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私が妹を殺してしまった

掲載日:2026/04/28

アルタナ公国。

今、この国は西に隣接する事になったガルダダ帝国と戦争をしている。

最近までガルダダ帝国は西に位置する遠き国であった。

だが、たった20年で国々が滅びガルダダ帝国に吸収され、アルタナ公国と隣接する事となり、次の吸収先として海をもつアルタナ公国が選ばれる事となった。


イルミ村。

アルタナ公国の中心からやや南に位置する村。

この村の周辺には森と川しかない。

その為、帝国はこの村に興味の示す事はなく、空爆機は上空を素通りするだけであった。

興味もない村の上空を通るのは、イルミの村を西側に進むとアルカ飛行場があり、帝国の空爆機の目的地はそこであった。


イルミ村の上空を通るだけで何の被害もない。

そんな日々が繰り返されていた。

人とは不思議なもので、最初こそは上空を通る度に避難していたが、今では日常となってしまっていた。

この日も同じ日常が繰り返されるものと思われた。


「二人とも川には近付いちゃ駄目よ」


「はーい、お姉ちゃん、向こうで一緒に遊ぼ!」


「ええ、その前に荷物を置いてくるから待ってて」


この日、私達姉妹は母と共に村の近くに流れる川の畔で川苔の収集をしていた。

川苔はイルミ村で手に入る食料源の一つであった。


私は母と妹と一緒に暮らしている。

父は戦争によって兵士として駆り出されていた。

普段と変わらない日常であった。

だが、突然に爆音と閃光が走ると周辺が砂埃に包まれた。


「お姉ちゃーん、お姉ちゃーん」


妹クレミアの声は聞こえる。

妹は無事のようであった。

私は右手の指二本と右耳が失くなっていただけですんだ。


「クレミア無事なのね。お母さんは大丈夫?」


母を呼ぶも返答がない。

私は母がいた河川近くに足を向かわせた。


少しずつ砂埃が治まり始める。

砂埃が治まりつつある事によって視界が広がって来ると爆撃によって変形した河川に片腕と片足が引っ掛かっていた。

胴体や頭はない。

既に流されてしまったのかもしれない。


何故か私はアレが母であると解った。

母はもういない。

私は母と思われる腕と足を見たまま立ち尽くしていた。


「お姉ちゃーん、痛いよー」


妹の泣き声で我にかえる。


「今、行くわ。待ってて」


砂埃は完全に治まり妹の声がする方に向かった。

妹がいた。

妹は生きている。

ただ、両足が切断されていた。


私は急いで妹の止血を行うと担いで村の方へと向かった。

普段から何かある度におんぶしていたが、この日の妹は軽かった。


村に戻るも誰もいない。

いや、生きている者が誰もいなかった。

胴体が切断されている者。

首が切り落とされている者。

家屋も切り崩され、一瞬のうちにイルミ村は消失した。


応急手当はしたものの妹を医者に早く見せなくてはならない。

私は家だった場所に持てるだけの荷物を持って妹をおぶりながら隣町まで歩き出した。


「クレミア、隣町まで我慢して」


私は妹をおぶりながら歩み続ける。

一夜歩き続けて明け方に隣町に着く。

隣町に着くが隣町も人の姿がなかった。

建物は無事であったため、爆撃によるものではないことは解った。


「ミゼル!!」


声がする方を向くとそこには一人の少年がいた。


「カイ!」


カイは私と同じ年で昔から良く遊ぶ仲であった。

顔見知りと出会えて少し安心した。


「ククルの町の人達はどこに行ったの?」


「近くに『爆裂弾』が落とされたみたいなんだけど・・・まさか・・・後ろにいるのはクレミアちゃんなのかい?」


「・・・ええ」


爆裂弾。

帝国が開発した爆弾。

爆風と共に閃光の刃が周辺を切り裂くため、着弾点周辺の生存率は極めて低い。


「まさか、イルミ村の方だとは思ったけど、そんな・・・おばさんは・・・」


私は顔を横にふる。


「そうか・・・」


「カイ!何をしているんだい!早く準備しな!」


「カイ、どこか行くの?」


「ああ、俺達も此れから避難するところなんだ」


「私達も連れてって貰えない?妹だけでもいいの。早く妹をお医者様に見せないと・・・」


カイが母親の方を見ると母親は首を横に振っていた。


「ごめん、荷物でいっぱいで一緒には行けない」


「妹だけでいいの。お願い!」


「ごめん!」


カイが走り去っていった。

この街でも私達だけとなってしまった。


