第35話 落ちこぼれ
「わたくしは姉妹の中で落ちおぼれだったんです。勉強も運動もあまり得意ではありませんでしたから」
暗い声で辻はそんなことをいう。
この子で落ちこぼれと言われるという事は他の姉妹たちは相当にスペックが高いのだろう。
「だからなのでしょうね。両親はわたくしに冷たかったし、姉妹から虐められていました」
「そう……だったのか」
実の家族に邪険に扱われるなんて酷い話だ。
血のつながった家族なのだから仲良くすればいいのに。
「だから、わたくしはあまり家族のいる天城本家に近づきたくないのです。お嬢様もこのことをご存じなので気を使ってわたくしをよっぽどのことが無い限り本家に連れて行こうとしません」
「やっぱり、天城は優しい奴だよな」
「はい。お嬢様は本当にお優しい方なんです。だから望まぬ婚約などわたくしはして欲しくはないのです」
それは俺もそう思う。
だけど、話を聞いているうちに一つの疑問が浮かび上がってくる。
辻の家系は代々天城家に仕えていると聞いた。
では、どうして落ちこぼれと言われていた辻が天城の専属メイドになっているのか。
「だな。なんとしても阻止しないと」
「よろしくお願いいたします。わたくしは天城本家には同行できないのでそれまでに何か協力できることがあれば何なりとお申し付けくださいませ」
「わかった。じゃあ、天城家の家族構成とか家の伝統、あと思考回路とかがわかれば教えて欲しい」
「かしこまりました」
それから辻は丁寧に天城家について教えてくれた。
話を聞く中で見えてきたのは中々旧態依然とした考え方をしている家という事くらいか。
悪く言ってしまえば、古臭い考え方の家。
「なるほど。そりゃあ天城が俺を連れて行きたくないわけだ」
「わたくしもあまり行ってほしくはありません。あの家には」
「……そんなに心配しなくても何もねぇって。俺なら何を言われても大丈夫だしな」
凄く心配そうな目で俺のことを見つめてくる辻にそう言って笑みを見せる。
そして、膝枕から起き上がって辻の目を真っすぐ見つめる。
「膝枕はもうよろしいので?」
「ああ。だいぶ疲れが取れたし思考もまとまった。ありがとうな」
「いえ、これくらいでよろしいのであればいつでもして差し上げますよ」
相変わらず表情の変化が乏しい彼女だが、今はなんだか優しい表情をしていた。
自分のトラウマのような話をしてなんでこんなに優しい顔ができるのか。
「あと、一つだけ言っておきたいことがあったんだ」
「言っておきたい事? 何でしょうか」
「菫は出来損ないなんかじゃない。絶対に。それは俺が保証する」
彼女の目を真っすぐ見つめて、サラサラの頭を優しくなでる。
自分の事を落ちこぼれだなんて言わないで欲しいし、思わないで欲しい。
少なくとも俺にとってはかけがえのない存在だ。
「……やっぱり陸斗様は優しいです」
「そんなことない。俺は思ったことを言っただけだからな」
「そうですか。でも、ありがとうございます。本当に嬉しいです」
ニコッと満面の笑みを浮かべながらそう言う辻は本当に可愛らしくて芸術品のように美しかった。
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