第58話 夏祭り
「夏祭り……ですか?」
「ああ。なんか明日ここら辺の神社でやるらしいんだが、三人で行かないか? 最近はろくに外出もしてなかったしな」
「いいですね! それに宮野くんが誘ってくれるなんて凄く珍しいんですから行っておかなければ! 菫ももちろん行きますよね?」
「お二人が行くのであればわたくしがいかない理由もございません。それにわたくしも夏祭りというものに興味がありますので」
という事で、全会一致で夏祭りに行くことになった。
夏休みもすでに中旬に差し掛かっていてはいるが、依然として夏の暑さは猛威を振るっている。
熱中症にならないようにだけ注意をしておかなければ。
「夏祭りと言えば、浴衣ですかね! 菫、浴衣の用意はあるかしら?」
「屋敷の方に戻れば何着かあったかと思います」
「……なんで浴衣を何着も持ってんだよ。ああいうのって普通持ってても一着じゃないないのか?」
いや、よく考えてみればこいつらは普通の人間なんかじゃなくて超金持ちのお嬢様だったな。普通の範疇で考えるのがお門違いってもんか。
「昔に何着か買ったんですよ。もちろん菫の分もね。というわけで、私たちは今から屋敷の方に浴衣とその他もろもろを取りに行ってきます。それほど遅くならないと思いますので心配しないでくださいね」
「ああ。わかった。菫がいるなら安心だ」
「お嬢様の事はお任せください。もし、何か起こったら陸斗様にご連絡差し上げますね」
「頼む」
もう無いとは思いたいが、近藤たちのように天城たちのことを狙っていないとも限らない。
警戒をしておいて何ら損は無いのだ。
用心と言うのはし過ぎるという事はない。
「かしこまりました。では、わたくしは準備をいたします」
「私も一緒に行くわ。久しぶりに菫と作業をしたいですしね」
天城は上機嫌に笑いながら菫についていった。
相変わらず、見ていて微笑ましい主従を見送りながら俺はリビングで昼寝をすることにした。
最近は入院していた時期を取り戻すかのように勉強ばかりしていたのでその疲れが出たのかもしれない。
◇
「ん、ああ。俺寝てたのか」
ぼやける目をこすって体を起こす。
すると、視界に入ってきたのは二人の浴衣を着た絶世の美少女だった。
一人は紫を基調とした落ち着いた雰囲気を醸し出している浴衣を着ている清楚系美少女の天城。
もう一人は、煌めく金髪を今日は珍しくポニーテールにしており白と赤の浴衣にっ身を包んでいる絶世の美少女の菫。
「あら、起きたんですね。宮野くん」
「おはようございます陸斗様。えっと、そんなに見つめられると照れてしまうのですが……」
「ああ、すまない。二人とも凄く似合ってて見惚れてた」
「宮野くんが素直に褒めてくれるなんて……もしかして熱とかあります!?」
「お前、ありえないくらい失礼なことを言っている自覚はあるか?」
酷い言いようだ。
確かに普段から誰かを褒めるようなことはあまりしてなかったからそう言われてもしょうがないのかもしれないけど。
「ごめんなさい。でも、褒めてもらえて凄く嬉しいです! この機会にぜひ、婚姻届けにサインを!」
「……見た目は清楚なんだけどな。はぁ」
「うちのお嬢様が本当に申し訳ございません。陸斗様」
「菫が謝るような事じゃないさ」
俺たちは浴衣を着てもなお、普段と全く変わらない言動の天城に二人して頭を抱えるのだった。




