第44話 戻ってくる昔の勘
「やるしかないよな」
殺意剥き出しで殴りかかってくる男を見ながらため息が出そうになる。
久しぶりの喧嘩で体が鈍ってはいないだろうか。
「菫下がってろ!」
「は、はい!」
流石に至近距離に菫がいる状態で戦うのは不利でしかないため後ろの方に下がっていてもらう。
この状況で天城を人質に取られるのが最も厄介なのだが、近藤はそういう事をする様子はなくこちらをニヤニヤしながら見つめてきていた。
「ふぅ」
息を吐いて呼吸を整える。
生半可な攻撃は効きそうにないし、してもおそらくは無意味だろう。
「はっ!」
「がっ!?」
大男のパンチをスレスレで避けて、そのまま距離を詰めて顎に一撃お見舞いする。
これで、普通の相手なら気絶くらいはしてくれるはず。
「……化け物かよ」
大男はすぐに立ち上がって再び臨戦体勢をとる。
どう見てもパワー系だよな。
俺の身長より十センチ以上は高そうだし。
腕は意味わかんないくらい太いし。
「陸斗様、大丈夫ですか!?」
「大丈夫……って断言は出来ねぇな」
体格差があり過ぎる。
こっちは一発でももらったらただでは済まない。
まったく、不利な戦いが過ぎる。
「オラ休憩してんじゃねぇぞ!」
「ちっ」
何度も繰り出される拳を避けまくる。
流石にここで俺が倒れたら、菫も無事では済まない。
昔のように背負うの物がないわけじゃないんだ。
今は負けられない明確な理由がある。
「アハハハハ。どうした? 学園でやったみたいにそいつをすぐに倒して見せろよ。宮野ぉ!」
「……」
逆恨みもいいところだが、ここで近藤に意識を割いている暇は全くない。
目の前の男から視線を外したら、一瞬でやられかねない。
今すぐにでも近藤を殴りに行きたいが、そこまで余裕はない。
いや、避けるだけで精いっぱいだ。
「やっと、勘が戻ってきた」
大男の攻撃を避けるたびに昔の勘が戻ってきているのがわかる。
拳を避けるたびに、大男が拳を俺に向かって振るうたびにどんどん戻ってくる。
次にチャンスが訪れたら確実に仕留める。
「しまっ!?」
「もらったぜ! 兄ちゃん!」
「陸斗様!?」
攻撃を避けていると、廃工場の中に落ちていた石に躓いてしまう。
その隙をやすやす見逃してくれるほど相手は優しくなくて渾身の一撃を放ってくる。
「乗ってきたな」
「はっ?」
狙っていた通りに相手が行動をしてくれて助かった。
これで一撃で沈めることができる。
大ぶりの攻撃に合わせて再びカウンターを繰りだす。
「ぐえっ」
拳を右側に躱してそのまま首筋に蹴りを叩き込む。
これで何とか気絶してくれるはずだ。
「ふぅ、なんとかなったな」
「な、なんで勝てるんだよ。あんなに対格差があったんだぞ?」
「知るか。それよりも天城を開放してもらおうか」
「するわけねぇだろ! こいつのせいで俺の人生は無茶苦茶だ。こいつを殺さないと俺は……」
近藤は錯乱したように喚きながら懐からナイフを取り出す。
だが、もうすでに遅い。
「乙女にそんなものを向けるのは少しいただけないね」
「……は?」
いきなり近藤の背後に桃色髪の女が現れて近藤からナイフを奪い取る。
近藤が動揺している隙に桃色髪の女、理子が近藤を蹴り飛ばす。
天城との距離が開いたことで俺も思う存分動くことができる。
「ナイスだ理子」
椅子に縛られてる天城に全力で走っていき縄を解く。
口に当てられていたハンカチも取って拘束を解除する。
「大丈夫か? 天城」
「……助けてくださって本当にありがとうございます!」
天城は拘束を解いた瞬間に抱き着いてきた。
相当に不安だったんだろう。
無事に助けられて本当に良かった。




