色彩都市のフォークロア
僕の実家は宿屋だった。小さいながらも設備はしっかりしている方なので、ジュードを自分の家に案内する事にした。
僕の家は繁華街にある。繁華街にあるにも関わらず繁盛はしていない。そもそもこの街は殆ど外交はない上、旅人なんてこない。たまに一晩だけ宿を利用する客が訪れる程で、いつもは閑古鳥が鳴いている。
僕がジュードを二階の空き部屋に案内すると、ジュードは部屋に入るなりまずベットに寝転がった。
「はぁ、柔らかい。疲れた身体が和らげられる」
「暫く寝ていなかった口振りだね?」
「実際寝ていなかった。いや、寝てはいたね。路傍で」とジュードはケラケラと笑った。「石ころみたいにさ」
僕はジュードに宿屋について説明した。お風呂の場所やお湯の出し方。食事の時間に一日の料金の事。
一通り説明を終えると、ジュードは困った表情で自分の身体の至るところを触りだした。どうしたのかと思い訊ねたら、一日分の料金を持ち合わせていないと言う事だ。
「俺は犯罪者か?」
「そんな馬鹿な。ただ料金が払えない状態で宿屋に入っただけでは犯罪にはならないよ。いいよ、料金の事は僕から両親に伝えておくから」
僕がそう言うと、ジュードはありがとうと言って部屋を歩き回った。何か物珍しい物があるのだろうかと思って見ていたら、ジュードが「これはなんだい?」と訊ねてきた。
ジュードは手に不思議な型をした木彫りの人形を持っていた。それは人の形のようで、鳥のような形もしている。
「ああ、これ?バードマンだよ、僕の父さんが趣味で色々集めているんだ。これはその内の一つ」
「他にもあるのかい?」
「うん、客室全てに違う物をね。どういう訳で置いているか解らないけど、一室には必ず一つは置いてあるんだ。部屋によっては二つや三つ在るものをあるけどね」
僕がそう説明すると、ジュードはバードマンをまじまじと眺めた。因みにバードマンとは僕が命名した。特に名前はなかったし、人のようで鳥の形をしているそれをバードマンと名付けた。
「全部見せて貰ってもいいだろうか?」
ジュードがそう言った。好奇心旺盛な子供のような目をしている。今はこの部屋以外、誰も使っていないはずなので、僕は二つ返事でジュードを全ての客室に案内した。