近くの街はここから南下して馬車で丸一日ほど掛かる。街には行けば街には母の姉が住んでいる。

医者もいる筈。

希望はある。

しかし・・・

子供の徒歩で何日掛かるのだろうか。

いや、妹を担いで行けるのだろうか。

妹を置いて走って行った方が早く確実かもしれない。

だけど、この状態の妹を置いておく訳にはいかない。

私は答えが出せないでいた。


「お、お姉ちゃん・・・」 


妹の声により迷いは消えた。


「ごめんねクレミア。もう少し頑張って」


南に向かって歩き出す。

日が暮れ周辺が暗くなるも歩みを止めなかった。

妹の唇を潤し、妹に少ない食料を食べさせて再び歩き出す。


もう2日も寝ていない。

背中から聞こえる妹の寝息が羨ましく感じる。

足がなく軽い筈の妹がこの上なく重く感じる。

小さい私は妹をおぶっているため他の荷物は少ししか持つ事が出来なかった。


旅路の食料を二人分持つ事など出来なかった。

だから私は干し肉を一度、少しだけ口に入れただけであった。 


眠い。

思い。

足が痛い。

お腹が減った。


一人ならばこんなに苦しい思いをしなかったかもしれない。

一人ならばもっと選択肢があったかもしれない。

一人ならば休みながらゆっくり出来たかもしれない。


(妹がいなければ・・・)


私の心に闇が生まれてしまった。

一度生まれた闇は収まらず、徐々に膨らみを激しくしていった。


(このまま、妹を置いて行っても誰にもバレないのではないのか?)

(ここまで頑張ったのだから誰も文句言わないのではないか?)

(私は頑張った。頑張ったはず。だから・・・許されるのではないか?)


闇が少しずつ大きくなる。

しかし、クレミアを支える手は緩めない。

歩みも止まらない。

前だけを見て進んでいた。

すると、前方に明かりが見えた。

明かりの方へと進むと一組の小隊が野宿をしていた。

私は小隊の元に向かった。


私は明かりの暖かさに気が緩み『少しだけ休んでもいいのでは』と思ってしまった。

そう思うと足は一気に重くなり歩む事が難しくなっていく。


「すみません、少しだけ、少しだけでいいので休ませて貰えないでしょうか?」


小隊の兵は警戒するも私と妹の状態を見て一つのテントへと案内してくれた。

妹を寝かせると、私は小隊の隊長さんの元に説明をしに向かった。


「この度は休む場所を貸して頂きありがとうございます」


「その事なら気にしなくていい。ただ、何があったのか教えてくれ」


私は爆裂弾がイルミ村に落とされた事、村の住民は皆なくなってしまった事、隣町も皆避難していなくなった事、南下した街に向かっている事などを話した。


「南の街って、ここから徒歩だと大人の足でさえ1日は掛かるぞ」


小隊長さんは私のボロボロとなった足を見て顔を顰めた。

小隊長さんが優しい方である事が解った。

解った事で私は彼に更に甘えようとしていた。


「すみません、テントを貸して頂いて図々しい事は解っているのですが、もし治療を出来る方がおりましたら妹を少し見て貰えませんでしょうか?私なりに応急手当をしたのですが、まだお医者様に見せられておりません。南の街まで行けばお医者様がいると思うのですが、もう体が・・・」


「・・・」


兵隊長だけでなく近くにいる兵士達も難しい顔をしている。

図々しい過ぎる願いだったのかもしれない。


「それが難しいようでしたら街までで良いので送って頂けませんでしょうか?二人が難しいようなら妹だけでも良いのでお願い出来ないでしょうか?」


「・・・」


「駄目でしょうか?」


「通信魔法で上層部に伺いを立ててみる。だが、軍の医療班は兵士のためのものであって関係者以外に分け与える事は難しい。馬車で運ぶ事についてだが、我々の目的地も君と同じ街なので乗せて行くだけなら問題ないと思われる」


「では・・・」


「しかし、妹さんを連れては難しいだろう。重傷者を連れての移動は歩みが遅くなる。軍は遅滞を許さない。君だけなら問題ないのだが・・・」


「そうですか」


「すまない」


「いえ、テントを貸して頂いただけでも助かります。少し休んだら出ていきますのでありがとうございます」


小隊長のテントから離れ妹がいるテントへと向かう。

熱があるようなので濡れタオルを額にのせてあげた。

目を閉じている妹を見つめ先程の言葉が頭の中を過る。


『君だけなら問題ないのだが・・・』


ここでも妹が障害となってしまった。

私一人なら馬車に乗せて貰えたかもしれない。


(妹がいなくなれば・・・)


