五、ラストゲーム
由里子と柊二の討論は、由里子が喋らなくなることで終了した。
落ちてもいいという由里子の突然の告白に、話を続けることもできなくなったのか、五人は沈黙のまま時間だけが過ぎていく。
なかなか次のゲームは始まらない。
夕陽はもう半分ほど沈んでいる。少しづつ気温も下がってきており、心地いい風が吹き始めた。
そして、スピーカーから音が鳴る。
『お待たせしました。最後のゲームを始めましょうか。』
相変わらずの大きな音だが、その声はいままでより冷静なものに聞こえた。
「で、最後は何をするんだ。」
玄が冷静に話す。
『最後も一人づつ喋って頂きます。今回は人質となっている”クラスについて”です。思い出でもなんでも構いません。喋りたくないのなら喋らなくてもいいですよ?松岡さん。』
「・・・・・」
『それではまた全員回答後、もしくは回答なしも出るかもしれませんがその後に。』
ブツッという音が鳴り響く。
「ここにきて討論のテーマがかなり変わったな。最初は誰が要らないか、つまり誰が”死ぬ”か。次が遺書、つまり”死ぬ”までに残したい言葉。今回だけ全くそういったものがない。」
玄は深く考えているようだ。
「あいつはクラスを開放してもいいか聞いた時ノーコメントだと言った。そして答えに近づいているとも言っていた。そうなると”クラス”というのはキーワードなのかもしれない。」
『無駄な詮索はやめてください。ゲーム中ですよ。』
突如スピーカーから声がした。
「図星か。」
『棄権したいんですか?』
「クラスの命を背負ってる身だ。自分から棄権などしない。」
『ならばゲームを続けて下さい。』
「俺はクラス全員と関わりがあるかと言われればないが、あの空間は悪く無いと思っている。壊されたくもない。以上だ。」
玄は堂々と、そして簡潔に言い切った。
「私もクラスが居心地悪いと思ったことはないわね。私がゲームに負けてみんなも犠牲になるってのは気が引ける。気に入らないヤツもいたりするけどそういうの含めてクラスってやつだしね。こんなもんでいいでしょ?」
鈴は珍しく冷静に答える。
「俺もクラスは好きだな。俺なんかのせいで全員犠牲にはさせたくない。今日ここにいた奴らとそのクラスのメンバーだってそうだ。こんな簡単に命奪われていいわけねぇよ。俺がこの最後のゲームでもし何らかの条件を満たしたとして生き残れたなら、俺はお前を見つけ出すぞ。必ず。お前だったら笑いながら”どうぞご自由に”とか言いそうだけどな。」
少し怒りをあらわにしたものの、感情をぶつけても仕方ないと気づいた柊二は落ち着いて話した。
「少し質問いいかしら。」
由里子が急に話しだした。
「この最終ゲームは喋らなくてもいいのよね?それなら私は棄権でいいわよ。」
「お前!まだそんなこと!」
『そうですね。無理に答えていただかなくてもいいですよ。最初に言った通り、喋らないという選択肢もありますから。』
「ちょっと待て!!」
『棄権の権利は彼女にありますが?』
「そこで、はいそうですねって納得できると思ってんのか!?」
「今日会ったばかりの私に何故そこまでして・・・」
「言ったはずだ。死んでいい人間なんていねぇ!生きたくても生きることが出来なかった奴らもいるんだぞ!」
「私はまた価値観の話をすればいいのかしら?」
「あんたねぇ・・・さっきから聞いてりゃ人の良心完全無視してなんなの?」
鈴がもう見ていられないというように討論に参加する。
「あなた達にはわからないのよ。クラスに対して価値を見い出すことができている時点で私とは違う。クラスの全員を人質に取られようが、私はどうでもいいの。」
由里子は鈴を見つめてそう言った。
「ん?」
突然玄が思いついたように声を出す。
「そういうこ・・・・」
ガコンッッ
「!?」
「なんで!?」
「どういうことだ!?」
玄の言葉を遮るように、椅子を固定した床が抜ける。
そして、由里子は遥か下へ消えていった。
『棄権の意志は揺るがないようなので、話の途中ですが退場してもらいました。』
開始時とは全く違う淡々としたセリフが、スピーカーから響く。
『さて、』
ブツッ
「てめ・・・」
「ちょっと待て柊二」
「なんだよ!?」
玄は無言で一点を見つめていた。
柊二と鈴もその目線を追い、そちらを見る。
そこには、マスクを両手で外している真の姿があった。