18話・天然猫には敵わない
side: 篠崎 花音
お昼ご飯を食べ終わった後、ぽかぽかと気持ちのいいいい日差しも手伝って
、微睡んでしまいそうな時間だ。
全員リレーを終えた現在の時刻は一時。あーいい天気だなー…。
真代と雨宮さんもどこかいっちゃったし、先輩も買い出し(に行かせた)。
側には恵美ちゃんと私だけだ。
考えてみると、バディになってからそれなりに経つのに、彼女のことはよく知らない気がする。
そんな先輩はちょっと…ね。これを機会に恵美ちゃんと親交を深めましょう!恵美ちゃ…
「あの…篠崎先輩?なんかブツブツ呟いてて怖いんですが…」
真代の言う「篠崎は読みやすい」っていうのは、こういうことなんだろうな…って分かったわ。
「………篠崎先輩、じゃなくて花音先輩でいいよ!むしろそう呼んでうぇるかむ!」
私が少々食い気味に恵美ちゃんに詰め寄ると、少女はかみ殺したような笑い声を上げた。笑われてる⁈
「分かりました、花音先輩。ふふっ…」
今日の午後はもう、私たちに出場競技はないので結構語り合った。語り合ったなんてひと昔前の青春漫画みたいで楽しい。
色んな事情があって学園に来る人も多いからなんだけど…家族構成すら知らなかったのは驚きだよね。
「そっかぁ…恵美ちゃんには弟君がいるのね」
「はい。生まれてすぐ学園にきちゃったので、"お姉ちゃん"って呼んでもらえなかったのが残念です。…花音先輩が一人っ子なのは想像通りというか…」
想像通りってどういうことだろう。
お上品に育てられたってことかな?ねぇ、そういうことよね恵美ちゃん?
恵美ちゃんは、その他に真代や水上先輩のことも知りたがった。
他人の家庭の事情を教えるのは本当はルール違反なんだけど…私が知ってて念を押さないということは、まぁ話していいってことなんでしょう。
「水上先輩は、女子ばっかりの家庭だって聞いたわ。お姉さんと妹二人…だったかな」
たしか前に聞いたときはそうだったような気がするんだよねぇ。うーん、違かったかなぁ、なんて頭を悩ませていると、頭の上から聞き慣れた声が降ってきた。
「あぁ、たしかにそうだな」
「あ、水上先輩おかえりなさい」
いきなりの先輩の帰還にもしれっと対応する恵美ちゃん。なぜか先輩がいきなり肩に手を置くもんだからこちらとしては密着しすぎて熱くてたまらない。
「なにするんですか!びっくりし…」
すると、いきなり先輩の大きな手に口を塞がれる。耳元で囁くのはだめー!!
「真代のことは話してないだろうな」
真代のこと?いや、話してないんだけどなぁ。そう言うと、先輩は肩から手を離して身体ごと後ろに移動した。
……熱かったから離れてくれて助かったわ。
「ならいい。というかこいつが勝手に話し始めたんだろうしな。俺の家のことなら存分に教えてやるよ」
先輩は恵美ちゃんの近くに座り、そう言うと楽しそうに談笑しはじめた。
あっ!気づかぬうちに恵美ちゃんを取られた!
くっ…先輩の家が神社だとか妹さんは双子だとかそんな話が聞きたかったわけどさ!
恵美ちゃんと先輩が並ぶとまるで兄妹だわ。身長差もあるし、年齢も…。
え、あれ…?
もしかして、私と先輩が並んでも家族に見えるんじゃ?
_____そのとき不意に、ズキン…と頭が痛んだ。
****
「ねぇねぇ恵美ちゃん。あのさ、ちょっと聞きたいことがあるんだけど」
先輩は、少し邪魔をすると気が済んだのかしばらくして去って行った。
だから、今はまたテラスで二人きり。
「なんでしょう、花音先輩」
恵美ちゃんがメガネをクイッと上げる。おぉっ天才っぽいぞ!
「……水上先輩って…彼女いると思う?」
そう聞いた瞬間、私の隣にいた恵美ちゃんは、先輩が買ってきてくれた水を喉につまらせた。幸い地面が砂なのですぐ乾くだろうけど、大丈夫かな。
よし、優しい私が背中をなでなでしてあげよう。
「……で、いると思う?」
「あぁちょっと待ってくださいよ…」
恵美ちゃんはまた苦しそうに咳をし始めた。気管に入っちゃったのかしら。
「そんなことなんで…なんで私に聞くんですか?」
「…と言われましても。なんとなくかなぁ?」
私のほわほわとした回答に、少女は呆れ顔でため息を吐いた。
「本当のこと言わなくても、水上先輩のことが好きだけど真代先輩に相談すると散々馬鹿にされるだろうから恵美ちゃんでいいかなー…この子鈍感そうだからなぁって思ってることお見通しなんですよ?」
な、そこまで思ってないし!恥ずかしいとかはやっぱり思ったけど、恵美ちゃんは頭良さそうだから頼もうと思っただけで。
結局はほとんど当たってるんだけど。
「やっぱ恵美ちゃんて…エスパーなの?」
恵美ちゃんの能力はたしか全然関係なかったはずなんだけどな!
****
「さぁ、明日は体育祭最終日です。ガーディアンの皆、仕事がないとは言っても片付けはあるから忘れないでね!」
「「「はーい…」」」
放課後、私たちは無人になったグラウンドにて集合をかけられていた。特に仕事とかじゃなくて、メンバーの鼓舞と怪我人確認ってことみたい。
目の前に出た猫田先輩に、皆様は暗い声音で返事をした。
「ここまで何事もなくやってこれたんだもの。三日間無事に終えられるわ」
こういうときの都和子先輩の言葉は、さすがリーダー!って感じで良いよなぁ。皆も" 頑張るか "みたいな気持ちにさせられている。
最後は猫田先輩の一声で解散、らしく、先輩が再び皆の前に出てきた。
「さぁさぁ残り一日頑張るニャー!」
にゃー?
あっ先輩、叫んだ拍子に猫耳と猫尻尾が出てますよ⁈皆も直ぐに気づいたらしくざわざわしはじめるけど、楽しんでいるのか先輩に言おうとする人はいない。
「おい猫田、耳と尻尾。出てんぞ」
いや、ただ一人声を挙げた人がいた。水上先輩?
ズキン…。
昼間収まったはずの頭痛がまた、今度はもっと酷く。
「きゃぁぁぁぁ!!恥ずかしいぃぃ!!」
その場にしゃがみ込んでしまった猫田…いやマミ先輩に、水上先輩は自分の上着を投げた。たぶん隠せっていうことなんだろう。
上着を被って丸まってしまったマミ先輩を見る、水上先輩は苦笑しながらも優しい目をしてた。
……どうしよう。あたまいたい…もうなにも考えられないくらいあたまがいたい!
それから、自分の足に力が入らなくなって、地面に倒れこむ。
不思議だなー。私の名前を呼ぶ水上先輩の声だけは、意識が無くなる最後の最後まで聞こえていたんだから。




