第8話 菫の家庭教師?
「今日はここです!」
「水族館……か」
お金足りるかな。
休日に天城が一週間に一度のデート権を使って連れてきた場所であった。
水族館に行く金すら危うい自分自身が情けなくなってくる。
「そうですよ。来たことありますか?」
「ないな。そう言う誰かと一緒に行くようなところに行ったことが無い」
遊園地とか動物園とかそう言ったところに俺は今まで行ったことが無い。
学校行事などでも行かなかったし。
「そうなんですね。じゃあ、今回が初めてってことですよね! 全力で楽しみましょう」
「おい、引っ張るなって」
嬉しそうに天城は俺のことを引っ張っていくのだった。
◇
「まずいんだよな~」
天城と水族館に行った後に俺は財布とにらめっこをしていた。
どうしてこんなことをしているのかというと、遊ぶ頻度だ。
週に一回、俺は天城にいろんな場所に連れ出されるため財政的に大問題なんだよな。
毎回毎回天城に奢ってもらうわけにはいかないし。
かといってこのままでは俺のなけなしの所持金がなくなってしまう。
「どうしたもんか」
バイトは基本的に禁止だし、バイトをする時間も俺にはない。
成績を落とすわけにもいかない。
いい家庭教師が手に入るとか思って軽く承諾したけど、思ったよりも条件が破格というわけではないのかもしれない。
「考えていても仕方ないよな。天城に連絡してみるか」
ここで一人考えていたところで解決なんてしないし、ハッキリ言って時間の無駄だ。
変に悩み続けるのなら相談してすっきりしたほうがいいし。
スッキリしてから勉強に打ち込んだほうが効率がいいだろう。
そう思った俺は最近スマホに登録された連絡先に電話をかけた。
「もしもし? 天城か?」
「はい。天城です。こんな時間に宮野くんが電話をかけてくるなんて珍しいですね。何か問題でも起きましたか?」
「いや、問題というわけじゃないんだけどな。実は……」
それから俺は彼女に今自分自身が直面している問題について話した。
金銭的な事情から週一回のデートが困難であるかもしれないと言う事と、天城に奢ってもらうのは望んでいないことを話した。
「なるほど。そういう事ですか。確かに宮野くんの金銭面での配慮が足りていませんでしたね。すいません」
「いや、謝ってもらうほどのことじゃないんだけどな。どうするべきだろうか? 勉強を教えてもらうというのをやめてもらってもいいんだが」
「それはあり得ないです。わかりました。打開策を考えるので明日時間を作ってもらってもいいですか?」
明日は何の予定もない休日だが、何とかしてくれるっていうのなら乗ろう。
天城という人物を知るには普通に過ごしてみてもいいかもしれない。
「わかった。ごめんな。変なところで手間をかけて」
「いえいえ。今回の件に関しては私の配慮不足と言う事もあるので。では、明日の午前10時に私の家にいらしてください。場所は後程メッセージでお送りいたしますから」
彼女はそれだけ言って通話を切った。
流れで彼女の家に行くことになってしまったが、まあいいか。
お金持ちの家ってのも気になるし。
「明日の予定は決まったし、憂いもなくなった。よし、勉強するか」
明日のことは明日の俺に任せて俺は参考書に目を落とす。
勉強ができる奴なんて山のようにいる。
その中で名門大学に受かるためにできる限りトップにならないといけないんだ。
「よっしゃ、やるぞ!」
◇
「……これが、家? 冗談きついだろ」
翌日、天城に指定された場所にはとんでもない豪邸がそびえたっていた。
普通の一軒家の三件分くらいありそうだし、なんか門みたいなのがあるし。
本当に家なのか?
もしかして、何かのアトラクションだったり……
「あ、宮野くん。こっちですよ。こっち」
中から黒髪の美少女がぶんぶんと手を振ってきている。
どうやら、ここが目的地で間違いないらしい。
なんて豪邸なんだ。
金持ちだとは思っていたけど、ここまでの豪邸に住んでいるとはさすがに思わなかった。
「お、お邪魔します」
「どうぞどうぞ」
天城に導かれるままに門をくぐって敷地内に入って行く。
中にはたくさんの人がいるのかとも思ったけど、どうやらそんなことは無かった。
「おかえりなさいませお嬢様。いらっしゃいませ陸斗様」
玄関に入るとメイド服に身を包んだ辻が流麗な動作でお辞儀をしてきた。
使用人とは聞いていたけど、もしかして住み込みなのか?
というか、メイド服初めて見た。
可愛い。
「お出迎えありがとうね。菫」
「いえ、それではお嬢様のお部屋にお茶を持ってまいりますね」
「ありがとう。じゃあ、宮野くんはこっちに来てください」
「あ、ああ」
外観もすごかったけど内装もすごい。
なんだか高そうな壺とか絵画とかがたくさん飾ってあった。
いったい、ここにある調度品だけでいくらくらいするんだろう。
考えるだけで頭が痛くなってきた。
「ここが私の部屋です。もう少ししたら菫がお茶を持ってきてくれると思うので少しの間くつろいでくださいね」
案内された部屋はすごく広かった。
でも、何というか女の子の部屋という感じはしない。
事務的な部屋というかなんというか生活感がないといった方がいいだろうか。
勉強机とベッドに本棚。
それに、部屋の真ん中にそれなりの大きさの机と椅子が置かれているだけの質素な部屋。
全部がクラシックな木目調の家具で女の子の部屋という感じではないのかもしれない。
「それで、何かいい案が思い浮かんだのか?」
「はい! それは菫が来てからお話ししますよ」
ニコニコと微笑みながら天城はベッドに座って足をぶらぶらさせている。
男と部屋で二人きりという状況に何ら警戒をしていないようだった。
俺ってそんなに男らしくないのか?
「ん? どうしたんですか。私の方を見つめてきて」
「いや、まったく警戒とかしないんだな」
「しないですよ。何ですか? 襲いたいんですか? 全然ウェルカムですよ! 既成事実ってやつですね!」
にぱぁっと満面の笑みを浮かべている天城はなんだか少し怖く見えてしまった。
「全然襲いはしないが。てか、自分の体を安売りするなよ」
「安売りなんてしませんよ。宮野くんにだから言ってるんです。他の殿方にはこんなこと絶対に言いません」
少しだけ頬を膨らませて天城は抗議をしてくる。
流石に今の発言はまずかったか。
「そ、そうか」
「はい。そうですよ」
最近の天城はかなりアプローチをしてきている。
気を張っておかないと好きになってしまいそうだ。
いや、別に気を張ってまで好きになってはいけないと言う事もないんだけど。
「お嬢様失礼いたします。こちらお茶請けと紅茶になります」
微妙な雰囲気が流れ始めたころに辻がお盆に紅茶とお茶請けを持ってきてくれた。
おかげで微妙な雰囲気は霧散して空気が和らいだ。
「ありがとう菫。あなたにも話があるから残ってもらってもいいかしら?」
「かしこまりました」
辻は部屋の真ん中に置かれてある机の上にお盆を置いて、そのまま部屋の端のほうに行ってしまった。
佇まいがなんともメイドらしい。
「じゃあ、本題に入りますね」
「頼む」
「……」
辻は端のほうで静かに天城の言葉に耳を傾けている。
背筋がピンと伸びていて立っているだけでも絵になる子だ。
「宮野くんが菫の家庭教師になればいいんですよ!」
「……は?」
「ふぇ?」
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