第52話 甘え方を知らない菫
「お嬢様がご迷惑をおかけして本当に申し訳ございません。陸斗様」
「いや、菫が謝るような事ではないでしょ。それにそこまで気にしてないから」
まあ、何故か美少女に風呂を覗かれるという意味の分からないイベントに遭遇はしたけどこんな経験人生で一度できるかどうかってくらい希少な物だろう。
ラッキーだったと前向きにとらえることにしよう。
「ですが……」
「いいって。別に不快な思いもしてないし何かが減ったってわけでもないからさ」
覗かれて減る物なんて無いし。
そこまで気にしなくてもいいんだけどな。
こういう所本当に真面目なんだな。
「陸斗様がそうおっしゃるのなら」
「ああ。全然気にしなくていい」
何故かぎこちない感じになってしまった。
こういう時って俺は菫とどんな会話をしてたんだっけか。
思い出そうとして見ても記憶にもやがかかったみたいで中々思い出すことができない。
という事は、天城が関係してる話をしてたのだろうか?
「陸斗様、怪我の具合はいかがですか?」
「ん? まあ、まだちょっとは痛いけど塞がっているし全然大丈夫だぞ」
「本当に申し訳ございません。あの時わたくしがうかつに飛び出しさえしなければこんなことにはならなかったはずですのに」
菫は俯きながらぼそりとそんなことを呟いた。
おそらく、俺が入院してからずっと気にしていたのだろう。
まったく、主従そろって考えてることは同じという事か。
「気にしすぎだ。今はこうやって元気に生きてるんだから気にしなくてもいいんだよ」
わしゃわしゃと彼女の綺麗な金髪を撫でる。
せっかく全員無事に助かったのに、こうやっていつまでも気にして暗い顔をされるのは俺としても本意じゃない。
出来れば、笑顔を見ていたいから。
「本当に陸斗様は優しいですね。一緒にいるとダメになってしまいそうです」
「菫はいつも気を張りすぎなんだよ。少しは肩の力を抜いたほうがいい。ま、俺の前で位は本当に気を張り過ぎなくてもいいんだよ」
仕事を真面目に完璧にこなすのは菫のすごい部分だと俺は思っている。
でも、ずっとそうしてたんじゃあ絶対に疲れるし辛くなりそうだ。
だから、俺の前では自然体で居て欲しい。
「そうでしょうか。わたくしはそんなに気を張っているつもりはないのですけどね」
「結構張ってると思うぞ? まあ、無理に気を張るなって言うのも変な話か。すまない。忘れてくれ」
「いえ、そうですね。じゃあ、陸斗様には甘えてもいいんでしょうか」
「俺のできることならな。どんどん甘えてくれて構わない」
昔聞いた菫の過去の話的にあまり誰かに甘えることはできなかったのだろう。
いや、甘えかたを知らないといった方が正しいのか。
「じゃあ、早速。もう少し頭を撫でてもらってもいいですか?」
「お安い御用だ」
それから俺は静かに菫の頭を撫で続けた。
そう言えば、菫の過去ってどんなものだったか。
聞いた覚えはあるのに鮮明には思い出せなかった。




