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七式探偵七重家綱  作者: シクル
第二部
28/38

FILE28「サーチフォーC」

 彼女は今、どうしているのだろうか。

 寂しがっているのか、それとも俺のことを憎んでいるだろうか……どちらなのかはわからない。もしかしたら、何とも思っちゃいないのかも知れない。

 例え彼女が、俺に対してどんな感情を抱いていようとも、無事でさえあればそれで良い。

 無事でさえ、あるなら。


 失わないで、すむのなら。










 様々な疑念や違和感を胸に抱いたまま、私はあれからの数日間を過ごしていた。

 鷺之木の発言、謎のカードの存在……。あの事件は終わり、依頼人である鷺之木さんも満足していた。私は依頼を完遂出来た……。それで良いハズなのに、私の中でカードのことはずっと引っかかっている。

 カードに関しては、岩肌さん達警察が何とかするハズだから、私がそんなに気にする必要はない、とは思うんだけど……。

 半年前くらいに新調したテレビは、最新型ではないものの、前のオンボロテレビと比べると遥かに快適な映像を映し出してくれる。ノイズは混じらないし、画質も音質も良い。ただ、もう少しすると地上デジタル放送に切り替わってしまうため、このアナログテレビが何も映さないガラクタと化してしまうことが残念だけど。

 テレビの中では、去年から凄まじい勢いで人気を得ているアイドル――星川美々が華麗な踊りと、透き通った歌声を披露している。耳から身体の中へ入り込み、全身に循環して力を与えてくれるような、そんな歌声。彼女の実力は、もしかするともう既に姉の星川真美を超えているのかも知れない。

 当時の彼女のことを思い出し、感傷に浸る。あの時は、アイツも――

 そこまで考え、脳裏を過った顔をかき消すかのようにテレビの電源を切り、デスクへ腰掛ける。

 ちょっと昼寝でもしようかな。

 腕時計を見、現在の時刻が十三時二十分だということを確認し、腕時計を外してデスクに突っ伏そうとした――その時だった。

「和登さん、いる?」

 事務所のドアが外側から叩かれ、聞き覚えのある声がドア越しに事務所の中へ響いた。

 私は慌てて顔を上げると、すぐに返事をしてドアの元へ駆け寄り、そのドアを開けた。

「こんにちは、ちょっと良い?」

 そこにいたのは、ピシッと制服を着こなした岩肌さんだった。



 机を挟んで、お互いに向かい合うようにしてソファに座り、先程私の淹れた紅茶を啜りながら、岩肌さんはポケットから小さなポリ袋を取り出して、机の上にそっと置いた。

 中に入っていたのは、先日私が預けたあのカード――――鷺之木正春が持っていたカードだった。

「信じられないものだったけど、結果が出たわ」

 ややもったいぶったようにも聞こえる岩肌さんの物言いに、私はゴクリと生唾を飲み下した。

「そのカードは、信じられないけど……超能力によって生み出されたものよ」

「え――!?」

「そのカードそのものが、能力者の『能力』……」

 今まで様々な超能力を見てきた。

 気配を完全に消す能力や、音を消す能力、物体をすり抜ける能力、そして……全くの別人へと変身する能力……。他にもいくつか見てきたけれど、一から何かを生み出し、それを長時間保持出来るような能力は見たことがない。どう考えてもレベルAだし、レベルAの中でも上位に位置するかも知れない。

 それに、そのカードは……

「私達の推測通り、このカードを使うと、カードの使用者は一時的に『炎を操る超能力』を得ることが出来るわ」

 嘘みたいな話だけど、岩肌さんの表情は真剣そのものだった。

 それに私は、鷺之木がカードを使って炎の能力を使った所を目の当たりにしている。だから、信じざるを得ない。


 この世には、他人に能力を与えることの出来る能力者が存在する。


 そのカードが鷺之木の能力ってことはあり得ない。もしそうなら、鷺之木はキャンセラーで無効化されても、別のカードを使っていたハズだ。だからそのカードを生み出した能力者は、鷺之木とは別人だろう。

「それにこのカード……カード自体はそこら辺で売ってる紙製のカードと変わりがないから、使うまではセンサーに引っかからないし、キャンセラーを使っても意味がないわ……」

「じゃあ、やっぱりセンサーに引っかからない超能力犯罪者って……」

 私が言葉を紡ぎきる前に、岩肌さんはコクリと頷いて見せた。

「ええ、このカードが原因よ」

 確かにこのカードなら、誰にも怪しまれずに持ち歩くことが出来るし、センサーに引っかからないのならどんな場所にだって……飛行機の中にだって持ち込める。金属製じゃないこのカードは、金属探知機には引っかからない。

「それだと、使用出来る能力が違っても、似たような種類のカードが複数存在する……ってことになりますよね」

「そうね……。恐らく罷波町の中では、このカードは既にかなり出回ってると見ても良いわね……」

 ――――どうせ全員手にすることになる。

 あの時鷺之木が言っていたのは、こういうことだったのか。

 このカードはもう、手に入れようとすれば手に入る程に町の中で出回っている……。

「実験としてこのカードを使ってみた人間は、皆一様に『ハイテンション』になっていたわ。まるで麻薬でも打ったかのように、ね」

 ハイテンション……といえば、あの時の鷺之木もそうだった。私に倒された後、人が変わったかのようにローテンションになった鷺之木。彼のハイテンションも、カードの副作用によるもの、と考えれば合点がいく。