また、心の闇が少しずつ大きくなっていく。

すると、眠る妹に少しずつ私の手が近付いていった。


「お、お姉ちゃん?」


先程まで目を閉じていた妹が目を開けていた。

私の手は額へと方向を変えた。


「熱は大丈夫?寒いようなら毛布を借りてくるわ」


「・・・大丈夫」


「そう、街まで後少しらしいから少し休んでだらまた出発よ。クレミアもゆっくりと休みなさい」


「・・・うん。あのねお姉ちゃん」


「どうしたの」


「・・・ありがとう」


「何言っているのよ、そう言うのは元気になってからにしなさい。ちょっと休んだら出発するんだから貴女も休むのよ」


妹は笑みを浮かべていたが返事をしなかった。

だが、その事を気にする余裕がなくなっていた。

歩き続けた疲れが私の瞼をゆっくりと閉ざしていった。

記憶が遠ざかる私に妹が何か話掛けていたが何を話していたのか解らなかった。

明日、また聞いてみよう。

私は再び瞼を開ける事なく静かに夜が過ぎていった。


朝方、テントの外が騒がしい。

私は静かに妹の方も向きながら座っている。

すると、テントの入り口が勢い良く開けられ、小隊長が立っていた。


「ミゼルちゃん、喜べ!上層部より治療の許可が出た。馬車でも二人を街まで送って行く事が出来る!」


「・・・」


「直ぐに医療班が来るから安心してくれ」


「大丈夫です。もう必要ありません」


小隊長さんの知らせを受けても私は小隊長に背を向け、寝ている妹の方を向きながら座り込んでいた。

振り返る事もせず異様な様子に小隊長も様子がおかしい事に気付く。


「必要ないって・・・ミゼルちゃん!?」


「目を開けてくれないの・・・朝、街に向かおうと妹を起こそうとしたら目を開けてくれなくて・・・

体を動かそうとしても動いてくれないし、体は冷たくなってしまっていたの。

だから・・・だからもう、医療班は必要ありません」


私は妹の手を持ち上げ放すと妹の手は力なくハタと地に落ちた。

顔色を見ても体温が感じられないのが解った。


「私が・・・私がもっと早く歩いていたら・・・

私がテントで休もうとしなければ・・・

私がもっと必死にお願いをしていれば・・・

私が・・・私が・・・妹がいなければなんて思ってしまったから・・・妹にお別れも言えなかった・・・」


「ミゼルちゃん・・・」


「私が妹を殺してしまった・・・」


「違う!違うぞ!君は妹の為に頑張ってきた。君は出来る事を尽くしてきた。君は悪くない。君が殺したのではない。妹さんを殺したのは・・・戦争だ!」


小隊長さんは私を抱きしめ励ましてくれた。

それでも私は動かなくなった妹を見つめたまま動く事が出来なかった。

私の心に膨らんだ闇は後悔と言う形へと変わっていった。




ホレスタの街。

一組の夫婦が住む家の扉が叩かれる。

扉を開けると小隊と共に一人の少女が立っていた。


「ミゼルちゃん!?ミゼルちゃんじゃないの、ミレアは?ミレアはどうしたんの?」


ミレアは母の名前。

私は母の名を問われ首を横にふる。

それだけで理解して貰えたようで女性は両手で顔を覆う。


「クレミアちゃんは?クレミアちゃんはどうしたの?」


「ここに・・・」


私は皮袋を取り出すと、皮袋の中には遺灰が詰まっていた。

あれほど重荷に感じていた妹は全く重さを感じさせない状態となってしまっていた。


変わり果てた妹の姿を見て涙を流す女性。

私も涙を流し彼女に伝えた。


「私が・・私が妹を殺してしまった」






【後日談】

ガルダダ帝国の国王が暗殺された事により戦争は一年後に終息した。

国王を暗殺したのは国が吸収され妾となった滅亡した国の美しい姫君であった。


戦争が終結して直ぐに父が戦死した事を知らされる。

ミゼルは叔母の養女となり、叔母と一緒に暮らす事となった。

あの時に出会った小隊長は私の事を心配して時々会いに来てくれる。

カイからは一度だけ手紙が届いた。

私は返事を返す事が出来なかった。


叔母の家の裏の丘の上には墓がある。

墓の下には重さを感じさせなくなった妹が眠っている。

私は妹に会う度に思う。

妹は最後、どんな気持ちであったのだろうか・・・

妹は最後、私に何を伝えたかったのだろうか・・・






※※※クレミアの最後※※※


お姉ちゃんは3日も私を担いで歩いてくれた。

休む事なく、足がボロボロになろうと歩き続けてくれた。

もうお姉ちゃんは限界を迎えている事が解った。


私には解る。

お姉ちゃんとお別れする事になる事を

良かった。

これでお姉ちゃんに迷惑を掛けずにすむ。

お姉ちゃんを楽にしてあげる事が出来る。


少しずつ目を閉じかけるお姉ちゃんに最後の言葉を伝える。


「私ね、お姉ちゃんの事が大好きだよ」


だから、私はお姉ちゃんを恨んでいないよ。

だから、もう私の事は忘れてお姉ちゃんは幸せに生きてね。

さようなら、お・・・姉・・・ちゃ・・・ん。

なんて夢を見てしまったんだ。

自身でもこんな夢を見るとは思わなかったです。

どうせ見るならハッピーエンドが良かったので、何度話を変えようか思いましたが、結果は変えずに話をまとめました。


誤字脱字がありましたら教えて下さい。

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