第41話 誘拐?
「やっと、期末テストが終わったな。本気で大変だった……」
「おつかれ。でも、俺が要点を教えたから赤点はないはずだろ?」
「それはそうだけどさ。なんというか、本気で疲れた」
机に突っ伏してぐったりしている雄介を見ながら俺はテスト用紙を眺めていた。
今回は中間よりも数段手ごたえがあって、今回こそはあの天城を超えることができるかもしれない。
そんなかすかな希望すら感じられるほどには今回のテストの出来は良かった。
「雄介はこの後どうするんだ?」
「帰って寝る。君に要点を教えてもらって一夜漬けしたからな。流石に眠くて仕方がない」
「そか。ゆっくり休むんだぞ」
「そのつもりだ。じゃあな」
雄介はフラフラな足取りで教室を出て行った。
その姿はまるでゾンビのようで見てるこっちがちゃんと帰れるのか不安になるくらいだった。
「陸斗様!」
入れ替わりで菫が走って教室に入ってくる。
一体何事かと思っているとテスト用紙を握りしめながら彼女は飛び跳ねて喜んでいた。
「どうしたどうした。そんなにはしゃいで。そんなに手ごたえがあったのか?」
「はい! 陸斗様に教えていただいたおかげで今回のテストは赤点とは無縁の結果が出せそうです。これでお嬢様にご心配をかけることも減りそうです」
「ならよかった。よく頑張ったな」
いつもの硬い表情ではなく、緩んだ表情で今は年相応の少女に見えた。
そんな菫の事を始めてみるであろうクラスの生徒たちの視線は完全に釘付けになっていた。
「おっと、じゃあそろそろ帰るかな」
「ですね。お嬢様は私用があるとの事で一足先に帰られました」
「聞いてる。俺は菫と帰ればいいんだったか?」
「はい。今日は期末テストの終了祝いと直近に迫った天城本家への遠征準備になりますね」
淡々と菫は今日の予定を教えてくれる。
そう、今日は期末テスト終了日。
つまりは、もうそろそろ夏休みが始まるという事で。
俺の気は一ミリも休まらない。
「近くなってくると憂鬱になってくるな」
「わたくしはどうすることもできませんので。お二人で頑張っていただくしか」
「わかってるよ。当たり障りなくこなそうと思うよ」
天城の家で問題なんか起こしたらとんでもない事になりそうだしな。
絶対に無難な対応を徹底して帰ってこよう。
そんで、菫の作ってくれる夕飯を食べてほっこりしよう。
「それが一番いいでしょうね。天城家に目をつけられても何も良い事はありませんから」
苦笑をうかべながら菫は首を傾げてくる。
菫もそう思うって事は本当に面倒な事になるのだろう。
絶対に、絶対に目をつけられないようにしよう。
「ああ。頑張るよ。それよかとっとと帰ろうぜ。流石に疲れたからな」
「ですね。お嬢様が用事を終わらせて帰ってくるまでに夕食の仕込みをしておきたいですし」
俺たちはいつものように他愛もない話をしながら天城の家に向かう。
最近では通い過ぎて最早もう一つの家みたいな感覚になってしまっている。
まあ、良いか。
◇
「お嬢様、遅くないですか?」
「だな。連絡はしたか?」
「はい。先ほど電話をかけてみたのですが出ませんでした」
「なるほど」
時刻は午後6時を回っている。
学校が終わったのが午後1時で、天城はすぐに済む用事だと言っていた。
本人は少なくとも3時には家に着くと言っていたため、ここまで遅くなるのに何の連絡もないというのも不自然だ。
「どうしましょうか」
「どうしたもんかな」
連絡がつかない以上、今現在俺たちにできることは少ない。
捜しに行こうにも行き先を聞いていないから無暗に探しても時間を無駄にするだけ。
こういう時に限って天城はボディーガードを連れていない。
普段ならつけているのに。
「ん?」
そんな時、俺のスマホが突然鳴り響いた。
天城から何らかの連絡が来たのかと思い、スマホの画面を見るとそこに表示されていた名前は卓也だった。
「もしもし? 卓也。どうした」
「陸さん! 大変っす。天城のお嬢さんが攫われました」
「……は?」
卓也が告げた言葉は今現状で一番最悪なことが起きたという報告であった。




