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プロローグ

 爽やかな秋晴れとなったこの日。各テーブルから聞こえる談笑が心地よい。着慣れないモーニングの違和感にようやく慣れてきた。緊張からか、序盤に少し酒を飲みすぎたが、今は程よく酒が抜け、いい気分だ。視線を前方に向けると、息子が友人達と楽しそうに話している。息子の友人と会うなんて何年ぶりだろうか。息子がまだ小学生の頃によく家に遊びに来ていた子も、今はすっかり大人になっていた。

 二十七年間、大切に育てた息子の晴れ舞台を、一番遠い席から見守る。こんな景色だったのかと、幸せそうに笑っている息子を見て、当時の私と重ね合わせる。隣にいる妻の顔見ると、その表情は嬉しくもあり、寂しくもある、どこか切ない感じがする。母親にとって息子は恋人、とはよく言ったもので、例外なく妻も息子を心から愛していた。

 息子から、食事のコースメニューが決まったと電話を受けた際、「父さんがこれまでの人生で一番美味いと思える肉だと思うよ」との言葉通り、メインで出てきた牛フィレのステーキは、確かに人生で一番美味いものだった。そんなステーキの皿をスタッフが下げると同時に持ってきたのは、コースの最後を飾る色鮮やかなデザート。これが出てくると、終わりが近付いているんだ、といつも思わせられる。


「皆様、素敵な雰囲気で執り行われた披露宴も、そろそろお開きの時間が迫ってきました」


 案の定、透き通った声の司会者がそれを告げた。さっきまでの幸せそうな新郎新婦の表情が少し緊張に包まれる。一般的な披露宴の順序で言えば、次は花嫁の手紙か。会場中の目線、微笑みを、涙を新婦に捧ぐ素敵な時間。

 披露宴に参列し、この時間がやってくるといつも私は自分達の式の事を思い出す。それは、妻が花嫁の手紙を読まなかったからだ。両親がいない訳でも、勿論感謝をしていなかった訳でもない。


「手紙は真一が読んだ方がいいよ」


 珍しく妻はそう言って譲らなかった。妻が恥ずかしいとか、サプライズという余興感覚で私に手紙を読めと言われてる訳ではなく、妻が私と両親との関係を思ってくれての事だというのは分かっていた。しかし、結婚式は花嫁の為、と思っていたし、何より皆の前で親に向けて手紙を読むなんて恥ずかしくて堪らず、何度も断ったが、妻と担当のプランナーに強く勧められ、初めて手紙を読んだ。これまで数多くの結婚式に参列してきたが、後にも先にも新郎だけが披露宴の最後に手紙を読んだのは私自身の結婚式だけだった。


「皆様、本日は私達二人の為にお時間を頂き、誠にありがとうございました」


 新婦がマイクを持って挨拶を始めた。息子より二つ年上の新婦は美人で、気配りが出来、息子の事を私達同様に大切に思ってくれている女性で、息子には勿体無いくらいだ。こんな素敵なお嫁さんを貰えた息子を誇りに思うし、我が息子ながら今日の彼は一段と男らしく、そして、一層愛おしく見えた。そんな息子の姿を、親父はどんな気持ちで見てくれているんだろうか。

 そう思いながら、新婦の挨拶に耳を傾けた。

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