鹿か?」
「そうだな。もっと巧くくすねておけば良かった。バカやった」
「そっちじゃねえよ!」
チョークスリーパーをかけると、こちらの腕をタップしてくる。
手続きが必要なので担任として態々引き取りに来たというのに、この野郎。
書類に記入が地味に面倒かったし、ちったあ感謝しろ。
反省させる為にチョークスリーパーからコブラツイストへ移行してると、向こうから歩いてくる人影が。
「む…………」
「…………あれ、グロリアさん?」
右手に一枚の書類を手にし、ゴーレム研究者のグロリアさんだった。
グロリアさんは俺ら二人の姿を見ると、ふぅと溜息を吐いて手にしていた書類を無造作にポケットに入れる。
「おはよう、セーイチ先生。………いらない心配だったか」
「あ、あのグロリアさん!」
そのまま身を翻して去ろうとするグロリアさんに声をかけ引き留める。
「…………何か?」
「いや……あの……」
レジナルドの事情を聞いた後だからというのもあって、思わず声を掛けてしまったが、
「グロリアさんのゴーレム……大破させて申し訳ありませんでした」
そう言ってから、「やべ、これ嫌味と取られないか」と心配になるが、
「気にしないでくれ。………こちらも悪いことをしたわけだしな」
見ればグロリアさんも申し訳なさそうな顔をしている。
悪い人ではないのだろう。
むしろ糞野郎のアレサンドロのこと考えれば苦労人か。
……あれ、意外と苦しみを分かち合える人なのでは?
この異世界では珍しい一般人枠だし。
もっと話を出来ないかと考えたが、
「あ!ここに居たんですね先生!」
新たな人物が現れたことで遮られた。
あれは……Aクラスの生徒だったか。
グロリアさんの元へと駆け付けたのは、三つ編みおさげの頬にそばかすがある女子生徒。
煤がついた作業機に、そして頭にはゴーグルが着けられ。
……気のせいか。レジナルドのゴーグルとデザインが似ているな。
「探しましたよ、一体こんな所で何を………………!」
こちらに気づいた女子生徒は、何故か俺の方を睨んできた。
……いや、違うな。
睨んでいるのは俺じゃなく、レジナルドだ。
コイツ、グロリアさんとだけでなくこの女生徒にも因縁あるのか?
「……ふんっ。ほら、先生。行きましょう!」
「ああ………では、失礼する」
「ええ、また今度」
そう言うと、グロリアさんは女生徒に連れられ、来た道を戻っていった。
……悪い人ではないんだろうな。
先ほどポケットにしまっていた紙は、反省室からの引き取り申請書だ。
自分も書く羽目になった訳だし、見間違えるわけがない。
二人は去っていく。
誠一はそんなグロリアさんの背中を見て、
「────────────────」
ふと。
ふとだが、思わず考えてしまった。
彼はどのような気持ちで『夢』を見なくなり、現実を見ろとレジナルドに告げたのかと。
下衆の勘繰りであるが。
グロリアさんについて詳しく知っているわけではない。
知りようがない。
それでも考えずにはいられない。
自分の夢を捨て、諦観してしまうまでの道のり。
そこに至るまで決して軽易なものではない筈だ。
それこそ、かつての自分と同じ夢見る子供に、褒めるでもなく、歓迎するでもなく────諦めの言葉を告げてしまうほどに。
そして、その朽ち果て見る影もない憧れの残骸を見たレジナルドはどれほどの憤りだっただろうか。
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そういやさっきからレジナルドが静かだな。
何かグロリアさんに言うかと思っていたが、
「────────────────(ぷらーん)」
「……………………あ」
見れば、レジナルドが白目向いて気絶していた。
そういえばグロリアさんに気を取られて、ずっとコブラツイストかけっぱだったのを忘れていた。
「ちょ、レジナルド……………レジナルドーーー!!」




