第59話 もう四ヶ月か
「ふぅ、結構人が多いな。二人ともはぐれないように……ってこの状態ではぐれたら俺の腕がもがれてるな」
夏祭り当日、二人は昨日の浴衣を着て俺の両隣りに立っていた。
しかも、二人ともガッチリ俺の手を握っている。
この状態ではぐれられるなら逆に奇跡か何かだ。
「せっかくの夏祭りですからね! 全力で楽しまないと!」
「ですね。わたくしも初めての経験でかなり興奮しております。陸斗様、今日はよろしくお願いしますね」
「よろしくと言っても、俺が特段するようなことは無いと思うんだが。まあ、今日は全力で楽しもうな」
既に日が沈みかかっている黄昏時で周囲の輪郭はまどろみ、本格的に夜が始まろうとしていた。
提灯が光り輝き、太鼓の音が気分を高揚させる。
これぞ、夏祭りと言った雰囲気を醸し出している。
「私、本当にこういうお祭り初めてで! 凄く良い雰囲気をしているんですね」
「まあ、ここの祭りは結構でかい方だと思うけどな」
ここは地元ではないからこの神社の祭りがどれだけの規模なのかはわからない。
だけど、地元でやってた夏祭りに比べてもここの夏祭りはかなり規模が大きいように思う。
「そうなんですね! あそこのりんご飴食べてみたいです!」
「あ、ちょ、わかったから引っ張るなって! 痛い痛い、てかもげる」
天城に物凄い力で腕を引っ張られる。
菫が控えめなのに対しえ天城は物凄く活発。
本当に真反対の主従だ。
「陸斗様、昔に比べて表情が明るくなりましたよね」
「昔って……本格的に知り合ってからまだ四ヶ月くらいだろ?」
「それはそうですけどね。でも、凄く昔から一緒にいるみたいな感じがするのです。わたくしだけですか?」
「まあ、期間は短いけど密度が高いからな。そう感じるのも変じゃない。俺だってそう感じてるしな」
一緒に居る期間は四ヶ月なのに、菫の言った通りかなり長い時間一緒に居る気がする。今となっては二人と一緒に居ないと落ち着かないまである。
「お嬢様もあんなにはしゃいで。わたくしはお嬢様と幼少期の頃から一緒に居ますけど、あんなふうに無邪気にはしゃいでるお嬢様を見るのは初めてですので」
菫の視線の先にはりんご飴を買うために並んでいる天城の姿があった。
目をキラキラと輝かせて自分の番が来るのを今か今かと待ちわびていた。
その姿は、本当に無邪気で年相応の子供のように見える。
「ああしていればお嬢様も普通の女の子ですね」
「だな。ずっとあんな感じなら菫も俺も苦労しなくて済むんだけどな」
「でも、ああいうお嬢様に引っ張られるのもお嫌いじゃないでしょう?」
「……まあな」
無邪気な天城はそれはそれで見てみたい気はするけど、やっぱり普段の天城の方がしっくりくるのだろう。
まあ、ヤンデレすぎるのはどうにかしてほしいもんだけど。
少なくとも、勝手に部屋に侵入したりするのはやめていただきたい。
普通に犯罪だから。
「それに、わたくしとも最初はこんな風に親しく話したりはしてくださりませんでしたよね」
「それを言うなら菫もそうだろ。最初はかなりへりくだった喋り方をしてたし、俺に気を許してなかっただろ」
「ですね、異性でしたしわたくしにとっては完全に面識のない他人でしたし」
「そりゃそうだな。まあ、最初にいきなり俺を監視するとか家に泊まり込むとか言い出したときは本当に焦ったけどな」
頭がおかしい奴が来たとあの時は本気で思ったものだ。
菫みたいな美少女が言ってるから可愛く聞こえるけど、内容だけ見ればかなり怖い物だった。
「お二人とも、凄く楽しそうですね」
二人で昔について話しているとジト~っと天城に距離を詰められていた。




