第51話 ヤンデレお嬢様の懺悔
「こんな美少女に背中を流してもらえるんですから光栄に思ってくださいよ」
「……殴っていいか?」
「良いわけなくないですか? 私、女の子ですよ?」
「それは知ってるけどな」
マジで後ろを向けない。
だから、今の天城がどんな格好をしているのかもわからない。
だが、見てしまったら負けてしまうような気がして向けないのだ。
「まあまあ、そう恥ずかしがらずに背中を流させてくださいよ」
「背中を流してもらったら出て行ってくれるのか?」
「それはどうでしょうか。保証はできませんね」
上機嫌に彼女は語尾を上げて言っている。
おそらくだが、このまま背中を流さずに出るつもりは微塵もないのだろう。
そんな頑固さを感じてしまう。
「わかった。じゃあ、お願いするよ」
「え!? いいんですか!?」
「なんでお前が驚いてるんだよ。お願いするよ。確かに自分で背中を流そうとすると傷が痛むしな」
あまり、無理をして傷が開いては本末転倒だし。
やってくれくるというのであればやってもらうのが得策だろう。
「そ、そうですか。分かりました。任せてください」
天城が控えめに俺の背中を洗い始めてくれる。
誰かに背中を流してもらうのなんて初めてかもしれない。
だけど、少し弱い力加減だけどそれがなんだか気持ちいい。
これはこれで結構ありなのかもしれない。
「かゆいところとかないですか?」
「ないな。めっちゃ気持ちいよ」
「なら、良かったです」
浴室には沈黙が訪れるけど、不思議と気まずさは感じなかった。
どちらかと言うと、心地よさが勝っているように感じる。
「この傷、私を庇ったせいで出来ちゃったんですよね」
背中を洗ってくれていた天城が俺の腹部に手を伸ばして傷口を撫でてくる。
小さくてひんやりした手の感触がいきなり傷口に触れてびっくりした。
「天城のせいってわけじゃないだろ。俺がやりたくてできた傷だ。お前が気にする必要は無い」
俺は多分、本気で彼女を守りたいと思ったから刺されたはずだ。
そうでなければ、わざわざ自分の命を危険に晒してまで誰かを助けるなんてことしないはずだから。
「ですが……」
「変なところで弱気になるんだな。お前は。俺が気にしなくていいって言ってるんだから良いんだよ。それに、せっかく助けたのにそんな風にずっと気にされたら俺の方が居心地悪いっての」
俺は昔の天城がどんな人物であったのかを忘れている。
だけど、多分俺は天城に笑っていて欲しいのだ。
何故かはわからないけど、そう確信が持てた。
「てか、服着てたんだな。安心したぞ」
咄嗟に振り返ってしまったが、天城が少し大きめのサイズの白いTシャツを着ていた。完全に部屋着と言った感じだけど、全裸で後ろに居られるよりはマシだ。
「裸の方がよかったですか?」
「なわけあるか。背中はもういいから出て行ってくれ。風呂ではゆっくりしたい」
「む~残念ですけどわかりました。あまり無理を言っては困らせてしまいますからね」
今回は素直に引き下がってくれた。
最初から素直に引き下がってくれたらいいのにと思ったけど、もしかしたらこの傷の話をしたかったのかもしれないな。
「お嬢様!? 陸斗様が入ってるのに何を考えているんですか!!!」
天城が浴室を出てから数秒後にそんな怒鳴り声が聞こえてくるのだった。