 もし彼がNewRejectioNだなんて馬鹿げたものを作ろうとした理由が、カードの副作用によるハイテンションが原因なのだとすれば――――このカードは、相当危険な代物だ。

「そんな物が、この町で出回ってるなんて……!」

「それで和登さん、私から依頼があるんだけど、頼まれてくれるかしら?」

 私がはい、と答えると、岩肌さんはニコリと微笑んだ後、表情をきゅっと引き締めた。

「このカードの出所、調べてもらえないかしら?」

「私が……ですか?」

 コクリと。岩肌さんは頷いた。

「勿論私達も調べるけど、個人で動ける貴女にも協力してほしいの。探偵をやっている貴女なら、この町にある私達の知らないルートを見つけ出せるかも知れない」

「ルート……ですか。そのカードの」

「引き受けてもらえる?」

 岩肌さんの言葉に、私は力強くはい、と答えた。





「……はぁ」

 深く溜息を吐きつつ、私は喫茶店で紅茶を啜っていた。

 岩肌さんから依頼があったあの後、私はすぐに調査に出かけたのだけど、あれから一時間とちょっと、何ら手がかりらしいものを得ることが出来ないままでいた。

 わかったことと言えば、この町でカード(何とか王とか何とかマスターズとかヴァン何とかとか)を取り扱っているお店がいくつあるのか、その中で一番品揃えが良い店はどこなのか、という私がこれから生きていく中で恐らく一生役に立たないであろう情報ばかりであった。

 鷺之木にきければ早いんだけど、この時間だと彼はまだ授業中だろう。それに、果たして彼が素直に教えてくれるだろうか……。

 このまま野々乃木高校の授業が終わるのを待っていても良いんだけど、その時間までボケ―っとしているのはどうもアホらしい。鷺之木は最後の砦くらいに考えて、出来るところまでは自分だけの力で探してみよう。

「でも手がかりがなぁ……」

 町でしばらく聞き込みをしても、例のカードについては掠りもしなかった。友愛に連絡して、和登家の力を借りて調べてみようかとも思ったけど、それはなんだか癪だし、私は私の意思で、私のやりたいように探偵をやっている。だから、和登家の力を借りるのは何か間違っている気がするし、今まで散々遠ざけていた和登家に、困ったからと言って今更助けてお願い、とすりよるのはすごく情けない。

 誰かこの町に関する情報を沢山もっている人……いないかな……。

 紗綺さん、は授業中だろうし、彼女は多分カードについてなんか知らないハズ。

 岩肌さんは依頼主だし、知っているなら私にわざわざ依頼しない。

 ……あれ、こんだけ?

 今知り合いを順番に並べただけなんだけど……たったこれだけ?

 もしかして:私友達少ない。

「うわぁー……」

 私って友達ほとんどいなかったんだ……。

「あっ!」

 まだいた! 友達かどうかはさておき、まだ知り合いはいた!

 グラットンさんなら、カードについて何か知っているかも知れない。具体的な情報じゃなくても、何かヒントになりそうなことを知っているかも知れない。

 危うくタイトルが「ボクは友達が少ない」に変更されかけたけどなんとか回避。私はグラットンさんに連絡するため、勘定を済ませるとすぐに事務所へと戻った。



 事務所へ戻り、グラットンさんへ電話すると、グラットンさんは快く応じてくれた。

『超能力を使えるようにするカード?』

「はい、何か知りませんか?」

『ふむ……そのカードというのは、今密かに亜人の間で出回っている妙なカードのことか?』

「え……っ!」

 亜人の間で、カードが出回ってる?

 グラットンさんの話では、超能力を使えるようにするあのカードは、亜人達の間でも出回っているらしく、能力が使えないハズの亜人達でも、カードを使用すれば一時的に能力を使えるようになるらしいのだ。そのせいか、亜人の間でのカードの出回り具合は人間よりも酷いようで、既にグラットンさんは何人もカードを持った亜人を見ていると話した。つい先日も、グラットンさんはカードを使って亜人街で暴れる亜人を独り捕まえ、ボコボコにしてからカードを破り捨てたらしいのだ。

 グラットンさんの異常な強さについては驚きを隠せないけど、まあそれについては今重要じゃないから別にいいか。

『カードを使っていた奴らに、どこで手に入れたのか聞いてみたのだが、何故か一向に口を割らない……』

「じゃあ、やっぱり出所はわからないんですか……」

『すまないな……。奴らは全員、どこでかは言わなかったが、カードを買ったと言っていた』

「カードを……『買った』……?」

『ああ。しかし喋ってくれるのはそのくらいでな……。それ以上は何も言わん。暴力で脅して喋らせても良いのだが、それはゼノラの教えに反し――』

 そこからはグラットンさんの「よくわかるゼノラ教」のコーナーになってしまったので、適当な部分で話と電話を切らせてもらった。

「カードを買う、か……」

 デスクに腰掛け、静かに呟く。

 買ったってことは、どこかで売っている、ということ。私が今日知ったカード屋や玩具屋ではないどこかで、あのカードは密かに売られていることになる。


 今もどこかで、誰かがあの危険なカードを売りさばいている。


 そう考え、私は少し身震いした。


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