第45話 悲劇
「怪我とかはしてないか?」
「は、はい。縄で縛られてた腕が痛いくらいで他には何もされていません」
「ならよかった。ふぅ」
緊張の糸が切れて一気に力が抜ける。
その場に座り込みそうになるのを耐えながら天城を見る。
本当にどこにも怪我はないみたいで安心した。
「そろそろ離れたら? お二人さん」
「おお、すまん」
「私はもっと、こうして居たいですけど?」
少しだけ不満そうにしている天城を引きはがして理子の方に向かう。
「今回は協力してくれてありがとうな。本気で助かった」
「別にいいよ。それよりも卓也たちは大丈夫なのかな」
「大丈夫だろ。だって、こいつらはただのチンピラ崩れだ。卓也なら何の問題もないだろうよ」
今回俺たちが襲撃した奴らは全然強くはなかった。
数が多くて少しだけ厄介だったが、それだけだ。
昔に相手にしてた奴らに比べれば全然大したことは無い。
「それもそっか。昔に比べたら全然安全だね」
「……あなた方は昔からどんな人たちと喧嘩をしてたんですか」
「色々あったね~ま、その話はまた今度。少なくともここでする話でもないだろうしね。私は卓也たちの様子を見てくるよ」
「気を付けるんだぞ? まだ残党がいるかもしれないから」
理子はオッケーと言って俺たちが入ってきた方に向かって走り出した。
ああは言っていたけどやっぱり心配なのだろう。
「お嬢様、大丈夫なのですか?」
「ええ。大丈夫よ。あなたも来てくれたのね。ありがとう菫」
美しい主従関係を目の当たりにしていると、近くから足音が聞こえてくる。
いや、足音と言うよりは走ってこちらに向かってくる音だ。
そちらの方を見てみるとナイフを持って走ってくる近藤の姿があった。
「ナイフはもう一本あんだよぉ!」
クソっ油断してた。
近藤は気絶しているものだと思っていたのに。
完全な誤算だ。
だけど、ここでこいつを完全に気絶させれば問題はない。
「お嬢様!」
咄嗟に菫が天城の前に出る。
両手を広げて庇う姿勢をとる。
これも誤算だ。
さっきまでの距離感であれば難なく近藤を無力化できたのに菫が間に入ったことによって距離的な余裕がなくなってしまった。
「辻、死ねぇ!!」
ナイフを前に突き出しながら近藤は突進する。
菫は天城を庇って動く様子はない。
このままじゃあ、菫が刺される。
「ちょっと痛いだろうけど、我慢してくれな」
菫をある程度強い力で押す。
簡単にその場から菫は倒れてしまう。
これで、菫はナイフの軌道から外れた。
だが、菫を押した硬直で動けない俺の腹にナイフが深々と突き刺さった。
「っち」
「あ、はははは。やった。宮野をぶっ殺せた!」
「おいおい……まだ、死んじゃいねぇぞ」
激痛が腹部を襲うが、ここで倒れるわけにはいかない。
渾身の力を振り絞って近藤の顎目掛けて拳を振るう。
今度こそ完璧に当たって近藤は倒れる。
ちゃんと気絶したのを確認してから俺はその場に崩れ落ちる。
「陸斗様!」
「宮野くん!」
二人して駆け寄ってくれるが、反応するほどの気力が残っていない。
幸いな事にナイフは抜けていないのですぐに失血死することはなさそうだ。
でも、あまりにも痛すぎる。
というか、ナイフが刺さっている部分が熱い。
「はは、しくじった」
腹は熱いのに全身は震えるほど寒い。
今すぐにでも死んでしまいそうだ。
「陸斗様!? しっかりしてください」
菫に声をかけられるけど、声が途切れ途切れに聞こえる。
はは、いよいよやばいな。
こりゃあ。
「宮野くん! 死んだらだめです! あなたが死んでしまったら、私はあなたに恩を返せません」
「恩? なんのことか、わかんねぇ」
ダメだ。
どんどん意識が遠のいていく。
意識が途切れる寸前に、天城が何故かこの前夢に出てきた女の子と重なった。
◇
「陸さんお疲れっす?」
「ちょっと、どういう状況なの!?」
「お二人ともお静かにしてください!」
菫が宮野くんに駆け寄って応急手当をしてくれている。
こういう時、私はどうすればいいか全くわからない。
ただ、動揺して宮野くんに死んでほしくなくて。
泣くことしかできないでいた。
「まず、ナイフ抜かねぇと」
「絶対にやめてください! ナイフが止血してくれてるんです。とりあえずナイフには触らずにハンカチで周りを押さえないと。お嬢様は早く救急車に連絡してください!」
菫の言葉を聞いてすぐに我に返った私は焦って救急車に連絡をした。
救急車が到着するまでの間、私は何もすることができないまま時間が過ぎるのを待つことしかできなかった。




