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38、代弁者

『悪しき人生は悪しき思想に従う』

───思想家レフ・トルストイ


誠一が学生寮にいる頃。


とある豪華絢爛な屋敷。

その屋敷の中でも、贅沢を尽くした調度品が飾られた一室で男は荒れていた。


「クソッ……平民如きが!!」


机上の物を感情のままに薙ぎ払い、書類の山が床へと散乱する。


中で暴れているのはAクラスの担任にして貴族、アレサンドロだ。

彼の頭の中で渦巻くのは、


「あんなッ、下等な男がッ、あのゴーレムを破壊したッだとッ!!」


合同授業にて、此方が手を加えたゴーレムを打ち倒した男。

誠一への憤怒であった。


アレサンドロは選ばれた人間である。

侯爵家の貴族に生まれ、何不自由の無い暮らし。

皆は私に(こうべ)を垂れ、魔法学園では自らの手腕と才覚で塵芥を退け、首席を獲得した。


地位も、金も、名誉も、才能も、それらは全て生まれ持った物であり、それは不変であり当然の事なのだ。


故に私は確信している。

こんなにも何不自由することのない恵まれている自分が、神に祝福されていない訳が無いと。

今はこの立場に甘んじているが、自分こそが頂点に立つべき選民であると。


だからこそ、今日の出来事が許せないのだ。


物へと当たりアレサンドロは肩を上下させる程に息を荒げるが、未だに怒りは収まらない。


ガキリと歯を噛み締め、腕を振り上げるが、


「────おやおや。今日は一段と荒れていますねぇ。如何なされたので?」


「…………ッ!?」


突如現れたもう一つの声に、アレサンドロは振り下ろさんとする手を止めた。


振り返れば、先程まで部屋にはアレサンドロしか居なかったと言うのに、燕尾服を着た仮面の男がそこに立っている。

アレサンドロは仮面の男がいきなり部屋に居るというのに、2人は面識があるのかその事に驚いた様子はなく苛立たしげに睨んでいる。


「……貴様か、ファントム。ノックぐらいしたらどうなんだ」


「いえねぇ。何分(なにぶん)お取り込みの最中でしたので、終わるまで待とうとしたのですが。此方も時間が無いので失礼しました」


ふふふと笑みを浮かべて、そのように言いのけるファントムと呼ばれる男。

アレサンドロはファントムの言葉で出そうになる舌打ちを我慢する。


ファントムはアレサンドロが不機嫌な事も気にせず、話を切り出す。


「今回は【破魔の欠片(パンディット・チップ)】の使い心地を聞きに来たのですが。確か、ゴーレムの装甲として利用し、生徒相手に試験を行ったのでは?」


「……本当にあれは効果が有るんだろうな?」


「それは貴方が実際に試して、壊れないと実証済みじゃないですか」


「────ッ!」


返す言葉はなく、しかし、それは最大たる肯定であった。

その事実に、アレサンドロは奥歯が砕けるのではと思うほどギリギリと歯を噛み、机を蹴飛ばす。


確かに、自らが放てる最大魔法でもゴーレムは大破することは無かった。


ならばこそ。


だからこそ、誠一(あの男)への憎悪が無限に湧き上がるのだ。


自分が歩む道は燦然(さんぜん)と輝く道だ。そうでなければならない!


その道に浮き出る『汚れ』。

己より下の平民が、優れた私よりも秀でているという事実。

汚点を許せる筈が無い。


……『汚れ』は早急に消さなくてはならない。


このままでは『汚れ』は落ちず、輝かしい筈の道に一生染み付くことになる。


「ファントム、【破魔の欠片(パンディット・チップ)】をもっと寄越せ。そして強化された魔物も……カグツチオロチだったか、それもだ。金に糸目はつけない」


「それは有難いですが……」


スッと笑みを無くし、ファントムの目がすわる。


「分かってますよね?私たちが貴方に手を貸すのは、革命の為だと。勝手に先走られて計画を台無しにでもされれば困りますよ」


ファントムは釘を刺すように言うと、アレサンドロはドス黒い感情を目の奥に宿しながら冷静に応じる。


「馬鹿にするな。それぐらいは肝に銘じている……そうとも、私が変えてやるのだ」


アレサンドロはそれこそが正しい行動と心の底から信じて疑わない。

そこに至るまでの過程が悪だろうが善だろうが、彼にとってはどうでも良い。

ただ己の為になることこそが正義であると言わぬばかりに。


「運で学園の頂きに立つミゲルも。その穢らわしい亜人の血を引く娘も。世襲だけの1人じゃ立てもしない女帝も。全て、この私が目を覚まさせてやる!」





この世界で、この国で、この学園で、大いなる陰謀が迫りつつある。


そして、その大きな渦に巻き込まれている誠一はというと、



「あ、お兄ちゃん。お帰、ってどうしたの、そのほっぺ!?とっても膨れてるよ!!」


「え、マジ?……って、ウオオオウッ!自分の事だけど、引くほど青ッ!どうりで痛いはずだわ……」


「凄い音でしたよね。僕、今思い出してもゾッとするもん」


「ジーン君と屋上で何かあったの、カレンちゃん?」


「ジーン達が屋上で『ナニ』してた!?そ、創作意欲が!……3P」


「リッツ、貴女も大概ね。……ほ〜ら、リエラ。あっちに行きましょう。変態がうつるわよ〜」


「あ、そっち行ったわ!」

「テメェ、このセシル!俺らのフライ食いやがって」

「追え、逃すな!」


「へへ〜ん。お尻、ペーンペン!あっかん、ブウェェェェエ」


「「「野郎、ブッ殺す!!」


「セシルの奴も相変わらずだな『────カチッ』アン?何か踏んだ」


ドカンッ!


「あぶしゃあ!?」


「「「「「アンディー!!」」」」」


「うるせえから来てみれば、何で地雷なんかあんだよ。大方、レジナルドの作品だろうけど。……おい、クズノハ。何で目をそらす」


「アンディーも変わらず、不運だな。そう言えばレジナルドどこ行った?」


「あ、レジナルドなら学園の反省室ですよ」


「何で?!」


阿鼻叫喚か、狂喜乱舞か。

それとも平常運転か。

この乱痴気騒ぎをどう言い表すべきか、カオス過ぎて分からない。


シリアスが少ししか続かないこんな男が、物語の渦中とは。


ただ、一つだけ。

傍観者の自分は敢えて、正直に、そして、その他皆様の気持ちを代弁して言おう。



…………不安だ。


次章、成長譚

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