31、ちち、とは
突然のストリップなハプニングに悲鳴を上げて、目を塞ぐ誠一。
対する、スッポンポンの本人は動じた様子なく、すんすんと鼻を鳴らしている。
「な、何で裸なんだよ!裸族!?それともモザイク魔法使いのご親戚か何かですか!」
頭の中で、イルクさんがモザイク立ちしてるイメージ図が浮かぶ。
汚いのを連想しちまった。
手で目を塞ぎつつ、女性の反応を待っていると、動きがあった。
ぼそぼそと無感情な声が聞こえてくる。
「……………ふ…」
「ふ?」
「……普通、悲鳴上げるのは裸を見られた方ではないの?」
「まさかのツッコミ!いや、正論だけど!」
……独特なテンポをお持ちだわ、この子!?
どこか他人事のように言い放つ女性。
というか、そろそろ服着てくれないかな。
「あのー、自分もずっと目を塞いでる訳にもいかないので……そろそろですね」
「……裸が見たいの?」
「そうじゃなくて!若い娘さんが、そう易々と自分の肢体をみせちゃいけんのよ!だから、服を着て」
「…………私の服はどこ?」
「知らないよー!自分の服でしょー、君が知らなきゃ俺知らんよー!」
彼女の独特な天然具合に振り回される誠一。
……お、落ち着け。そう、素数を数えて落ち着くんだ誠一。
この女性が誰だかは知らないが、1つ分かることがある。
それは、ここに「ミゲル学園長が来る」ということだ!
このままでは、あらぬ誤解が生まれる。
だからこそ、こういう時こそ落ち着くのだ。
このままでは一向に平行線だ。
着実に、一歩ずつ、進んでいけば答えに辿り着く。
俺のばっちゃが言ってた。
会話で大事なのは5W1Hだって。
「服が消える訳があるまい。服はどこで脱いだか覚えてる?」
「……この部屋」
「そう、その調子。じゃあ、次はいつ、そして何故脱いだのかな?」
……何か、変態チックな質問にも聞こえる。
いや、気にしたら負けだ。
「……昨日の夜、実験中に薬品を零して。汚れたから脱いだ」
「よーし。そこまでいけば思い出したでしょ?さあ、脱いだ服を着るのだ」
「…………」
しばらく無言が続いて心配したが、ゴソゴソと何か漁る音が聞こえてきた。
そして漁る音が止むと、布が擦れる音が誠一の耳に届く。
どうやら、無事見つかったようだ。
「……服を着たわ」
「ふぅ……やっと目が開けられる」
目を開くと、彼女が裸の上からうっすい白衣一枚だけを羽織り、棒立ちしていた。
なんか、裸よりもエロくて、背徳感がある。
「裸エプロン」ならぬ「裸白衣」。
何も進展しておらず、むしろ後退した現状に嘆きつつも、再度目を塞ぐ。
「何故に裸白衣!?」
「……大丈夫」
「何が、そしてどこが?!」
「……局部は隠れている(ふんすっ)」
「防御力が皆無!そこまで白衣は偉大じゃないよ!何、その白衣への信頼感?!」
見えないけど、何かドヤ顔してる気がする。
……ええい!まどろっこしい!
このままではイタチごっこの為、強制的に服を着せることに。
脳内で魔法をイメージし、手を叩く。
そして、そのイメージが魔法陣となって現界する。
「────ふぅ。最初からこうしとけば良かったな」
つぶっていた目を開ける。
すると、先程まで装備品が【汚れた白衣】という初期勇者のステータスより貧相な格好が、
「…………!」
1枚のTシャツに、ジャージのズボン。
その上から白衣を羽織り、それと、見えないが下着にはかぼちゃパンツとスポブラ。
誠一の魔法により、あっという間に女性は着替えさせられていた。
女性は驚いたように自分の服装を見ている。
ちなみに、Tシャツに書かれた文字は『パンが無いならコメを食べればいいじゃない』。
これは誠一のセンスである。
女性はしきりに服を確認し、自分の着ているTシャツに手を掛けると、
「…………ふんぬ(ビリビリ)」
そのまま勢いよくTシャツを豪快に破った。
「何をしてるの!?またも裸に逆戻り!あれか、裸じゃないと落ち着かないのか!?」
「……違う。調べてる」
「?」
破かれ、ボロ布と化した元Tシャツの一部を事細かに観察している。
よく見れば右の目元に、まるでモノクルのように小さな魔法陣が浮かんでいる。
そのままジーッと服の破片を観察し、動かない女性。
かと思えば、不意に目を離し此方に聞いてきた。
「……さっきの魔法陣をもう一回出せる?発動しなくていいから発現だけ」
「え?あ、ああ良いけど」
とりあえず言われた通りにする誠一。
先程作り出した魔法陣をもう一度出現させる。
魔法陣は浮かび上がらせるだけで魔力を通さなければ発動はしない。
その魔法陣も服同様に観察する女性。
……あのー、集中してるとこ悪いんですけど……。
「その、ですね……そろそろ服、着直してくんない?」
「───────」
やっぱし無反応。
目のやり所に困るんで、女性には行動に移って貰う。
「はい、ここまでな」
「……あ」
未だ観察していたが、途中で魔法を発動させて魔法陣を消させる。
今回はTシャツだけ新しいのに変えさせる。
今度の文字は『一日三食 飯を食え』だ。
「もうそろミゲルさんが来るから。だから服を整えて────」
「……"焔よ、我が衣を焼き払え"」
突如上がった炎が女性の服を焼いた。
一瞬で新しいTシャツどころかズボンに下着まで灰になった。
リターン・スッポンポン。
「何でっ燃やすッ!?」
「……まだ観察し切れてない。早く魔法陣を出して」
少しムスッ面で言われた。
見たいからって強行手段かよ。
だからって服燃やして全裸選ぶかよ普通。
「あのねえ!こんなとこ見られたらヤバイの!もう留置所は勘弁なのよ!」
全裸女性に男性、そして荒れている部屋。
社会的死、デッドorダイ!
今のところ訪れた全ての国の留置所をコンプしているので、マジでシャレにならん。
「だから、大人しくジッとして────」
「何をしている?」
背後からかけられた男の声に誠一はビシリと固まる。
ユックリと振り向くと、
「ど、どうもー。ミゲル学園長……」
「ああ。どうも、誠一」
ミゲル学園長が居た。
彼はいつもの落ち着かれた様子でこちらへ挨拶を返す。
落ち着け。
そう、人間とは真摯が一番。
ミゲル学園長は聡明なお方だ。
ありのまま起こった事を話せば、分かってくれる筈。
そうとも。
────部屋開けて、邂逅したマッパウーマンが白衣ウーマンに変身したのでカポチャパンツ履かせたら上着破かれ、それ直したら燃やされました────そう言えば。
……うん、無理だ。
自分でも何言ってるのか分からん。
人間、追い込まれすぎると、心が凪のように静まり達観するものである。
もうどうとなれ状態の誠一。
だが、ミゲル学園長は誠一を糾弾するではなく、誠一ではなく後ろでマッパの女性の方へと足を進める。
ミゲル学園長は対面する女性が全裸だというのに、動じた様子はなく、女性の前に立つ。
そして、片手に持っていた袋から、女物の服を取り出し女性に渡す。
それは手慣れた行動であるのが見て取れる。
「裸では風邪を引いてしまうぞ」
「……ありがとう、父」
「ちち……父!?」
まさかの衝撃の事実に驚きを隠せない誠一であった。




